シャッフルワールド!!
一章 二人の影魔導師(5)
俺たちの目の前に現れたのは魑魅魍魎の群れ。
そいつらが〝人〟であることはわかったけど、どうも不慮の事故で『次元の門』を越えてきた迷子さんじゃないらしい。
いやなんというか、こちらが言葉を紡ぐ前に勇ましく侵略宣言されたんですよ。ダンタリアンって名乗った厳つい魔王様に。
そりゃあ最初は聞き間違えかと思ったさ。〈言意の調べ〉が不調なんじゃねえかとも疑った。
だから俺はできうるかぎりの営業スマイルで応対したんだ。セレスなんかは魔王と聞くや問答無用で飛びかかりそうだったが、俺がコミュニケーションを図ろうとしたので踏み止まってくれた。
でも魔王ダンタリアンは聞く耳を持たなかった。やつは鈍く光る赤い三つ眼を不敵な笑みで歪めると、俺たちを指差してこう言ったんだ。
「我に逆らえばどうなるか、この世界の下等生物に教えてやろう。その『見せしめ』として貴様らを使ってやる。光栄に思え」
その後の展開はご想像通り。魔王の指示に従い、俺たちの何十倍はあろうかという数のモンスターが殺到してきたわけだ。
「あの、えっと、ホント、マジでごめん。『見せしめ』とか調子くれてました。……許ちて」
まあ、秒殺したけど。
自分の体を縄状に変形させたマルファに拘束されている魔王ダンタリアン。空き地のあちこちではフルボッコにされたモンスターたちが痛々しげに呻いている。こいつら、見た目だけは強そうなんだけど、感じる魔力はたいしたことなかったんだよな。
多数を相手取ることが苦手な俺一人だったら流石に無理だろうが、こっちにだって魔王はいる。ダンタリアンなど比べ物にならんくらい強大な魔力を持つ〝魔帝〟が。
「レージ、こいつら消し炭にしてもいいのよね?」
掌に黒い炎を宿して凶悪な笑みを浮かべるリーゼ。いつの間にか〝魔帝〟のコスチュームである魔女っぽい黒衣にシフトチェンジしてやがる。彼女はマルファに纏わりつかれていたストレスをここぞとばかりに発散していた。その暴れ様と言ったらまさに鬼人のごとし。
「この者たちはここで処分しておいた方が世のためだと思うぞ、零児」
聖剣ラハイアンの長い刀身に白い光を纏わせてセレスが言う。光属性は魔族に効果抜群なのか、セレスの近くに転がっているモンスターたちが苦しそうに身を捩った。
魔王群は大方この二人によって制圧されたと言っても過言ではない。
「いや、できるかぎり殺生はさけるべき――リーゼ!?」
倒れたフリをしてたっぽいカエル似の怪物が、リーゼに向かってぴょーんと跳ねた。俺はすかさず前に出て、練り上げた魔力を右手に収束させる。
〈魔武具生成〉――戦棍。
俺が持っている能力のうちの一つ、己の魔力を近接武具として具現させる力により、先端に打撃部のついた棍棒を生成する。
それを両手で握り直し、全身の捻転力を武器に込め、一気にスイング。化けガエルへと叩きつける。装備していた武者鎧が砕け、吹っ飛んだ化けガエルは勢い余って隣家のブロック塀を崩壊させた。……ある程度の破壊は想定の内。放っといても監査局が勝手に修繕してくれる。
「別に助けてくれなくても、わたしなら一瞬で焼き殺せたのに」
リーゼはぷくっとリスみたいに頬を膨らませた。その〝魔帝〟らしからぬ拗ねた顔がなんとも可愛らしいな。
「てか、だからですよお嬢様。俺は寧ろカエルの方を守ったんだ」
俺がフォローしてなかったらどんだけ尊い命が散ったと思ってるんだ。
「く、くそ、なんなんだ貴様らは!?」ダンタリアンが喚く。「これまで征服してきた異世界はこれほど強いやつらなどいなかったのに……」
「あ?」
ダンタリアンがなんか今ふざけたことをぬかした。どうやらこいつらは『次元の門』を通ってはその先の世界を侵略していたようだ。恐らく征服した世界の粗方を搾取したら次の世界へ移る、そんな風に旅をしていたに違いない。広い次元にはそういう屑もいるんだな。勉強になった。
「あー、てめえらのことはよーくわかった。わかったところで選択肢をやる。大人しく元いた世界に戻って二度と他世界に侵攻しないと誓うか、この場で命を落とすか、どっちか選べ」
俺としては前者をオススメしたい。こんな屑だろうと〝人〟を殺すことはしたくない。
「ゴミ虫様は偽善者安定ですね。反吐が出そうです」
レランジェが嘆息する。いやお前反吐なんて出ないだろ。機械だから。
「しかし零児、この者たちを門へ追い返しても誓いを守るとは限らないぞ。やはり、今ここで始末しておいた方がいい」
セレスの言うこともわかる。俺も馬鹿正直の善人ってわけじゃないからな。本音を言わせてもらうと、他の世界がどうなろうと知ったことじゃない。
リーゼが鼻息を鳴らす。
「フン。珍しくお前と意見が合ったわね。こいつら、なんかあいつに似ててムカつくもん」
「あいつって?」
「アルゴス・ヴァレファール様のことで安定です」
俺の疑問にはレランジェが答えてくれた。ああ、と俺は納得した。リーゼはただ暴れたいだけかと思っていたけど、ダンタリアンたちを自分の親父と重ねていたんだ。故郷イヴリアを滅亡させ、なんの発展も進歩もないただ荒廃していく退屈な世界にリーゼを残した親父と。だから同じような行為をしているダンタリアンたちに苛立ちを覚えているんだろう。
「ああもう、イライラする。ねえレージ、こいつらあのぬるぬると一緒に焼き殺してもいい?」
やっぱりただ暴れたいだけかもしれない。
「ああ、おねえさま! おねえさまの愛の炎ならマルファはいつでも喜んで受け取るユゥ!」
それとあの変態スライムは早くなんとかした方がいいな。
俺は冷え切った目でダンタリアンを見やる。
「門が開いてるうちに帰った方がいいぞ? 聞いてて理解したと思うが、さっさとしないとあいつらが痺れを切らしちまう」
ぐぬぅ、と苦渋の表情でダンタリアンは唸る。スライムに雁字搦めにされた魔王、どっかで見たシチュエーションだな。
「んで、どうなんだ?」
「ぐ……わ、わかった――――と言うと思ったか?」
不意にダンタリアンがニヤリと笑った。三つの赤眼が不気味に煌めく。
「あ? ――ッ!?」
俺は驚愕した。というのも、周囲に転がっていたモンスターたちに異変が起こったからだ。夢か幻のように赤黒い霧へと変化したモンスターたちが、魔王ダンタリアンの体内へと吸い込まれていく。
「なっ、これは一体……」
呆気に取られた声がセレスから漏れる。正反対にリーゼは、ふぅん、と楽しくなってきたと言わんばかりにその光景を眺めている。
「フハハハハッ! 愚かな異世界人め。我を本気にさせたこと、後悔させてくれるわ!」
倍々に膨れ上がっていく魔王の魔力、それに伴い悪趣味に変形していく身体。かなりラスボス然としてきたが、どうしてそんなザコ臭しかしない台詞を堂々と吐けるのか謎だ。
「うぅ……もう、限界ユゥ……」
魔王ダンタリアンを拘束していたマルファが弾かれてしまった。飛び散ったスライムの破片が気持ち悪く蠢いて本体へ戻っているが、そっちに感想を抱いている場合じゃない。
「部下共は言わば我の分身。この本来の姿に戻ったのは久しいぞ」
元の三倍ほどに巨大化し、全体的に刺々しいフォルムへと変身したダンタリアン。なんというか、もうこいつ面倒臭いんですけど。
「リーゼ、セレス、好きなようにしてくれ。俺はもう知らん」
俺が全てを投げやりに言った直後――ダンタリアンがその巨大な拳を振るってきた。俺たちは咄嗟に適当な方向に散らばってかわす。
ドゴン!! という轟音が炸裂し、空き地に隕石でも落ちたようなクレーターが形成される。なんという威力。あんなの喰らったら人間として原型も残らないぞ。
「みんな気をつけろ! いろいろと冗談みたいなやつだがパワーは本物だ!」
あの魔王はどうあってもこの世界を征服したいらしい。考えてみればやつに元の世界に戻るって選択肢はないんだ。戻ったところでそこは既に搾取し尽した世界なのだから。
「あははっ♪ いいわ! すっごく面白くなってきた!」
黒衣をはためかせるリーゼが嬉々として魔王の腕を駆け昇った。掌を魔王の顔面に突き出し、そこに展開させた魔法陣からいくつもの黒炎弾を射出。的がでかいだけあって全弾命中し、爆発の衝撃に乗ってリーゼはその場を離脱する。
入れ替わるように、セレスの聖剣が強く輝く。
「なにを遊んでいる、〝魔帝〟リーゼロッテ!」
爆煙が晴れるのも待たずにセレスは大地を蹴った。そして風のように駆け抜ける瞬間に、仁王立ちするダンタリアンの胴体を光纏う超長剣で斬りつける。ブシュアアッッッ! と鮮血が噴き出したが、ダンタリアンは倒れない。
全く鈍らない動きで足払いをし、足下にいるセレスを遠ざけると、次は腕を振りかぶって二撃目のギガトンパンチを俺に向けて放ってくる。まさか俺が一番弱いと思われてんのか? 馬鹿にしやがって。俺は戦棍を手放す。
〈魔武具せ――
「邪魔安定です、ゴミ虫様」
反撃しようとしたところで、俺のケツをレランジェが感情のない表情のまま蹴り飛ばしやがった。盛大に前転しながら俺は誓う。アイツ後デ絶対ニ壊ス!
「ここはレランジェの新兵器をお見せする安定です」
そう言ってメイド人形は迫りくる巨拳にグーに握った左手を伸ばす。次の瞬間、俺は目を疑ったね。ガチャ、と変な音がしたと思ったら、レランジェの肘から先が推進エンジンでも積んでいるかのように勢いよく発射したからだ。
ロケットパンチ!? なんて無駄な新機能!?
拳と拳(?)が衝突する。いくらなんでもあんな巨腕をレランジェの細腕でどうにかできるわけが――――はい、見事に弾きました。
「なにぃ!?」
魔王様もビックリだ。だから俺はその隙を突くことにした。どういう仕組みなのか自動的に戻っていくロケットパンチを横目に、魔力を右腕に練り上げる。
〈魔武具生成〉――ロンパイア。
長い片刃の刀身に同じくらい長い柄をした大剣だ。本来の用途は馬の脚を切断したり首を刺して掲げたりする武器だが、俺は巨人の腕を斬り落とすことに使った。普通のロンパイアではとてもできない所業だが、〈魔武具生成〉で作った武器なら可能だ。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
絶叫。魔王の斬り離された片腕は赤黒い薄霧となって消滅する。
「よし!」
格好よく決まったと思ったのに、誰も俺のことなんて見ていなかった。リーゼに至っては瞳をキラッキラさせて従者の腕を見詰めている。
「レランジェすごい! なにそれ!? 今のなに!?」
「はい、異界技術研究開発部の方に腕を修復する際に加えて頂いた新機能安定です。名前は確か、『オトコノロマン』と仰っていました」
遊び過ぎだろ異界技術研究開発部! なにが『男のロマン』だ。男のロマン……くっそなぜ共感できる俺がいるんだ!
「貴様らぁあッ! もう許さん! 許さんぞ!」
失った片腕の切断面を押さえ、魔王ダンタリアンが激昂した。その太く鋭い牙の並ぶ口に、なんかのエネルギーみたいなものが収斂し始めた。
「うわっ……」
直感で知る。あれはやばい!
やばいと感じたならさっさと対処すればいいじゃないか、と普通なら思うかもしれん。だがな、やつの『溜め』は想像以上に早く完了したんだ。
壮絶なまでに魔力の凝縮した波動が、俺たちごと周囲一帯を吹き飛ばさんと迫る。
そいつらが〝人〟であることはわかったけど、どうも不慮の事故で『次元の門』を越えてきた迷子さんじゃないらしい。
いやなんというか、こちらが言葉を紡ぐ前に勇ましく侵略宣言されたんですよ。ダンタリアンって名乗った厳つい魔王様に。
そりゃあ最初は聞き間違えかと思ったさ。〈言意の調べ〉が不調なんじゃねえかとも疑った。
だから俺はできうるかぎりの営業スマイルで応対したんだ。セレスなんかは魔王と聞くや問答無用で飛びかかりそうだったが、俺がコミュニケーションを図ろうとしたので踏み止まってくれた。
でも魔王ダンタリアンは聞く耳を持たなかった。やつは鈍く光る赤い三つ眼を不敵な笑みで歪めると、俺たちを指差してこう言ったんだ。
「我に逆らえばどうなるか、この世界の下等生物に教えてやろう。その『見せしめ』として貴様らを使ってやる。光栄に思え」
その後の展開はご想像通り。魔王の指示に従い、俺たちの何十倍はあろうかという数のモンスターが殺到してきたわけだ。
「あの、えっと、ホント、マジでごめん。『見せしめ』とか調子くれてました。……許ちて」
まあ、秒殺したけど。
自分の体を縄状に変形させたマルファに拘束されている魔王ダンタリアン。空き地のあちこちではフルボッコにされたモンスターたちが痛々しげに呻いている。こいつら、見た目だけは強そうなんだけど、感じる魔力はたいしたことなかったんだよな。
多数を相手取ることが苦手な俺一人だったら流石に無理だろうが、こっちにだって魔王はいる。ダンタリアンなど比べ物にならんくらい強大な魔力を持つ〝魔帝〟が。
「レージ、こいつら消し炭にしてもいいのよね?」
掌に黒い炎を宿して凶悪な笑みを浮かべるリーゼ。いつの間にか〝魔帝〟のコスチュームである魔女っぽい黒衣にシフトチェンジしてやがる。彼女はマルファに纏わりつかれていたストレスをここぞとばかりに発散していた。その暴れ様と言ったらまさに鬼人のごとし。
「この者たちはここで処分しておいた方が世のためだと思うぞ、零児」
聖剣ラハイアンの長い刀身に白い光を纏わせてセレスが言う。光属性は魔族に効果抜群なのか、セレスの近くに転がっているモンスターたちが苦しそうに身を捩った。
魔王群は大方この二人によって制圧されたと言っても過言ではない。
「いや、できるかぎり殺生はさけるべき――リーゼ!?」
倒れたフリをしてたっぽいカエル似の怪物が、リーゼに向かってぴょーんと跳ねた。俺はすかさず前に出て、練り上げた魔力を右手に収束させる。
〈魔武具生成〉――戦棍。
俺が持っている能力のうちの一つ、己の魔力を近接武具として具現させる力により、先端に打撃部のついた棍棒を生成する。
それを両手で握り直し、全身の捻転力を武器に込め、一気にスイング。化けガエルへと叩きつける。装備していた武者鎧が砕け、吹っ飛んだ化けガエルは勢い余って隣家のブロック塀を崩壊させた。……ある程度の破壊は想定の内。放っといても監査局が勝手に修繕してくれる。
「別に助けてくれなくても、わたしなら一瞬で焼き殺せたのに」
リーゼはぷくっとリスみたいに頬を膨らませた。その〝魔帝〟らしからぬ拗ねた顔がなんとも可愛らしいな。
「てか、だからですよお嬢様。俺は寧ろカエルの方を守ったんだ」
俺がフォローしてなかったらどんだけ尊い命が散ったと思ってるんだ。
「く、くそ、なんなんだ貴様らは!?」ダンタリアンが喚く。「これまで征服してきた異世界はこれほど強いやつらなどいなかったのに……」
「あ?」
ダンタリアンがなんか今ふざけたことをぬかした。どうやらこいつらは『次元の門』を通ってはその先の世界を侵略していたようだ。恐らく征服した世界の粗方を搾取したら次の世界へ移る、そんな風に旅をしていたに違いない。広い次元にはそういう屑もいるんだな。勉強になった。
「あー、てめえらのことはよーくわかった。わかったところで選択肢をやる。大人しく元いた世界に戻って二度と他世界に侵攻しないと誓うか、この場で命を落とすか、どっちか選べ」
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「ゴミ虫様は偽善者安定ですね。反吐が出そうです」
レランジェが嘆息する。いやお前反吐なんて出ないだろ。機械だから。
「しかし零児、この者たちを門へ追い返しても誓いを守るとは限らないぞ。やはり、今ここで始末しておいた方がいい」
セレスの言うこともわかる。俺も馬鹿正直の善人ってわけじゃないからな。本音を言わせてもらうと、他の世界がどうなろうと知ったことじゃない。
リーゼが鼻息を鳴らす。
「フン。珍しくお前と意見が合ったわね。こいつら、なんかあいつに似ててムカつくもん」
「あいつって?」
「アルゴス・ヴァレファール様のことで安定です」
俺の疑問にはレランジェが答えてくれた。ああ、と俺は納得した。リーゼはただ暴れたいだけかと思っていたけど、ダンタリアンたちを自分の親父と重ねていたんだ。故郷イヴリアを滅亡させ、なんの発展も進歩もないただ荒廃していく退屈な世界にリーゼを残した親父と。だから同じような行為をしているダンタリアンたちに苛立ちを覚えているんだろう。
「ああもう、イライラする。ねえレージ、こいつらあのぬるぬると一緒に焼き殺してもいい?」
やっぱりただ暴れたいだけかもしれない。
「ああ、おねえさま! おねえさまの愛の炎ならマルファはいつでも喜んで受け取るユゥ!」
それとあの変態スライムは早くなんとかした方がいいな。
俺は冷え切った目でダンタリアンを見やる。
「門が開いてるうちに帰った方がいいぞ? 聞いてて理解したと思うが、さっさとしないとあいつらが痺れを切らしちまう」
ぐぬぅ、と苦渋の表情でダンタリアンは唸る。スライムに雁字搦めにされた魔王、どっかで見たシチュエーションだな。
「んで、どうなんだ?」
「ぐ……わ、わかった――――と言うと思ったか?」
不意にダンタリアンがニヤリと笑った。三つの赤眼が不気味に煌めく。
「あ? ――ッ!?」
俺は驚愕した。というのも、周囲に転がっていたモンスターたちに異変が起こったからだ。夢か幻のように赤黒い霧へと変化したモンスターたちが、魔王ダンタリアンの体内へと吸い込まれていく。
「なっ、これは一体……」
呆気に取られた声がセレスから漏れる。正反対にリーゼは、ふぅん、と楽しくなってきたと言わんばかりにその光景を眺めている。
「フハハハハッ! 愚かな異世界人め。我を本気にさせたこと、後悔させてくれるわ!」
倍々に膨れ上がっていく魔王の魔力、それに伴い悪趣味に変形していく身体。かなりラスボス然としてきたが、どうしてそんなザコ臭しかしない台詞を堂々と吐けるのか謎だ。
「うぅ……もう、限界ユゥ……」
魔王ダンタリアンを拘束していたマルファが弾かれてしまった。飛び散ったスライムの破片が気持ち悪く蠢いて本体へ戻っているが、そっちに感想を抱いている場合じゃない。
「部下共は言わば我の分身。この本来の姿に戻ったのは久しいぞ」
元の三倍ほどに巨大化し、全体的に刺々しいフォルムへと変身したダンタリアン。なんというか、もうこいつ面倒臭いんですけど。
「リーゼ、セレス、好きなようにしてくれ。俺はもう知らん」
俺が全てを投げやりに言った直後――ダンタリアンがその巨大な拳を振るってきた。俺たちは咄嗟に適当な方向に散らばってかわす。
ドゴン!! という轟音が炸裂し、空き地に隕石でも落ちたようなクレーターが形成される。なんという威力。あんなの喰らったら人間として原型も残らないぞ。
「みんな気をつけろ! いろいろと冗談みたいなやつだがパワーは本物だ!」
あの魔王はどうあってもこの世界を征服したいらしい。考えてみればやつに元の世界に戻るって選択肢はないんだ。戻ったところでそこは既に搾取し尽した世界なのだから。
「あははっ♪ いいわ! すっごく面白くなってきた!」
黒衣をはためかせるリーゼが嬉々として魔王の腕を駆け昇った。掌を魔王の顔面に突き出し、そこに展開させた魔法陣からいくつもの黒炎弾を射出。的がでかいだけあって全弾命中し、爆発の衝撃に乗ってリーゼはその場を離脱する。
入れ替わるように、セレスの聖剣が強く輝く。
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爆煙が晴れるのも待たずにセレスは大地を蹴った。そして風のように駆け抜ける瞬間に、仁王立ちするダンタリアンの胴体を光纏う超長剣で斬りつける。ブシュアアッッッ! と鮮血が噴き出したが、ダンタリアンは倒れない。
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ロケットパンチ!? なんて無駄な新機能!?
拳と拳(?)が衝突する。いくらなんでもあんな巨腕をレランジェの細腕でどうにかできるわけが――――はい、見事に弾きました。
「なにぃ!?」
魔王様もビックリだ。だから俺はその隙を突くことにした。どういう仕組みなのか自動的に戻っていくロケットパンチを横目に、魔力を右腕に練り上げる。
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長い片刃の刀身に同じくらい長い柄をした大剣だ。本来の用途は馬の脚を切断したり首を刺して掲げたりする武器だが、俺は巨人の腕を斬り落とすことに使った。普通のロンパイアではとてもできない所業だが、〈魔武具生成〉で作った武器なら可能だ。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
絶叫。魔王の斬り離された片腕は赤黒い薄霧となって消滅する。
「よし!」
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遊び過ぎだろ異界技術研究開発部! なにが『男のロマン』だ。男のロマン……くっそなぜ共感できる俺がいるんだ!
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