JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第2話 学校での奥さん。

私立桜ノ宮さくらのみや学園。
数年前まで女子校だった、美人が多いことで有名な学園だ。最近になって共学化されたのだが、それでも女子の割合は9割近い。近所でも評判はなかなかに良く入試の倍率もそれなりに高い。
そんなところが理央の通う学校だ。


「おはよー。理央、一限に出す課題見せてちょーだい!」
教室に入った途端、開口一番お願いしてきたのは彼女の親友「篠原 沙英しのはらさえ」だ。
金に近い明るい茶色に染めた髪を背中まで伸ばし、くるくると巻いている。両耳に塡めたシルバーのピアス、制服の袖から覗く腕のブレスレットが光り、スカートは太ももが見えるほど思いっきり短くしていた。グロスを塗った唇がツヤツヤと輝いている。
「はぁ……。数学嫌いもいい加減直さないと駄目だよ、沙英」
呆れつつも鞄の中からノートを取り出し見せてやる理央。真面目な彼女は家事の合間をぬって毎回きちんと課題をやり遂げている。
「ごめんごめーん。えっへへ、つい寝過ごしちゃって……。次は気をつけるよ」
「本当?なんせ沙英だからなぁ。イマイチ信用できないなぁ」
人当たりの良い笑顔で友人にしっかり釘を刺しつつ、彼女は制服を脱ぎ始める。サブのバッグから空手の道着を引っ張り出し、慣れた手つきでさっと着替えた。小柄な体つきからは分からないが、理央は県大会でも上位に食い込む猛者だ。中学生の時には黒帯を取得している。
「お、部活?頑張れー」
「……いいねえ、テニス部は緩くて」
トゲトゲしい理央の言葉に、沙英はにへぇとだらしない笑みを浮かべた。
「まあねえ。だってー、私がぶちょーだしぃ。厳しくなったら『とうとう頭がパーになったか!』って驚かれるよー」
「それもそうか。じゃっ、行ってきます!代返よろしくっ」
「あいあいー、がんばれぇ」
理央はたたたっと軽快な足取りで駆け出す。後ろで結った栗色の髪が走るリズムに合わせて揺れた。
小さくなっていく後ろ姿をそっと見送り、沙英は目元をとろんと緩める。
ピピピッとスマートフォンの着信音が鳴り、ロック画面にズラリと表示される大量の通知に、我知らずため息をついた。
「ふふ、セーシュンだねえ。いいなー、私も恋したーい」


汗みずくになるほど厳しい練習のあと、理央はいそいそと家庭科室へ向かった。練習終わりに此処へ立ち寄るのはもはや日課になりつつある。
「やっほー!かのん、いるー?」
「……理央か。で、今日は何をタカリに来たわけ?」
広々とした室内に並ぶ調理台の奥、業務用オーブンの前に一人の少年が佇んでいた。男にしては華奢な身体に制服を緩く着崩し、その上からエプロンを身につけている。長い前髪をバンダナで覆い、白く細い手にミトンをはめていた。
彼の名前は「白星しらぼしかのん」という。理央の幼なじみであり同級生でもあった。女の子みたいな名前なのは、元々の診断では女の子と言われていたからだ。結局引っ込みがつかなくなってそのまま「かのん」と名付けられたという経緯がある。
「昨日頼んでおいたカップケーキ受け取ろうと思って。どう、できた?」
「まだ。今焼いてる。……此処で食べていくの?」
「かのんが許してくれるならそうするけど。いやだ?」
こてんと首を傾げて尋ねる理央に、かのんはぽりぽりと頬を掻きつつ、そっぽを向きながら答える。
「別に……いいけど。着替えてこなくていいの?それに、授業は」
「あっ。……まぁいいや。じゃあ焼けるまで待ってる。ねえ、なんか話してよ」
「いきなりなんだよ。つうかサボるな。えっと、話って言われてもなあ。……あんまりないや」
かのんは、理央が既婚者であることを唯一知っている人間だ。高校からの付き合いである沙英にはまだ伝えていない。
彼と彼女の道のりは険しくて、だからなるべく知られるわけには行かなかった。学校側にさえ二人が結婚していることはずいぶん後に伝えたから、きっと詳細なところまでは知らないはずだ。
元々、中学生のときには理央は裕臣と結婚することになっていた。そして、理央が16歳の誕生日を迎えてすぐに入籍している。それからもうすぐ三年が経つ。
その間、彼女の悩みを受け止めてきたのは他ならぬかのんだけだった。
「ねえー、卒業してもこうして会ってくれる?……不安なんだ。なんか、このままでいいのかなって。あの人と一緒になったことはね、全然後悔してないの。でもさ、かのんだけでも、吐き出せる人がいてほしくて。……だめ?」
自分と同じくらいの身長なのに、どこか骨張った感触のする身体に寄り掛かり、珍しく表情のない顔で理央は隠していた気持ちを吐露する。
ほんのりと甘い香りのする柔らかな髪をそっと撫で、かのんは存外に穏やかな声で告げた。
「いいよ。お前が俺を必要とするなら、いくらでも受け止めてやる。……けど、理央の伴侶はあいつなんだから、もっと信頼してやれよ」
少女の瞳が一瞬揺らぎ、すぐに静けさを帯びた。
「…………そうだね。うん、私のことなんだから、しっかりしなくちゃ」
その時、ポーンとオーブンが鳴った。
トレイに乗ったカップケーキの焼き具合を確かめ、特に問題ないと判断すると、粗熱を取ってから可愛らしいデザインのビニール袋に入れる。透明な袋を水玉模様のリボンが閉じていた。
「相変わらずかのんはカワイイもの好きだね。このリボンどこで売ってたの?」
「駅前の雑貨屋だけど。今度一緒に行こうか?」
滅多にないかのんの誘いに、しかし理央はふるふると首を横に振った。
「やめとく。そのときは一人で行くよ」
「そっか。……まあ、その方がいいか。あ、最近物騒だし、ちゃんと明るいうちに帰れよ」
……というかのんの忠告を、空手有段者の理央はさらっと聞き流した。


それが、あとで困ったことになるとも知らず。

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