魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

拳撃劇

 宝田十三雄。
 まるで戦士という言葉を具現化したかのような風貌。
 恵まれた体型に研磨された筋肉。見る者を射抜くが如く鋭い眼光。
 どこか、荒々しさを内包させていて、近寄りづらい威圧感を醸し出している。
 それらの立ち振る舞いから、明確な敵意が見て取れる。
 彼はそうやって自己紹介を行っているのだ。
 自分は敵だ・・・・・・と。
 こんな男が、どうして室内にいた事に気がつかなかったのか?
 何か魔法による効果か? 僕はそう警戒心を強めていく。
 この瞬間、間違いなく宝田十三雄と言う男に神経を集中させていたはずだ。
 だが、気がつかなかった。
 気がついた時には、すでに宝田十三雄が攻撃されていた。

 攻撃者は意外にも長谷川さんだった。
 一体、いつの間に間合いを詰めたのか?
 まるで瞬間移動のように宝田十三雄との距離を縮め、攻撃の射程距離へ侵入。
 鋭い前蹴りが宝田十三雄のストマック(消化器官)を打ち貫く。
 その威力から、一蹴りで宝田十三雄の体を壁際まで押し込んだ。
 さらに追撃を振るわんと間合いを詰める長谷川さん。壁際で向かい撃たんとする宝田十三雄。
 互いに攻撃可能な間合いへと距離が縮まる。
 先に動いたのは宝田十三雄。
 右ストレートの拳撃が長谷川さんに猛威を振るう。
 それを長谷川さんは体を捻りながら避け、同時に間合いを更に詰める。
 不意に長谷川さんの動きが止まる。
 体を捻りながら回避運動の最中であったためか、長谷川さんは完全に無防備。
 宝田十三雄に対して、背中を向けた状態で停止する。
 だがしかし―――
 拳撃での戦いでは、相手に背中を向ける状態が多々ある。
 多くの格闘技は、戦いの最中に背を向ける相手を想定したセオリーがほぼ存在しない。
 当たり前だ。相手に自ら弱点を晒す行為なのだからだ。
 だが、その一方で、背を向けた状態からの攻撃が格闘技には存在するのだ。
 格闘技のセオリーに存在しない動き。
 それによって『意を外す』や『虚を突く』と表現される動きを行う。
 例えば、バックハンドブロー、ローリングエルボー、ローリングソバット、後ろ回し蹴り。
 無論、それらは回転力と遠心力を兼ね揃える事で強烈は破壊力を持つ技になるのであり、今の長谷川さんの状態に合ってはいない。
 ならば、おそらく、本命は急所蹴り。
 相手に背を向けた状態から後方へ向け、踵などで相手の急所を蹴り上げる技だ。
 それは、宝田十三雄も十分に理解しているのだろう。
 下半身の構えを内股気味へ両足を寄せる。
 これによって自身の内ももに押され、睾丸の位置が後方へ移動。正面から蹴りの備えられる。
 さらには、内股により、真下からの蹴りの軌道が通らなくなるのだ。
 長谷川さんが背後を向いた瞬間から、1秒に満たない時間で判断を終え、宝田十三雄は攻撃に備える。
 そして、宝田十三雄も自らの攻撃の意思を固めた。つまりは無防備な相手への攻撃を。
 

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