シャッフルワールド!!
間章(3)
『柩の魔王』が所有する超大型次空戦艦――『セメンテリオン』。
まるで王宮にあるような謁見の間に似た広大な部屋で、次空艦の主であるネクロス・ゼフォンは腕を組み、不思議そうに首を傾げた。
「……どういうことだ?」
その視線は金の装飾が施された玉座に座っている意識のない少女に向いている。くすんだ茶色のような髪の自分よりも遥かに美しい金髪をしている彼女は、彼の〝魔帝〟――『黒き劫火の魔王』ことアルゴス・ヴァレファールの娘……のはずだ。
腕に嵌められていた封印具は既に破壊してある。だのに、この少女の魔力は封印されている状態となんら変わらない。真に〝魔帝〟の娘であれば、ネクロスですら思わず畏怖してしまいそうになるほどの魔力を秘めていなければおかしい。
実はただの人間だったのか?
いや、違う。彼女が〝魔帝〟の娘であることは確信できる。理屈じゃなく同族としての本能がそう訴えている。
ではなぜ彼女に魔力がないのか?
元々存在しなかったという可能性はない。それではこの世界で『冥竜の魔王』ベルナギウスが討ち滅ぼされた頃に感知した魔力はなんだったのか? という話になってしまう。
考えられる可能性は――
「ネクロス様、ご報告が」
と、部下であり『柩の魔王軍』最高幹部のバフォメットがネクロスの背後に音もなく現れて山羊頭を下げた。ネクロスは思考を一旦中断して振り向かずに言う。
「バフォメット、僕は今忙しいんだ。地上のゴミ掃除が完了した報告ならいらないよ」
「いえ、全滅したのは我が軍の方でございます」
「……なんだって?」
流石にネクロスは振り返った。
「なんの冗談かな、バフォメット。あんななんの力もないゴミ共相手に僕の軍勢が破れたって言うのか?」
多少力を持ったやつもいたにはいたが、それはネクロス自身が早々に排除したはずだ。残りの連中など下級骸骨兵と、念のため巨人兵を一体投入すれば一刻とかからず始末できる計算だった。
「彼らも皆、そのお嬢様と同様の封印をされておりました。封印を解除したことで力を取り戻し、我が軍を圧倒したようです」
「……」
バフォメットから真相を聞いたネクロスは、一瞬だけ驚きの表情を見せたが、すぐに口元を楽しそうな笑みで歪ませる。
「へえ、それは面白い。〈異端の教理〉の中でここまで抵抗されたのは初めてかな? せっかく来た世界だ。無力な雑魚ばかりで興醒めしてたけど、少し遊んでみたくなってきたよ」
クツクツと嗤いながらネクロスはどのようにして遊ぶか考える。〈異端の教理〉で停止した文字通り無抵抗な人間を狩ることはつまらないが、抵抗したり逃げ惑うやつらを踏み躙ることは至高だ。
「恐れながらネクロス様、この世界にこれ以上手を出されますとお嬢様の不興を買うことになられるかと」
「どうでもいいよ。僕が欲しいのは彼女の愛じゃない。力だ。ここの連中を消し飛ばすことで覚醒してくれるなら丁度いいじゃないか」
「その覚醒されたお嬢様にネクロス様が」
「負けると思う?」
主の身を案じる部下に、ネクロスは余裕な口調で告げる。
「確かに魔力では彼女の方が上だろう。〝魔帝〟の娘が僕以下の魔力なら正直いらないよ。でも、個々の強弱は魔力量だけじゃ計れない。そうなったとしても僕は彼女を捻じ伏せて屈服させる自信がある」
バフォメットは押し黙った。ネクロスの絶対的な自信は部下にも本当にそう思わせてしまうほどの力があった。
「くくく、連中の力がどれほどか再計算しないとね」
ネクロスは今まで〝魔帝〟の娘だけに集中させていた感覚を外へと向ける。
そして――
「――ッ!?」
ある気配を感じ取り、驚愕に目を見開いた。
「バフォメット、まだ報告していないことが一つあるよね?」
「仰る通りでございます」
バフォメットは恭しく山羊頭を下げ、最も重要なことを報告する。
「下の人間たちの中に、お嬢様の魔力を奪った者がいるようです」
まるで王宮にあるような謁見の間に似た広大な部屋で、次空艦の主であるネクロス・ゼフォンは腕を組み、不思議そうに首を傾げた。
「……どういうことだ?」
その視線は金の装飾が施された玉座に座っている意識のない少女に向いている。くすんだ茶色のような髪の自分よりも遥かに美しい金髪をしている彼女は、彼の〝魔帝〟――『黒き劫火の魔王』ことアルゴス・ヴァレファールの娘……のはずだ。
腕に嵌められていた封印具は既に破壊してある。だのに、この少女の魔力は封印されている状態となんら変わらない。真に〝魔帝〟の娘であれば、ネクロスですら思わず畏怖してしまいそうになるほどの魔力を秘めていなければおかしい。
実はただの人間だったのか?
いや、違う。彼女が〝魔帝〟の娘であることは確信できる。理屈じゃなく同族としての本能がそう訴えている。
ではなぜ彼女に魔力がないのか?
元々存在しなかったという可能性はない。それではこの世界で『冥竜の魔王』ベルナギウスが討ち滅ぼされた頃に感知した魔力はなんだったのか? という話になってしまう。
考えられる可能性は――
「ネクロス様、ご報告が」
と、部下であり『柩の魔王軍』最高幹部のバフォメットがネクロスの背後に音もなく現れて山羊頭を下げた。ネクロスは思考を一旦中断して振り向かずに言う。
「バフォメット、僕は今忙しいんだ。地上のゴミ掃除が完了した報告ならいらないよ」
「いえ、全滅したのは我が軍の方でございます」
「……なんだって?」
流石にネクロスは振り返った。
「なんの冗談かな、バフォメット。あんななんの力もないゴミ共相手に僕の軍勢が破れたって言うのか?」
多少力を持ったやつもいたにはいたが、それはネクロス自身が早々に排除したはずだ。残りの連中など下級骸骨兵と、念のため巨人兵を一体投入すれば一刻とかからず始末できる計算だった。
「彼らも皆、そのお嬢様と同様の封印をされておりました。封印を解除したことで力を取り戻し、我が軍を圧倒したようです」
「……」
バフォメットから真相を聞いたネクロスは、一瞬だけ驚きの表情を見せたが、すぐに口元を楽しそうな笑みで歪ませる。
「へえ、それは面白い。〈異端の教理〉の中でここまで抵抗されたのは初めてかな? せっかく来た世界だ。無力な雑魚ばかりで興醒めしてたけど、少し遊んでみたくなってきたよ」
クツクツと嗤いながらネクロスはどのようにして遊ぶか考える。〈異端の教理〉で停止した文字通り無抵抗な人間を狩ることはつまらないが、抵抗したり逃げ惑うやつらを踏み躙ることは至高だ。
「恐れながらネクロス様、この世界にこれ以上手を出されますとお嬢様の不興を買うことになられるかと」
「どうでもいいよ。僕が欲しいのは彼女の愛じゃない。力だ。ここの連中を消し飛ばすことで覚醒してくれるなら丁度いいじゃないか」
「その覚醒されたお嬢様にネクロス様が」
「負けると思う?」
主の身を案じる部下に、ネクロスは余裕な口調で告げる。
「確かに魔力では彼女の方が上だろう。〝魔帝〟の娘が僕以下の魔力なら正直いらないよ。でも、個々の強弱は魔力量だけじゃ計れない。そうなったとしても僕は彼女を捻じ伏せて屈服させる自信がある」
バフォメットは押し黙った。ネクロスの絶対的な自信は部下にも本当にそう思わせてしまうほどの力があった。
「くくく、連中の力がどれほどか再計算しないとね」
ネクロスは今まで〝魔帝〟の娘だけに集中させていた感覚を外へと向ける。
そして――
「――ッ!?」
ある気配を感じ取り、驚愕に目を見開いた。
「バフォメット、まだ報告していないことが一つあるよね?」
「仰る通りでございます」
バフォメットは恭しく山羊頭を下げ、最も重要なことを報告する。
「下の人間たちの中に、お嬢様の魔力を奪った者がいるようです」
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