シャッフルワールド!!
四章 柩の魔王(2)
俺たちはとにかく外に出た。
空に浮かぶ次空艦から今もなお夥しい数の魔族たちが街へと降りてきている。灰色に染まった街はなにもかもが止まっているためパニックこそ起きようもないが、俺たち異世界人以外は抵抗もできなければ逃げることだってできないんだ。
早くやめさせないと……ッ!
「時間がない。さっき言った通り影魔導師の転移と飛行で乗り込むぞ。レランジェも飛べるんだったな? だったら乗り込むのは俺、悠里、セレス、レランジェ、迫間、四条の六人だ」
わざわざ敵が用意した転送魔法陣を使うつもりはない。罠の可能性しか考えられないね。だいたい次空艦の真下って言ったら街のど真ん中まで進行しなきゃいけないじゃないか。
「零児的に一番面白ェとこに行くってのが気に入らねェが、俺ら的に街にいるやつらをボコりゃいいんだな?」
「ああ、頼む」
「全部ぶっ潰したらそっちに行ってもいいんだよなァ?」
トンファーを握るグレアムが凶悪な笑みを浮かべる。戦力的にこいつには俺たちの方へ来てもらいたいが、街を襲っている魔族の鎮圧の方が優先だ。それに本当に俺たちがボスを倒す前に殲滅してしまうかもしれないな。
俺たち以外の監査官が街へと下りていく。なんか俺が仕切ってるみたいだったが、誰も口を挟まなかったのは緊急事態だからか、それとも俺が信頼されてるのかな?
「白峰」
呼ばれて振り向くと、迫間が黒い布を投げ寄越してきた。影魔導師の黒コートだ。
「予備を取りに行ってる暇はないんだろ? 面倒臭いがこれはお前が着とけ」
影魔導師の〈転移〉は『混沌の闇』を経由する。俺みたいな生身の人間はそのままだと通れないんだ。
「サンキュ」
受け取り、俺は早速コートを羽織った。正直だせぇ。死活問題とはいえ、迫間とかよく四六時中着てられるよなぁ。
「まず俺たちが転移で先に乗り込む。飛行組は後から来てくれ。なるべく早くな」
「わかったわ」
「了解安定です」
四条とレランジェが頷く。
「後方の甲板で落ち合いましょう」
「零児、漣殿、敵も我々が素直に従うとは思っていないはずだ。乗り込んだら充分気をつけろ」
「ああ」
セレスの言う通りだと思う。全戦力を街に下しているように見えるが、実際は次空艦の中にだって敵はわんさかいるはずだ。
合流場所は悠里の示した後方甲板。
四条が背中から黒翼を広げ、同じくレランジェも背中に機械的な駆動音を放つジェットエンジン付きの翼を展開させる。
四条が悠里を、レランジェがセレスを抱えて飛び立つのを見て、俺と迫間も噴き上がる影の中へと消えた。
一瞬の酩酊感。
影魔導師の〈転移〉も感覚は普通の転移陣と似たような感じだな。
「……着いたか?」
目を開くと、そこは空中だった。
「ふぁあッ!?」
変な声が出た。目的地の次空艦が遥か下に見えるんですけど迫間さん!?
「あ、悪ぃ。面倒臭いことに甲板の正確な位置がよくわからなくてな」
「なるほどだから空中に――落ちてる!?」
真っ逆様に落ちてますが! まさかこのまま甲板にGO! ってわけじゃないだろうな!
「二度目の〈転移〉――行くぞ」
迫間が言うと、再び俺たちは影に包まれた。そして今度こそ足の裏に踏み締められる感触を得たところで、視界がクリアになる。
無骨で刺々しい空中戦艦の甲板には……誰もいないな。
不思議なフィールドでも展開しているのか、けっこうな高度にあるのに風もなければ気温も低くない。呼吸も問題なさそうだ。
黒コートを迫間に返す。迫間は受け取ると慣れた手つきで羽織り直した。
「悠里たちは……?」
ちょっと心配になって甲板の端から見下ろすと――無残に破壊されつつある街並みが先に目に入った。やっぱりすぐには止められそうにないぞ。
飛行組の姿も確認。もう少し時間がかかりそうだな。
と――ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!
次空艦の側面に並んだ砲台からエネルギー弾が射出された。街を攻撃したわけじゃない。こちらに飛んでくる悠里たちを狙ったものだ。
くそっ、やはり対空砲火を仕掛けて来やがった。
だが、四条とレランジェの機動力なら人一人抱えていてもかわしていける。実際、凄まじい弾幕の中を燕のように縦横無尽に飛び回って回避している。
ただ、回避はできているが、なかなか近づけないようだ。
「迫間、俺たちで砲撃を止めるぞ!」
「そうしたいところだが、面倒臭えぞ」
迫間の深刻な声に振り返ると、甲板の出入り口からぞろぞろと骸骨兵が押し寄せてきていた。
あっという間に取り囲まれる俺たち。
俺は日本刀を生成する。右手と――そして、左手にも。
「迫間、半分頼めるか?」
足元の影から漆黒の大剣を取り出した迫間に確認する。迫間は敵の数をざっと見回し――
「いや、全部任せろ」
面倒臭そうな顔をしながらも、そう言った。
「なに?」
「白峰、砲撃はお前が止めろ」
叫ぶように言うや、迫間は大剣をその場で大上段から振り下ろした。影の斬撃波が漆黒の刀身から撃ち出され、甲板の床を裂きながら骸骨兵の一部を呑み込んだ。
「まさか俺が言う日が来るなんてな。『ここは任せて先に行け』ってよ。面倒臭え」
「はは、かっこいいじゃないか」
俺は笑うと、初速から全力で走った。骸骨兵の間にできた道を一気に駆け抜ける。
「全部片づけたら追いつく!」
「ああ、死ぬなよ!」
襲いかかってきた骸骨兵を蹴散らし、俺は次空艦の中へと突入した。
空に浮かぶ次空艦から今もなお夥しい数の魔族たちが街へと降りてきている。灰色に染まった街はなにもかもが止まっているためパニックこそ起きようもないが、俺たち異世界人以外は抵抗もできなければ逃げることだってできないんだ。
早くやめさせないと……ッ!
「時間がない。さっき言った通り影魔導師の転移と飛行で乗り込むぞ。レランジェも飛べるんだったな? だったら乗り込むのは俺、悠里、セレス、レランジェ、迫間、四条の六人だ」
わざわざ敵が用意した転送魔法陣を使うつもりはない。罠の可能性しか考えられないね。だいたい次空艦の真下って言ったら街のど真ん中まで進行しなきゃいけないじゃないか。
「零児的に一番面白ェとこに行くってのが気に入らねェが、俺ら的に街にいるやつらをボコりゃいいんだな?」
「ああ、頼む」
「全部ぶっ潰したらそっちに行ってもいいんだよなァ?」
トンファーを握るグレアムが凶悪な笑みを浮かべる。戦力的にこいつには俺たちの方へ来てもらいたいが、街を襲っている魔族の鎮圧の方が優先だ。それに本当に俺たちがボスを倒す前に殲滅してしまうかもしれないな。
俺たち以外の監査官が街へと下りていく。なんか俺が仕切ってるみたいだったが、誰も口を挟まなかったのは緊急事態だからか、それとも俺が信頼されてるのかな?
「白峰」
呼ばれて振り向くと、迫間が黒い布を投げ寄越してきた。影魔導師の黒コートだ。
「予備を取りに行ってる暇はないんだろ? 面倒臭いがこれはお前が着とけ」
影魔導師の〈転移〉は『混沌の闇』を経由する。俺みたいな生身の人間はそのままだと通れないんだ。
「サンキュ」
受け取り、俺は早速コートを羽織った。正直だせぇ。死活問題とはいえ、迫間とかよく四六時中着てられるよなぁ。
「まず俺たちが転移で先に乗り込む。飛行組は後から来てくれ。なるべく早くな」
「わかったわ」
「了解安定です」
四条とレランジェが頷く。
「後方の甲板で落ち合いましょう」
「零児、漣殿、敵も我々が素直に従うとは思っていないはずだ。乗り込んだら充分気をつけろ」
「ああ」
セレスの言う通りだと思う。全戦力を街に下しているように見えるが、実際は次空艦の中にだって敵はわんさかいるはずだ。
合流場所は悠里の示した後方甲板。
四条が背中から黒翼を広げ、同じくレランジェも背中に機械的な駆動音を放つジェットエンジン付きの翼を展開させる。
四条が悠里を、レランジェがセレスを抱えて飛び立つのを見て、俺と迫間も噴き上がる影の中へと消えた。
一瞬の酩酊感。
影魔導師の〈転移〉も感覚は普通の転移陣と似たような感じだな。
「……着いたか?」
目を開くと、そこは空中だった。
「ふぁあッ!?」
変な声が出た。目的地の次空艦が遥か下に見えるんですけど迫間さん!?
「あ、悪ぃ。面倒臭いことに甲板の正確な位置がよくわからなくてな」
「なるほどだから空中に――落ちてる!?」
真っ逆様に落ちてますが! まさかこのまま甲板にGO! ってわけじゃないだろうな!
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迫間が言うと、再び俺たちは影に包まれた。そして今度こそ足の裏に踏み締められる感触を得たところで、視界がクリアになる。
無骨で刺々しい空中戦艦の甲板には……誰もいないな。
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黒コートを迫間に返す。迫間は受け取ると慣れた手つきで羽織り直した。
「悠里たちは……?」
ちょっと心配になって甲板の端から見下ろすと――無残に破壊されつつある街並みが先に目に入った。やっぱりすぐには止められそうにないぞ。
飛行組の姿も確認。もう少し時間がかかりそうだな。
と――ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!
次空艦の側面に並んだ砲台からエネルギー弾が射出された。街を攻撃したわけじゃない。こちらに飛んでくる悠里たちを狙ったものだ。
くそっ、やはり対空砲火を仕掛けて来やがった。
だが、四条とレランジェの機動力なら人一人抱えていてもかわしていける。実際、凄まじい弾幕の中を燕のように縦横無尽に飛び回って回避している。
ただ、回避はできているが、なかなか近づけないようだ。
「迫間、俺たちで砲撃を止めるぞ!」
「そうしたいところだが、面倒臭えぞ」
迫間の深刻な声に振り返ると、甲板の出入り口からぞろぞろと骸骨兵が押し寄せてきていた。
あっという間に取り囲まれる俺たち。
俺は日本刀を生成する。右手と――そして、左手にも。
「迫間、半分頼めるか?」
足元の影から漆黒の大剣を取り出した迫間に確認する。迫間は敵の数をざっと見回し――
「いや、全部任せろ」
面倒臭そうな顔をしながらも、そう言った。
「なに?」
「白峰、砲撃はお前が止めろ」
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