魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

列車で出発?

 「終わったらしいぞ」天堂任は携帯電話を手に、僕に向かって言う。
 宝田十三雄は捕縛されたそうだ。もはや、僕らが何かするわけでもなく、簡単に。
 「まぁ、長谷川氏の直属の兵隊だからな。タネの知れた魔法など、短時間で処理できるんだろ」
 「あれ?そう言えば長谷川さんは?どこに行ったのですか?」
 「お前さんが長々と自慢話を続けてる間に、いろいろと兵隊に指示を出してたが・・・・・・気がつかなかったのか?」
 「え?あぁ、全く」
 「ふっ、お前は、鋭いわりに鈍感なんだな」
 と、笑われた。けど、不思議と悪い気はしない。
 僕は、この人―――天堂任の事を嫌いではあるが、憎むとか、怨むとか、もう出来ないのだろう。
 少し前のように・・・・・・。

 「さて、それではお前はどうする?」
 「えっと?何がですか?」
 「宝田十三雄と会話して、現在の〈ニホン〉や我が娘の情報を仕入れとくか?それとも、即座に出発するか?だよ。」
 「そりゃ、真理の情報を仕入れると言うならついて行きますが、出発って言うのは何ですか?」
 「ん?そう言えば話の途中で宝田十三雄の攻撃を受けたから、言わず仕舞いになっていたな」

 そういえば、何か理由があって、僕の病室に着たんだったけ?

 「私は近々、〈ニホン〉へ帰る。そのついでに、お前もついてこないか?そう誘いに来てやったのだよ」

 え?えええ?

 「いやいや、え?貴方、〈日本〉に亡命してきたとか、なんとか。え?普通に帰れるんですか?」
 「はっはっは。面白い事を言う」
 天堂任は笑う。心底、面白いといった風に、ごく自然に笑っていた。
 そして―――
 笑ったまま言った。

 「これはリベンジ。復讐という名前の教育だよ。あるいは躾かな?
 ちょっとした反抗期の娘を誰が父親か、思い出せるように
 上から腕力でギュッとね?」

 天堂任は、まるで雑巾でも絞るよな動作をしてみせた。



 そこは最初の地。
 巨大な建造物の中にトンネルが存在している。
 長さは30キロ。最先端科学の結晶として作られたトンネル。
 だが、そこを走るものは新幹線といった列車の類ではない。
 車でもなく、まして人間でもない。
 そこを走るのは極小の物質である素粒子だ。
 ここは、かつて素粒子の衝突実験が行われてた場所。
 大型ハドロン衝突型加速器の内側に僕は立っている。

 自身の肉眼が空間の歪みが確認できる。
 この向こう側に存在しているのが〈ニホン〉。
 そう考えると胸の鼓動が高まっていく。
 いろんな感情が湧き上っている。
 これからの事を頭に巡らせても、なお未知への期待が心を疼かせる。
 いつまでも見ておきたいという欲求に支配させてしまう。
 それを断ち切ったのは背後からの汽笛であった。
 この場所を走るものは素粒子のみだったのは過去の事だ。
 そして、ここを走るものに列車の類が含まれていなかったのも、また―――過去であった。
 背後を振り向くと、無骨な鉄の塊が止まっていた。
 ただ、人を乗せて走るための機能以外を全て排除させた鉄がそこある。
 その形状は、昔、テレビでみたSLにどことなく近い印象を受ける。
 名前はないらしい。開発時のコードネームは存在しているらしが、名前すらも不要とされるそれをなんと呼べばいいのだろうか?
 列車とすら呼んでも良いのか、わからないが、形式上で列車と呼ぶことにした。
 列車から人が降りてくる。そのシルエットから、それが天堂任である事がわかる。
 「準備はできているか?」と問う天堂任に「もちろん」と返し、僕は列車へと乗り込んだ。

 列車の外装は無骨であったが、内装は反するように贅を尽くした装飾が施されていた。
  床は土足にもかかわらず絨毯が敷かれている。
 外が見えるように作られた窓の左右を飾るカーテンは、派手な朱色であるが、どこか上品さを醸し出しており、嫌味に見えない。
 上を見ると室内を照らすシャンデリアが規則正しく並んでいる。
 椅子に座り込む。すると体の構造を知り尽くしているかのように自然とフィットする作りになっていた

 考えてみれば、この乗り物を利用し、〈日本〉の外交官達が〈ニホン〉へと向かうのだ。
 時には権力者や時代の寵児と言われる人間たちも利用するだろう。
 けど、僕にとってはどうだろう?
 身の丈に会わない豪華さ。豪華であることが不安感を募らせる。
 快適さを追求され、目に見えぬ工夫を積み重ねられている、この空間に感じられる居心地の悪さ。
 僕の中には、逆にストレスが溜まっていく。
 にもかかわらず、天堂任は僕の正面の席に陣取り、慣れた様子でくつろぎ始めた。
 いつの間にか、両手に葉巻とワイングラスを持っている。
 「どうした?くつろげよ」
 今の僕には無理な相談だ。

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