E.P.O〜エルフのパパになった俺~

りょう

最終話桜咲いて笑顔咲く

最終話桜咲いて笑顔咲く
1
「扉を出したってことは、本当にお別れなんだな」

「はい…」

ごつい扉の目の前で俺達四人は向き合った。これで本当に最後になってしまう。いつか会えると言っても、いつになるかすら分からない。だから俺の本心は別れたくないのだけど、それを言ったらただの我が儘になってしまう。だから…。

「パパ」

「どうしたローナ」

「私ね…」

「うん」

「パパと出会えてよかった」

「っ!?」

ローナの言葉に不意打ちを打たれた俺の中に、急に愛おしさが込み上げてきた。

(ど、どうしよう…、急に別れたくなくなってきた)

「な、なあ二人共…」

「雄一君、それは駄目だよ」

思わずこの場で言うべきではない言葉を言おうとした俺を、千代が止めてくれた。

「私だって言いたいよ。でも…私達も大人にならなきゃ」

「そう…だよな」

我慢しなきゃ我慢を…。

「じゃあ私達、そろそろ行きますね」

そう言うとルシアは扉に手をかけて、ゆっくりと開け始めた。

「いよいよか…」

俺の中で色々な物が蘇ってくる。初めて出会ったとき、いきなり父親になってくれって言われて、仕方なく承認した俺は二人と生活を始めた。途中から千代も居候をはじめて、四人で仮の家族を作り上げて…。

(色々ありすぎだよこの三ヶ月)

こんなに内容の濃い夏休みは初めてだった。だからどれも印象が深くて…。

「それじゃあパパ、ママ。今までお世話になりました」

扉を開き終えたルシアがこちらに振り向く。

「こちらこそ、二人共元気でね」

「ママもお元気で」

千代は二人に挨拶を済ませる。後は俺だけ…。俺だけなのに…。

「パパ?」

どうして顔を上げられないんだよ。笑顔で見送りたいのに、どうしてだよ…。

「お願いですから顔をあげてくださいパパ」

「あげたいよ…だけど、この顔をあげたら…」

「もう、仕方がありませんね」

足音が近づく音がする。そして…。

「今度絶対に会いに来ますから。その時は…」

「え?」

ルシアが俺の耳元で囁いた言葉が気になって、思わず顔をあげてしまう。

「あ、ようやくあげてくれましたね」

「あ、謀ったなルシア」

「いつまでも上げないパパが悪いんですよ」

「ちくしょう」

このやりとりが面白かったのか、千代とルシアが同時に笑い出す。それに釣られて俺とルシアも笑い出す。

「あはは、パパは相変わらずですね」

「お前もな」

四人で沢山笑い、場の空気が和んだあと、なにも言わずにルシアとローナが俺達に背を向け、ずっと開かれていた扉と向き合った。

「元気でなルシア、ローナ」

「またいつでも遊びにきてね」

「はい!」

「うん」

俺達の声に答えはするが振り向かない。いや多分振り向けないんだろうな。だってあれだけ笑ったのに、また涙が溢れてきているのだから。

「それじゃあ行ってきます」

「行ってきます」

そして二人は扉の中に足を踏み入れた。もう声は届かないのかもしれない。届かないかもしれないけど、俺と千代は精一杯の声でこう言った。

『いってらっしゃい!』

2
あれからどれだけの春を迎えただろう。
俺は何度この桜を千代と二人で眺めたのだろう。
そして今年も桜は咲き乱れた

「相変わらず綺麗だよねこの桜」

「ああ」

家のベランダから見える桜を眺めながら千代が言う。今年彼女のお腹には新しい命が生まれていた。そう、俺達の子供だ。あの後俺達は結婚をし、今は居候ではなく正式に妻として俺の家に住んでいる。

「今年こそ会えるかな二人に」

「それは…分からない」

あれから二人から連絡がなくて、正直寂しい思いをしている。

(本当にいつ会えるのやら)

ピンポーン

一人ボケーとしていると、玄関のチャイムが鳴った。誰だろうか?

「ちょっとでてくる」

妊婦である千代を動かすわけにはいかないので、俺が玄関へ向かう。

「はーいどちら様ですか?」

靴を履いて扉を開ける。そこには…。

「ただいまですパパ」

「ただいま」

ずっと見たかった顔が二つ、そこに立っていた。

「え? お前達なんで…」

「どうしたの雄一く…ん」

遠くから玄関を覗き込んだ千代が当然のように言葉を失う。

「何でって約束したからじゃないですか。必ず帰ってくるって」

「そうだけど…突然過ぎて…」

「連絡しようにも手段がなかったんですよ。だから突然になってしまいすいません」

「いやいいんだよ…だって、またこうして会えたんだから」

「そうですよね」

俺は涙を我慢して二人を招き入れる。後ろで泣いている千代を無視して、俺は二人にずっと言いたかった言葉を最高の笑顔で伝える。

「ルシア、ローナ」

「はい」

「何?」

「おかえり」

E.P.O~エルフのパパになった俺~ 完

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