E.P.O〜エルフのパパになった俺~

りょう

第10話 その夢を叶えるために

 第10話 その夢を叶えるために
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「二年もあれば何か変わってるのかと思った。けれどあなたは何一つ変わってない! 怖い事から逃げて、現実から目を背けて、私からも拓君からも逃げて…どれだけ逃げればいいのよ!」
千代が怒鳴り声をあげたことによって、周りのカップルがざわつき始める。だけど彼女はそんなの気にもしていなかった。
「お前に何が分かるんだよ…」
「え?」
彼女が怒ったことに対して俺もそれに乗ってしまう。
「お前に何が分かるってんだよ!」
千代が言っていることは確かに間違っていない。けれど…。
「俺だってここに来る時はすごく悩んだ。仲間を捨ててまで叶えたい夢なのかって。けれど俺は決めたんだ、自分が選んだ道は決して踏み外さないって。たとえその選択が周りを傷つけたとしても」
「確かにあなたの医者になりたいって夢は、簡単に叶えられるものではないと私も分かってるよ。でもそれを言い訳にしてるのはどこの誰よ!」
「言い訳ってお前…」
反論しようとしたが、言葉が出なくなってしまう。微かだが、千代の目からは涙が流れていたからだ。
「私、決めてたの。雄一君が壁にぶつかってくじけそうになった時、絶対に側にいて支えてあげようって。それなのに、あの日別れを切り出されて、すごく辛かった」
それは俺も同じだった。千代や拓也に別れるのは辛かったし、こっちに来た頃は後悔もしていた。でもそれが自分の選んだ道だと決めて、今日までやって来れた。
「だからこうして再会できたのはすごく嬉しい。もう一度私にチャンスが回ってきてくれたんだって。二年間我慢してきたかいがあったんだって」
自分から電話してきたくせにと心では思ったが、口にはしない。
「お前の気持ちはよく分かったよ。けどな、俺にはお前ともう一度恋人になれる気がしないんだよ。茨の道を進むって決めたからには、引き返せないんだよ」
「……」
「せめて今だけは、俺に夢を打ち込める時間をくれ。家に居候したって構わない、でも今だけは俺に…」
「分かった」
「え?」
「今は雄一君が頑張れるために、我慢するよ。私も叶えたい夢がないわけでもないから、お互い夢を叶えられるまでは我慢する。だからせめて…」
少しの沈黙。俺は彼女の次の言葉を待つ。
「せめて…あなたのそばに居させて」
何かを決意したかのように、千代がこちらを真っ直ぐ見つめてくる。その視線に、一瞬心が揺らいでしまうが、すぐに立ち直す。
「分かったよ。ただし、あの姉妹の面倒も見てほしいんだ。俺は普段大学に行ってるから、結構心配してんだ」
「うん。分かった」
この選択が本当に正しいのかは不確かかもしれない。けれど、彼女が側にいてくれればきっと、その答えも分かってくるはずだ。
だから今はそれでいいんだ。
                                         続く

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