シャッフルワールド!!

夙多史

四章 壊滅的な死闘(2)

「あの着物怪人め。危うく大火傷するとこだった」
 異界監査局のシャワー室で俺は怨恨の呟きを吐き捨てた。シャワーは好きじゃないが、あのまま帰るわけにもいくまい。
 それにしても、まさかリーゼがあれほど特殊な存在だとは思わなかった。全自動魔力生成に加えて魔力還元術式。どう考えても魔力疾患を引き起こす最大の要因は後者だ。
 なんとかして術式を発動しないようにしてあげたいところだが、俺にはそんな方法はわからない。それにあのリーゼのことだから、魔力還元術式がなければぶっ倒れるまで遠慮なく力を使い続けるだろう。
 リーゼの親父はそれを危惧して術式を施したのかもしれない。まあ、リーゼ本人の能力の可能性も否定できないけど……。
 誘波の言うような意味はないが、俺は確かに心配しているようだ。気がついたらあいつのことばかり考えてやがる。いやホント、変な意味はないから。
 でもなんだろうな、このハラハラした気持ちは? 危なっかしい妹に対する兄貴の心情……うん、きっとそれだ。
「レランジェがいるんだ。俺が心配したところで余計なお世話だろうな」
 シャワーを止めて簡単に体を拭く。
「ま、一応は同じ屋根の下で生活してんだ。なんか甘い物でも買って帰ってやるか」
 と独り言をぼやきながらシャワー室の扉を開けた時――

 目の前に、バスタオル一枚の銀髪美少女が立っていた。

「……あれー?」目を点にする俺。
「な、な、な」耳まで赤面する銀髪少女。
 さてここで問題です。まずこのシャワー室が男性用であることは室内光景的に考えても純然たる事実なのだがなぜそこに全裸の女性がいるのだろうか幻影幻覚幻想のどれでしょうって落ち着け俺! ここは男性用で状況的にも俺が先に入っていたことを考慮すると相手が間違えたことになるわけでこれはつまり――
 ――俺の勝ち。
「はっはっはっ! セレスお嬢様こちらは男性用にございまして女性用はお隣です」
 紳士然と丁寧に状況説明すれば聡明な騎士殿はわかってくれるはずだ。
「い」
「い?」
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 結局、俺はぶたれた。最高に爽快な音を立てたビンタで……。

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