異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第67話奪還へ向けて

 翌日、いよいよ村の空気が悪くなり始めた頃、ずっと眠っていたカグヤさんが目を覚ました。

「世話をかけたようですまなかったのう、カエデ」

「いえ、無事でよかったです、カグヤさん」

 この日カグヤさんが寝ている部屋には、俺とモカが訪ねていた。彼女が寝ている部屋はミルフィーナの家の中にある部屋。その為ポチや雫と接触する事はなかった。

「それにしても二人して元気がなさそうに見えるが、何かあったのか?」

 どうやら俺達の異変をいち早く見抜いたらしく、カグヤさんはそう声をかけてくれた。なので俺は、この数日起きた事を彼女に説明した。

「なるほど、どちらも大きな問題ではあるのう」

「ポチはポチで言いたい事は俺や他の皆も理解しているんです。けど、これ以上この場所に居続けたらいつ危害が及ぶか分からないんです」

「だからここを離れるという考えに至ったのじゃな」

「はい」

「現状からしてそれが最もの選択肢じゃろ。ポチは説得する他ない」

「やっぱりそうなりますよね……」

 カグヤさんには話していないが、それとは別の選択肢が存在している。ただそれは、俺反対だ。
 隣で話を聞いているモカがどう思っているかは分からないが、それだけは絶対に止めたい。

「モカ様はどう思っておるのじゃ?」

 そこでカグヤさんがモカに話を振る。俺彼女から出てくる言葉に覚悟をしながら、彼女の言葉を待った。

「私は……ポチさんが動く気がないなら、一人でラビリンズ王国へと向かいます。それが私の正直な気持ちです」

「それは本気で言うておるのか?」

「はい」

 やはりと言うべきかモカさんははっきりと宣言した。俺は反論を出そうと思ったが、いい言葉が浮かび上がらない。

「それがお主の意思というなら妾は止めぬ。何せ一国の姫様なのじゃからな」

「カグヤさん、どうして反対しないんですか? こんなの危なすぎますよ」

「よいかカエデ、モカ様はその危険を承知で宣言しておるのじゃぞ。確かにリスクは高いかもしれぬが、このまま睨み合っていた方がリスクが高い」

「ですけど」

「すいませんカエデ君。やはり私はラビリンズ王国に一度戻ります」

「モカ……」

 モカは決意を固めたように真っ直ぐに俺を見つめた。

 ーー本当にこのままでいいのか?

 ーーもしもの事があったら、俺はまた繰り返すのか?

 あの地獄のように苦しかった時間を。

 雫は言っていた。何が正しくて間違っているのか分からないと。

 俺も一緒だ。

「そこまで言われても、やっぱり俺は賛成できません。それならポチを説得してでも」

「私がどうかしたか? カエデ」

「え?」

 突然声がしたと共に部屋の扉が開かれる。中に入ってきたのはミルフィーナと、ポチと、雫だった。

「モカ様、一人で戻るだなんて私もカエデと一緒で許しません」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 最初にそう発したポチに対して、モカが反論する。

「ポチさん、あなたはここから離れたくないって」

「離れたくないですよ。でも仲間を生贄にしてまでこの場所は離れたくありません」

「ポチ、お前……」

 この三日間誰かに説得されたのか、それとも自分で決意したのか、モカの意思は三日前とは明らかに違っていた。
 元からその意思はあったのだろうけど、その一歩を踏み出すのが怖かった。だから誰かがその背中を押してくれて……。

「だから私は一時的ではありますけど、この村から離れる事を決意しました。皆と一緒にラビリンズ王国に立ち向かう為に」

「ポチさん……」

「そうですよモカさん! 私友達を一人で危ないところに行かせるなんてそんな事できませんよ!」

「シズクちゃん、でもあなたは」

「正直まだ私は自分がどうしたいかは決められていません。でも、友達の為ならどんな事だってやってみせます!」

 それは雫とポチの決意とも取れる言葉だった。キッカケは誰が作ったのかは分からないけど、多分それが二人の答えなのだろう。

 だから後は決断するのはモカ自身であって……。

「私ここまでシズクちゃんやカエデ君に沢山迷惑をかけてきました。今回の怪我だって、私が招いてしまった事です」

「そんな事ないですよ、私はただモカさんを守りたかっただけですから」

「その言葉が一番辛かったんですよ、シズクちゃん」

「え?」

「カルマ達反乱軍と戦う事がなければ、あなたがその手に剣を握る事だってなかったんです。私を守る為に身を呈する事だってなかったんです」

 モカの言葉はどれも正しいし、その言葉は何度も聞いた。だから話はずっと平行線上だったわけだし、お互いにどちらも譲ろうとしなかった。

「もう誰かが傷つくのを私は見たくないんです。誰かの傷を見るたびに苦しんで、誰かが亡くなる度に泣いて。もうそんな日々を私はしたくないんです。だから私自身がカルマと決着をつけなければならないんです、もう誰の血も流さない為にも」

 モカは己の拳を握りながら言った。
 それは王女として、一人の人間としての本音なのだろう。
 誰だって誰かが傷つくのは嫌いだ。でもだからこそ、一人ではなく皆でその痛みを分け合える。皆で支え合える

「なあモカ」

「はい」

「前にも言ったと思うけど、そんなに辛いなら俺や雫を頼れ。力としては不足しているかもしれないけど、支えられる事ができるから」

「でもそしたら、カエデ君達が」

「そんなの気にするなって言っているんだよ!」

「っ!?」

 ひたすら繰り返されるやり取りに我慢できなくなった俺は、王女だろうが何だろうが関係なく彼女の肩を掴み、こう宣言した。

「俺や雫、そしてポカルミ村の皆がお前の力になる!怪我だろうが何だろうがそんなの関係ない! こき使ってくれたっていい、だから頼れ!」

 もはや説得ではなく説教に近い言葉を俺はモカに向けて発していた。でもそれくらいの言葉を前の時よりも強く言わないと、きっとこの王女の心までには届かない。

「う、うぅ……」

 俺の言葉を聞いてしばらく時間が止まった後、モカはその場に泣き崩れた。ずっと我慢していた全てを涙に変えたかのように、モカは泣き崩れた。

「助けて……カエデ君、シズクちゃん……」

 そして彼女は一言そう言葉を発した。俺と雫はそれに頷いて、彼女にこう言った。

「「お任せください、王女様」」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 さて、これで一応はこの先のポカルミ村の方針は決まった訳だが、

「妾達だけ蚊帳の外でつまらぬのう、ミルフィーナ」

「私二人と一緒に来たのに一度も喋らせてもらえませんからぁ」

「何でいじけているんですか?」

 まだ問題は山積みだった。特に一番の問題は、移住場所。この島を離れる案もあったが、それだと俺達が居ない間に何か起きたら対処できないので却下。だけどこの島にいるのもリスクが高い事から、極力この島に近い場所移動する事に。
 そしてその候補に挙げられたのが、

「ここに来ると嫌な事を思い出すから、気が乗らないなぁ」

「それさっきも同じ事言ってたよね?」

「それはどっちも嫌な思い出があるからな」

 あの図書館があった島と、海底神殿。ただし海底神殿の場合は、安全性が高いものの移動等が大変なので図書館島が有力候補となった。
 その一番の理由が、

「ここなら改めて色々調べられそうだからな」

「私が知らないラビリンズ王国の事、乗っていたりするんでしょうか」

「極秘資料ばかりなんだろ? それなら期待はできないんじゃないのか」

「でもその一冊がこの島で見つかったんですよ?」

「そっか」

 本格的にラビリンズ奪還作戦が動きだしたきっかけは、確かにこの島で見つかった一冊の本だった。そしてそこにはトップシークレットに近い情報が載っていたらしい。

「ここならあまり人に知られていないし、アリではあるな」

「でもカエデ君は大丈夫ですか?」

「何が?」

「だってこの場所は」

「まあ、好きでは……ないかな」

 ここは一ヶ月前にルチリアが殺された場所。誰が何の目的で殺したのかは俺には分からない。けど、一人の女性の命を奪ったのはまぎれもない事実。

 それは絶対に許されない事。

 絶対に……。

「モカさん、楓、向かいの船が来たよー」

 雫の声で俺は我に返る。復讐も大事だか、今はそれよりも大切な事がある。

「行きましょう、カエデ君」

「ああ」

 モカの為に全ての力を使って、ラビリンズ王国を奪還する事だ。

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