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FILE-75 Competition of magic
【主催項目】
・魔術対抗戦(Competition of magic)。
【参加資格】
・学院に所属する生徒全員。
・助理教授以下の教師。
【対戦形式】
・1チーム5名の生き残り乱闘戦。
・創立魔道祭の開催期間7日の内、
3日間を運営が用意した専用のフィールドにて戦う。
【敗北条件】
・チーム全員の魔力結晶の喪失。
・チーム全員の戦闘続行不能。
・対戦相手の殺害。
【勝利条件】
・最後まで生き残った1チームを優勝とする。
・期間終了後に複数チームが生き残っていた場合、
所有する魔力結晶の最も多いチームを優勝とする。
※注意事項※
・部外者の参加は原則認められない。
ただし、参加者の魔術による召喚等であれば不問とする。
・チーム人数が不足または超過している場合は参加不可とする。
本大会は魔術による実戦闘を含みます。運営側も安全面には最大限配慮いたしますが、参加は自己責任でお願いします。
総合魔術学院理事長 ワイアット・カーラ 印
*** *** ***
休憩を挟み、一旦それぞれの寮に戻って支度を済ませた恭弥たちは、改めて部室である旧学棟へと集まっていた。
「全員揃ったわね? それじゃあ創立魔道祭に向けての会議を始めるわよ!」
いつものように教壇に立ったレティシアがいつものように調理器具に例えられそうな胸を張ってそう宣言した。
「まずは魔術対抗戦のルールについて、みんなはどう思う?」
レティシアは創立魔道祭のチラシの裏面を示しながら訊ねた。
「参加さえできれば、あとは殺しをしなければなにをしてもいいと捉えられるな」
恭弥がこの文面を見て最初に思った事はそれだ。禁止事項があまりにも少ない。別にそれが意外というわけではないのだが、正直に言えば、罠であるなら殺害も黙認するかと思っていた。
一応は公式の大会だ。ルール上では最低限記載しておく必要があったのだろう。
「殺されることがないのでしたら、ひとまずは安心じゃないですか?」
「寧ろ逆に恐ろしいですね。白愛嬢を不安にさせるようで申し訳ありませんが、世の中には殺された方がマシな場合も多々あります。死ななない程度の電流を延々と浴びせられたり、歯の神経にフッ酸をかけたり、拷問目的の〈ファラリスの雄牛〉などは絶対に経験したくありませんね」
全員分の紅茶を用意しながらアレクが涼しい顔で拷問方法を言い並べた。〈ファラリスの雄牛〉とは真鍮製の雄牛像の中に人を入れて時間をかけて焼き殺す古代ギリシャの拷問・処刑方法である。聞いた白愛は顔を真っ青にしていた。
「それに、もしこれがワイアット・カーラの仕掛けた罠なら向こうは優勝する必要がない。最初からこちらを殺す気で襲ってくるかもしれん」
「ていうか、間違いなく罠でしょこんなの。予選もなにもないのよ? しかも乱闘戦だから敵はどんだけ手勢を参加させてくるかわかったもんじゃないわ。一チーム五人だけど、実際それはこっちの人数を限定させて向こうは複数チームの大勢で踏み潰す気満々ってことなんじゃないの?」
レティシアの予想はまず外れないだろう。数の力は基本中の基本だ。恭弥が仕掛ける側だとしたら参加させるチームは討伐対象の倍は用意する。
土御門が首を傾げて唸った。
「そもそもなんで学院はこんな回りくどい真似して潰そうとするんだ? 目障りなら暗殺でもなんでもするんじゃないか?」
(非合法組織なら真っ先に考える手ね。この学院は世界的に認められているし、ワイアット・カーラの所属していた祓魔協会も正義を掲げる組織よ。相手が犯罪者ならともかく、私たちみたいな堅気に近い人間を『説明できる理由もなく潰す』ことは避けたいのだと思うわ)
それに恭弥たちは一度学院を救っている。その点も探偵部を直接襲撃しづらくしている要因だろう。
「腹の探り合いはつまらぬでござる」
アレクから紅茶を受け取った静流が唇を尖らせて不満を呈した。
「要するに師匠たちは大会に参加するのでござるか? それともしないのでござるか? ちなみに拙者は参加したいでござる!」
「まあ、静流さんはそうでしょうね」
こんな面白そうな勝負事が目の前にあるのだから、勝負中毒者の彼女に参加しないという選択肢はあり得ない。
結論を急かしてきた静流にレティシアは難しい顔をし――
「実際問題、慎重になった方がいいと思うわ。実は占いで選択を間違ったら破滅するような結果が出ているの。大会に参加するか否か、オズウェル理事長の協力を信じるか否か。既にその可能性がある選択肢が提示されているわ。みんなの意見を聞かせて」
全員の顔を見回しながらそう促した。
「俺とエルナは参加する方向で話はついている。オズウェル・メイザース個人は信用ならないが、奴の能力は信用できる。魔導書の解読は奴にさせた方がいい」
オズウェルの持っていた『創世の議事録』を見た感じ、恭弥たちが解読しようものなら年単位の時間を要しそうだった。既に解読済みであろうオズウェルに任せた方が圧倒的に速いことは間違いない。
「私は、参加しない方がいいかなって思います。その、やっぱり危険ですし」
「オレは大将たちに任せるぜ」
「拙者は参加したいでござる!」
「静流さんの意思はさっき聞いたわ」
一人テンションの上がってきている静流を冷たく流し、レティシアはポケットからお菓子を取り出してアレクに回収されていたフレリアを見る。
「フレリアさんは?」
「わたしですかー? んー、そうですねー」
フレリアはのんびりとした表情で少し考える。その間、手はアレクが奪ったお菓子に伸びていたが、掴むことは叶わなかった。
「わたしも参加するべきだと思いますー。現状、そうしないと先に進みません。ただ三日間も閉じ込められるのでしたらおやつがいっぱい必要ですねー」
「持たせませんよ。おやつは一日一回です」
「えーっ!? そのルールは五回に撤回することを要求します!?」
「はい、却下します♪」
笑顔で要請を跳ね除けられたフレリアは膨れっ面だった。
レティシアは溜息をつく。
「……はぁ、ごめんね九条さん。どうやら罠だって知ってて飛び込まないといけないみたい」
「いえ、仕方ないです。黒羽くんたちに協力すると危険が伴うって最初に聞かされたことですから」
苦笑する白愛は結局こうなるだろうと最初から予想していたようだ。
「じゃあ、探偵部は参加するということでいいわね?」
全員が頷く。
「まあ、あたしと恭弥と静流さんとアレクさんがいれば敵なんていないわね! もう何人だろうとかかって来いやって感じよね! うん!」
「レティシア嬢、無理やり気合を入れているところ恐縮ですが、私は参加できません」
「え?」
アレクから意外な言葉が飛んできてなんとか前向きに考えようとしていたレティシアは変な声を出した。
「私は生徒でも教師でもない、ただの執事でございます。大会の参加資格がありませんので、チームに入ることは認めていただけないかと」
同じ理由でエルナと、今は恭弥の中で熟睡中のアル=シャイターンもチームメンバーには数えられない。
だが、部外者の参戦には例外がある。
「わたしが参加してアレクを呼べばいいんじゃないですかー? 参加者の魔術で召喚するなら部外者も参加できるそうですしー」
フレリアがチラシの注意事項に書かれていた内容を読み上げた。
「フレリアさんって召喚術も使えるの?」
「いいえ、アレクが転移できるルーンを刻むことはできますのでー、それで誤魔化せませんかねー?」
「……限りなくグレーな気がするわね」
寧ろアウトな気もするが、一応はフレリアが術式を書くわけだから容認されるかもしれない。
「となるとチームメンバーは、あたしと恭弥と静流さんとフレリアさん……あと一人はチャラ男でいいかしら?」
「だな。白愛ちゃんに戦わせるわけにゃあいかんしね」
「すみません、足手纏いで……」
白愛の神道も場合によっては役に立つのだが、今回は本人の戦闘能力が特に要求される。その点はフレリアも心配ではあるが、彼女のルーン魔術と錬金術は最高クラスであるため合理的に考えなくても参戦させて損はない。
それに白愛は恭弥が巻き込んだ形でここにいる。できるだけ危険な目には合わせたくない。土御門は……もうなんかいいんじゃないかと思ってきた恭弥である。
「おいおい、まさかそんな雑魚をチームに入れんのかぁ?」
唐突に響いた、この場の誰でもない第三者の声。
全員が反射的に声のした方向に振り向くと、教室の床に不自然な影が水溜りのように広がっていた。
その中心から浮き上がってくる――白い金髪と赤い眼が目立つ男子生徒。
人を嘲ることに全力を注いでいるような狂楽的な笑み。
禍々しい魔力を全身から漂わせる悪魔の使い手。
「よぉ、数日ぶりだなぁ。会いたかったぜぇ、探偵部員の皆々様」
幽崎・F・クリストファーは、驚愕に硬直する探偵部員たち全員を愉快そうな目で見回しながら――
「そのチームの五人目、俺なんてどうだぁ?」
さらに驚愕の提案を申し出てきた。
・魔術対抗戦(Competition of magic)。
【参加資格】
・学院に所属する生徒全員。
・助理教授以下の教師。
【対戦形式】
・1チーム5名の生き残り乱闘戦。
・創立魔道祭の開催期間7日の内、
3日間を運営が用意した専用のフィールドにて戦う。
【敗北条件】
・チーム全員の魔力結晶の喪失。
・チーム全員の戦闘続行不能。
・対戦相手の殺害。
【勝利条件】
・最後まで生き残った1チームを優勝とする。
・期間終了後に複数チームが生き残っていた場合、
所有する魔力結晶の最も多いチームを優勝とする。
※注意事項※
・部外者の参加は原則認められない。
ただし、参加者の魔術による召喚等であれば不問とする。
・チーム人数が不足または超過している場合は参加不可とする。
本大会は魔術による実戦闘を含みます。運営側も安全面には最大限配慮いたしますが、参加は自己責任でお願いします。
総合魔術学院理事長 ワイアット・カーラ 印
*** *** ***
休憩を挟み、一旦それぞれの寮に戻って支度を済ませた恭弥たちは、改めて部室である旧学棟へと集まっていた。
「全員揃ったわね? それじゃあ創立魔道祭に向けての会議を始めるわよ!」
いつものように教壇に立ったレティシアがいつものように調理器具に例えられそうな胸を張ってそう宣言した。
「まずは魔術対抗戦のルールについて、みんなはどう思う?」
レティシアは創立魔道祭のチラシの裏面を示しながら訊ねた。
「参加さえできれば、あとは殺しをしなければなにをしてもいいと捉えられるな」
恭弥がこの文面を見て最初に思った事はそれだ。禁止事項があまりにも少ない。別にそれが意外というわけではないのだが、正直に言えば、罠であるなら殺害も黙認するかと思っていた。
一応は公式の大会だ。ルール上では最低限記載しておく必要があったのだろう。
「殺されることがないのでしたら、ひとまずは安心じゃないですか?」
「寧ろ逆に恐ろしいですね。白愛嬢を不安にさせるようで申し訳ありませんが、世の中には殺された方がマシな場合も多々あります。死ななない程度の電流を延々と浴びせられたり、歯の神経にフッ酸をかけたり、拷問目的の〈ファラリスの雄牛〉などは絶対に経験したくありませんね」
全員分の紅茶を用意しながらアレクが涼しい顔で拷問方法を言い並べた。〈ファラリスの雄牛〉とは真鍮製の雄牛像の中に人を入れて時間をかけて焼き殺す古代ギリシャの拷問・処刑方法である。聞いた白愛は顔を真っ青にしていた。
「それに、もしこれがワイアット・カーラの仕掛けた罠なら向こうは優勝する必要がない。最初からこちらを殺す気で襲ってくるかもしれん」
「ていうか、間違いなく罠でしょこんなの。予選もなにもないのよ? しかも乱闘戦だから敵はどんだけ手勢を参加させてくるかわかったもんじゃないわ。一チーム五人だけど、実際それはこっちの人数を限定させて向こうは複数チームの大勢で踏み潰す気満々ってことなんじゃないの?」
レティシアの予想はまず外れないだろう。数の力は基本中の基本だ。恭弥が仕掛ける側だとしたら参加させるチームは討伐対象の倍は用意する。
土御門が首を傾げて唸った。
「そもそもなんで学院はこんな回りくどい真似して潰そうとするんだ? 目障りなら暗殺でもなんでもするんじゃないか?」
(非合法組織なら真っ先に考える手ね。この学院は世界的に認められているし、ワイアット・カーラの所属していた祓魔協会も正義を掲げる組織よ。相手が犯罪者ならともかく、私たちみたいな堅気に近い人間を『説明できる理由もなく潰す』ことは避けたいのだと思うわ)
それに恭弥たちは一度学院を救っている。その点も探偵部を直接襲撃しづらくしている要因だろう。
「腹の探り合いはつまらぬでござる」
アレクから紅茶を受け取った静流が唇を尖らせて不満を呈した。
「要するに師匠たちは大会に参加するのでござるか? それともしないのでござるか? ちなみに拙者は参加したいでござる!」
「まあ、静流さんはそうでしょうね」
こんな面白そうな勝負事が目の前にあるのだから、勝負中毒者の彼女に参加しないという選択肢はあり得ない。
結論を急かしてきた静流にレティシアは難しい顔をし――
「実際問題、慎重になった方がいいと思うわ。実は占いで選択を間違ったら破滅するような結果が出ているの。大会に参加するか否か、オズウェル理事長の協力を信じるか否か。既にその可能性がある選択肢が提示されているわ。みんなの意見を聞かせて」
全員の顔を見回しながらそう促した。
「俺とエルナは参加する方向で話はついている。オズウェル・メイザース個人は信用ならないが、奴の能力は信用できる。魔導書の解読は奴にさせた方がいい」
オズウェルの持っていた『創世の議事録』を見た感じ、恭弥たちが解読しようものなら年単位の時間を要しそうだった。既に解読済みであろうオズウェルに任せた方が圧倒的に速いことは間違いない。
「私は、参加しない方がいいかなって思います。その、やっぱり危険ですし」
「オレは大将たちに任せるぜ」
「拙者は参加したいでござる!」
「静流さんの意思はさっき聞いたわ」
一人テンションの上がってきている静流を冷たく流し、レティシアはポケットからお菓子を取り出してアレクに回収されていたフレリアを見る。
「フレリアさんは?」
「わたしですかー? んー、そうですねー」
フレリアはのんびりとした表情で少し考える。その間、手はアレクが奪ったお菓子に伸びていたが、掴むことは叶わなかった。
「わたしも参加するべきだと思いますー。現状、そうしないと先に進みません。ただ三日間も閉じ込められるのでしたらおやつがいっぱい必要ですねー」
「持たせませんよ。おやつは一日一回です」
「えーっ!? そのルールは五回に撤回することを要求します!?」
「はい、却下します♪」
笑顔で要請を跳ね除けられたフレリアは膨れっ面だった。
レティシアは溜息をつく。
「……はぁ、ごめんね九条さん。どうやら罠だって知ってて飛び込まないといけないみたい」
「いえ、仕方ないです。黒羽くんたちに協力すると危険が伴うって最初に聞かされたことですから」
苦笑する白愛は結局こうなるだろうと最初から予想していたようだ。
「じゃあ、探偵部は参加するということでいいわね?」
全員が頷く。
「まあ、あたしと恭弥と静流さんとアレクさんがいれば敵なんていないわね! もう何人だろうとかかって来いやって感じよね! うん!」
「レティシア嬢、無理やり気合を入れているところ恐縮ですが、私は参加できません」
「え?」
アレクから意外な言葉が飛んできてなんとか前向きに考えようとしていたレティシアは変な声を出した。
「私は生徒でも教師でもない、ただの執事でございます。大会の参加資格がありませんので、チームに入ることは認めていただけないかと」
同じ理由でエルナと、今は恭弥の中で熟睡中のアル=シャイターンもチームメンバーには数えられない。
だが、部外者の参戦には例外がある。
「わたしが参加してアレクを呼べばいいんじゃないですかー? 参加者の魔術で召喚するなら部外者も参加できるそうですしー」
フレリアがチラシの注意事項に書かれていた内容を読み上げた。
「フレリアさんって召喚術も使えるの?」
「いいえ、アレクが転移できるルーンを刻むことはできますのでー、それで誤魔化せませんかねー?」
「……限りなくグレーな気がするわね」
寧ろアウトな気もするが、一応はフレリアが術式を書くわけだから容認されるかもしれない。
「となるとチームメンバーは、あたしと恭弥と静流さんとフレリアさん……あと一人はチャラ男でいいかしら?」
「だな。白愛ちゃんに戦わせるわけにゃあいかんしね」
「すみません、足手纏いで……」
白愛の神道も場合によっては役に立つのだが、今回は本人の戦闘能力が特に要求される。その点はフレリアも心配ではあるが、彼女のルーン魔術と錬金術は最高クラスであるため合理的に考えなくても参戦させて損はない。
それに白愛は恭弥が巻き込んだ形でここにいる。できるだけ危険な目には合わせたくない。土御門は……もうなんかいいんじゃないかと思ってきた恭弥である。
「おいおい、まさかそんな雑魚をチームに入れんのかぁ?」
唐突に響いた、この場の誰でもない第三者の声。
全員が反射的に声のした方向に振り向くと、教室の床に不自然な影が水溜りのように広がっていた。
その中心から浮き上がってくる――白い金髪と赤い眼が目立つ男子生徒。
人を嘲ることに全力を注いでいるような狂楽的な笑み。
禍々しい魔力を全身から漂わせる悪魔の使い手。
「よぉ、数日ぶりだなぁ。会いたかったぜぇ、探偵部員の皆々様」
幽崎・F・クリストファーは、驚愕に硬直する探偵部員たち全員を愉快そうな目で見回しながら――
「そのチームの五人目、俺なんてどうだぁ?」
さらに驚愕の提案を申し出てきた。
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