JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第6話 いざ、尋常に勝負っ! 前編

「春田 理央っ!俺と勝負してくれ!」


帰宅途中の会社員や学生で混雑する駅構内。
夕日の差し込む中、逆立てた銀髪が照らされ輝いていた。全身にアクセサリーを身に付け、着崩した学ラン姿の少年が裏返った声で叫ぶ。
「……。……は?」
突然の出来事に、少女は目を丸くした。


全ては、一週間ほど前に遡る。
久しぶりに部活が休みになり、たまには学校帰りに遊ぼうかと、沙英と共に街中まで繰り出したとき。彼女が痴漢の被害に遭ってしまった。
痴漢といってもそれほど大した被害にはならず、制服の上から軽く触られるだけで済んだ。だが、痴漢をされて黙っているような二人ではない。
親友が不愉快な思いをしているのを見過ごせない理央は、なんとその場で犯人を捕まえて途中下車し、本気の踵落としを食らわせたのである。
通常、彼女は経験者以外に空手の技を見舞うことはない。誤って怪我でもさせたら大変なことになってしまうからだ。
しかし、理央にとって「痴漢は女の敵」である。被害者が友達なら尚更。そして公衆の面前で痴漢撃退劇アクロバットショーが始まった、というわけだった。
その後、犯人を駅員さんに引き渡し、二人は予定通り買い物やショップ巡りを楽しんだ。


–––––そして、今。
何故か彼女の前には、そのときにボッコボコにした犯人の男と、どうやらそいつの親分らしい不良が仁王立ちしている。
「聞けば、ウチのヤスタカをフルボッコしたっていうのはそこのお前らしいじゃねえか。その実力がどんなもんか、見せてみろよ!」
「……あー。思い出した、あのときの痴漢青年かぁ。うわっ、大人しそうな子かと思ったら、不良の取り巻きだったんだね。……しかも、ダサっ」
不良くんの顔立ちはなかなかの美形だと彼女は思ったのだが、それを台無しにするセンスの無さはいただけない。
今時、さすがに髪を逆立てるのはどうなのだろう。耳にぶらさがっている大量のピアスも下品だ。ピアスはあんなに付ければいいというものではない。
少女漫画に出てくる不良はみんなクールでお洒落なのに、どうして現実の不良というのは残念なんだろうか。
何より面倒臭さが先に立ち、どうにもまともに相手をする気にはなれない。しかも理央の独り言が聞こえたのか、ギャーギャー文句を言っている。
「……はぁ。言っておくけど、これは別に試合じゃないから本気の勝負なんてしないからね。それでいいなら、少しだけ戦ってあげるけど」
「ふん、まあいいだろう。さぁ、俺と勝負だっ!」
言うが早いが、不良は弾丸の如く飛び出してきた。ボッ、と重く鋭い拳が彼女の顔面を容赦なく狙う。
だが理央は最小限の動きで躱し、すっ、と姿勢を低くすると素早く懐に潜り込み、自分より大柄な男の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
ふわ、と不良の身体が軽々と宙に浮き–––––、ダァン!と凄まじい音が駅構内に反響する。
受け身もろくにとれず、不良はまともに投げ飛ばされた。コンクリートの床面に叩きつけられる。
「ぐうっ……。くそ、イテェー!ふ、ふざっ、ふざけんなよテメェ……」
「……えぇー。降参しないの?今なら見逃してあげるのに……」
だが、不良にその気は全くないようだ。こちらを睨む三白眼からは、依然闘志の炎が消えていない。
いよいよ面倒臭いことになったなぁ、と内心で呟く理央は、甘栗色の柔らかい髪を掻き上げる。
こっちは激しい練習でとても疲れているのに、何故帰りにまで戦わなければならないのだろう。……などと考えていたら、だんだんと腹が立ってきた。どうせならこいつで憂さ晴らしをしてやろう、と彼女は決意する。
「……ふふっ。いいよ、さぁかかってきなさい。私から一度でもダウンを奪ったら、この前のことを謝ってもいいよ」
不敵に微笑み、理央はくいくいと人差し指でジェスチャーする。思いっきり馬鹿にした態度に、不良はとうとうキレた。うおおおお、と雄叫びを上げ、床を踏みしめドドドッと駆け寄る。
洗練さなどない、獣じみた動きだ。しかし理央は笑みを絶やさない。力みのない構えで襲い来る男を受け止め、
「せいやああああっ!!」
右足を思いっきりぶうんと振り回す。鮮やかすぎるハイキックが、この上なく完璧に決まった。
急所ギリギリの所に強い打撃を食らった不良は、あわれその場にぶっ倒れ気絶してしまった。俗にKOともいう。
「……あっ、やばっ……。やりすぎちゃったぁ☆てへっ☆」
などとアイドル並みの可愛さを演出しても、周りにいるのは都合よく騙されてくれる旦那裕臣ではない。
「あああ!ふ、不動さあああん!!起きてくださいっ……おきてー!!」
犯人が絶叫し、不良をガクガク揺さぶつている。……そして、怪獣でも見るような目で理央を見た。
「助けてえええ!殺されるううう!!」


「……いや、さすがに殺しはしないってば……」
結局、周囲の人々に呼びつけられた駅員さんに任意同行を求められ、理央の帰宅はますます遠のくのだった。



–––––ところが。これで話は終わらなかった。
なんとその日から、彼女は不良こと「不動 御剣ふどうみつるぎ」少年に付き纏われることとなる。
曰く、彼女の強さの秘密を探るなどというくだらない理由で。



「……で、理央ってばまーだそのコに纏わり付かれてるんだぁ。あっはっは!カワイソー!まぁ別に、いい子そうだしいいんじゃない?」
「……よくないよぉ!あの人、下校中もずーっとついてくるんだから!どうしよう、このままじゃ家まで来るかも」
とある日の昼休み。
理央は沙英と叶子の三人で、昼食を摂りつつ相談を持ちかけた。「夕焼けの駅ナカ乱闘事件」と地元の人々から呼び名された出来事から、そろそろ一週間が経つが、不動少年ストーカー問題は一向に解決する気配はない。
「もう!笑ってないで、ちゃんとまじめに考えてよー。こっちは真剣に困ってるんだってば!」
「えぇ、だって面白いんだもーん♪ねーねー、その子は理央をどう思ってるんだろね!もしかして、一目惚れだったりしてぇ〜」
ニヤニヤと下品に笑う叶子はだらしなく椅子に腰掛け、ギッコンギッコンと前後に背もたれを揺らしている。
そのまま後ろに倒れちゃえばいいのに、と内心で毒づきつつ、彼女はアンニュイなため息を漏らした。物憂げな表情は、美しい顔立ちとも相俟ってなんとも画になる。
ほう……とクラス中がざわめき出し、感嘆の声が広がる。
桜ノ宮学園は元々女子校だったので今も女の子が多いが、その中でも隠れた美少女にんきものとして知られる理央はクラスでも注目の的なのだった。
……おそらく、裕臣だんなが見たら嫉妬の炎をバーニングさせるほどに。


きゃいきゃいと年頃の女の子らしいやり取りをしている彼女達理央と叶子を横目でぼんやり眺めながら、黙々とご飯を食べていたもう一人の少女–––––沙英は、ふとあることを思いつき黒く笑う。
理央の悩みなど興味がなく沈黙を保っていたのだが、これならばきっと愉しいことになりそうだな、と思いながら。
そして、特上の笑顔を貼り付け提案した。


「……ねぇねぇ、良いこと考えたんだけどぉー。いっそ、みんなの前でガチンコバトルすればいーんじゃない?」

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