双眸の精霊獣《アストラル》
#5 高速の獣【5th】
陸上生物の中で最も速い足をもつチーター。それが、レグルスの種族だってのか。
道理で、あんなに高速で動いていたんだな。
だが、今の俺にはそんなこと関係ない。こっちだって、高速で移動する術を手に入れたんだ。
この拳でレグルスを一発殴らないと気が済まない。
「オレァな、ハヤテなんかいなくたって武器を扱えるんだぜェ?」
そう言うと、レグルスの掌から小さくて鋭利な鏡が放たれる。
俺は咄嗟に、横に転がって回避する。
その隙を見逃してくれるわけもなく、レグルスは高速で肉迫してき――
「ザコはさっさと死んでろォ!」
「ぐぁッ!」
かなりの威力で、蹴っ飛ばされてしまう。
痛い……が、弱音を吐いてなんかいられない。
「――〈疾風の太刀〉!」
負けじと高速で近づいて剣を振るうものの、軽々しく避けられた。
「おらッ!」
そして再び鋭利な鏡を投げてきやがる。
俺は〈疾風の太刀〉を発動したばっかで反応が遅れてしまった。
徐々に背中に近づく、数えるのも嫌になるほど大量の鏡。
避けることができず――俺が後ろを振り向いたときには。
「ぅぐッ!」
俺の視界に、真っ赤な鮮血が迸った。
でも、痛みはない。つまり、この血は俺のじゃなくて――。
「……五十、嵐。もう、あんた、しか、いないの……ッ。だから、お願い。レグルスを……止めて、ちょうだい……ッ」
耳元で呟き、シャウラは背中に大量の鏡が刺さったまま、俯せで倒れ込んだ。
何だよ、それ。何で俺を庇ってんだよ。
無意識に、瞳から涙が零れ落ちる。
……そうだよな。大切な人が死ぬってのは、悲しいもんだよな。憎悪を抱いて当然だろう。
だからこそ救いの手を差し伸べてくれたレグルスは鳥山先生にとって、かけがえのない存在だったはずなのに。
どうして、こうなるんだよ。
「くくッ、はははははははははッ! いいぜェ、その顔! たまんねぇなァ……もっと絶望しやがれッ!」
「――黙れ」
自分でも驚くほど、ドスの効いた低い声音が漏れた。
「人を捨てて、人を傷つけて、人を殺して、人を裏切って、人を絶望に陥れて! 何がパートナーだ! お前なんかが、鳥山先生のパートナーを語るな! てめぇはせいぜい、自分で絶望しまくってろ!」
鳥山先生は、本当にいいやつだった。レグルスとは、違う。
「弱ェ犬ほど、よく喋るんだよなァ。……勝ってから言えよ、ザコが」
鋭い眼光で、レグルスは俺を睨む。思わず怯みそうになるが、負けじとこちらも睨み返す。
「ハッ、てめェはもういい。さっさと死んでなァ――〈瑩徹の束〉」
吐き捨てるように言った直後、レグルスの周辺に幾つもの大きな鏡が浮遊していく。
その中の一つ、レグルスのちょうど目の前に浮いてある鏡が、突然淡く光り出す。
そして、ガラス部分から太くて長いビームみたいなものが発射された。
あんなもの、当たったら怪我じゃ済まないぞ。
俺は慌てて横に転がって避けるが、レグルスの周辺に浮いていたもう一つの鏡から、同じような光線が放たれる。
このままじゃ……俺もやられてしまう。
「蓮さん!」
不意にそんな叫びが聞こえ――眼前には、血塗れの幼い女の子が立っていた。
ふと手元に目をやると、さっきまで持っていたはずの刀剣はどこにもない。
「かふッ。何、やってるんですかッ! 死にたいんですか!?」
ミラの怒号が、俺の意識を正常に戻してくれた。
ダメだ。絶対にミラたちを守るって、決めたはずだろ。
なのに、何だよこの有り様は。俺がミラに守られてどうするんだよ。
怖がっちゃダメだ。怯えちゃダメだ。怯んじゃダメだ。立ち向かわないとダメだ。
だって俺は、ミラのパートナーなんだから。
「悪い、ミラ。グレム――」
と、そこまで発したところで、ミラに異変が生じる。
俺の前方に立っていたミラが、突如として前のめりになって倒れ臥してしまったのだ。
「お、おい、ミラ? どうしたんだよ?」
怪訝に思いながらも、ミラの血で染まった肢体を抱き起こす。
今のミラから発せられるのは、儚く乾いた声音のみ。
「すい、ません、蓮さん。もう、無理かも、しれません……」
「おい、何言ってんだよ!? しっかりしろよ!」
俺はそう叫ぶしかなかった。
無意識に涙が零れ落ち、ミラの血と混ざり合う。
俺は、普通の男子高校生なんだ。弱い弱い、人間なんだ。
「もう、泣かないでくださいよ……。かはッ、わたしは……大丈夫、ですから……」
何で、こうなったんだろう。
何で、ミラのような幼い女の子がこんな思いをしなくちゃいけないんだ。
「お前がいなくなったら、俺はどうすりゃいいんだよ!? ミラがいなかったら俺は……無力で何もできないんだよ!」
「はは……まったく蓮さんは、本当に、ロリコンなんです、から……」
最後に弱々しくそう漏らし、ミラは完全に動かなくなった。
「ああそうだ、俺はロリコンだよ! だから、こんなとこで死んでんじゃねぇよ! なぁ頼むよ……目を、開けてくれよ……!」
どれだけ叫んでも、ミラは動かない。何も、答えてくれない。
中篠も、シャウラも、ミラも。みんな、やられた。
俺はどうすりゃいいんだろうな。何ができるんだろうな。
そんなもの、決まってるだろ。
俺はミラをそっと寝かし、立ち上がる。
「んあ? お前ェ……パートナーが死んだんだぜェ? 何で、絶望してねぇんだよォ!」
レグルスが驚愕してがなり立てるが、知ったこっちゃない。
俺は、守るだけだ。
やられたみんなの分もレグルスをぶっ飛ばすって、誓うだけだ。
それにまだみんなは――死んでなんかいない。
「立てよ先生! いつまで落ち込んでんだ! レグルスは、あんたのパートナーだろ? だったら、あんたがお仕置きしないでどうすんだ!」
「――ッ!」
俺の言葉に驚愕した鳥山先生は、
「……あぁ、そうだな。すまない」
その顔に生気を取り戻し、立ち上がった。
道理で、あんなに高速で動いていたんだな。
だが、今の俺にはそんなこと関係ない。こっちだって、高速で移動する術を手に入れたんだ。
この拳でレグルスを一発殴らないと気が済まない。
「オレァな、ハヤテなんかいなくたって武器を扱えるんだぜェ?」
そう言うと、レグルスの掌から小さくて鋭利な鏡が放たれる。
俺は咄嗟に、横に転がって回避する。
その隙を見逃してくれるわけもなく、レグルスは高速で肉迫してき――
「ザコはさっさと死んでろォ!」
「ぐぁッ!」
かなりの威力で、蹴っ飛ばされてしまう。
痛い……が、弱音を吐いてなんかいられない。
「――〈疾風の太刀〉!」
負けじと高速で近づいて剣を振るうものの、軽々しく避けられた。
「おらッ!」
そして再び鋭利な鏡を投げてきやがる。
俺は〈疾風の太刀〉を発動したばっかで反応が遅れてしまった。
徐々に背中に近づく、数えるのも嫌になるほど大量の鏡。
避けることができず――俺が後ろを振り向いたときには。
「ぅぐッ!」
俺の視界に、真っ赤な鮮血が迸った。
でも、痛みはない。つまり、この血は俺のじゃなくて――。
「……五十、嵐。もう、あんた、しか、いないの……ッ。だから、お願い。レグルスを……止めて、ちょうだい……ッ」
耳元で呟き、シャウラは背中に大量の鏡が刺さったまま、俯せで倒れ込んだ。
何だよ、それ。何で俺を庇ってんだよ。
無意識に、瞳から涙が零れ落ちる。
……そうだよな。大切な人が死ぬってのは、悲しいもんだよな。憎悪を抱いて当然だろう。
だからこそ救いの手を差し伸べてくれたレグルスは鳥山先生にとって、かけがえのない存在だったはずなのに。
どうして、こうなるんだよ。
「くくッ、はははははははははッ! いいぜェ、その顔! たまんねぇなァ……もっと絶望しやがれッ!」
「――黙れ」
自分でも驚くほど、ドスの効いた低い声音が漏れた。
「人を捨てて、人を傷つけて、人を殺して、人を裏切って、人を絶望に陥れて! 何がパートナーだ! お前なんかが、鳥山先生のパートナーを語るな! てめぇはせいぜい、自分で絶望しまくってろ!」
鳥山先生は、本当にいいやつだった。レグルスとは、違う。
「弱ェ犬ほど、よく喋るんだよなァ。……勝ってから言えよ、ザコが」
鋭い眼光で、レグルスは俺を睨む。思わず怯みそうになるが、負けじとこちらも睨み返す。
「ハッ、てめェはもういい。さっさと死んでなァ――〈瑩徹の束〉」
吐き捨てるように言った直後、レグルスの周辺に幾つもの大きな鏡が浮遊していく。
その中の一つ、レグルスのちょうど目の前に浮いてある鏡が、突然淡く光り出す。
そして、ガラス部分から太くて長いビームみたいなものが発射された。
あんなもの、当たったら怪我じゃ済まないぞ。
俺は慌てて横に転がって避けるが、レグルスの周辺に浮いていたもう一つの鏡から、同じような光線が放たれる。
このままじゃ……俺もやられてしまう。
「蓮さん!」
不意にそんな叫びが聞こえ――眼前には、血塗れの幼い女の子が立っていた。
ふと手元に目をやると、さっきまで持っていたはずの刀剣はどこにもない。
「かふッ。何、やってるんですかッ! 死にたいんですか!?」
ミラの怒号が、俺の意識を正常に戻してくれた。
ダメだ。絶対にミラたちを守るって、決めたはずだろ。
なのに、何だよこの有り様は。俺がミラに守られてどうするんだよ。
怖がっちゃダメだ。怯えちゃダメだ。怯んじゃダメだ。立ち向かわないとダメだ。
だって俺は、ミラのパートナーなんだから。
「悪い、ミラ。グレム――」
と、そこまで発したところで、ミラに異変が生じる。
俺の前方に立っていたミラが、突如として前のめりになって倒れ臥してしまったのだ。
「お、おい、ミラ? どうしたんだよ?」
怪訝に思いながらも、ミラの血で染まった肢体を抱き起こす。
今のミラから発せられるのは、儚く乾いた声音のみ。
「すい、ません、蓮さん。もう、無理かも、しれません……」
「おい、何言ってんだよ!? しっかりしろよ!」
俺はそう叫ぶしかなかった。
無意識に涙が零れ落ち、ミラの血と混ざり合う。
俺は、普通の男子高校生なんだ。弱い弱い、人間なんだ。
「もう、泣かないでくださいよ……。かはッ、わたしは……大丈夫、ですから……」
何で、こうなったんだろう。
何で、ミラのような幼い女の子がこんな思いをしなくちゃいけないんだ。
「お前がいなくなったら、俺はどうすりゃいいんだよ!? ミラがいなかったら俺は……無力で何もできないんだよ!」
「はは……まったく蓮さんは、本当に、ロリコンなんです、から……」
最後に弱々しくそう漏らし、ミラは完全に動かなくなった。
「ああそうだ、俺はロリコンだよ! だから、こんなとこで死んでんじゃねぇよ! なぁ頼むよ……目を、開けてくれよ……!」
どれだけ叫んでも、ミラは動かない。何も、答えてくれない。
中篠も、シャウラも、ミラも。みんな、やられた。
俺はどうすりゃいいんだろうな。何ができるんだろうな。
そんなもの、決まってるだろ。
俺はミラをそっと寝かし、立ち上がる。
「んあ? お前ェ……パートナーが死んだんだぜェ? 何で、絶望してねぇんだよォ!」
レグルスが驚愕してがなり立てるが、知ったこっちゃない。
俺は、守るだけだ。
やられたみんなの分もレグルスをぶっ飛ばすって、誓うだけだ。
それにまだみんなは――死んでなんかいない。
「立てよ先生! いつまで落ち込んでんだ! レグルスは、あんたのパートナーだろ? だったら、あんたがお仕置きしないでどうすんだ!」
「――ッ!」
俺の言葉に驚愕した鳥山先生は、
「……あぁ、そうだな。すまない」
その顔に生気を取り戻し、立ち上がった。
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