双眸の精霊獣《アストラル》
#2 本に囲まれた少女【4th】
高校生に興味のない俺でも、知ってる。
名前は、中篠恵。
俺と同じクラスで、常に本を読み耽っている無口ながら、確か成績は学年トップだったはず。
どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているため、誰かと話しているのをあまり見たことがない。
たまに教師とか、中篠を気にかけて委員長や優しい人などが話しかけても、一分もかからず終わってしまうほど、得体の知れない女だ。
その正体がまさか、精霊獣のパートナーだったなんて。
「……なに?」
「え、あ、いや、別に」
「……そう」
参ったな。何とか見つけはしたけど、どう言い出せばいいものか。
「…………」
しかも、それっきり喋らなくなったし。ちなみに蝶は今も周りをひらひらと飛んでいる。
「なぁ、中し――」
「……五十嵐君」
ふと黙読を中断し、俺の呼び掛けを遮りやがった。
相変わらずのポーカーフェイスだが、どことなく真剣味を帯びている……気がする。
「……先週までのあなたは、普通の一般人だった。なのに、いつ精霊獣と契約をしたの?」
まぁ、当然の質問だよな。中篠の瞳にも、俺の半身が白黒に映っているだろうから。
俺はミラとの出会いや、契約を交わした経緯を、包み隠さずに話す。
「……そう」
興味なさそうにリアクションをとってくる。やっぱり、言葉のキャッチボールが難しい人だ。
「それでさ、頼みがあるんだよ。俺はまだ完全に素人で、戦い方なんか分からねえ。だから、修行をつけてほしい」
「……それは私に師匠になれ、と? どうして?」
「どうしても止めなきゃならねぇ奴がいるんだ。どうしても守らなきゃならねぇ奴がいるんだ。その為に、強くなる必要があるんだ」
再び中篠の疑問に、俺は堂々と決意を答える。
今の俺では、せいぜい人並み程度の力しかないだろう。でもそれじゃ駄目だ。
全ての精霊獣とパートナーを殺すと言い張っている鳥山先生を止めれず、ミラを守れなくなってしまう。
嫌だ、見捨てるのは。昔の俺みたいには、絶対にさせたくない。
「……分かった。けど、まずはあなたの実力を確かめる」
あっさり了承してくれたと思ったら、そんなことを言い出した。
「……今日の放課後、私の家に来て」
すると、この町の地図を手渡される。ご丁寧に中篠は、自分の家らしき箇所に、赤色のペンで印をつけた。
ふむ。どうやらそんなに遠くはないな。俺の家からだと、徒歩で約十分くらいか。
「……じゃあ、待ってる」
そして、中篠は本を読みながら図書室を出ていった。
実力を確かめる……って、俺に刀剣の技術なんてないぞ。当たり前だが。
ともあれ、一日だけで見つかってよかった。最悪一週間以上かかることも覚悟していたんだけど。
心の底から安堵した直後、携帯の着信を告げる音色が鳴り響く。図ったようなタイミングだな。
「もしもし?」
『あ、もしもし蓮さん! 今あやめさんの携帯電話を借りています』
もう声質を聞いただけで分かる。間違いなくミラだ。
初等部も同様、本日からテスト期間なので、既に帰宅しているのだろう。
「ミラ? どうしたんだ?」
『えと、心配だったから電話したんですが。見つかりましたか?』
やはりその話か。なら大丈夫、問題ない。
「ああ。今日の放課後、家に来いってさ。実力を確かめるとかも言ってたけど、とにかく修行は見てくれるらしいぞ」
『そうですか! ということは、瞳がおかしいのも気づいたんですね?』
「いや、全然気づかなかったよ。鳥山先生に聞かされるまではな。早く教えてくれりゃいいのに」
正直、あの一件以来鳥山先生に会いたくなかったが、今日に限ってはよかったかもしれない。
『すいません。教わるよりも自分で気づいたほうがいいと思ったのですが……』
電話越しのミラの声色は、申し訳なさに彩られていた。ははは、別に怒るつもりはないのに。
「分かってるって。お前は悪くねぇよ」
『そ、そうですか……?』
「おぅ。口で説明するより、体験したほうが分かりやすいって思ったんだろ? だったら、間違っちゃいねぇよ」
『は、はい。ありがとうございます』
「うん。あ、今から帰るから待ってろ。そのあとすぐに、修行しに行くぞ」
『はい、分かりました』
そこで通話を終え、若干速歩きで家路を辿る。
期待と不安が、俺の感情にとぐろを巻きながら。
名前は、中篠恵。
俺と同じクラスで、常に本を読み耽っている無口ながら、確か成績は学年トップだったはず。
どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているため、誰かと話しているのをあまり見たことがない。
たまに教師とか、中篠を気にかけて委員長や優しい人などが話しかけても、一分もかからず終わってしまうほど、得体の知れない女だ。
その正体がまさか、精霊獣のパートナーだったなんて。
「……なに?」
「え、あ、いや、別に」
「……そう」
参ったな。何とか見つけはしたけど、どう言い出せばいいものか。
「…………」
しかも、それっきり喋らなくなったし。ちなみに蝶は今も周りをひらひらと飛んでいる。
「なぁ、中し――」
「……五十嵐君」
ふと黙読を中断し、俺の呼び掛けを遮りやがった。
相変わらずのポーカーフェイスだが、どことなく真剣味を帯びている……気がする。
「……先週までのあなたは、普通の一般人だった。なのに、いつ精霊獣と契約をしたの?」
まぁ、当然の質問だよな。中篠の瞳にも、俺の半身が白黒に映っているだろうから。
俺はミラとの出会いや、契約を交わした経緯を、包み隠さずに話す。
「……そう」
興味なさそうにリアクションをとってくる。やっぱり、言葉のキャッチボールが難しい人だ。
「それでさ、頼みがあるんだよ。俺はまだ完全に素人で、戦い方なんか分からねえ。だから、修行をつけてほしい」
「……それは私に師匠になれ、と? どうして?」
「どうしても止めなきゃならねぇ奴がいるんだ。どうしても守らなきゃならねぇ奴がいるんだ。その為に、強くなる必要があるんだ」
再び中篠の疑問に、俺は堂々と決意を答える。
今の俺では、せいぜい人並み程度の力しかないだろう。でもそれじゃ駄目だ。
全ての精霊獣とパートナーを殺すと言い張っている鳥山先生を止めれず、ミラを守れなくなってしまう。
嫌だ、見捨てるのは。昔の俺みたいには、絶対にさせたくない。
「……分かった。けど、まずはあなたの実力を確かめる」
あっさり了承してくれたと思ったら、そんなことを言い出した。
「……今日の放課後、私の家に来て」
すると、この町の地図を手渡される。ご丁寧に中篠は、自分の家らしき箇所に、赤色のペンで印をつけた。
ふむ。どうやらそんなに遠くはないな。俺の家からだと、徒歩で約十分くらいか。
「……じゃあ、待ってる」
そして、中篠は本を読みながら図書室を出ていった。
実力を確かめる……って、俺に刀剣の技術なんてないぞ。当たり前だが。
ともあれ、一日だけで見つかってよかった。最悪一週間以上かかることも覚悟していたんだけど。
心の底から安堵した直後、携帯の着信を告げる音色が鳴り響く。図ったようなタイミングだな。
「もしもし?」
『あ、もしもし蓮さん! 今あやめさんの携帯電話を借りています』
もう声質を聞いただけで分かる。間違いなくミラだ。
初等部も同様、本日からテスト期間なので、既に帰宅しているのだろう。
「ミラ? どうしたんだ?」
『えと、心配だったから電話したんですが。見つかりましたか?』
やはりその話か。なら大丈夫、問題ない。
「ああ。今日の放課後、家に来いってさ。実力を確かめるとかも言ってたけど、とにかく修行は見てくれるらしいぞ」
『そうですか! ということは、瞳がおかしいのも気づいたんですね?』
「いや、全然気づかなかったよ。鳥山先生に聞かされるまではな。早く教えてくれりゃいいのに」
正直、あの一件以来鳥山先生に会いたくなかったが、今日に限ってはよかったかもしれない。
『すいません。教わるよりも自分で気づいたほうがいいと思ったのですが……』
電話越しのミラの声色は、申し訳なさに彩られていた。ははは、別に怒るつもりはないのに。
「分かってるって。お前は悪くねぇよ」
『そ、そうですか……?』
「おぅ。口で説明するより、体験したほうが分かりやすいって思ったんだろ? だったら、間違っちゃいねぇよ」
『は、はい。ありがとうございます』
「うん。あ、今から帰るから待ってろ。そのあとすぐに、修行しに行くぞ」
『はい、分かりました』
そこで通話を終え、若干速歩きで家路を辿る。
期待と不安が、俺の感情にとぐろを巻きながら。
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