フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました

テトメト@2巻発売中!

異世界でサモナー始めました 4


「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「うっるさ・・・耳壊れるわ」

私が今まで生きてきた中でも一番の大絶叫を聞いた人影が迷惑そうな声をあげますが、これは仕方が無いと思うのです。
誰だって私と同じ状況になれば絶叫を上げるはずです。むしろお漏らししなかっただけ私は頑張りました。・・・実はちょっと危なかったのは内緒です。
それにしても急に現れて文句を言ってくるこの失礼な人は誰でしょう?声からしてたぶん私と同じ位か年下の女の子だと思うのですが・・・

「流石に光源ゼロだと暗視があってもキツイな・・・えっと、確か前買ったランタンだったかランプだったかがどこかにあったはず・・・あったあった」
「ひゃっ!」

侵入者が何かをブツブツ呟いていると思ったら急に部屋がピカってなって目がしばしばします。
うぅ・・・目を擦る事も出来ない身ではいっぱいまばたきをして早く目を慣らすしかありません・・・

「鉄格子と、壁に鎖で繋がれた手錠に足枷・・・ふん。軟禁レベルどころかバッチリ監禁じゃねーか。そしてあからさまに壁に掛かってるカギの束。まぁ、こういうときザル警備なのはお約束だよな」

侵入者は随分独り言の多い人みたいですね。
・・・そういえば昔聞いたことがあります。独りぼっちの生活が長いと独り言が多くなる傾向があるそうです。つまりこの侵入者さんはお友達が少ない・・・

「・・・どうしよう。何故か突然助ける気が無くなってきたぞ」
「わー!わー!ウソです!じょーだんです!お友達になりましょ・・・・う?」

女の勘か何かで私の心を読んだ侵入者さんが鉄格子を開けた段階で心変わりをしだしたので慌てて引き止めようと侵入者さんの方を見たら・・・キツネさんが居ました。
「最後のは何か違わないか・・・?」と呆れた表情をしているその女の子は、頭のてっぺんからぴょこんと生えた三角のお耳をしんなりさせてて、腰の辺りから生えてる尻尾はもふもふでふかふかそうです。
キツネさんが着ている服もすごく個性的で、基本は赤と青紫を基調とした和服のような物なのですが、上半身は袖が一杯余っているぐらいなのに、下半身はチャイナ服の様に深いスリットが入っていて、新雪の様に白い肌が目に眩しいです。
簪で結い上げられている長い黒髪もとても綺麗で、同じ女の子としてちょっと嫉妬しちゃうぐらいです。
そんな大人っぽいセクシーな格好をしているキツネさんですが、そのお顔は反対に子供っぽい感じで、それが小さな子供が精一杯背伸びをしてるみたいで可愛らしく・・・あれ?このキツネさんどこかであった気が・・・

「・・・あ!あなたは・・・!・・・えっと。あの・・・うんと・・・」
「あぁ。何故か俺だけ自己紹介が回って来なかったんだよな・・・ユウだ。よろしくなソラ」

この喋り方。間違いなく一緒に召喚された勇者の女の子です。ユウちゃんは俺っ娘な上にキツネ娘だったんですね。その上どこか幼い容姿でセクシーな格好をしてるってちょっと属性盛りすぎな気もしますが、顔に出したらまた見捨てられそうな気がするのでサッと下を向いたら「その格好じゃ握手も出来ないか・・・」と何かに納得して私の手と足の枷を外してくれました。

「あ、ありがとうございます・・・えっと、それで、あの。なんで、指輪が。助けて、どうして!」
「いや、ちょっと落ち着いて。深呼吸して。何言ってるかさっぱり分からないから」

助かった喜びや、今までの不安や、指輪の件の絶望や、キツネさんになってる困惑が一気にやってきてわちゃわちゃになってしまった私を、ユウちゃんは優しく肩を叩いて宥めてくれました。
ユウちゃんのアドバイスに従い、ゆっくりと深呼吸をしていると、急に地下室にぐぎゅる~と言う獣の唸り声の様な音が響き、ビックリして飛び上がった私はそれが自分のお腹の音だと気づいて恥ずかしさで真っ赤になってしまいました。

「分かりやすいお腹だな・・・」
「っ・・・!」

なんだか見慣れてきた呆れ顔のユウちゃんに指摘されて、顔だけじゃなくて体まで赤くなってきた私が両手でお腹を押さえても、一度鳴ったお腹の音を無かったと事には出来ません。
うぅ~、恥ずかしくて死んでしまいそうです・・・
・・・よく考えたら昨日の夜からなんにも食べてませんでした。さっきまでは不安で不安でそれどころじゃなかったけど、こうして1回安心してしまうと今まで全く感じなかった空腹感が一気に押し寄せてきて、お腹が切ないです。

「ほら、とりあえずこれでも食べとけ」
「わ・・・わっ!」

今お腹が空いたと言ってもユウちゃんを困らせるだけで、食べ物が出たりはしません。人間1日ご飯を食べなかったからってどうと言うことは無いので、我慢して空腹を忘れようとしている私の頭にユウちゃんが”何か”を置いて、コロリンと転がり落ちるそれを慌ててキャッチすると、それは真っ赤に熟れた美味しそうなリンゴでした。

「え?えっと・・・これは・・・」
「ちゃんとした食事は落ち着いた場所についてからだな。それともリンゴは嫌いか?」

ユウちゃんの問いに慌ててぶんぶんと首を横に振って答えると「まぁ、リンゴが嫌いなやつはそうそう居ないよな」と満足そうに頷いていました。
・・・でも、私が聞きたいのはなんでリンゴなのかじゃ無くって、どこから出てきたリンゴなのかだったのですが・・・ユウちゃんの着ている服でリンゴが入りそうなのは着物のお腹ぐらいですが、そんなところにリンゴが入っていたらお腹がぽっこりして外からでも丸分かりです。となると後リンゴを隠し持てそうなところは・・・

・・・なんだか気にしてはいけない気がしてきました。一応袖でリンゴをきゅっきゅと拭いてから食べる事にしましょう。

「っ!・・・あ、あみゃい。お、おいしいです!」
「それはよかった。んじゃ、食べながらでいいから聞いてくれ」

ユウちゃんがくれたリンゴはすっごく蜜が詰まっていて、そのまま齧るだけでも口の中に幸せな甘みがじゅわ~っと広がってきました。
これはこの世界のリンゴなのでしょうか。流石お城にあるリンゴですね。元の世界のリンゴにも勝るとも劣らない絶品です。

「俺、今日中にはこの城から出てくから」
「・・・え?」

「いや、俺もすぐに出て行く気は無かったんだけどな。何か面白いもの無いかな~って勇者行為家捜しをしたんだけど、宝物庫は空っぽだし、姫さんの部屋には碌なモンが無いし・・・まぁ、禄でもない物は大量にあったが。とにかくそうい訳で夜が明ける前には城を出る事にしたんだ」
「え?え?」

ユウちゃんが「クトゥルフかネクロニカのPLになった気分だったぜ・・・」とか呟いてますけど、私にはユウちゃんが何を言ってるのか良く分かりません。
家捜しして碌なものが無かったから出て行く・・・?ユウちゃんは泥棒さんなのでしょうか?でも、捕まってた私を助けてくれましたし、悪い人では無いと思うのですが・・・

「で?ソラはどうするんだ?」
「・・・え?」

「いや、「え?」じゃなくって。今回は偶々俺が助けたけど、ソラは姫さんに目を付けられてるだろ?んで、助けた俺は今から城を出ていくんだ。このまま城に残っても・・・まぁ、楽しい未来にはならないと思うぞ?」
「あ・・・」

そ、そうです!私は鑑定の能力で隷属の指輪の秘密を知ってしまったのがバレて、お姫さまに捕まっていたんでした!!
ど、どどどどうしましょう!?もし私が逃げ出したなんてバレたら・・・く、口封じに殺されたりしちゃうんでしょうか!?は、はわわわわ!

「ど、どうしよう・・・ユ、ユウちゃん、私どうしたらいいの!?」
「ユウちゃんて・・・まぁ、いいけどさ。ソラが取れる行動だろ?パッと思いつく感じでは3つぐらいかな・・・」

3つも!ユウちゃん凄いですっ!早く!早く教えて下さい!

「1つ目は他の勇者を頼ることだな。ソラ1人ならどうとでも出来る姫さんでも俺以外の3人の勇者全員を敵に回すことは・・・あ、指輪があるからダメか。この案はボツで」

い、いきなり3つの案の内1つ目がボツになりました!
どうしましょう・・・さっきまでは頼りがいのある雰囲気が出てたのに、急に不安になってきました・・・
・・・ん?あれ?私ユウちゃんに指輪の事話ましたっけ?んん?

「2つ目はソラが自力で逃げることだな。まぁ、姫さんの話を仮に信じるならばソラ達のステータスはこの世界では高い方らしいしなんとかなる―――」
「ムリですぅ!」

数時間前までどこにでもいるちょっと運動音痴な女子高生だった私に、全く知らない土地で国に追われながらの逃避行とか絶対にムリです!
すぐに捕まるか野垂れ死んでる姿しか想像できません!!

「じゃあ3つ目か。3つ目は俺と一緒に逃げる事だな。ここで会ったのも何かの縁・・・というか、クエストの強制効果のような気がするし、付いてくるぐらいならいいぞ」
「ちょっと何言ってるか分かんないです・・・」

相変わらずユウちゃんの行動原理に理解できない所がありますが・・・私にはもうユウちゃんしか頼れる人が居ません。このままお城に居ても何もいいことは無いのです。どうせ逃げるのならば1人より2人の方がいいに決まってます!

「あ、あの!」
「あー、本当なら好きなだけ悩んで決めてくれって言いたいところなんだが・・・どうやら邪魔が入ったみたいだな」

え?と思う間もなく、ガン!!と大きな音を立てて1つしかない扉が吹き飛ぶように開きました。
ビクンッ!と身を震わせた私が、咄嗟にユウちゃんの影に隠れながら覗いた先に立っていたのは・・・

「あらあら、邪魔だなんて酷いわねぇ。ただ、真夜中の逢瀬に私達も混ぜてもらいたいだけなのだけれど?」
「「「ブヒャヒャヒャヒャ!」」」
「ひぅっ!」

扉の向こう。光溢れる通路に立っていたのはお姫さまと3人の乱暴そうな男の人でした。
お姫さまに会ったのは、ステータスの説明をされた時以来でしたが・・・あの時とは全く印象が変わっています。綺麗な長い髪や整ったお顔は変わらないのに、そのお顔に浮かぶ表情は嗜虐的に歪められ、これから行なうナニカ・・・に対して酷く興奮しているようにも見えます。
お姫さまに付き従う3人の男の人はあの時部屋に居た騎士さんの中の人なのでしょうか?鎧を脱いで剣だけを腰にぶら下げた男の人達は、下卑た表情を隠そうともせずに私やユウちゃんの体をねっとりと舐める様に見つめてきます。
光の中に立ち、私達を見つめる4対の瞳に知らずに私の体はガクガクと震えだします。私の体を這いずる生理的嫌悪が、生存本能が、女の勘が一斉に今すぐ逃げろと警鐘を全力で鳴らしていますが、この部屋の唯一の出入り口をお姫さま達に塞がれている状態では、私より小さいユウちゃんの背中に隠れて震える事しか出来ません・・・

「逢瀬てお前、いらん誤解を招くような事言うなよな」
「いやいや、そんな事言ってる場合じゃないです!は、早く逃げないと・・・!」

「あら、私がこの場にいるのに逃げられると思って?」

クスクスと可笑しそうに手を口元に当てて笑うお姫さまの指が、キラリと光を反射して光ります。

「ぁ、あ・・・」

その光を見た瞬間逃走に掛けた一縷の希望すら最初から存在しなかった事を思い知りました。
お姫さまのつけている指輪と全く同じデザインの指輪。でも効果が正反対の指輪が、私とユウちゃんの指に嵌っています。

「”止まりなさい”」
「ぁ―――――――」

口の端を釣り上げて私の表情が絶望に変わって行くのを楽しんでいたお姫さまがその言葉を唱えた瞬間。
その言葉に反応する様に。いえ、反応したのでしょう。まるで私の体が私の物で無くなった様に一切動かなくなりました。

「ねぇ、知ってまして?スキルやステータスが高い者の子供は同じく優秀な子供が産まれる事がありますの。もっとも可能性はかなり低いですが・・・ほんの百人程子供を産めば1人は当たるでしょう。碌な戦闘技能の無いハズレ勇者でもそれぐらいは出来るでしょう?」

喋る事も視線を逸らす事も出来ない私の視界の中で、お姫さまと男の人達が下品に私達の事を嗤っています。
無力感と恐怖でじんわりと滲む視界がゆっくりと下にズレていきます。
体が倒れていると気づいても自分でバランスをとる事も出来ない私は、ユウちゃんの服を掴んでいた指すらもゆっくりと外れて重力に引かれるまま冷たい地面へと向けて落下していきます。
あぁ・・・ゴメンなさいユウちゃん。ユウちゃんは何もしてないのに私を助けたばっかりにこんなことに・・・ゴメンね・・・でもユウちゃんが助けに来てくれて私はすご~く嬉しかったんだよ。あぁ、神様。もしあなたが居るのであれば、私はどうなっても構いません。でも、こんな小さな体で頑張っている優しいユウちゃんだけはどうか。どうか助けてあげて・・・

「おっと。危ない。大丈夫か?」
「―――!?」
「「「「えっ!?」」」」

後は床まで真っ逆さまだと思っていた私の身体が途中で優しく受け止められました。
あいにく今は顔を上げる事も出来ませんが、この小さな手と優しい声は間違いなくユウちゃんです。あれ?でもユウちゃんも私と同じ指輪を付けていたはずなのにどうして・・・

「あ、あんた!なんで動けるのよ!」
「ん?あぁ、この指輪の事か?」

チンチリン・・・と何か硬い物が床に落ちた音がしたと思ったら下を向いている私の視界に小さな輪っかが転がってきました。
あ、あれ?これって指輪・・・隷属の指輪!?な、なんで外れて・・・

「どういうこと!?なんであんたに指輪が外せるの!?」
「はぁ・・・姫さんよ。1ついい言葉を教えてやろう。これは俺の世界では使い古された言葉なんだがな・・・」

そこまで言ったユウちゃんはやれやれと言った風に溜めを作ってからその言葉を言いました。

「”装備品はメニューから装備しないと意味がないぞ!”」
「「「「・・・はぃ?」」」」

えっと・・・ちょっと何言ってるか分かんないです(2回目)

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