シャッフルワールド!!

夙多史

一章 二人の影魔導師(6)

 死んだと思った。
 でも俺の意識ははっきりとしていた。
 痛みもなにも感じなかった。一瞬で死んだ……にしては五感全てが現実的過ぎる刺激を神経に走らせている。
 目を開けると、ピンク色のプヨプヨした壁が眼前を覆っていた。
「フン、いつまで呆けてるユゥ?」
 俺たちを波動から救ってくれたのは言うまでもなくマルファだ。ピンクのツインテールが元のスライムへと変わって巨大なシールドを成している。質量保存の法則を鼻で笑うかのごとく無視した変形だった。ていうか、なんであれほどの波動を受けてケロッとしてるんだ? 実はこいつ、弱点突かなけりゃ最強なんじゃないか?
「おねえさまの下僕だから仕方なくマルファが助けてやったユゥ。感謝するユゥ」
「ああ、サンキュ、マルファ」
 髪を元に戻し、やたら偉そうに胸を張るマルファ。そういや、俺がスヴェンとの戦いで落下の衝撃を緩和するために利用した時は盛大に飛び散ってなかったか? 不意を突かれた場合はダメなのだろうか?
「マルファ殿、だったか? 助かった。感謝する」
「マスターの敵にレランジェはお礼を述べない安定です。無言で頭を僅かに下げておきます」
「…………きゅぅ」
 なんか一人戦闘不能になってますけど! よく見るとマルファの髪の一房がリーゼに伸びて絡まっていた。なるほど、リーゼの無駄に有り余った魔力を借りたってわけか。マルファも俺と同じで他から魔力を奪うタイプなんだな。
 とにかく全員無事のようでなによりだ。
「ぬぅ、我の攻撃に堪えるとは、しぶとい異世界人共だ。次こそは消滅させてくれる」
 ダンタリアンが第二波を放つためにエネルギーの収束を開始する。さっきよりも『溜め』が長い。今度こそはマルファでも防げないかもしれない。
「――チッ!」
 俺はロンパイアを構えて走った。間に合うかどうかは絶望的だ。それでもやるしかないだろ。

「滅びろ、異世界人」

 間に合わなかった。収束したエネルギーが凄絶な波動となって俺たちを襲う。
 その直前――

 バサリ、という鳥の羽ばたきのような音を聞いた。

 淡黒い空を舞う人間大のなにかが俺の目に映った。そいつは夜空に在ってもはっきりと認識できるほど黒い双翼を羽ばたかせ、高速で魔王に接近すると――
 ――その頭部を真横から乱暴に蹴りつけた。エネルギー放射の軌道が斜め上へとずれ、ほとんど星の見えない夜空の彼方へと消え去る。
「げふっ!? な、なんだ?」
 さらにそいつは手と思われる部分から影を帯状に物質化したような物体を放ち、困惑するダンタリアンの巨体を瞬く間に束縛する。絡みつく〝影〟の帯がぎしぎしとその巨体を力強く締め上げる。
「ぬおっ!? なんだこれは!? 動けん……」
〝影〟を振り解けず魔王は悶えている。
 そこで――
「今よ、漣!」
 黒翼の存在が少女の声でそう叫んだ。

 刹那、ダンタリアンの足下に闇を纏って黒いロングコートの少年が出現、身の丈ほどある漆黒の大剣で巨大な魔王を一刀両断した。

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