フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました
フィアとユウのアトリエ2品目 にゃんこ薬
「できたーー!!」
今日も今日とてお客さんが来ず。静かな時を刻んでいたアトリエに俺の奇声が響き渡り窓辺で戯れいていた小鳥が一斉に飛び立っていった。
「・・・うるさいです」
「・・・それについては全面的に同意だけども調合が完成したらこう叫ぶようにって教えたのはフィアちゃんだよね?」
小鳥たちの他に唯一俺の叫びを聞いていた人物であるフィアちゃんが、膝の上に広げて読んでいた本から顔を上げて、ほんの少し唇を尖らせた不機嫌そうな顔で俺を睨んでくる。
そんな顔もかわいいなぁ。フィアちゃんの膝の本になりたい。
「・・・バカなことを考えている時の顔をしています。フィアの足を見ながら変なこと考えないでください」
「うん。その言い方だと俺が足フェチの変態みたいに聞こえるから止めようね」
「・・・」
フィアちゃんの無言の視線が違うとでも言うつもりですか、と威圧してくるが違うからね?俺は足フェチでもなければ庶民サンプルでもないからね?まぁ、触らせてくれるって言うならなでなでするけども。
「・・・ふぅ。それで、今度はどんな余計な物を作ったんですか」
「・・・フィアちゃんの方こそ余計な一言が多いよね・・・まぁいいや。俺が作ったのは・・・コイツだ!!」
ジャーン!と効果音が付きそうなポーズでフィアちゃんの前に取り出したのは薄いピンクの液体の入った瓶だ。
うんうん。我ながらいい出来だなな。
「・・・なんですかそれ・・・イチゴミルクですか?」
「へ?いや、ちが・・・そうだよ!おいしいから一口飲んでみて!!」
「・・・『鑑定』・・・鑑定結果にはにゃんこ薬と書いてあります」
「・・・にゃんこ薬って名前のイチゴミルクなんだよ(震え声)」
「・・・では、あなたが最初に一口飲んでください。それで何も無ければ頂きます」
「ちっ」
なんて勘のいい・・・せっかくフィアちゃんににゃんこ薬を飲ませるチャンスだったのに、俺が飲んだ後じゃないと飲みたくないとかさ。ん?それって・・・
「つまりは俺と間接キスがしたいという事か!ちょっと待ってて!今すぐイチゴミルク買って来るから!!」
「・・・いったい何をどうしたら、そんな思考に繋がるんですか・・・そもそも、あなたが作った謎の薬を毒見してくださいって話だったのに外で買ってきたイチゴミルクなら毒見の必要も無いじゃないですか・・・というか今それがイチゴミルクじゃないと自分で言ったことに気づいて無いんですか?」
「あ、・・・で、でも飲みやすい様にイチゴ味にしてあるし、美味しいから大丈夫だよ?」
「・・・おいしければ何でもいいと思ったら大間違いです」
せやな!子供じゃあるまいし、おいしいからって効果のよく分からない薬を飲むバカなんて居ないよな。
「むー、でも本当に優秀な薬ではあるんだよ?飲んだら猫のような俊敏性と柔軟性。隠密性を得られる薬なんだから」
「・・・そこだけ聞くと、とても優れた薬の様に聞こえますが、もちろんそれだけではないのですよね」
「もちこーす!薬の効果時間中にゃんこの耳としっぽがはえて語尾が~にゃになる・・・」
「・・・絶対飲みません」
「くっ!しまった!フィアちゃんはわんこ派だったか・・!!でもフィアちゃんはわんこよりもにゃんこの方が似合いそうなんだよなぁ・・・」
「・・・どちらにしても、フィアがその薬を飲むことはありませんのでしまっておいてください。むしろ捨ててきてください」
「それをすてるなんてとんでもない!ちゃんとしまっておくから飲みたくなったらいつでも言ってね!」
「・・・そんな日は一生来ないのでストレージの肥やしにでもしておいてください」
フィアちゃんは今日もツンツンだ。まぁ、そこが可愛いんだけどさ。
んじゃ、この薬はストレージに収納を、っとっと。
「とっとっとっとっとぉ!?」
「きゃっ!」
ストレージにしまおうと手にとったにゃんこ薬をうっかり落としそうになってしまい、慌てて落下中のビン掬い上げるようにキャッチしようとしたらポーンと真上に跳ね飛ばしちゃってそれをキャッチしようと何度もお手玉を続けるうちに偶然ビンの蓋が取れて中の液体がフィアちゃんに降り注いでしまった!
え、ちょっ!ヤバイ!確かにフィアちゃんに飲んでもらったら面白可愛いだろうなぁと思って用意したのは本当だけど無理やりぶっかけるつもりなんか微塵も無かったのに!
フィアちゃんに嫌われたら普通に死ねる!
フィアちゃんに絶対零度の瞳で見下されて罵られるとか・・・あれ?意外といいかも・・・じゃなくって!大嫌いとか、顔も見たくないとか言われたら心が死んでしまう!
ここは全力のDOGEZAで許しを請うしかない!!
「・・・」
「す、すみませんでしたー!わざとじゃなかったんです!ごめんなさい!許してください!!」
「・・・はぁ、まったく・・・あにゃたと言う人は・・・にゃんてことをしてくれたんですか。にゃ」
「ブフォ!」
俺は土下座の状態で頭を地面に付けたまま思わず吹き出してしまった。
だって「にゃ」って!あのいつも無表情で淡々と喋るフィアちゃんが「にゃ」って!や、やばい・・・!か、かわいすぎる!フィアちゃんは俺をキュン死させるつもりか!!
「・・・笑いましたね?フィアが怒っているのにあにゃたはフィアを笑いましたにゃ?」
「ボフゥ!」
や、やばい・・・破壊力がハンパない・・・!
これが所謂ギャップ萌えというやつか・・・!・・・ここが俺の墓場になるかもな・・・
「・・・土下座をしたまま体が痙攣してますにゃ。笑っているんですにゃ?あにゃたの所為でフィアがこうにゃっているのにフィアの事を嘲笑っているんですにゃ?そうにゃんですにゃ?」
ちゃ、ちゃうねん。体が震えているのはこの身の内からあふれ出る萌えの波動を必死で堪えているだけやねん。気を抜いたら奇声を上げながら床の上をゴロゴロ転がりそうになんねん。
「・・・はぁ・・・口言っても分からにゃいおバカさんには直接体に教えるしかにゃいようですにゃ」
「・・・くっ・・・ふっ・・・え、え?フィアちゃ、「・・・えい。にゃ」ぶふっ!」
フィアちゃんにとびかかって撫でくりまわさんとする萌えの衝動を、必死で抑える俺の涙で滲む視界に影が差したかと思った瞬間フィアちゃんの可愛らしい声と共に俺の頭が床へと押さえつけられた。
「・・・ふふ、嫌がるフィアに無理やり薬をぶっかけるようにゃ人にはその姿がお似合いです。にゃ。」
ふむ。状況から考えて俺の後頭部を、もみもみ。ぐりぐりしているスベスベの物体はストッキング装備のフィアちゃんのおみ足だろうな。
もともと頭を床につけていた事もありフィアちゃんのスタンピングによるダメージは殆ど無い。というかフィアちゃんちっちゃくて軽いからなぁ。勢いが付いていたならともかく普通に乗られたぐらいなら大して痛くも無い。むしろご褒美です。ありがとうございます。
「・・・ふふん。どうですか?フィアに謝る気ににゃりましたか?でもやめてあげません。フィアは怒っているのです。にゃ。」
あー、なんか興奮が一周回って逆に冷静になってきた。なんだか・・・というか明らかにフィアちゃんの様子おかしくない?飲用の薬をかぶって摂取した事の副作用なのか、羞恥心や怒り諸々が混ざった結果なのかフィアちゃんがあからさまに変なテンションになってるな。すごい饒舌だし。俺の頭を踏みしめながら演説するだなんて大胆な真似は素面のフィアちゃんじゃ絶対できないだろうしな。今も俺の頭の上でにゃーにゃー言ってるし。
これがたんに頭の中がこんがらがっているからなら、このままフィアちゃんが正気に戻るまで俺が踏まれ続けていればいいだけなんだが。むしろいいんだが。
薬の副作用だった場合はなんとかしないと・・・
・・・ ・・・ ・・・
「・・・あにゃたはいつもそうです。フィアの気持ちなんて1つも考えにゃいでいつもいつも・・・ん?ユウさん?にゃにを見て・・・んにゃ!?へ、変態!フィアが怒っているのにパ、パンチュを見ようとするにゃんて・・・信じられません!信じられにゃい変態さんです!にゃ!」
俺の頭を踏みつけようと足を伸ばしたフィアちゃんを下から見上げた俺の視界には可愛らしいおっきいにゃんことちっちゃいにゃんこが・・・フィアちゃん。やっぱりにゃんこ派だったんだね・・・
「・・・変態!へんた・・・あ、あれ?ユウ・・・さん?・・・!?ゆ、ユウさん血が!血が出てますにゃ!」
「・・・我が生涯に・・・一片の・・・悔い・・・無し・・・がくっ」
不思議・・・体が軽い・・・こんなしあわせな気持ちで眠るなんてはじめて。もうなにも怖くない!
「・・・ゆ、ユウさん!?ユウさーん!?」
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「はっ!?あ、あれ?ここは?にゃんこは!?」
ふと気がつくと定位置であるお日様の光が当たる机で目が覚めた。あ、あれ?俺いつの間に寝てたっけ?なにか幸せな夢を見ていたような気がするんだが・・・
「・・・何を寝ぼけた事を言っているんですか・・・寝言は永眠中に言ってください」
「いやそれ死んでるから!永眠してるのに寝言を呟くとか怖すぎるから!」
「・・・じゃあ、呟かないでください」
「黙って死ねと!?お、おーい。フィアちゃん?なんかいつもより言刃が鋭くない?そんなに俺の寝言うるさかった・・・?」
「・・・いえ、そんなにうるさくなかったですよ。例えるならば、うとうととまどろみ出した時に耳のすぐ傍で聞こえてきた蚊の音ぐらいうるさくなかったです」
「めちゃくちゃイラだっていらっしゃる!?」
え?何?俺どんな寝言を言ってたの!?逆に気になってきたんだけど!ていうかそこまで腹が立ったのなら起こしてくれればよかったのに!
と、思っていたらフィアちゃんにいつもの声で冗談です。と言われてそれ以降会話が止まってしまった。
・・・いつもは同じ部屋に一緒に居て無言でも特に気にしないけど、このタイミングでいきなり黙られるとちょっと気まずい。
えーと。何か話題。話題は・・・
「・・・あ、そうだ。俺が今作ろうとしている薬ににゃ「・・・絶対に飲みません」ん、こ薬って・・・さ、さいですか」
「・・・飲みませんし浴びません。わんこ薬でも同じです」
「お、おう」
発言に割り込んで拒否られた上に先回りをして拒否られた。にゃんこ薬になにか嫌な思い出でもあるのかね?俺のオリジナル薬だと思っていたんだが何事にも先達はいるらしい。残念。
「・・・でも・・・」
「ん?」
にゃんこ薬の服用をキッパリと拒否したフィアちゃんが手に持つ本で顔のした半分を隠しつつ、チラチラと俺の顔を窺いながら口を開く。
俺的には嫌がるフィアちゃんに無理やり薬を飲ませる気は無いんだが・・・残念そうな顔をしていたのを見られたのかもな。
まぁ、実際残念だと思っているんだけどな。
「・・・になら・・・」
「え?何だって?」
フィアちゃんの声がちっちゃくてかわいらしいのは今に始まったことじゃないし、大体は聞き取れるようになったんだが、流石に本で口元を隠されてぼそぼそと喋られたら殆ど聞き取れない。
「・・・ですから・・・あ、あなたがどうしてもと言うのなら・・・た、たまにならにゃんこ薬を飲んでも・・・いいです・・・にゃぁ。・・・うぅ・・・」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドサッ
「・・・ゆ、ユウさん!?ユウさーん!?」
真っ赤に赤面しつつ顔をそらしながらのにゃんこ語とか破壊力が高すぐる・・・
・・・どこか遠くからフィアちゃんの声で死ぬとか死なないとか聞こえてくる・・・
ははっ。何言ってんだ。俺がこんな事で死ぬはずないだろ?
目が覚めたら一緒にイチゴミルク飲もうな・・――――――――――――
~~フィアとユウのアトリエ2品目 ユウは二度死ぬ~~
《完》
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