双眸の精霊獣《アストラル》
#3 両者の修行と二人の恋路【5th】
やや早足で歩いていると、肩を並べているミラが口を開く。
「あの……蓮さんは、自分がロリコンってことを隠してるんですか?」
唐突すぎる質問に、俺は問い返す。
「何でいきなりそんなこと訊くんだ?」
「だって、一昨日シャウラさんにロリコンなの? と訊かれたとき、否定しようとしてましたし」
あー、確かにそうだったな。でもミラに肯定されてしまい、あの二人にもロリコンだと思われちゃった。まぁ事実なんだけどさ。
「そりゃそうだろ。ロリコンなんて、あんまり大っぴらに言っていい性癖じゃないし。俺はそのせいで、中等部のとき友達ができなかったんだ」
性癖は人それぞれだというのに、少し異常で自分らと違うからって、ずっとゴミを見るような目で見られ、避けられてきた。
別に同学年のやつらなんて、正直どうでもいい。
ただ、もし万が一にも噂が初等部にまで広まり、幼女たちに嫌われてしまったら生きていける気がしない。
それに俺は、あくまで普通の高校生活を過ごしたいのだ。クラスメイトたちから避けられて、常にぼっちとか普通じゃないだろ。
そういうラノベは人気あるし俺も好きだが、リアルとフィクションは別だからね。
俺の話を聞き、ミラはボソリと呟く。
「そうだったんですか……。変態ですからね、当然ですよね」
「待て待て、俺はロリコンという名の紳士だ! 変態じゃないぞ」
「何が紳士ですか! わたしがシャワーを浴びている時に、裸で入ってきたじゃないですか! シャウラさんのむ、胸を揉んだりもしてました!」
「だーかーらー! それは全部事故だって言ってんだろ!?」
ミラは長い間根に持つタイプなんだな、恐ろしい。どうやったら許してもらえるのだろうか。
「むぅー、もういいです。蓮さんですからね、仕方ありません」
口を尖らせて断念したように言うミラに、俺は食い付く。
「え、それって、俺になら裸を見られてもいいということか!?」
「違います! わたしはただ、諦めて忘れようと思っただけです! 今度同じようなことをしたら殺しますよ!」
「へいへい」
「もっと反省してください……」
可愛い顔して、なんて辛辣な子だよ。幼女の裸を見られるなら、たとえ殺されても悔いなし。
……いや、やっぱり死ぬのは嫌です。
「そういえば、蓮さんがロリコンというのを隠しているなら、どうしてわたしには堂々とロリコン発言できるんですか?」
そう言われ、暫し思案する。
今までそんなの考えたことなかったぞ。けど、今なら分かるよ。ミラは、他の人とは違う。
「うーん。ほら、色々シビアなのは言ってきたりするけどさ、それでも離れようとはしてこないから……ミラになら、なんか安心なんだよな」
「ふぇ、だ、だって、その、唯一の、パートナー、ですし……」
確かにその通りなんだが、何故かミラは顔を赤らめて俯き、更に何事かを呟く。
「……それに、わたしは幼いですから、嬉しい、です……」
「ん?」
「なっ、ななな何でもありません! 死んでください!」
「何で!?」
あまりに小声すぎて聞き取れなかっただけなのに、いきなり罵られてしまった。理不尽だわ。
と、そうこうしているうちに気づけば我が家の目の前である。
「あの、今思ったんですが。外を出歩くときは、猫の姿のほうがいいんじゃないでしょうか」
「あ、そういやそうだな」
何も知らない一般人に、猫耳や尻尾を見られちゃマズいよな。今度からは猫の姿で出かけて、散歩をしていると見せかけよう。
あれ、でも猫って犬と違い散歩は必要ないんだっけ。……まぁ、いいや。
そして俺たちは家の中に入り、リビングへ直行する。
「あやめ、ただいま。遅くなって悪ぃ」
「…………」
椅子に座って自分の携帯を眺めながら、何やらボーっとしているあやめに挨拶しても、返事がない。ただのしかばねのようだ。それに、どことなく顔が赤い気がする。
恋する乙女か、お前は。
「あやめさん? どうかしたんですか?」
「…………えへへぇ」
ミラも不思議に思ったのか怪訝そうに訊ねたものの、あやめは携帯を見つめて頬を染め、突然笑い出す。
なんか不気味で怖いんですが。
とりあえず、俺はあやめの頬を摘まむ。更に力一杯引っ張る。
「ひ、ひはいひはい、ひはいよぉ……」
涙目になって訴えてきたので、やめてあげるか。
「うぅ……兄貴帰ってきてたのぉ? 気配を消していたずらするなんて、酷いよぉ」
「俺は気配を消せるほどすごくねぇよ。ボーっとしているほうが悪い」
若干腫れた頬を押さえながら抗議してくるあやめに、事実を伝える。
気配を消す……というか透明人間になりたいとは思う。そしたら、幼女の更衣や入浴などを堂々と堪能できるよね。
ミラに知られたら、思い切り引っ掻かれてしまうが。痕が残ったらどうしてくれるんだよ。
それにしても、最近のあやめは様子がおかしい。
兄としては、何か悩んでいるなら相談くらいしてほしいんだけどな。
「ボーっとなんかしてないよぉ! ちょっと……色々あっただけだからぁ、心配しないでねぇ?」
明らかに"ちょっと"じゃ済まないことだと思う。その、"色々"の部分が一番気になるよ。
が、あやめは無理矢理話を反らす。
「そ、そんなことよりぃ! ずっと待ってたんだよぉ? 早くごはん作ってぇ! もうお腹空いたぁ。昨日はカップラーメンだけだったんだからぁ」
「はいはい、分かったよ。ごめんな」
そう返事をして、俺は台所に立つ。
まぁでも、隠し事の一つや二つくらい許容すべきだろう。話したくなったときに話してくれたらいいし。
だから、これ以上の追及はしないと決めた。
うーん、今日は何を作ろうかな。
「蓮さん! たまにはイタリア料理がいいです!」
「あやめはフランス料理が食べてみたいよぉ」
外国料理のリクエストをもらってしまった。日本人なのに何で日本の料理じゃないんだよ。
けど、昨日はあやめ一人だけにしちゃってたからな、仕方ない。
冷蔵庫の中には不思議と材料があったから、カルパッチョにビスクというスープを作ってみる。
……うむ、なかなかいい出来だ。でも明日からはもっと節約しないとな。
完成してテーブルに置くと、椅子に座っていた二人は待ってましたと言わんばかりに、若干前のめりになりながら料理を口に運ぶ。
そして、すぐに口元が緩む。
「わぁ……すごく美味しいです」
「やっぱり兄貴のごはん最高ぉー」
父さんも母さんも料理はあまり得意でなく、昔からほとんど俺がやっていて自信はあったのだが、喜んでもらえて何より。
どんなものかと俺も食べてみたところ、これは確かに美味しい。ほっぺたが落ちるとはまさにこのことだね。
グルメレポーターじゃないから詳しく感想は言えないけども。
と、不意に、あやめが暗い表情になって小さく囁く。
「ねぇ……もしあやめが、兄貴の知り合いに恋したって言ったらぁ……どうするぅ?」
「………………………………………………………………は?」
いきなり何言ってんだ、こいつは。あまりに唐突すぎて、間の抜けた一文字しか発せられなかったぞ。
ってか、恋? しかも俺の知り合いに?
「は、はぁぁぁぁぁぁ!? おま、それマジかよ!?」
近所迷惑じゃないか心配になってしまうほどの大声で仰天すると、あやめは慌てて頭を振る。
「だ、だからもしぃ! 例えばの話だってばぁ!」
その言葉を聞いて、心の底から安堵する。
そ、そうだよな。あやめが俺の知り合いに恋とかするわけないよ。こいつにはまだ早い、うん。
「びっくりさせんなよ……。でも何でだ?」
「な、なんとなくだよぉ。なんとなく、その場合は兄貴、どう思うのかって気になったんだぁ」
今までの幼い妹はどこへやら、大人っぽい容貌で言うあやめに、俺はしっかりと告げてやる。
「俺の知り合いだからって関係ねぇよ。あやめが選んだ相手なら、俺はちゃんと応援するぞ。当たり前じゃねぇか」
それを聞くと、あやめは何故か嬉しそうに微笑む。
「そっかぁ。兄貴、ありがとねぇ。来月のテストが終わったら、ちゃんと話すよぉ。だから、待っててぇ」
そして、綺麗に完食した皿をテーブルに置いたまま、自室に戻っていく。
そういえば、もうすぐ期末テストだったな。海聖学園は小中高と同時にテストが行われるのだ。ってか一切勉強してねぇぞ、大丈夫かしら。
それにしても、やっと話す気になってくれたのかな。兄には話しておいたほうがいいと思い、テストの日までに心の準備をしておくのかも。
俺はただその時を待ち、黙ってあやめの言葉を聞いてあげるのみ。
あとは風呂に入ったり、歯磨きをしたり、ラノベを読んだり、少しだけ勉強をしてみたりして、深夜一時過ぎに就寝する。そして、今日という一日が終わる。
それから、昼までしかない学校の授業を受けたり、中篠との修行などで時間はあっという間に過ぎていき━━。
大して強くもなれないまま、十日が経った。
「あの……蓮さんは、自分がロリコンってことを隠してるんですか?」
唐突すぎる質問に、俺は問い返す。
「何でいきなりそんなこと訊くんだ?」
「だって、一昨日シャウラさんにロリコンなの? と訊かれたとき、否定しようとしてましたし」
あー、確かにそうだったな。でもミラに肯定されてしまい、あの二人にもロリコンだと思われちゃった。まぁ事実なんだけどさ。
「そりゃそうだろ。ロリコンなんて、あんまり大っぴらに言っていい性癖じゃないし。俺はそのせいで、中等部のとき友達ができなかったんだ」
性癖は人それぞれだというのに、少し異常で自分らと違うからって、ずっとゴミを見るような目で見られ、避けられてきた。
別に同学年のやつらなんて、正直どうでもいい。
ただ、もし万が一にも噂が初等部にまで広まり、幼女たちに嫌われてしまったら生きていける気がしない。
それに俺は、あくまで普通の高校生活を過ごしたいのだ。クラスメイトたちから避けられて、常にぼっちとか普通じゃないだろ。
そういうラノベは人気あるし俺も好きだが、リアルとフィクションは別だからね。
俺の話を聞き、ミラはボソリと呟く。
「そうだったんですか……。変態ですからね、当然ですよね」
「待て待て、俺はロリコンという名の紳士だ! 変態じゃないぞ」
「何が紳士ですか! わたしがシャワーを浴びている時に、裸で入ってきたじゃないですか! シャウラさんのむ、胸を揉んだりもしてました!」
「だーかーらー! それは全部事故だって言ってんだろ!?」
ミラは長い間根に持つタイプなんだな、恐ろしい。どうやったら許してもらえるのだろうか。
「むぅー、もういいです。蓮さんですからね、仕方ありません」
口を尖らせて断念したように言うミラに、俺は食い付く。
「え、それって、俺になら裸を見られてもいいということか!?」
「違います! わたしはただ、諦めて忘れようと思っただけです! 今度同じようなことをしたら殺しますよ!」
「へいへい」
「もっと反省してください……」
可愛い顔して、なんて辛辣な子だよ。幼女の裸を見られるなら、たとえ殺されても悔いなし。
……いや、やっぱり死ぬのは嫌です。
「そういえば、蓮さんがロリコンというのを隠しているなら、どうしてわたしには堂々とロリコン発言できるんですか?」
そう言われ、暫し思案する。
今までそんなの考えたことなかったぞ。けど、今なら分かるよ。ミラは、他の人とは違う。
「うーん。ほら、色々シビアなのは言ってきたりするけどさ、それでも離れようとはしてこないから……ミラになら、なんか安心なんだよな」
「ふぇ、だ、だって、その、唯一の、パートナー、ですし……」
確かにその通りなんだが、何故かミラは顔を赤らめて俯き、更に何事かを呟く。
「……それに、わたしは幼いですから、嬉しい、です……」
「ん?」
「なっ、ななな何でもありません! 死んでください!」
「何で!?」
あまりに小声すぎて聞き取れなかっただけなのに、いきなり罵られてしまった。理不尽だわ。
と、そうこうしているうちに気づけば我が家の目の前である。
「あの、今思ったんですが。外を出歩くときは、猫の姿のほうがいいんじゃないでしょうか」
「あ、そういやそうだな」
何も知らない一般人に、猫耳や尻尾を見られちゃマズいよな。今度からは猫の姿で出かけて、散歩をしていると見せかけよう。
あれ、でも猫って犬と違い散歩は必要ないんだっけ。……まぁ、いいや。
そして俺たちは家の中に入り、リビングへ直行する。
「あやめ、ただいま。遅くなって悪ぃ」
「…………」
椅子に座って自分の携帯を眺めながら、何やらボーっとしているあやめに挨拶しても、返事がない。ただのしかばねのようだ。それに、どことなく顔が赤い気がする。
恋する乙女か、お前は。
「あやめさん? どうかしたんですか?」
「…………えへへぇ」
ミラも不思議に思ったのか怪訝そうに訊ねたものの、あやめは携帯を見つめて頬を染め、突然笑い出す。
なんか不気味で怖いんですが。
とりあえず、俺はあやめの頬を摘まむ。更に力一杯引っ張る。
「ひ、ひはいひはい、ひはいよぉ……」
涙目になって訴えてきたので、やめてあげるか。
「うぅ……兄貴帰ってきてたのぉ? 気配を消していたずらするなんて、酷いよぉ」
「俺は気配を消せるほどすごくねぇよ。ボーっとしているほうが悪い」
若干腫れた頬を押さえながら抗議してくるあやめに、事実を伝える。
気配を消す……というか透明人間になりたいとは思う。そしたら、幼女の更衣や入浴などを堂々と堪能できるよね。
ミラに知られたら、思い切り引っ掻かれてしまうが。痕が残ったらどうしてくれるんだよ。
それにしても、最近のあやめは様子がおかしい。
兄としては、何か悩んでいるなら相談くらいしてほしいんだけどな。
「ボーっとなんかしてないよぉ! ちょっと……色々あっただけだからぁ、心配しないでねぇ?」
明らかに"ちょっと"じゃ済まないことだと思う。その、"色々"の部分が一番気になるよ。
が、あやめは無理矢理話を反らす。
「そ、そんなことよりぃ! ずっと待ってたんだよぉ? 早くごはん作ってぇ! もうお腹空いたぁ。昨日はカップラーメンだけだったんだからぁ」
「はいはい、分かったよ。ごめんな」
そう返事をして、俺は台所に立つ。
まぁでも、隠し事の一つや二つくらい許容すべきだろう。話したくなったときに話してくれたらいいし。
だから、これ以上の追及はしないと決めた。
うーん、今日は何を作ろうかな。
「蓮さん! たまにはイタリア料理がいいです!」
「あやめはフランス料理が食べてみたいよぉ」
外国料理のリクエストをもらってしまった。日本人なのに何で日本の料理じゃないんだよ。
けど、昨日はあやめ一人だけにしちゃってたからな、仕方ない。
冷蔵庫の中には不思議と材料があったから、カルパッチョにビスクというスープを作ってみる。
……うむ、なかなかいい出来だ。でも明日からはもっと節約しないとな。
完成してテーブルに置くと、椅子に座っていた二人は待ってましたと言わんばかりに、若干前のめりになりながら料理を口に運ぶ。
そして、すぐに口元が緩む。
「わぁ……すごく美味しいです」
「やっぱり兄貴のごはん最高ぉー」
父さんも母さんも料理はあまり得意でなく、昔からほとんど俺がやっていて自信はあったのだが、喜んでもらえて何より。
どんなものかと俺も食べてみたところ、これは確かに美味しい。ほっぺたが落ちるとはまさにこのことだね。
グルメレポーターじゃないから詳しく感想は言えないけども。
と、不意に、あやめが暗い表情になって小さく囁く。
「ねぇ……もしあやめが、兄貴の知り合いに恋したって言ったらぁ……どうするぅ?」
「………………………………………………………………は?」
いきなり何言ってんだ、こいつは。あまりに唐突すぎて、間の抜けた一文字しか発せられなかったぞ。
ってか、恋? しかも俺の知り合いに?
「は、はぁぁぁぁぁぁ!? おま、それマジかよ!?」
近所迷惑じゃないか心配になってしまうほどの大声で仰天すると、あやめは慌てて頭を振る。
「だ、だからもしぃ! 例えばの話だってばぁ!」
その言葉を聞いて、心の底から安堵する。
そ、そうだよな。あやめが俺の知り合いに恋とかするわけないよ。こいつにはまだ早い、うん。
「びっくりさせんなよ……。でも何でだ?」
「な、なんとなくだよぉ。なんとなく、その場合は兄貴、どう思うのかって気になったんだぁ」
今までの幼い妹はどこへやら、大人っぽい容貌で言うあやめに、俺はしっかりと告げてやる。
「俺の知り合いだからって関係ねぇよ。あやめが選んだ相手なら、俺はちゃんと応援するぞ。当たり前じゃねぇか」
それを聞くと、あやめは何故か嬉しそうに微笑む。
「そっかぁ。兄貴、ありがとねぇ。来月のテストが終わったら、ちゃんと話すよぉ。だから、待っててぇ」
そして、綺麗に完食した皿をテーブルに置いたまま、自室に戻っていく。
そういえば、もうすぐ期末テストだったな。海聖学園は小中高と同時にテストが行われるのだ。ってか一切勉強してねぇぞ、大丈夫かしら。
それにしても、やっと話す気になってくれたのかな。兄には話しておいたほうがいいと思い、テストの日までに心の準備をしておくのかも。
俺はただその時を待ち、黙ってあやめの言葉を聞いてあげるのみ。
あとは風呂に入ったり、歯磨きをしたり、ラノベを読んだり、少しだけ勉強をしてみたりして、深夜一時過ぎに就寝する。そして、今日という一日が終わる。
それから、昼までしかない学校の授業を受けたり、中篠との修行などで時間はあっという間に過ぎていき━━。
大して強くもなれないまま、十日が経った。
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