日本産魔術師と異世界ギルド
07 その名を知る者
「どこで知ったとかそういう事じゃなくてだな、俺はその地球……っつーより、日本から来たんだよ」
俺はあの時アリスに話したように、リアに俺が地球から来たという話をする事にした。さっきは突然変な事を言うのは止めておこうと躊躇ったけど、相手が多少なりとも地球や日本の事を知っているのであれば、躊躇う事など何もない。
俺が一通り話し終えると、リアは少し考え込む様に腕を組み始めた。
「喧嘩をして、得体のしれない魔術を掛け、結果裕也さんを異世界へと飛ばす……日本は相当物騒な所みたいですね」
「佐原を俺の世界の基準にしないでくれ……って、ああ、佐原ってのは俺をこの世界に飛ばしいた……やつで……」
俺がうんざりしたように佐原の名を出した所で、リアが何か思い当たる事でもあったかのようにピクリとお反応したので、思わず言葉が尻すぼみになってしまう。
思い当たったらおかしい筈なのに。
「佐原……ですか」
「え……ちょ、ちょっと待て! もしかして知ってんのかアイツの事!」
いや、まて自分で言っておきながらそれはおかしい。
アイツは魔術の詳細を知らずに俺に使い、俺をこの世界へと飛ばした。故にアイツはあの魔術を俺以外の相手……即ち自分にも使った事が無い筈なのだ。
それだけは確信を持って言える。
あの時アイツが望んでいたファンタジーRPGの様な世界とは、ほぼそのままこの世界な訳で、もし仮にアイツがこの世界に来ていたならば、帰る必要が無いのだ。
そしてどうやら俺の読みは正しかったらしい。リアは首を横に振ってから続ける。
「いえ、裕也さんをこの世界に飛ばした少年の事は、少なくとも私は存じておりません。ですが、その佐原という名前は、何度かししょーが口にしていたのを覚えています。たしか古い知り合いだとの事で」
「古い知り合い……ああ、そういう事か」
それを聞いて、色々と納得がいった。
きっとリアがアルドの口から聞いた佐原という名前は、ほぼ間違いなく佐原の爺さんの事だ。
あの魔道書は佐原の爺さんが亡くなる時まで封印されていた。そしておそらくその封印は、この世界の魔術を要いた物だ。そして佐原の名を知る者がこの地に居る。
とすればほぼ確定だろう。佐原の爺さんは、どういう経緯かこの世界へとやって来て、アルドと知り合った。そして何かしらの理由で地球へと戻り、おそらくその移動で使ったであろう魔道書を封印した。細かい経緯や理由なんてのは当事者ではないため分からないが、今俺が持っている情報だけで、おそらくこうであっただろうという、確信にも近い憶測が立てられる。
となってくると、アルドが着物の存在を知っているのも頷ける。その情報を知っている者と知り合ったのだから、知っていたっておかしくは無い。まあ作ったってのは、かなり無茶な話な気がするが。
「という事は、アルドさんが着物の事を知ってるのは、別にアルドさん自身が地球に来たりした訳じゃなく、そのアルドさんの知り合いの方の佐原が教えたって事になるのか?」
俺は確認の意を込めてリアにそう尋ねる。
「すみません。私はあくまで耳に挟んだだけですので、詳しい話はししょーじゃないとなんとも……」
「そっか。わりいな、無理な質問して」
「いえいえ」
リアはそう言った後、一拍置いてから俺に言う。
「裕也さん。気になる事があるのなら、一度ししょーに会われてみてはいかがでしょうか?」
確かに、俺の抱いている疑問を解決するに当たって、この世界で最も頼りになる相手というのは、まだ顔も観た事が無いアルドである事は間違いないだろう。
別に今すぐ帰るつもりはないし、その疑問を解決した所で自分の状況が何か変わる訳じゃないけど、やはりモヤモヤは解決できる時にしておいた方が良いし、そういった情報を知っているだけで、今後何かの役に立つかもしれない。
そう思ったからこそ俺はリアに話を聞いたんだ。だったら答えは決まっている。
「ああ、よろしく頼む」
「ではししょーが戻り次第連絡させていただきます」
リアはそう言って、笑みを見せた。
……対して笑みとは少し離れた表情をしていたのはアリスである。
「えーっと、途中から完全に置いてけぼりだったんだけど……終わったの?」
そういえば、途中から全く声が聞えなかった。まあ俺もアリスと同じ立場だったら似たような感じになっていたかもしれない。何しろアリスは、僅かながらに日本の知識を持っているリアや、そもそも日本に居た俺とは違い、あくまで俺が日本という所から来たという事しかしらないのだから。
「とりあえず終わった。なんか悪かったな」
「別にいいわよ。大事な話だったんでしょ?」
「まあそれなりにな」
何度も言うけど、あくまでモヤモヤを取りはらったり、今後役に立つ事があるかも程度の話だ。大事ではあるが、精々それなりだ。
だけどまあ……今の話で、それなりどころじゃない可能性がより信憑性を増してしまった訳だけど。
佐原が使ったあの魔術……アレはその可能性が高いとかそういうレベルじゃなく、ほぼ間違いなくこの世界へ渡るための物だ。
その事が俺に直接降りかかる厄介事になる可能性は極めて低いだろうけど……やっぱその可能性があるというだけで、気がめいる。
何度も自分に言い聞かせているが、気にしたら負けだ。考えるだけ無駄だ。
そう自分に言い聞かせていると、まるで俺の思考を逸らす様にタイミングよくアリスが立ち上がった。
「じゃあそろそろ行きましょうか」
どうやら此処を出るらしい。
まあ報酬受け取りも終わり、俺個人の話も済んだ。だとすればこの場所にもう用は無い。
「リアちゃん。今回の件、改めてありがとうってアルドさんに伝えておいて」
伝票を手にし、一歩席から離れたアリス。
それに続くように俺とリアも立ち上がり、そしてリアがアリスに返事と取れる言葉を返す。
「分かりました。伝えておきます……あ、そういえばアリスさん」
何か思い出した様にリアはアリスに言う。
「一応大金とも取れるお金を持ち歩いているんですから……帰り道、気をつけてくださいね?」
気を付けろというのは、スリとかにって事だろうか。だとしたら、地球もこの世界もかわらねぇなあ。
俺がそう思ってると、アリスは少々心外そうに言葉を返す。
「大丈夫よ。私がそんなヘマをすると思う?」
すると思います。防犯方面の事は何も知らないけど、昨日から一緒に居て、ウチのリーダーからはなんとなくそういう事態になりかねない雰囲気を感じました。ついうっかりとか言っちゃいそうだ。
「そ、そうですよねー」
そう言うリアの声も少し棒読みっぽかった。多分考えている事は同じだろう。なんかシンパシー感じるや。
「まあ何か起こらない様に、俺が気を配っとく」
「よろしくお願いします」
「あの、マジな顔でそういう話ししないで。分かってるから。自分がドジなのは充分分かってるから、自分達が何とかしないとオーラを出すのは止めて!」
とりあえずそういう訳で、俺達は報酬を受け取って喫茶店を後にしたのだった。
俺はあの時アリスに話したように、リアに俺が地球から来たという話をする事にした。さっきは突然変な事を言うのは止めておこうと躊躇ったけど、相手が多少なりとも地球や日本の事を知っているのであれば、躊躇う事など何もない。
俺が一通り話し終えると、リアは少し考え込む様に腕を組み始めた。
「喧嘩をして、得体のしれない魔術を掛け、結果裕也さんを異世界へと飛ばす……日本は相当物騒な所みたいですね」
「佐原を俺の世界の基準にしないでくれ……って、ああ、佐原ってのは俺をこの世界に飛ばしいた……やつで……」
俺がうんざりしたように佐原の名を出した所で、リアが何か思い当たる事でもあったかのようにピクリとお反応したので、思わず言葉が尻すぼみになってしまう。
思い当たったらおかしい筈なのに。
「佐原……ですか」
「え……ちょ、ちょっと待て! もしかして知ってんのかアイツの事!」
いや、まて自分で言っておきながらそれはおかしい。
アイツは魔術の詳細を知らずに俺に使い、俺をこの世界へと飛ばした。故にアイツはあの魔術を俺以外の相手……即ち自分にも使った事が無い筈なのだ。
それだけは確信を持って言える。
あの時アイツが望んでいたファンタジーRPGの様な世界とは、ほぼそのままこの世界な訳で、もし仮にアイツがこの世界に来ていたならば、帰る必要が無いのだ。
そしてどうやら俺の読みは正しかったらしい。リアは首を横に振ってから続ける。
「いえ、裕也さんをこの世界に飛ばした少年の事は、少なくとも私は存じておりません。ですが、その佐原という名前は、何度かししょーが口にしていたのを覚えています。たしか古い知り合いだとの事で」
「古い知り合い……ああ、そういう事か」
それを聞いて、色々と納得がいった。
きっとリアがアルドの口から聞いた佐原という名前は、ほぼ間違いなく佐原の爺さんの事だ。
あの魔道書は佐原の爺さんが亡くなる時まで封印されていた。そしておそらくその封印は、この世界の魔術を要いた物だ。そして佐原の名を知る者がこの地に居る。
とすればほぼ確定だろう。佐原の爺さんは、どういう経緯かこの世界へとやって来て、アルドと知り合った。そして何かしらの理由で地球へと戻り、おそらくその移動で使ったであろう魔道書を封印した。細かい経緯や理由なんてのは当事者ではないため分からないが、今俺が持っている情報だけで、おそらくこうであっただろうという、確信にも近い憶測が立てられる。
となってくると、アルドが着物の存在を知っているのも頷ける。その情報を知っている者と知り合ったのだから、知っていたっておかしくは無い。まあ作ったってのは、かなり無茶な話な気がするが。
「という事は、アルドさんが着物の事を知ってるのは、別にアルドさん自身が地球に来たりした訳じゃなく、そのアルドさんの知り合いの方の佐原が教えたって事になるのか?」
俺は確認の意を込めてリアにそう尋ねる。
「すみません。私はあくまで耳に挟んだだけですので、詳しい話はししょーじゃないとなんとも……」
「そっか。わりいな、無理な質問して」
「いえいえ」
リアはそう言った後、一拍置いてから俺に言う。
「裕也さん。気になる事があるのなら、一度ししょーに会われてみてはいかがでしょうか?」
確かに、俺の抱いている疑問を解決するに当たって、この世界で最も頼りになる相手というのは、まだ顔も観た事が無いアルドである事は間違いないだろう。
別に今すぐ帰るつもりはないし、その疑問を解決した所で自分の状況が何か変わる訳じゃないけど、やはりモヤモヤは解決できる時にしておいた方が良いし、そういった情報を知っているだけで、今後何かの役に立つかもしれない。
そう思ったからこそ俺はリアに話を聞いたんだ。だったら答えは決まっている。
「ああ、よろしく頼む」
「ではししょーが戻り次第連絡させていただきます」
リアはそう言って、笑みを見せた。
……対して笑みとは少し離れた表情をしていたのはアリスである。
「えーっと、途中から完全に置いてけぼりだったんだけど……終わったの?」
そういえば、途中から全く声が聞えなかった。まあ俺もアリスと同じ立場だったら似たような感じになっていたかもしれない。何しろアリスは、僅かながらに日本の知識を持っているリアや、そもそも日本に居た俺とは違い、あくまで俺が日本という所から来たという事しかしらないのだから。
「とりあえず終わった。なんか悪かったな」
「別にいいわよ。大事な話だったんでしょ?」
「まあそれなりにな」
何度も言うけど、あくまでモヤモヤを取りはらったり、今後役に立つ事があるかも程度の話だ。大事ではあるが、精々それなりだ。
だけどまあ……今の話で、それなりどころじゃない可能性がより信憑性を増してしまった訳だけど。
佐原が使ったあの魔術……アレはその可能性が高いとかそういうレベルじゃなく、ほぼ間違いなくこの世界へ渡るための物だ。
その事が俺に直接降りかかる厄介事になる可能性は極めて低いだろうけど……やっぱその可能性があるというだけで、気がめいる。
何度も自分に言い聞かせているが、気にしたら負けだ。考えるだけ無駄だ。
そう自分に言い聞かせていると、まるで俺の思考を逸らす様にタイミングよくアリスが立ち上がった。
「じゃあそろそろ行きましょうか」
どうやら此処を出るらしい。
まあ報酬受け取りも終わり、俺個人の話も済んだ。だとすればこの場所にもう用は無い。
「リアちゃん。今回の件、改めてありがとうってアルドさんに伝えておいて」
伝票を手にし、一歩席から離れたアリス。
それに続くように俺とリアも立ち上がり、そしてリアがアリスに返事と取れる言葉を返す。
「分かりました。伝えておきます……あ、そういえばアリスさん」
何か思い出した様にリアはアリスに言う。
「一応大金とも取れるお金を持ち歩いているんですから……帰り道、気をつけてくださいね?」
気を付けろというのは、スリとかにって事だろうか。だとしたら、地球もこの世界もかわらねぇなあ。
俺がそう思ってると、アリスは少々心外そうに言葉を返す。
「大丈夫よ。私がそんなヘマをすると思う?」
すると思います。防犯方面の事は何も知らないけど、昨日から一緒に居て、ウチのリーダーからはなんとなくそういう事態になりかねない雰囲気を感じました。ついうっかりとか言っちゃいそうだ。
「そ、そうですよねー」
そう言うリアの声も少し棒読みっぽかった。多分考えている事は同じだろう。なんかシンパシー感じるや。
「まあ何か起こらない様に、俺が気を配っとく」
「よろしくお願いします」
「あの、マジな顔でそういう話ししないで。分かってるから。自分がドジなのは充分分かってるから、自分達が何とかしないとオーラを出すのは止めて!」
とりあえずそういう訳で、俺達は報酬を受け取って喫茶店を後にしたのだった。
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