アカシック・アーカイブ
FILE-65 探偵部員たちの休日~黒羽恭弥②~
エーテルの精霊はふわふわと、しかし恭弥たちが走ってようやく引き離されない速度で飛んで行く。
恭弥たちに気づいて逃げている、という様子ではない。
「どこまで飛んで行く気だ?」
(目的なんてないのかもしれないわね)
カラスの姿で空を飛ぶエルナならすぐに追いつけるかもしれないが、今のスピードが最高速度とは思えない。気づかれてしまえばあっという間に逃げられてしまう恐れがある。
(それより恭弥、今は幽体離脱も精魂融合もしてないのよね?)
「そうだが?」
どちらかを使えばより速度は上げられる。エルナはそうしろと言っているのかと思ったが、違った。
(ならどうして、あの精霊が見えているの?)
「!」
そうだ。恭弥には元々霊感などない。ガンドで霊体になるか、霊体との感度を上げなければ普通は見えないはずだ。
「なんじゃそんなことか? 簡単じゃ。わしがお兄ちゃんに憑いておるからじゃよ」
恭弥と並んで走るアル=シャイターンがつまらなそうに解答してくれた。悪魔憑きになったから通常時でも視えるようになった、ということらしい。
(あ、速度を上げたわ! こっちに気づいたようね!)
エルナから慌てた思念が飛んでくる。これ以上引き離されては見失ってしまう。
見つかったのなら仕方ない。恭弥たちは全速力で追うことにし――
「マラソンでござるか師匠!」
突如、建物の屋根から飛び下りてきた少女に道を塞がれてしまった。急に飛び出してきたものだから恭弥は足を止めざるを得なかった。
「エルナ! 追ってくれ!」
(わかったわ!)
判断は速かった。エルナが追跡可能なら後から追いつける。緑の光を追跡するカラスを見やる恭弥に、道を塞いだ少女――甲賀静流は申し訳なさそうに相好を崩した。
「あ、もしかしてなにかを追いかけていたでござるか? 邪魔してしまったのならすまぬでござる……」
素直に頭を下げた自称弟子に恭弥は怒る気も失せた。もっとも、怒りの感情など湧いてもいないのだが。
「その、師匠はなにを追っていたのでござる?」
「アレだ。見えるか?」
恭弥が視線だけでまだ微かに見える緑色の光を示す。
「カラスでござる」
「違う、その先だ」
「なにもないでござるよ?」
「そうか。なら事情は後で説明する」
やはり彼女も見えない側だった。そうなるといてもらっても仕方ない。恭弥は構わず追跡を再開することにした。
が――
「邪険にしないでほしいでござるぅ! 拙者、師匠の力になりたいでござるぅ!」
静流はあろうことか駆け出そうとした恭弥の胴にしがみついてきた。仕方ないどころじゃない。これでは邪魔だ。
「く、放せっ」
「お兄ちゃんも面倒な人間を弟子にしたのう」
アル=シャイターンはケタケタと笑っていた。勝手にしろと言った覚えはあるが、弟子にした覚えはない。
簡単に説明するしかないようだ。
「俺たちはエーテルの精霊を追っている」
「えーてる?」
「……『空』の精霊を追っている」
「おお、それならわかるでござる! 五大でござるね」
ポン! と手を打つ静流。五行を扱っているだけあって、その辺りの理解はあるようで助かった。
「ならば拙者も『えーてるの精霊』とやらを探すでござる。師匠、どちらが先に捕まえるか勝負でござる!」
威勢よく叫ぶや否や、静流は忍者の俊敏性をフル稼働して建物の屋根という屋根を飛び越えていった。
エーテルの精霊がどんな姿をしているのかも知らず、そもそも見えないのにどうやって? そんな疑問が頭を過ったが――気にしないことにした。
「ぷふう、お兄ちゃんもつくづく面倒な人間を弟子にしたのう。クカカカ!」
「だから弟子じゃない」
アル=シャイターンは始終腹を抱えていた。
☆★☆
エルナからの思念遠話で断片的に伝わった情報によると、精霊は第一商業区に向かったそうだ。
「見つけたのじゃ!」
精霊の魔力を覚えてくれていたアル=シャイターンがすぐさま発見した。黒紫色の髪が一房だけ立ち上がってピコピコ動いているのはなにかのレーダーだろうか? まったく便利な悪魔である。
「こっちじゃこっち! 急ぐのじゃお兄ちゃん」
アル=シャイターンに手を引かれるようにして向かった先は――電気屋だった。緑色の光がタイミングよく自動ドアをくぐるのを恭弥も見たから間違いない。
精霊はキッチン用品コーナーに飛んでいく。
それを最後に見失ってしまった。
「どこかの製品に隠れたのかの?」
「気配を辿れないか?」
「ここは妙な電波が多くて感知が鈍るのじゃ」
やはりその頭のピコピコはレーダーだった。それも電波で狂うほど繊細なレーダーだ。便利なのかよくわからなくなってきた恭弥である。
最後に見かけたのが炊飯器のコーナーだ。
ずらりと並ぶ各種最新型の炊飯器。これの蓋を開ければそこに精霊がいるかもしれない。
――どうやって開けるんだ?
飯盒以外で米など炊いたことのない恭弥にとって炊飯器は未知なる機械だった。
「お兄ちゃん、次に行くのじゃ」
睨むこと数分、精霊の魔力を微弱に感じ取ったアル=シャイターンが次のコーナーへと恭弥を引っ張っていく。
そこは大小様々な冷蔵庫が林立していた。
アル=シャイターンが全ての冷蔵庫の扉を開けて回る中、恭弥はそこに入っていたピーマンのサンプルに興味を惹かれて手に取った。
――エルナが野菜も食えって言ってたな。
食生活を見直すにはまず、部屋に冷蔵庫はいるだろう。炊飯器は飯盒でいいとして、食料を保存するには必需品だ。
料理はできなくはない。ただ、師と暮らしていたのは電気も届かない山奥だった。基本は自給自足であり、肉などは干して保存していた。得意料理は切る焼く煮るで作れる野性的なモノばかりだ。
――BMAに入ってからは食堂があったからな。
故に自分で料理などすることはなかったわけである。
「お兄ちゃん、次なのじゃ!」
なんだか知らないが楽しくなってきたらしいアル=シャイターンが笑顔で恭弥の手を取る。次に連れて来られたのは電子レンジのコーナーだった。
恭弥は棚に並ぶ電子レンジの一つを凝視する。
――なぜこんなにボタンが……?
電子レンジとは食べ物を温める機械ではなかったのか? それだけのために一体いくつボタンを操作しないといけないのだ。
謎である。
人間とは物事を複雑にする天才か。
「次じゃ次!」
その後もいろいろ見て回ったが、エルナから精霊が外に出たことを告げられて恭弥たちも電気屋を後にした。
☆★☆
「気づいておるかや、お兄ちゃん?」
「尾行か? 九条とレティシアなら放っておいていいだろう」
電気屋に入る前から彼女たちがこそこそついて来ていたのはわかっていた。
「まあ、それでもよいが……むふふ」
「なにを考えている?」
「なんでもないのじゃ」
企み顔で怪しく笑うアル=シャイターンに一抹の不安を覚えたところで、精霊は別の建物へと入って行った。
映画館のようだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、これが見たいのじゃ!」
と、いきなりアル=シャイターンが謎の甘い声を出して恭弥の腕を絡め取って来た。指を差したのはロボットアニメのようだが、悪魔はこういうのが好きなのだろうか? 正直恭弥は微塵も興味がない。
「……おお、やはりあの者たちの嫉妬は美味いのう」
「おい」
「わかっておる。ちゃんと精霊は探すのじゃ」
映画館の中に入ると、精霊は天井近くをうろうろ飛んでいた。
(恭弥、どう? 捕まえられた?)
(いや、ここは人が多過ぎる)
あの位置では届かない。術を使えばどうとでもなるが、そうすると騒ぎを起こしてしまうだろう。恭弥は柱に凭れて様子を観察するだけに留めた。
しばらくすると精霊は出て行ったので、なにやらご機嫌なアル=シャイターンを連れて恭弥もその場を立ち去った。
☆★☆
次に精霊が入ったのはレディースのファッションショップだった。
「……ここに入るのか?」
「よいではないか、お兄ちゃん。わしと一緒なら怪しまれることもなかろうて。ぐふふ」
「お前、楽しんでいるな?」
「楽しいぞい♪」
アル=シャイターンは後ろの二人を煽るように恭弥にべたべたとくっついてくる。嫉妬や怒りを喰うためのようだが、付き合わされる恭弥は堪ったものではない。そろそろ鬱陶しい。
しぶしぶ店に入ると、またも精霊を見失ってしまった。こう物が多いと紛れてしまう。
「この辺のようじゃが……詳しい場所はわからぬのじゃ」
アル=シャイターンのレーダーはずいぶんアバウトだった。恭弥が仕方なく精霊が現れるまで待つことにすると、アル=シャイターンがいくつかの服を持ってとてとてと試着室に入って行った。
バッ! とカーテンが開く。アル=シャイターンは可愛い系のチュニックを纏っていた。
「どうじゃどうじゃ、お兄ちゃん? 似合っとるかの?」
「そうだな」
「こっちはどうじゃ? 白は好かんが、このワンピースはフリフリたっぷりできゅんと来るのではないか?」
「そうだな」
「ビキニがあったのじゃ! エロいのじゃ!」
「そうだな」
「……汝、いやお兄ちゃんよ、実はわしの格好なぞ割とどうでもよかろう?」
「そうだな」
視線は精霊を探しているのでろくに姿を見てくれない恭弥に、アル=シャイターンはカーテンの隙間から顔だけ覗かして膨れっ面になっていた。
(恭弥、精霊が出て行ったわ)
(そうか)
外で見張ってくれているエルナに告げられ、恭弥は元の黒いゴスロリドレス姿に戻ったアル=シャイターンの手を引き――
店を出た瞬間にダッシュした。
(どうしたの?)
(そろそろこいつが鬱陶しいから二人を撒くことにした)
(あー……)
上質の嫉妬心を喰らえてアル=シャイターンは大変満足した笑顔だった。
恭弥たちに気づいて逃げている、という様子ではない。
「どこまで飛んで行く気だ?」
(目的なんてないのかもしれないわね)
カラスの姿で空を飛ぶエルナならすぐに追いつけるかもしれないが、今のスピードが最高速度とは思えない。気づかれてしまえばあっという間に逃げられてしまう恐れがある。
(それより恭弥、今は幽体離脱も精魂融合もしてないのよね?)
「そうだが?」
どちらかを使えばより速度は上げられる。エルナはそうしろと言っているのかと思ったが、違った。
(ならどうして、あの精霊が見えているの?)
「!」
そうだ。恭弥には元々霊感などない。ガンドで霊体になるか、霊体との感度を上げなければ普通は見えないはずだ。
「なんじゃそんなことか? 簡単じゃ。わしがお兄ちゃんに憑いておるからじゃよ」
恭弥と並んで走るアル=シャイターンがつまらなそうに解答してくれた。悪魔憑きになったから通常時でも視えるようになった、ということらしい。
(あ、速度を上げたわ! こっちに気づいたようね!)
エルナから慌てた思念が飛んでくる。これ以上引き離されては見失ってしまう。
見つかったのなら仕方ない。恭弥たちは全速力で追うことにし――
「マラソンでござるか師匠!」
突如、建物の屋根から飛び下りてきた少女に道を塞がれてしまった。急に飛び出してきたものだから恭弥は足を止めざるを得なかった。
「エルナ! 追ってくれ!」
(わかったわ!)
判断は速かった。エルナが追跡可能なら後から追いつける。緑の光を追跡するカラスを見やる恭弥に、道を塞いだ少女――甲賀静流は申し訳なさそうに相好を崩した。
「あ、もしかしてなにかを追いかけていたでござるか? 邪魔してしまったのならすまぬでござる……」
素直に頭を下げた自称弟子に恭弥は怒る気も失せた。もっとも、怒りの感情など湧いてもいないのだが。
「その、師匠はなにを追っていたのでござる?」
「アレだ。見えるか?」
恭弥が視線だけでまだ微かに見える緑色の光を示す。
「カラスでござる」
「違う、その先だ」
「なにもないでござるよ?」
「そうか。なら事情は後で説明する」
やはり彼女も見えない側だった。そうなるといてもらっても仕方ない。恭弥は構わず追跡を再開することにした。
が――
「邪険にしないでほしいでござるぅ! 拙者、師匠の力になりたいでござるぅ!」
静流はあろうことか駆け出そうとした恭弥の胴にしがみついてきた。仕方ないどころじゃない。これでは邪魔だ。
「く、放せっ」
「お兄ちゃんも面倒な人間を弟子にしたのう」
アル=シャイターンはケタケタと笑っていた。勝手にしろと言った覚えはあるが、弟子にした覚えはない。
簡単に説明するしかないようだ。
「俺たちはエーテルの精霊を追っている」
「えーてる?」
「……『空』の精霊を追っている」
「おお、それならわかるでござる! 五大でござるね」
ポン! と手を打つ静流。五行を扱っているだけあって、その辺りの理解はあるようで助かった。
「ならば拙者も『えーてるの精霊』とやらを探すでござる。師匠、どちらが先に捕まえるか勝負でござる!」
威勢よく叫ぶや否や、静流は忍者の俊敏性をフル稼働して建物の屋根という屋根を飛び越えていった。
エーテルの精霊がどんな姿をしているのかも知らず、そもそも見えないのにどうやって? そんな疑問が頭を過ったが――気にしないことにした。
「ぷふう、お兄ちゃんもつくづく面倒な人間を弟子にしたのう。クカカカ!」
「だから弟子じゃない」
アル=シャイターンは始終腹を抱えていた。
☆★☆
エルナからの思念遠話で断片的に伝わった情報によると、精霊は第一商業区に向かったそうだ。
「見つけたのじゃ!」
精霊の魔力を覚えてくれていたアル=シャイターンがすぐさま発見した。黒紫色の髪が一房だけ立ち上がってピコピコ動いているのはなにかのレーダーだろうか? まったく便利な悪魔である。
「こっちじゃこっち! 急ぐのじゃお兄ちゃん」
アル=シャイターンに手を引かれるようにして向かった先は――電気屋だった。緑色の光がタイミングよく自動ドアをくぐるのを恭弥も見たから間違いない。
精霊はキッチン用品コーナーに飛んでいく。
それを最後に見失ってしまった。
「どこかの製品に隠れたのかの?」
「気配を辿れないか?」
「ここは妙な電波が多くて感知が鈍るのじゃ」
やはりその頭のピコピコはレーダーだった。それも電波で狂うほど繊細なレーダーだ。便利なのかよくわからなくなってきた恭弥である。
最後に見かけたのが炊飯器のコーナーだ。
ずらりと並ぶ各種最新型の炊飯器。これの蓋を開ければそこに精霊がいるかもしれない。
――どうやって開けるんだ?
飯盒以外で米など炊いたことのない恭弥にとって炊飯器は未知なる機械だった。
「お兄ちゃん、次に行くのじゃ」
睨むこと数分、精霊の魔力を微弱に感じ取ったアル=シャイターンが次のコーナーへと恭弥を引っ張っていく。
そこは大小様々な冷蔵庫が林立していた。
アル=シャイターンが全ての冷蔵庫の扉を開けて回る中、恭弥はそこに入っていたピーマンのサンプルに興味を惹かれて手に取った。
――エルナが野菜も食えって言ってたな。
食生活を見直すにはまず、部屋に冷蔵庫はいるだろう。炊飯器は飯盒でいいとして、食料を保存するには必需品だ。
料理はできなくはない。ただ、師と暮らしていたのは電気も届かない山奥だった。基本は自給自足であり、肉などは干して保存していた。得意料理は切る焼く煮るで作れる野性的なモノばかりだ。
――BMAに入ってからは食堂があったからな。
故に自分で料理などすることはなかったわけである。
「お兄ちゃん、次なのじゃ!」
なんだか知らないが楽しくなってきたらしいアル=シャイターンが笑顔で恭弥の手を取る。次に連れて来られたのは電子レンジのコーナーだった。
恭弥は棚に並ぶ電子レンジの一つを凝視する。
――なぜこんなにボタンが……?
電子レンジとは食べ物を温める機械ではなかったのか? それだけのために一体いくつボタンを操作しないといけないのだ。
謎である。
人間とは物事を複雑にする天才か。
「次じゃ次!」
その後もいろいろ見て回ったが、エルナから精霊が外に出たことを告げられて恭弥たちも電気屋を後にした。
☆★☆
「気づいておるかや、お兄ちゃん?」
「尾行か? 九条とレティシアなら放っておいていいだろう」
電気屋に入る前から彼女たちがこそこそついて来ていたのはわかっていた。
「まあ、それでもよいが……むふふ」
「なにを考えている?」
「なんでもないのじゃ」
企み顔で怪しく笑うアル=シャイターンに一抹の不安を覚えたところで、精霊は別の建物へと入って行った。
映画館のようだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、これが見たいのじゃ!」
と、いきなりアル=シャイターンが謎の甘い声を出して恭弥の腕を絡め取って来た。指を差したのはロボットアニメのようだが、悪魔はこういうのが好きなのだろうか? 正直恭弥は微塵も興味がない。
「……おお、やはりあの者たちの嫉妬は美味いのう」
「おい」
「わかっておる。ちゃんと精霊は探すのじゃ」
映画館の中に入ると、精霊は天井近くをうろうろ飛んでいた。
(恭弥、どう? 捕まえられた?)
(いや、ここは人が多過ぎる)
あの位置では届かない。術を使えばどうとでもなるが、そうすると騒ぎを起こしてしまうだろう。恭弥は柱に凭れて様子を観察するだけに留めた。
しばらくすると精霊は出て行ったので、なにやらご機嫌なアル=シャイターンを連れて恭弥もその場を立ち去った。
☆★☆
次に精霊が入ったのはレディースのファッションショップだった。
「……ここに入るのか?」
「よいではないか、お兄ちゃん。わしと一緒なら怪しまれることもなかろうて。ぐふふ」
「お前、楽しんでいるな?」
「楽しいぞい♪」
アル=シャイターンは後ろの二人を煽るように恭弥にべたべたとくっついてくる。嫉妬や怒りを喰うためのようだが、付き合わされる恭弥は堪ったものではない。そろそろ鬱陶しい。
しぶしぶ店に入ると、またも精霊を見失ってしまった。こう物が多いと紛れてしまう。
「この辺のようじゃが……詳しい場所はわからぬのじゃ」
アル=シャイターンのレーダーはずいぶんアバウトだった。恭弥が仕方なく精霊が現れるまで待つことにすると、アル=シャイターンがいくつかの服を持ってとてとてと試着室に入って行った。
バッ! とカーテンが開く。アル=シャイターンは可愛い系のチュニックを纏っていた。
「どうじゃどうじゃ、お兄ちゃん? 似合っとるかの?」
「そうだな」
「こっちはどうじゃ? 白は好かんが、このワンピースはフリフリたっぷりできゅんと来るのではないか?」
「そうだな」
「ビキニがあったのじゃ! エロいのじゃ!」
「そうだな」
「……汝、いやお兄ちゃんよ、実はわしの格好なぞ割とどうでもよかろう?」
「そうだな」
視線は精霊を探しているのでろくに姿を見てくれない恭弥に、アル=シャイターンはカーテンの隙間から顔だけ覗かして膨れっ面になっていた。
(恭弥、精霊が出て行ったわ)
(そうか)
外で見張ってくれているエルナに告げられ、恭弥は元の黒いゴスロリドレス姿に戻ったアル=シャイターンの手を引き――
店を出た瞬間にダッシュした。
(どうしたの?)
(そろそろこいつが鬱陶しいから二人を撒くことにした)
(あー……)
上質の嫉妬心を喰らえてアル=シャイターンは大変満足した笑顔だった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
59
-
-
1512
-
-
361
-
-
24251
-
-
0
-
-
337
-
-
2265
-
-
34
-
-
49989
コメント