シャッフルワールド!!
三章 異界監査官(5)
日本異界監査局の本局は、なにを隠そう伊海学園の敷地内に存在する。
この学園は山一つを開拓して設立したので、内部は広い上に高低差も激しい。麓近くには初等部と中等部が、元々は山の中腹辺りだった丘に高等部と大学が構えている。
で、異界監査局は大学側にある。最も高い場所に聳えている白い建物がそれだ。造りは他の学舎と同じで、一号館を表わす『1』の文字がその存在を光らせている。
「にしても」
俺は一号館の建物を見上げる。
「ここに来るのも久し振りだな。何ヶ月振りだっけ?」
「仮にも平和を守る者が職務放棄していたとは、見損なったぞ零児」
「セレス、お前ホントに最小限の説明しか受けてないんだな」
俺たち異界監査官には監査局への出勤義務はない。『次元の門』の監視や異世界人のトラブル解決が仕事の異界監査官――つまり戦闘員は、出勤したところでやることはあまりないんだ。その代わり、ほぼ全員が生徒・教師・事務員などの学園関係者となっている。あのメガネ――スヴェン・ベルティルは伊海大学院の院生だったはずだ。
「なるほど、学生として通うことが、そのまま出勤したことと同義になるのだな」
どうやらセレスは納得したらしい。俺に向ける軽蔑の目を解除してくれた。
「なんでもいいけど早く行くわよ。このわたしを呼び出すくらいなんだから、よっぽど面白いことなんでしょうね」
いやもう、リーゼがいろんな意味で逞しく見える。
その時、入口の自動ドアが開いた。
「来たようだね、白峰零児」
眼鏡を煌めかせてそう言ったのは、スヴェン・ベルティルだった。昨日と全く同じデザインの燕尾スーツを着込んでいる。ていうか、こいつがそれ以外の服装をしているところを俺は見たことがない。
「……お前に出迎えられると気分が悪くなる」
「それは新手のギャグと捉えていいかい?」
「その辺はご自由に」
今の俺はたぶんあからさまに嫌な顔をしていただろう。
スヴェンは出席を確認するように俺たちの顔を見回す。それに合わせてセレスは軽く会釈をし、リーゼは……なにかを探すように辺りをキョロキョロしていた。
「なにしてんだ、リーゼ?」
「ん? ちょっとね」
言って、リーゼはスヴェンにズカズカと歩み寄って行く。そこはかとなく鬼気迫るようなものが感じられ、スヴェンはたじろいだ。
「ねえ」
「な、なんだい?」
「昨日のでっかい人形はどこ? わたしもアレに乗ってみたいんだけど」
子供かお前はっ! ……って子供でしたね。見た目も中身も。
「ああ、『デュラハン』ならここにはないよ」スヴェンは額の汗を拭い、「それにアレは僕の思念で動かしているから、君が乗ったところで楽しくはないと思うよ」
「そう。じゃあいい」
楽しくないという言葉を聞いてリーゼは興味を失ったようだ。
「こんなところで立ち話をしていても仕方ない。局長のところまで案内しよう」
俺たちの返事を待たず、スヴェンは踵を返した。
この学園は山一つを開拓して設立したので、内部は広い上に高低差も激しい。麓近くには初等部と中等部が、元々は山の中腹辺りだった丘に高等部と大学が構えている。
で、異界監査局は大学側にある。最も高い場所に聳えている白い建物がそれだ。造りは他の学舎と同じで、一号館を表わす『1』の文字がその存在を光らせている。
「にしても」
俺は一号館の建物を見上げる。
「ここに来るのも久し振りだな。何ヶ月振りだっけ?」
「仮にも平和を守る者が職務放棄していたとは、見損なったぞ零児」
「セレス、お前ホントに最小限の説明しか受けてないんだな」
俺たち異界監査官には監査局への出勤義務はない。『次元の門』の監視や異世界人のトラブル解決が仕事の異界監査官――つまり戦闘員は、出勤したところでやることはあまりないんだ。その代わり、ほぼ全員が生徒・教師・事務員などの学園関係者となっている。あのメガネ――スヴェン・ベルティルは伊海大学院の院生だったはずだ。
「なるほど、学生として通うことが、そのまま出勤したことと同義になるのだな」
どうやらセレスは納得したらしい。俺に向ける軽蔑の目を解除してくれた。
「なんでもいいけど早く行くわよ。このわたしを呼び出すくらいなんだから、よっぽど面白いことなんでしょうね」
いやもう、リーゼがいろんな意味で逞しく見える。
その時、入口の自動ドアが開いた。
「来たようだね、白峰零児」
眼鏡を煌めかせてそう言ったのは、スヴェン・ベルティルだった。昨日と全く同じデザインの燕尾スーツを着込んでいる。ていうか、こいつがそれ以外の服装をしているところを俺は見たことがない。
「……お前に出迎えられると気分が悪くなる」
「それは新手のギャグと捉えていいかい?」
「その辺はご自由に」
今の俺はたぶんあからさまに嫌な顔をしていただろう。
スヴェンは出席を確認するように俺たちの顔を見回す。それに合わせてセレスは軽く会釈をし、リーゼは……なにかを探すように辺りをキョロキョロしていた。
「なにしてんだ、リーゼ?」
「ん? ちょっとね」
言って、リーゼはスヴェンにズカズカと歩み寄って行く。そこはかとなく鬼気迫るようなものが感じられ、スヴェンはたじろいだ。
「ねえ」
「な、なんだい?」
「昨日のでっかい人形はどこ? わたしもアレに乗ってみたいんだけど」
子供かお前はっ! ……って子供でしたね。見た目も中身も。
「ああ、『デュラハン』ならここにはないよ」スヴェンは額の汗を拭い、「それにアレは僕の思念で動かしているから、君が乗ったところで楽しくはないと思うよ」
「そう。じゃあいい」
楽しくないという言葉を聞いてリーゼは興味を失ったようだ。
「こんなところで立ち話をしていても仕方ない。局長のところまで案内しよう」
俺たちの返事を待たず、スヴェンは踵を返した。
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