アカシック・アーカイブ
FILE-46 アル=シャイターン
「まだ終わりじゃねぇ! 始まってすらいねぇ!」
学院都市の至るところから立ち上る輝きが巨大な魔法陣を形成する。
「ヒャハハハハハハハハッ! もう少し生贄が欲しかったが構わねぇ! ここからが開演だ! てめぇらまとめて都市ごと潰してやるよぉ!」
その様子を建物の屋根から俯瞰しながら、幽崎・F・クリストファーは哄笑していた。
「俺がただ享楽のために辻斬りなんてマネを悪魔にやらせてたわけじゃあねぇんだぜ? 殺して集めた魂を餌に、『奴』を喚び出す」
大規模術式は自分が発見されるリスクがある。だが、学院警察の前に姿を見せた時点でこそこそする段階は越えているため関係ない。
「『全知の公文書』――俺が見つけてやるよ!」
彼の魔導書が『ダンジョン』と呼ばれる場所にあるという情報は得ている。それが学院の外部だったならば大ハズレもいいところだが、幽崎はその可能性は薄いと見ている。
根拠はない。ただ、そんな大事な物を未開の外部に隠すとは思えなかっただけだ。
手元に残すなら、それは一体どこにあるのか?
いつも不在の学院長室か?
学院都市の中心に建つ時計塔か?
あちこちに点在しているなんの宗教かも不明な聖堂か?
それとも教授以上の権限でしか入れない最重要研究機関か?
「違ぇよなぁ。そんな『いかにも』な場所になんて置かなねぇよなぁ!」
そもそも誰が作り、誰が所持し、誰が隠したのかすらわからない代物だ。学院の上層部だって実は知らない可能性がある。そうでなければ、こんなにも多く嗅ぎ回る人間が入学を許されているはずがない。
知っているのが学院長だけだとすれば、奴は今この学院にはいない。都市外に出ているのか表の世界に行っているのか知らないが、とにかくそこから探るのは難しいだろう。
数日間、ひたすらに自分の足で都市を歩いていたからこそ幽崎は気づいた。
「この学院の地下にはでっけぇ空洞がある。ついでに言えば、そこへ行く方法は見つからなかったわけだ」
ただの地下室ではない。そんなものはごまんとある。もっともっともっと深い、地核に届くのではないかと思える深淵だ。
地下は誰もが真っ先に考えてしまえる場所だが、そこまで深ければ話は別だろう。
悪魔の感覚で散策していた幽崎だからこそ、足下に意識を集中させた時の違和感を察知できたのだ。
そこにあるという確証はない。幽崎の勘違いや、本当にただ自然にできた空洞という可能性もある。
しかし、探してみる価値はあるはずだ。
だから、幽崎は数日かけて仕掛けを施した。
「舞台は整った。さあ開くぜ、冥府の門をよぉ!!」
幽崎はいくつもの小瓶を取り出す。小瓶には魔術文字が施されており、中身は空っぽ――のように見えてそうではない。
この小瓶にはここ数日で刈り取った人間の魂を圧縮して封印している。別に刈り取った場所に放置していてもよかったが、万が一にも霊能者などに見つからないための処置だ。
幽崎は小瓶を屋根から放り投げて砕き割る。中身の魂が開放されたところで大規模召喚術式を発動させる。
「てめぇの餌は用意した! ちっと足りねぇかもしんねぇが勘弁しろ! この俺に力を寄越せ! 悪魔の王!!」
両腕を翼のように広げ、幽崎は高らかに叫んだ。
風が荒ぶ。
気温が下がる。
夜空はドス黒い雲に覆われ、学院都市は原因不明の停電に見舞われる。超巨大魔法陣の禍々しい輝きだけが妖しく都市を包み込む。
都市と黒雲の間の空間が、ぐにゃり、と歪んだ。歪みは次第に渦を成し、その中央に魔界へと通じる門が開く。
そこから出てきたものは――黒紫の瘴気を纏った冗談みたいに巨大な腕だった。大き過ぎて学院都市がミニチュアにでも見えてしまうほどだ。
あんなのに叩き潰されては一溜りもないだろうが――
「チッ、百にも満たねぇ魂じゃあ片腕の召喚が限界か」
幽崎は不満そうに舌打ちしていた。
しかしすぐに、いつもの狂気的な笑みを貼りつける。
「だが、充分だ! そのまま穿て! 邪魔者ども諸共、学院のド真ん中に糞でっけぇ風穴ぶち開けろッ!!」
学院都市の至るところから立ち上る輝きが巨大な魔法陣を形成する。
「ヒャハハハハハハハハッ! もう少し生贄が欲しかったが構わねぇ! ここからが開演だ! てめぇらまとめて都市ごと潰してやるよぉ!」
その様子を建物の屋根から俯瞰しながら、幽崎・F・クリストファーは哄笑していた。
「俺がただ享楽のために辻斬りなんてマネを悪魔にやらせてたわけじゃあねぇんだぜ? 殺して集めた魂を餌に、『奴』を喚び出す」
大規模術式は自分が発見されるリスクがある。だが、学院警察の前に姿を見せた時点でこそこそする段階は越えているため関係ない。
「『全知の公文書』――俺が見つけてやるよ!」
彼の魔導書が『ダンジョン』と呼ばれる場所にあるという情報は得ている。それが学院の外部だったならば大ハズレもいいところだが、幽崎はその可能性は薄いと見ている。
根拠はない。ただ、そんな大事な物を未開の外部に隠すとは思えなかっただけだ。
手元に残すなら、それは一体どこにあるのか?
いつも不在の学院長室か?
学院都市の中心に建つ時計塔か?
あちこちに点在しているなんの宗教かも不明な聖堂か?
それとも教授以上の権限でしか入れない最重要研究機関か?
「違ぇよなぁ。そんな『いかにも』な場所になんて置かなねぇよなぁ!」
そもそも誰が作り、誰が所持し、誰が隠したのかすらわからない代物だ。学院の上層部だって実は知らない可能性がある。そうでなければ、こんなにも多く嗅ぎ回る人間が入学を許されているはずがない。
知っているのが学院長だけだとすれば、奴は今この学院にはいない。都市外に出ているのか表の世界に行っているのか知らないが、とにかくそこから探るのは難しいだろう。
数日間、ひたすらに自分の足で都市を歩いていたからこそ幽崎は気づいた。
「この学院の地下にはでっけぇ空洞がある。ついでに言えば、そこへ行く方法は見つからなかったわけだ」
ただの地下室ではない。そんなものはごまんとある。もっともっともっと深い、地核に届くのではないかと思える深淵だ。
地下は誰もが真っ先に考えてしまえる場所だが、そこまで深ければ話は別だろう。
悪魔の感覚で散策していた幽崎だからこそ、足下に意識を集中させた時の違和感を察知できたのだ。
そこにあるという確証はない。幽崎の勘違いや、本当にただ自然にできた空洞という可能性もある。
しかし、探してみる価値はあるはずだ。
だから、幽崎は数日かけて仕掛けを施した。
「舞台は整った。さあ開くぜ、冥府の門をよぉ!!」
幽崎はいくつもの小瓶を取り出す。小瓶には魔術文字が施されており、中身は空っぽ――のように見えてそうではない。
この小瓶にはここ数日で刈り取った人間の魂を圧縮して封印している。別に刈り取った場所に放置していてもよかったが、万が一にも霊能者などに見つからないための処置だ。
幽崎は小瓶を屋根から放り投げて砕き割る。中身の魂が開放されたところで大規模召喚術式を発動させる。
「てめぇの餌は用意した! ちっと足りねぇかもしんねぇが勘弁しろ! この俺に力を寄越せ! 悪魔の王!!」
両腕を翼のように広げ、幽崎は高らかに叫んだ。
風が荒ぶ。
気温が下がる。
夜空はドス黒い雲に覆われ、学院都市は原因不明の停電に見舞われる。超巨大魔法陣の禍々しい輝きだけが妖しく都市を包み込む。
都市と黒雲の間の空間が、ぐにゃり、と歪んだ。歪みは次第に渦を成し、その中央に魔界へと通じる門が開く。
そこから出てきたものは――黒紫の瘴気を纏った冗談みたいに巨大な腕だった。大き過ぎて学院都市がミニチュアにでも見えてしまうほどだ。
あんなのに叩き潰されては一溜りもないだろうが――
「チッ、百にも満たねぇ魂じゃあ片腕の召喚が限界か」
幽崎は不満そうに舌打ちしていた。
しかしすぐに、いつもの狂気的な笑みを貼りつける。
「だが、充分だ! そのまま穿て! 邪魔者ども諸共、学院のド真ん中に糞でっけぇ風穴ぶち開けろッ!!」
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