異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第19話されど気分で家は燃やされる

「同じ名前の人物がこの世界に?」

「ああ。しかもそれが自分の父親の可能性があるとか言われたんだよ」

 結局ルチリアに散々言い寄られ、俺は仕方なく折れて昨日の話をした。

「でもそれって、別人の可能性もあるんでしょ?」

「俺もそう考えている。けど……」

「けど?」

「俺自分の母親のこと全く覚えてないんだよ。だからもしかしたら、その情報が正しいって可能性もあるんだよ」

「つまりカエデ君のお母さんが、私達と同じ獣人だって事?」

「あくまで可能性の話なんだけどな」

 お茶をすすりながら俺はそう話をまとめた。こう話してみると、どうって事のない話なのに、何故俺はあそこまで話すことを嫌っていたのだろうか。別に聞かれて恥ずかしい話でもないのに。

「母親……か」

「ん? どうかしたか?」

「私もカエデ君と一緒なの」

「一緒って何が?」

「私もほとんど母親の顔を覚えていないの。物心ついた時には、お父さんと二人きりだった。その頃にミルフィーナ達と出会ったから、寂しさは感じなかったんだけど、今になって少しだけ寂しくなってきちゃった」

「ルチリア……」

 どこか寂しげな表情でルチリアはそう語る。当時はまだ幼かったから分からなかったけど、年を重ねていくに連れて、その寂しさは増していく。それは俺も同じだった。

「でも今はこうして皆で暮らしているし、寂しくはないのかもね。カエデ君だって元の世界に住んでいた頃は、親友と呼べる人はいたでしょ?」

「まあ、いたと言えばいたけど」

 やけに男勝りな幼馴染とかがその一人だったりする(ただし本人にそれを言うと、殺されそうなので黙っている)。

「その人、カエデ君がいなくなって寂しくしているんじゃないかな」

「そうかな。あいつはそういう人間だとは思えないけど」

 今頃帰ってきたら死刑だとか言っているかもしれない。


「でも誰だって心配すると思うよ。だって名目上は行方不明なんだから」

「言われてみればそうかもな」

 そういう意味ではあいつも心配してくれているのかもしれない。それに元の世界では年の瀬と新年が迫っている頃だ。本来なら毎年恒例の年末の集まりがあり、その時に二人でどっか初詣も行っている。
 だが今はその片割れの俺が見知らぬ異世界に来てしまっている。その為向こうでは大事件になっているのかもしれない。

(何か悪いことしているような気がするな……)

 彼女、雫は今のこの状況をどう思っているのだろうか。本当に心配してくれているならしっかりと謝らなければならない。

 今年は一緒に新年を迎えられなくてごめん、って。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 夕方になるとポチとミルフィーナも村に戻って来て、いつもの四人がいる村になる。

「今日はごめんな、何も伝いてなくって」

「いや、特別な用事があったなら別にいいよ。それにたまにはこんな日もいいんじゃないかな」

 いつもら鍛錬ばかりの午後だったが、今日はちょっとした息抜きの一日になった。話す内容は少し重かったかもしれないけど、それでものんびりした午後を過ごせたと俺は思う。

「さてと夕飯の支度もあるから、そろそろ家に戻ろうカエデ君」

「ああ、そうだな」

 二人と別れ家へと戻る俺とルチリア。だが戻った先で待っていたのは、何とフォルナだった。勝手に人の家を乗っ取ったあげく、今は何故かこっちに住み着いている時間が多い馬少女。
 本来ならほとんど顔を合わせない彼女が(俺が一方的に避けているからなのかもしれないが)、何故今ルチリアの家にいるのか不思議だった。

「俺の家を乗っ取った挙句、今度はルチリアの家も乗っ取ろうとしているのか」

「そうじゃ……ない。頼み事を……しにきた」

「頼み事?」

 明らかに敵視している彼女が俺達に?

「何か企んでるんじゃないのか?」

「別にそうじゃない。ただ、あの遺跡にまた行ってほしい」

「遺跡に?」

 そういえば初めて行って以来、まだ一度も調査に行ってなかった。カグヤとも調査の約束をしているのだから、そろそろ二回目の調査に行ってもいい頃だと思っていたが、まさかフォルナの方から頼まれるとは思っていなかった。
 でも一体何故?

「元々私はあそこに住んでいたわけじゃないの。気がついたらあそこにいた」

 その疑問に答えるかのように、フォルナはそう述べた。

「え? 俺はてっきり元から住んでたと思ったんだけど」

「よく考えたら元から住んでいるっていう説は、おかしかったのかもね」

「どうして?」

「少し前にも話したと思うけど、あの遺跡は最近突然現れたのよ? そんな遺跡に元から住んでいる人なんているのって変だと思わない?」

「言われてみれば、確かにそうかもしれないな」

 てっきり会うなり俺達を攻撃してきたから、元からそこに住んでいるのは変な話だ。

 でも一つ引っかかることがある。

「でもお前、あの時ここはあの方の物とか言っていたけど、それはどうなんだ?」

「それは間違ってない。ただ」

「ただ?」

「私も知らない。あの方の事」

「それってつまり、誰かに言わされていたってことなのか?」

「多分……」

「多分って」

 でももしそうだとしたら、フォルナは一種の被害者なのかもしれない。何も分からず、あの遺跡の見張りをさせられて、俺達と戦って、終いには家を乗っ取って……。

 あれ?

「なあ、俺の家を乗っ取ったのはそれとは関係あるのか?」

「ない。あれは私の気分で」

「気分で人の家を燃やしたりするなぁぁ」

 まあ、何はともあれあの遺跡についてもっと調査する必要があるみたいだ。

「よし分かった、明日もう一度行ってみようあの遺跡に」

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