シャッフルワールド!!

夙多史

二章 風と学園と聖剣士(3)

 忘れられそうだが、俺は異界監査官と高校生を兼任している。義務教育は卒業してんだから監査官の方だけやればいいじゃないか、と言われるかもしれん。でもな、この高校生も歴とした異界監査官の仕事なんだ。
 私立伊海学園。それが俺の通っている学校の名称だ。初等部から大学までエスカレーター方式であり、山一つ丸ごと買い取って建てられたという敷地面積は『学園区』と称されるほど広い。設備の整っているよい学校なのだが、最大の難点は高地にあるため坂道が辛いというところだ。半分異世界人の俺でもキツイんだよ。特に夏!
『伊海』は当然『いかい』と読む。これは『異界』とかけたくだらないシャレになっているわけで、なぜそんな名前にしたのかなんてことは察しのいいやつならわかるだろう。
 つまりこの学園は、こちらの世界に住まわざる得なくなった異世界人に、地球のアレコレを教えるために設立されたのだ。もちろんそのことは秘匿され、普通の地球人も大勢通っている。そうすることで地球人との交流を深められるっていう策略だ。
 まあ、とても人間には見えない異世界人もいたりするんだが、そういうやつらには異界監査局から人化の魔導具が支給されるという具合でうまくいっている。
 で、ここからが異界監査官の仕事内容になる。異世界人の中には異能力や魔法が使える者もいれば、能力的には地球人とほとんど変わらない者もいる。後者はいいのだけれど、前者がなにかしらの騒動を起こさないとも限らない。それを防ぐために、俺を含めた監査官が教員や生徒として学園生活を送っているってわけだ。
 ――俺は普通にその学園生活とやらをエンジョイしてるけどね。

「やい白峰! 昨日はよくもオレを置いていきやがったな!」
 昼休み。高等部二年D組の教室。生徒がピラニアみたいに押し寄せる購買で入手したヤキソバパンを、俺は中央最後列にある自分の席で食していた。ヤキソバパンってうまいよね。炭水化物に炭水化物を混ぜてるだけと言って嫌う人間もいるけど。
「聞いてんのか白峰! あの後オレは大変だったんだぞ!」
 さっきから俺の耳を打ってくる不快極まりない雑音をなにごとかと思って見ると、癖っ毛の目立つ男子生徒が俺を睨んでいた。
「なんだ桜居か。相変わらず凄い癖毛だな。あと正確には今日だ」
「そんなことはどうでもいい! オレは異世界にいたはずなのに、気づいたら元の公立高校でしかも朝。不審者扱いでさっきまで警察に呼ばれてたんだぞ!」
 朝まで寝てたのか。なんでこんなアホと同じクラスになったんだ? 今年はおみくじを引いてないけど絶対に『大凶』だな。
「それは大変だったな。カツ丼はうまかったか?」
「お茶すら出されてねえよ!」
 桜居がキャンキャンと負け犬みたいに喚くので、俺は耳にシャッターを下ろしてじっくりと購買戦争の戦利品に舌鼓を打つことにした。
 この桜居謙斗はオカルトマニアならぬ異世界マニアである。中学時代、誤って『次元の門』をくぐろうとしたこいつを、俺が止めたことがきっかけの付き合いだ。おかげで桜居は異界監査局の表面的なことは知っているし、この学園の実態も理解している。それを知った当初は暴走して大変だったなぁ。ある意味、俺はこいつのお目つけ役だ。
「そうそう、さっき職員室で説教されてた時に聞いたんだけどな」
 いつの間にか桜居の話題が変わっていた。しょうがなく俺はシャッターを上げる。
「このクラスに転入生が来るんだと」
「別に珍しくないだろ。まあ、昼からってのはそんなにないけどよ」
 伊海学園には不定期でよく転入生や留学生がやってくる。その多くが異世界人であることは言うまでもない。が――
「いやいやそれがな、女子でしかもとんでもない美少女らしいんだ」
 嫌な予感が電流のように疾った。

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