シャッフルワールド!!

夙多史

四章 柩の魔王(3)

 次空艦の中は迷路みたいに入り組んでいた。
 ちょっと走っただけでどこをどう通ってきたのかわからなくなったぞ。等間隔に並んである扉を一つ一つ蹴破ってみたが、なんかマンションの一室っぽい感じだった。この辺は船員の部屋になっているのかもしれない。
 部屋の窓から外を見る。音だけでもわかったが、砲撃はまだ続いているみたいだな。
「チッ」
 部屋を出たところで、通路の奥から骸骨兵が大群で押し寄せてきやがった。
「わらわらと鬱陶しいな」
 相手している場合じゃねえが、もしかすると道を聞き出せるかもしれん。尋問上手くできるかな? いや、それ以前に話通じるのかな?
 腰を僅かに落とし、両手の日本刀を構える。
 が――

 ドゴォオオオオオオオオオオン!!

 突然、骸骨兵たちの真横から砲弾でもぶち込まれかのような爆発が起こった。
「な、なんだ?」
 咄嗟に顔を腕で庇う。敵の攻撃か? だったら骸骨兵全滅してるんですけど。
 爆煙の中から――むくり、と。
 三人、いや四人の人影が起き上がる。骸骨兵とはシルエットが違う。雑魚は勝手に潰してくれたが、もっと厄介な敵が現れたと考えて俺は改めて身構え――
「痛ったぁ~!? アンタが任せろっていうから任せたのよ!? もうちょっと安全に着地できなかったの!?」
「いいでしょ? 着いたんだから結果オーライよ」
「光の速度で突っ込んでほとんど無傷なのだから問題ないと思うが」
「故障個所なし。安定です」
 すぐに警戒を解いた。
 なんだよ、俺が必死になって砲撃を止める必要なんてなかったじゃないか。悠里が光の速度で全員を一気に運んだみたいだな。考えたじゃないか。ただ――
「お前ら、もうちょっと位置がずれてたらそこに転がってたの俺だったからな!」
 俺は粉々になった骸骨兵たちを指差しながら怒鳴った。四人分の質量が光速でタックルしてくると思うとゾッとする。
「零児、無事だったか!」
「……チッ、生存安定でしたか、ゴミ虫様」
「なんでここに? 甲板で待ってたんじゃなかったの?」
「白峰零児……あれ? アンタだけ? 漣は?」
 四人が俺の存在を確認してそれぞれが思ったことを口にした。今こっそり舌打ちしやがったポンコツメイドはリーゼを助けた後でシメる。
「俺は砲撃を止めるために先に艦内に入ってたんだ。迫間は甲板で俺を行かせるために一人で戦ってる」
 もっとも迫間のことだ。もうとっくに決着がついてこっちに向かっていると思うがな。敵は骸骨兵だけだったし。
 四条が自分たちで開けた穴に向かうと、バサリと黒翼を広げた。
「あたしは漣の加勢に行くわ。元々運搬が主任務だったわけだし、あとはアンタたちに任せていいわね?」
「ああ、サンキュ。追いつく頃には全部終わらせておくよ」
 俺たちが頷くのを見てから、四条は大穴から飛び降りた。すぐに黒翼を羽ばたかせて後方甲板の方へと飛んでいく。
「我々も行こう」
 そう言って走り出そうとするセレスを俺は止めた。
「待てセレス。ここってどの辺なんだ?」
「ゴミ虫様は迷子安定ですか?」
「ああそうだよ! 迷うに決まってんだろ! 案内図っぽいのもないしよ!」
 魔王のダンジョンならマッピング機能を用意してもらいたい。もしかしてちゃんと入口から入ったら用意してくれてたのかな?
「ここはまだ次空艦の後方ね。位置は少し下になってるから、上に向かって進んだ方がいいと思うわ」
 悠里が教えてくれる。実は甲板に突撃しようとしてずれたのではないかという疑いがあるけど、ここはツッコマないでおくか。

『まったく、ちゃんと入口から入って欲しいものだね。君ら行儀がなってないよ? パパやママから教わらなかった?』

 と、艦内に聞き覚えのあるソプラノボイスが響き渡った。
「『柩の魔王』……」
「ネクロス・ゼフォン……」
 悠里と俺が天井を睨む。セレスとレランジェが通路の左右を警戒しているが、敵が現れるようなことはなかった。
『僕の用意した転送魔法陣から来てくれればきっちりもてなしてあげたのになぁ。まあ、いいよ。僕は次空艦の中央最上階にいる。そこからじゃちょっと遠いだろうけど、せいぜい死なないように頑張って辿り着いてね』
 馬鹿にしたように笑われた。
「リーゼは無事なんだろうな?」
『僕が花嫁に危害を加えるとでも?』
 こちらの声が聞こえているかわからなかったが、どうやら会話はできるようだな。
「待ってろ、すぐにそっちに行ってやる」
『……ああ、君だな。僕の花嫁から魔力を奪ったのは。面倒をかけさせないでほしいね』
 艦内で魔武具生成をしてしまった以上、バレてしまうのは想定内だ。元より隠すつもりもない。
『君だけは僕が直接殺してあげるよ。待っててやるから早く来い』
「言われなくても!」
 それっきり、ネクロスの声は聞こえなくなった。

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