魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

最強狂乱劇 その③

 これは人間同士の戦いなのだろうか?
 僕は目の前の光景に、そう思わずにはいられなかった。
 人体を構成する、あらゆる部位を武器へ変換させる戦い。
 血飛沫は舞い上がり、削られた肉片が飛ぶ。
 ・・・・・・。
 不意に気がつく。
 『こう動けば、一撃が入るのに』だとか
 『あの動きはフェイントで本命は右』とか
 そんな事が思いついている。
 僕の魔法はこの戦いですら理解できてしまう。
 いや、両者の戦いにつられて、僕の魔法が引き上げられている。
 僕は、この戦いに順応している。
 今まで、わからなかった技、体の動きがわかってしまう。
 おそらく、たぶん・・・・・・
 今の僕なら、彼らと同じ動きができる。

 やがて無秩序だった戦いは、進化が一周した。
 掌を振るっていた両手には拳が握られている。
 軽く握られた左手は素早く突き出され、右手の強打が放たれる。
 まるで教科書通りのボクシング。
 ダッキング、スウェー、パーリング。ディフェンスも基本通り。
 これは、果たして、決着が着くのか?どうやれば、終わるのか?
 そんな疑問が僕の中で高まっていく。
 しかし、そんな疑問とは裏腹に決着はやってきた。
 軽く放ったように見えた播代浪のショートフック。
 それが天堂任のアゴを捕らえる。
 そのまま、天堂任は後方へ―――仰向けに倒れて動かなくなった。
 本当にあっけなく、この戦いは終わりを迎えてしまったのだ。

 播代浪は、そのまま座り込む。
 胡坐をかき、体を上下さすほどの激しい呼吸を繰り返している。
 全身から汗が湧き出て、体を濡らしている。
 そして、眼光は倒れている天堂任をにらみ続けている。
 そのまま、数分の時間が過ぎている。
 たぶん、このまま戦えば、僕は彼に勝てるだろう。
 けど、それはやってはいけない気がする。それは両者の戦いの冒涜になってしまう。
 だから、やるなら彼の体力が回復してからだ。
 フェアプレイ?スポーツマンシップ?
 いや、違う。
 僕もまた、播代浪対天堂任のような戦いをしてみたいと思っているからだ。
 やがて播代浪は立ち上がる。荒々しかった呼吸は、消えうせている。
 いや、よく見ると血が止まって―――傷が消えている!?
 体のダメージが回復している。
 人間か?こいつ?
 いや、戦いの最中、彼は魔法らしい魔法を使っていなかった。
 もしかしたら、回復魔法が彼の魔法なのかもしれない。
 というか、そうあってほしい。
 彼―――播代浪は名残惜しそうに天堂任から視線を外す。
 次に視線を僕へ向ける。
 そして―――

 「次はお前が相手するかい?」

 そう笑顔で問いかけてくる。まるで子供のような笑顔だった。

 「いや、もう少し・・・・・・」
 「ん?」と播代浪は僕の答えに疑問符を浮かべる。

 「貴方と戦えるようになるまで
 いや―――貴方に勝つまで、もう少しかかりそうですね」

 「そうか、そいつは良い。楽しみにしておこう。
 じゃまた。天堂任には、またやり合おうと伝えといてくれ」

 そう言い残すと播代浪は全裸のまま、列車から虚空の空間へ飛び出していった。



 「・・・・・・あの人。戦いに来ただけなんだ」
 

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