JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第8話 そうだ、野外に行こう①

さて、黄金週間ゴールデンウィークになった。なんと今年は最大10連休ともあって、連日観光地は大賑わいらしい。



……だが、裕臣と理央にとってはあまり関係のないイベントでもあった。
勤続年数はそこそこ長いとはいえ、ヒラの裕臣は有給を取りにくい立場だし、理央に至っては学生なのでそもそも有給制度などない。加えて休みの殆どを彼女は部活に捧げている。
というわけで、今年のGWも普段通り過ごす–––––はずだった。


「……なのに、なぜ俺たちは山ん中まで来てんだよ……」
「あっ、ヒロくんまた遅れてるー!もうちゃんと付いて来てね、でないといつまで経っても着かないでしょー!」
「…………元気でいいなぁ、理央は」


車で小一時間ほど走ったところにある、県内でも初心者向けの登山スポットで知られているとある山中。
ごつごつした舗装されていないなだらかな斜面が続き、道の両側に熊笹が生い茂っていた。樫やブナの木がわさわさと青空を覆うように枝葉を広げている。
辺り一面新緑の匂いに包まれており、淡く萌える若芽の色が目に優しい。
澄んだ空気は甘露の如く甘く潤っていて、深く吸い込む度に肺の奥が洗われるようだ。
先頭ではいつにも増して元気いっぱいな村崎が、艶のある低音を響かせる。
「おーっし、みんな!あともうちょっとで野営地に着くぞー!ほら、もう一踏ん張りだ!特に裕臣ぃ!」
「うえぇ、もう疲れた、帰りたい……」
ぐでっと上半身を萎れたもやしのように倒し、インドア代表「春田 裕臣」はフラフラになりながら歩いた。
逆に、アウトドア代表「春田 理央」はニコニコとご機嫌な笑顔で軽快に歩を進めている。今にもスキップしそうな足取りだ。
「もうすぐ着くから、それまでがんばろ、ヒロくん」
屈託のない笑みに彼も明るく笑った。
「そうだな、もう少し頑張ってみるよ」



–––––時を遡ること、およそ数日前。


「そうだ、キャンプへ行こう!」
「……どうした、急に」
「ハァー……。またロクでもないこと言い出したわね、このおバカは」
定時を過ぎ、急ぐ仕事もなくノンビリと雑用を片付けていた裕臣、村崎、瑞穂の三人。
明日からは久々の連休が待っていることもあり、どこか気だるい空気が流れている。そんな中唐突すぎる村崎の言葉に、それぞれ怪訝な表情で反応した。
相変わらず辛辣な瑞穂の視線に、言い出した村崎は肩をすくめる。
「うぅっ、そんな冷たい目で見んなよぉ……。俺だってちゃんと考えて提案したんだから」
「……ほぉ。ふーん、へーえ?どこをどんな風に考えたって?ほらほら、言ってみなさいよー!」
煽り立てる瑞穂はどこかイライラしているようだ。いつもは綺麗に整えてある黒髪をガシガシ掻いて、切れ長の瞳を鋭く尖らせている。
また、部長辺りにセクハラ紛いのことでも言われたのかな、と裕臣は判断した。こういうときは触らぬ神になんとやら、である。下手に言葉をかけると、とんでもない嫌味になって返ってくることを経験上、彼は知っていた。
普段はちょっとアホの子な村崎も空気を読んで、彼女の絡みはさらりと受け流している。


「で、キャンプだって?いきなりどうしたんだよ。お前、そういうキャラだっけ?」
「いやさー、この前なんとなーくテレビを眺めていたら、キャンプの映像が流れてよ。なんか、楽しそうだなって。ってことでみんなで一緒にキャンプ行こうぜー!なぁいいだろー!」
終いには駄々を捏ね始めた村崎がジタバタと足を揺らす。子どもか、と裕臣がツッコむ前に、瑞穂がぺしんと頭を軽く叩く。
「いい加減にしなさい。で、場所とか色々決めてるの?」
「え?いや、全然」
「……なら、もっと早めに言いなさい!もう大方のキャンプ場埋まっちゃってるでしょーがー!」
このアホゥ!と一発お見舞いし、クールビューティで知られる彼女は力いっぱい叫んだ。


結局、殆ど準備をしなかった(戦力外ともいう)言い出しっぺを放っておき、瑞穂と裕臣の二人でキャンプ場の予約や道具のレンタルを済ませ、連休の中日に急遽キャンプすることになった。
といっても、あくまで日帰りプランなのだが。


当日。
プランを立てた裕臣と瑞穂、おまけの村崎に学生組–––––理央とかのんの五人は朝早くから出発した。高速道路が混み合う時間帯を避けるためだ。
綺麗に晴れた空はどこまでも青く透き通り、ちゅんちゅん雀が鳴く気持ちの良い朝。
遅れることなく集まった彼らは車に乗り込み、早速キャンプ場まで向かう。
そこは山の中腹にあるので、入り口付近までは車で移動し、徒歩で予約してあるスペースまで行くことになっている。
全員がどこかしら子どもっぽい一面を持っているからか、移動中の車内はちょっとした遠足の様子を見せていた。


「じゃーん!第一回チキチキモノマネ大会ー!優勝者にはかのんお手製カップケーキを進呈しちゃうぞっ☆」
甘く整った顔立ちをにぱっと緩ませ、村崎は高らかに開会宣言する。
運転係の裕臣は思わず苦笑した。
「えー、マネする対象は誰でもいいの?」
普段から飲み会でこの手のことに付き合わされている大人組に比べ、学生組はわりあい積極的だ。
「んー、みんなが知ってそうなやつだとなお良いかな!ほら、その方が面白いだろ?」
「じゃあ、一発目は私がやるね!」
ノリノリで手を挙げた理央が、伸びやかな高音で流行りのポップスを歌う。最近人気の歌手で、インディーズの頃から裕臣はファンである。運転しながら聞き惚れてしまった。


モノマネといいつつ、出だしが歌マネだったので結局カラオケ大会になった。
合コンに誘われまくる瑞穂と村崎は言わずもがな歌が上手かったが、意外だったのはかのんである。
デスボイスを駆使したハードロックから演歌、果ては女性アイドルソングまで幅広く歌いこなす。うまくキーを上げ下げし音域を自在に操る彼はまさに、
「カラオケ帝王キング–––––!」
と四人は目を白くした。気分は、「かのん、おそろしい子……!」状態である。
多少は自信のあった村崎のちっちゃなプライドは、この日をもって粉々に砕け散った。
のちに彼は、一人カラオケヒトカラをしまくり復讐リベンジに燃えるのだが、それはまた別の話である。


そんなことがありつつ、ついに目的地に到着し、かくして五人は地獄の山登りへと立ち向かうのであった。


……続く?

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