アカシック・アーカイブ

夙多史

FILE-20 Mission Start

「あーもう!! どぉーいうことよーッ!!」

 時刻は昼下がり。ひとまず本日の講義を全て終えた恭弥たちはレティシア・ファーレンホルストに呼び出されて例の旧学棟に集まっていた。
 その呼び出した張本人は最後に現れておきながら、開口一番に意味不明な絶叫を上げていた。

「部活の申請出して三日かかったのは下級悪魔の事件とかあったからまあしょうがないかなって思って譲歩してあげてたのに、人数が五人に達してないから承認できませ~ん――っててふざけんなっての!?」

 どうやらレティシア嬢は『探偵部』の部活申請が通らず大変ご立腹らしい。なんとなくこうなる気がしていた恭弥は特にコメントはせず肩だけ竦めた。

「こっちには特待生ジェレーターが二人もいるのよ!? 普通より権限が高いんじゃなかったの!? 一人足りないくらい大目に見てくれたっていいじゃん!?」
「いや、流石に趣味道楽扱いの部活にまで適用されないだろ」

 恭弥がこの三日で確認した特待生ジェレーター新入生ニルファイトより高い権限で実行できることと言えば、実はそんなに多くない。
 中央大図書館の閲覧可能な書物数。立ち入り許可区画の範囲。各研究室や上級生の講義の見学。せいぜい、そんなところだ。

「趣味道楽だったら尚更人数なんて関係ないでしょうが!? あのハゲツル石頭のクソジジイ後で最悪の運勢占ってやるから覚えてろよコンチクショー!?」
「お、落ち着いてくださいレティシアさん」
「女子がしちゃいけない顔になってるぜ」

 癇癪を起して地団太を踏むレティシアを鎮めるのに五分ほどかかった。

「落ち着いたか?」

 恭弥は近くの自販機で買ってきた紙パックのミルクティーを飲むレティシアに問う。

「……うん、叫んだらスッキリした」
「それで、俺たちは愚痴を聞くために集められたのか?」

 だったら今すぐ回れ右しよう。そう決めていた恭弥にレティシアは不愉快そうに唇を尖らせた。

「違うわよ。さっきも言ったでしょ? 部活を認めてもらうにはあと一人必要なの! それを今から探すの!」
「探偵部に入ってくれる人を、ですか……」

 白愛が微妙な表情をする。恭弥も内心で溜息をつく。単純に入部希望者がいそうにないというのもあるが、これ以上無関係な者を巻き込むわけにはいかないのだ。

「大丈夫、あたしだって余計な人間を引き入れるつもりはないわ。だから探すのは幽霊部員。部活申請の書類にサインだけしてくれる人よ!」

 そんな怪しげなものにサインなんてする馬鹿がいるとしたら土御門くらいだろう。

「あ、じゃあエルナちゃんに書いてもらうってのはどうよ? やっべ、今日のオレ冴えてるわ」
「生徒でもない人間の名前なんて書けるわけないでしょうが!?」
「チョップ!?」

 レティシアのジャンピングツッコミチョップが土御門の顔面にクリティカルヒットしていた。
 というか、エルナが生徒であればなんの問題もなかったわけである。ちなみに彼女はここにはいない。動物に変化して勝手に調査を行っているため連絡の取りようがないのだ。

「そういうことだから、誰でもいいから適当に幽霊部員になってくれそうな人を探すこと。それが今日のミッションよ!」
「そんなことする時間があるなら本来の目的の物を探した方がいいと思うが?」
「後々でそっちがやり易くなるんだから文句言わない! ほら解散! 一人も見つけられなかった人が今夜のディナーを奢ること! いいわね!」

 なんか勝手に罰ゲーム(?)が付与された。白愛と土御門が嫌そうな悲鳴を上げながら別々の方向へと駆けていく。
 恭弥も仕方なしといった風に踵を返すと――

「あ、恭弥は待って」

 解散って言ったばかりのレティシアに呼び止められた。

「一つ、聞いときたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」

 レティシアには恭弥とエルナがBMAのエージェントだとは伝えていない。彼女は無関係というわけではなく、裏にどんな組織が控えているのか現状では見当もつかないのだ。犯罪組織ではなさそうだということはなんとなく悟っているものの、現段階で彼女に正体を明かすことはリスクにしかならない。
 協定を破ってそこを訊いてくるのか……と思いきや、全く別の案件だった。

「なんで、学院にあの下級悪魔を召喚したのが幽崎・F・クリストファーだって教えないの?」

 そんなことか、と恭弥は心の中でほっとした。

「学院にそれを伝えて、俺たちがなぜ知っているのか訊かれたらどう答える?」
「見たって言えばいいじゃない」
「エルナが言うには、普段人の寄りつかない場所みたいだった。なぜそんなところにいたのか訊かれたら?」
「それは……」
「学院に幽崎のことを話せば俺たちもとことん調べられる。土御門や九条に頼んでも同じだ。結局は俺たちに辿り着くことになるだろうな」

 既に幽崎のせいで学院からはマークされてる可能性だってあるのだ。下手に動くことはできない。

「幽崎はしばらく泳がせる。いずれは衝突するだろうが……その時は俺がきっちり潰しておく」

 そう言って、恭弥は今度こそ踵を返して立ち去るのだった。

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