JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第7話 いざ、尋常に勝負っ! 後編

……というわけで。戦う女子高生「春田 理央」は不良くんこと「不動 御剣」と公開試合を繰り広げることになったのだった!
さて、哀れな少女の運命や如何に……!後編に続く!


「いや、なんでよ。そもそも私、まだやるとも何も言ってないし」
「まあまあいいじゃーん!なんか楽しそうだしぃ」
「そうそう♪がんばれ理央っち!……私理央あんたに賭けてるし」
賭けるって何を⁉︎と頭の中に疑問が浮かぶが、相手である御剣は「この戦いに負けたら二度と近付かない」という条件を呑んだので、理央も気にしないことにする。もっとも、気にしたって仕方ないと思っただけだが。


そんなわけで、うららかな五月のとある日。
桜ノ宮学園の近所にある小さな公園に二人の男女が対峙していた。
西部劇よろしくひゅるるー……と乾いた風が吹いている。
「はぁ……、あんまりシロウト相手に本気出したくないけど、そうでもしないとあなたは納得してくれそうにないよね。言っておくけど、戦うのはこれっきりだよ!リベンジマッチは駄目だから」
理央が空手を続けているのは、決して誰かと戦うためではない。あくまでも、いざというときに自分の身を守るためだ。だから、こんな状況は彼女の本意ではない。だが御剣少年はそんな意見を認めないだろうと、理央はなんとなく察していた。それは彼の目に宿る闘志で分かる。
あれは、純粋に戦いのみを求める人間の目だ。きっと世が世なら、すごい戦士になれたことだろう。
「……いくよ」
「ああ、いつでも来い」
そして、二人の戦いは始まった。



始め、優勢だったのは理央の方だ。彼女は達人級の空手の使い手である。プロではないにしろその実力は確かだ。
しかし女性特有の問題として、絶望的にスタミナが足りない。時間が経つにつれて、技のキレが少しずつ落ちていく。
「くそっ……、私が女じゃなければ!」
いつになく余裕のない彼女は、舌打ちすると同時に強烈な回し蹴りを食らわせる。が、御剣は上体をずらして躱し、返す刀で膝を蹴り出す。
辛うじてバックステップで避けた理央は荒い息を吐く。
「……やるじゃん。なに、前は実力を隠してたってワケ?」
「別に……。女は殴らない主義だから。……あんなに強いと思わなかったけど」
発言通り、戦いが始まってから彼は拳を使っていない。大して全ての技を使い放題なのに、理央はまだ一度も勝負を決められていなかった。
「何を言ってるの、……あなたの方が強いでしょ。分かってるんだよ、これでも自分の身の程くらいはね」
理央は確かに強いが、けれど男性に楽々勝てるというほどではない。特に、不良としては強い部類に入る御剣が相手であれば。
だから、彼女は彼と戦うのを嫌がったのだ。勝てないことを分かっていたから。


「はぁ、……ツイてないなぁ。もっと友達を選ぶべきだったかな」
言いつつ額の汗を拭い、理央は構えを取る。たとえ勝てぬと知っていても、だからといって試合放棄はイヤだった。
「さっ、仕切り直しましょうか。……ぜったいに、負けないんだから」
にっこりと微笑み、ぐっと姿勢を低くするとほとんど飛び付くようにして御剣の胴に抱きつく。
えっ、と動揺する少年の下半身を持ち上げ–––––、投げた。
「うおりゃあああ!ジャイアント……フルスイングー!」
「って、今の流れでなんでそーなるんだー!」
もっともな御剣少年の絶叫が、昼下がりの公園にこだました。


「ふふん。どうだ、勝ったぞ!」
ドヤっと自慢げに笑い、あちこちに傷を作りつつも彼女はえっへんと腰に手を当てる。とても偉そうだ。
「……おー。ほんとに勝つと思わなかったよぉ。しょーがないなぁ。お金渡すしかないかあー」
うへえ、と言いたげに顔を苦くした叶子はポケットから財布を出す。中にはぎっしりと紙幣(千円札ではない)が詰め込まれており、理央は思わず歯ぎしりした。
「そんなにお金持ってたっけぇ?……あのアルバイト、給料良いんだ」
前に頼まれて少し助っ人したとき、意外と結構な額を貰えたことを思い出す。
「えへん!まあねー。……これから忙しくなるし、少しでも稼いでおかないと」
聞きようによっては意味深な台詞だが、もう理央は気にしないことにした。というか、面倒くさくなったというべきか。
伏線でも布石でもご勝手にどうぞ、という気持ちである。
叶子は大事な友人だが、よくトラブルを持ち込むので苦手な理央だった。ネコ耳メイドをやるハメになったことを彼女は未だに根に持っている。
「で、勝ったからには条件を守ってくれるでしょ?私、あなたにはほとほと困っているの」
裕臣には効果抜群な完璧すぎる微笑で言い放つ理央に、
「いや……気が変わった。どうか、俺を弟子にして欲しい。……今度はもう迷惑をかけない。不良もやめる」
御剣は一歩も引かずに言ってのけた。重く響く低音に、理央も叶子も息を呑んだ。
「……本気なの?私はまだ弱いし、あなたを強くするなんてきっとできないよ」
理央はあくまでも、空手が得意な女の子でしかない。決してその道のプロというわけではない。
効率を第一に考えるなら、絶対に空手教室に通うなりする方が良いだろう。しかし、少年に譲る気は無さそうだった。
「……しょーがないなぁ、もう。でも私に『指導』はできない。だから、ウチの空手部に顔出しすることを許可します。あとは自分で技を盗みなさい」
やれやれと肩をすくめた理央は、試合で乱れた髪を整える。いい加減、ぐちゃぐちゃの髪の毛に我慢ができなかった。
試合中の彼女はその気迫から「鬼」ともあだ名されているが、中身は十代の女の子である。ヘアスタイルはどうしても気になってしまうのだ。


理央が手ぐしで髪を梳く度、ふわりと香る甘い香りに御剣少年の頬が微かに染まる。
相変わらず無駄に振りまかれる色気に、思わずため息を吐きたくなる叶子であったが、もう今更のことなのでツッコミたいのをぐっと堪えた。
いちいち気にしていたら理央などという規格外の人間と付き合えない。幼なじみだというかのん君は大変だなぁ、と他人事のように思った。
「ま、どうでもいいけど。果たして沙英は上手くいくかねぇ」



–––––その日の夜。
「な、なんだとぉ⁉︎ 理央が素人と戦った、だってぇ⁉︎ お前の友達は一体何を考えてるんだ……」
「うわー、やっぱり怒ったぁ!あのね、私だって好きで戦ったわけじゃないんだから!頼まれて仕方なく、なんだよ?だからお願い、分かってヒロくん」
ねっ?と小首を傾げて大きな瞳を潤ませる理央はなんていう策士なのだろう、と裕臣は思った。
しかし、こういう小悪魔的なところにも惹かれた自覚のある彼はどうしても逆らえない。これだから彼女の実家にお邪魔する度、弟の礼央から叱られるのだ。
「いい加減、ねーちゃんを甘やかすな」という台詞が脳内をよぎる。
「おねがーい、ゆるして、ヒロくん」
「うん分かった、許す許すー」
……結局、理央のうるうる攻撃に負けた裕臣なのであった。
もっとも、彼女が必ず勝つことを知っているからなのだが。



さて。こちらは不動家である。
自室にてスマートフォンを眺めていた少年–––––御剣は、ふっと小さく吐息をもらす。精悍な顔立ちに浮かぶのは、憧憬よりも尚深く重い感情。
「……きれい、だったな。あのひと、俺の手に入んねーかなぁ」
ボソリ、と呟いた声は、静かな夜の空気に溶けて消えた。

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