日本産魔術師と異世界ギルド
24 SランクVSランク外 下
……キースの使った術は、非常に扱いにくい部類に属する。
魔術戦において、あの術式の、疑似的な魔術を構築するにあたる数秒のワンクッションは非常にネックだ。ある程度の間合い。ある程度のスピードを有すれば、そのワンクッションの間に拳を叩きこめる間合いにまで接近できる。
つまりは、俺が発動直後にあの術式の正体が分かる程度の経験を有していれば、勢いよく接近するだけで破る事が出来る戦法だったという訳だ。
……と、推測するけれど、多分それは違う。
そんな致命的な弱点がある戦法を、一体一の戦いで使う様なら、多分コイツは此処に呼ばれる様な人材では無い。
十中八苦、例え発動までのタイムラグを突かれた際の対策は講じてある筈だ。
それが一体何なのかまでは、俺には分からない。
俺の実力は本来、最底辺。戦闘のプロの策など読める筈が無いんだ。
だから……知らなくたっていい。余計な事に頭を使うな。
今はただ……目で見える物に集中しろ。
俺が跳ぶのと同時に展開されていたキューブが再び拡散。そうして生れたキューブから小型の散弾が打ち出され、その一部は正面から突っ込んだ俺に叩きこまれる。
だけどそれは激痛の一歩手前。受けるのは軽傷。
故に止まらない。寧ろ俺が一部の散弾の軌道を止めたと言ってもいい。
つまり、先程の身体強化の魔法陣を描く事は、もう出来ない。その魔法陣を描くために放たれた術としては、打たれてはならない致命的な一手の様に思える。
だけどそれで終わりじゃ、この術は多分欠陥だらけのポンコツだ。
……いや、ポンンコツなんだ。
その次に起きた現象を見て、俺は思う。
コイツは……テレビでみた魔術師は、そのポンコツを、プロで通用する最高の術式へと変えているんだ。
……軌道がそれても終わらない。一枚岩じゃ終わらせない。
プランAが頓挫すれば、出てくるのはプランBだ。
「グ……ッ」
左右に突如として展開された魔法陣から放たれた、高威力の散弾を受け、全身に激痛が走る。貫通こそしなかったものの、全身から血が流れ出た。多分並大抵の力じゃ蜂の巣になっている。
プランB……正面突破されて、ある一定の散弾を止められた際に発動する、俺みたいな奴の為の対策。きっと違う部分を壊していれば、それだけ違う魔術が発動されただろう。
だけど変わろうと変わらなかろうと、きっとこの状況は変わらない。
歯を、喰いしばった。
激痛に耐えながら、それでも体を動かした。右拳を僅かに引き、拳を構える。
「お、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
激痛に耐えながら、腕を振り抜いた。
次の瞬間、魔力の雨はやみ、キースは体を捻って俺の攻撃を回避する。流石に攻撃を受けながら無理矢理放った攻撃だ。隙が大きすぎた。
そしてその隙を突く様に、キースは俺に拳を振るう。
そしてその拳は俺の頬に吸い込まれる様に直撃し、俺の意識は飛びかける。
でも……飛びかけただけだ。
今、お前はきっと、無理にでも距離を取るべきだったんだ、キース。
「……ッ」
無理矢理、踏み止まった。
そして、こうなる事は端から予想済みだ。こうする為に突っ込んだ。
だから即座に、攻撃に移る。
拳を握って、キースの懐に入る。
もう距離は離させない。攻撃を派手に躱そうとは思わない。
躱せればギリギリで。躱せなければ、大人しく受け、次の攻撃に移る。
先に倒れた方が負け。
インファイト。ただの殴り合い。
きっと現状俺が唯一まともにできる、俺なりの戦い方。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
俺はキースの脇腹目掛けて右フックを叩きこむ。
その体が折れ曲がりそうになるが、折れ曲がる事は無く、逆にこちらの骨をへし折る様に拳が放たれる。
左胸に吸い込まれる様に放たれたキースの拳により、肋骨がミシリという嫌な音を上げる。
だけど止まらない。
次の瞬間には、体の勢いに任せ折れた左腕で裏拳を放つ。そして牽制程度の裏拳の後に、本命の右拳を突きだした。そして同時にキースも素早い切りかえしで拳を放つ。
右拳に衝撃。
それが必然か偶然かは分からない。少なくとも俺は狙っていない。
だが確かに、俺達の左拳はぶつかり合った。
そして行われるのは、純粋な力比べ。
「ッらあああああああああああああああッ!」
声を張り上げ、拳を振り抜く。振りぬけた。
キースの拳を、押しやった。
そしてその瞬間に生れた隙を無駄にはしない。
俺は僅かに離れた間合いを詰め、顔面に右拳を叩きこむ。
確かなてごたえ。並の魔術師ならそれ一発で昏倒していてもおかしくない様な、そんな一撃。
それでもキースは倒れない。故にS級。
再びのけ反ると同時、伸びた俺の右腕に右拳を突き上げる。
「グ……ッ!」
右腕が悲鳴を上げた。もしかすると今の一撃でヒビ位は入ってしまったかっもしれない。
だけど、そんな事は知るか。
激痛に耐えながら、次なる拳を。脚を放つ。
それに対抗する様に、キースも攻撃を繰り返した。
その度にきっと骨にヒビが入り、何処かの骨が折れていく。
それでも気力は折れやしない。体が動かなくなるまで聳え立つ。
そして次の瞬間、一つの偶然が発生した。
同時。
互いが攻撃姿勢を取ったのが、全く同じタイミングだった。
そして俺の拳に乗る勢いが今までとはまるで違う。きっと今までの中で、最高のモーションに偶然なっていたのかもしれない。
そしてその事に気付いたのと同時に、一つの異常に気付く。
視界の端に、小さなキューブが飛んでいるのが分かった。
次の瞬間、キースの動きが僅かに加速する。
コイツ……この殴り合いの中で、密かにキューブを放ってやがった!
だけど……大した効果は現れていない。この殴り合いの中で、高度な軌道は描けちゃいない。
それでも効果は現れ、その一撃の重さが増している。
直感的に、次の一撃で決まると思った。
最高のモーションと、術により強化された拳。
先に目標へ届いた方の勝ち。
そしてその勝者がどちらだったかは、結論から言えば分からない。
殴った感触は確かにあって……だけど次の瞬間には俺の体は床に転がっていたからだ。
「……ッ」
顔面を抑えながら、ゆっくりと体を起す。起せた。その程度には、まだ体は動く。
そして目の前で同じ様に倒れているキースは……動かない。
「……勝った、って事で、いいのか?」
自分で思わずそんな事を呟いてしまうが、それは違う。
勝っていない。まだ終っちゃいない。
俺はフラフラな足取りでキースに近づく。するとこの数秒で意識を取りもどしたキースがゆっくりと体を起し始めた。
同時にキースが右手からキューブを射出させる。
そのキューブは拡散する事も無く、俺の垂れ下がった左腕に追い打ちを掛けた。攻撃はそれだけで一時止み、俺はそれでも止まらない。
そしてキースの前に経ち、次弾を撃ち込もうとしたキースの腕を掴んだ。
「いい加減目ぇ覚ませよ、この野郎」
そして俺はキースの右手から指輪を引き抜く。
……これで、俺の勝ちだ。
魔術戦において、あの術式の、疑似的な魔術を構築するにあたる数秒のワンクッションは非常にネックだ。ある程度の間合い。ある程度のスピードを有すれば、そのワンクッションの間に拳を叩きこめる間合いにまで接近できる。
つまりは、俺が発動直後にあの術式の正体が分かる程度の経験を有していれば、勢いよく接近するだけで破る事が出来る戦法だったという訳だ。
……と、推測するけれど、多分それは違う。
そんな致命的な弱点がある戦法を、一体一の戦いで使う様なら、多分コイツは此処に呼ばれる様な人材では無い。
十中八苦、例え発動までのタイムラグを突かれた際の対策は講じてある筈だ。
それが一体何なのかまでは、俺には分からない。
俺の実力は本来、最底辺。戦闘のプロの策など読める筈が無いんだ。
だから……知らなくたっていい。余計な事に頭を使うな。
今はただ……目で見える物に集中しろ。
俺が跳ぶのと同時に展開されていたキューブが再び拡散。そうして生れたキューブから小型の散弾が打ち出され、その一部は正面から突っ込んだ俺に叩きこまれる。
だけどそれは激痛の一歩手前。受けるのは軽傷。
故に止まらない。寧ろ俺が一部の散弾の軌道を止めたと言ってもいい。
つまり、先程の身体強化の魔法陣を描く事は、もう出来ない。その魔法陣を描くために放たれた術としては、打たれてはならない致命的な一手の様に思える。
だけどそれで終わりじゃ、この術は多分欠陥だらけのポンコツだ。
……いや、ポンンコツなんだ。
その次に起きた現象を見て、俺は思う。
コイツは……テレビでみた魔術師は、そのポンコツを、プロで通用する最高の術式へと変えているんだ。
……軌道がそれても終わらない。一枚岩じゃ終わらせない。
プランAが頓挫すれば、出てくるのはプランBだ。
「グ……ッ」
左右に突如として展開された魔法陣から放たれた、高威力の散弾を受け、全身に激痛が走る。貫通こそしなかったものの、全身から血が流れ出た。多分並大抵の力じゃ蜂の巣になっている。
プランB……正面突破されて、ある一定の散弾を止められた際に発動する、俺みたいな奴の為の対策。きっと違う部分を壊していれば、それだけ違う魔術が発動されただろう。
だけど変わろうと変わらなかろうと、きっとこの状況は変わらない。
歯を、喰いしばった。
激痛に耐えながら、それでも体を動かした。右拳を僅かに引き、拳を構える。
「お、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
激痛に耐えながら、腕を振り抜いた。
次の瞬間、魔力の雨はやみ、キースは体を捻って俺の攻撃を回避する。流石に攻撃を受けながら無理矢理放った攻撃だ。隙が大きすぎた。
そしてその隙を突く様に、キースは俺に拳を振るう。
そしてその拳は俺の頬に吸い込まれる様に直撃し、俺の意識は飛びかける。
でも……飛びかけただけだ。
今、お前はきっと、無理にでも距離を取るべきだったんだ、キース。
「……ッ」
無理矢理、踏み止まった。
そして、こうなる事は端から予想済みだ。こうする為に突っ込んだ。
だから即座に、攻撃に移る。
拳を握って、キースの懐に入る。
もう距離は離させない。攻撃を派手に躱そうとは思わない。
躱せればギリギリで。躱せなければ、大人しく受け、次の攻撃に移る。
先に倒れた方が負け。
インファイト。ただの殴り合い。
きっと現状俺が唯一まともにできる、俺なりの戦い方。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
俺はキースの脇腹目掛けて右フックを叩きこむ。
その体が折れ曲がりそうになるが、折れ曲がる事は無く、逆にこちらの骨をへし折る様に拳が放たれる。
左胸に吸い込まれる様に放たれたキースの拳により、肋骨がミシリという嫌な音を上げる。
だけど止まらない。
次の瞬間には、体の勢いに任せ折れた左腕で裏拳を放つ。そして牽制程度の裏拳の後に、本命の右拳を突きだした。そして同時にキースも素早い切りかえしで拳を放つ。
右拳に衝撃。
それが必然か偶然かは分からない。少なくとも俺は狙っていない。
だが確かに、俺達の左拳はぶつかり合った。
そして行われるのは、純粋な力比べ。
「ッらあああああああああああああああッ!」
声を張り上げ、拳を振り抜く。振りぬけた。
キースの拳を、押しやった。
そしてその瞬間に生れた隙を無駄にはしない。
俺は僅かに離れた間合いを詰め、顔面に右拳を叩きこむ。
確かなてごたえ。並の魔術師ならそれ一発で昏倒していてもおかしくない様な、そんな一撃。
それでもキースは倒れない。故にS級。
再びのけ反ると同時、伸びた俺の右腕に右拳を突き上げる。
「グ……ッ!」
右腕が悲鳴を上げた。もしかすると今の一撃でヒビ位は入ってしまったかっもしれない。
だけど、そんな事は知るか。
激痛に耐えながら、次なる拳を。脚を放つ。
それに対抗する様に、キースも攻撃を繰り返した。
その度にきっと骨にヒビが入り、何処かの骨が折れていく。
それでも気力は折れやしない。体が動かなくなるまで聳え立つ。
そして次の瞬間、一つの偶然が発生した。
同時。
互いが攻撃姿勢を取ったのが、全く同じタイミングだった。
そして俺の拳に乗る勢いが今までとはまるで違う。きっと今までの中で、最高のモーションに偶然なっていたのかもしれない。
そしてその事に気付いたのと同時に、一つの異常に気付く。
視界の端に、小さなキューブが飛んでいるのが分かった。
次の瞬間、キースの動きが僅かに加速する。
コイツ……この殴り合いの中で、密かにキューブを放ってやがった!
だけど……大した効果は現れていない。この殴り合いの中で、高度な軌道は描けちゃいない。
それでも効果は現れ、その一撃の重さが増している。
直感的に、次の一撃で決まると思った。
最高のモーションと、術により強化された拳。
先に目標へ届いた方の勝ち。
そしてその勝者がどちらだったかは、結論から言えば分からない。
殴った感触は確かにあって……だけど次の瞬間には俺の体は床に転がっていたからだ。
「……ッ」
顔面を抑えながら、ゆっくりと体を起す。起せた。その程度には、まだ体は動く。
そして目の前で同じ様に倒れているキースは……動かない。
「……勝った、って事で、いいのか?」
自分で思わずそんな事を呟いてしまうが、それは違う。
勝っていない。まだ終っちゃいない。
俺はフラフラな足取りでキースに近づく。するとこの数秒で意識を取りもどしたキースがゆっくりと体を起し始めた。
同時にキースが右手からキューブを射出させる。
そのキューブは拡散する事も無く、俺の垂れ下がった左腕に追い打ちを掛けた。攻撃はそれだけで一時止み、俺はそれでも止まらない。
そしてキースの前に経ち、次弾を撃ち込もうとしたキースの腕を掴んだ。
「いい加減目ぇ覚ませよ、この野郎」
そして俺はキースの右手から指輪を引き抜く。
……これで、俺の勝ちだ。
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