魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

白紙

 『黒服の代表者』
 そう名乗る老紳士は、自分の名前は名乗らない。
 ベットに横たわる僕を見ているだけだ。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 無駄に沈黙だけが流れる。
 観察されているのかと、老紳士の目を覗き込む、瞳に映し出されているものは虚無。 
 僕を見ているように見えて、何も見ていない。どこも見ていない。
 本当に人間なのか?この人は?
 まるで機械。ロボットのように、人間的な感情が伝わってこない。
 この人物が放っている無機質な非人間性が怖い。
 けれども、いない者として扱うわけにもいかない。
 このままでは埒が明かない。
 とりあえず「どういうご用件で?」と声を出した。
 すると―――
 老紳士の目に光が宿る。まるで音声に反応して起動したかのようだ。
 機械だ。ロボットだと喩えてみたが―――案外、ひょっとすると本当にそういう存在なのかもしれない。
 最も、あくまで印象であり、何が「そういう存在」なのか聞かれても答えはないのだけれども・・・・・・。
 「これはこれは失礼を」
 僅かなタイムラグの直後、老紳士は言葉を発する。
 そして―――
 老紳士の腰を90度曲げ、最上系の謝罪を行った。
 自分よりはるかに目上の男性に謝られる。僕の人生初の出来事であり、意外なほどに強いプレッシャーが圧し掛かってくる。
 「いえ、あっと」と僕の口からは、しどろもどろな言葉しか出てこない。
 そんな僕を老紳士はどう見たのだろうか?
 彼は、曲げた腰を真っ直ぐに伸ばし、綺麗な立ち姿へ戻っている。
 安定して、一定状態から変わらない、彼の様から彼の内面を読み解く事は不可能であった。
 しばらくの間があって―――

 「さて、私の名前は長谷川功丞はせがわこうじょうと言います」
 「はぁ、僕は天王寺類です」

 老紳士、長谷川功丞は自己紹介は行った。
 反射的に自分の名前を言ってしまったが、この人は僕の上司になるわけで・・・・・・
 僕のプロフィールなんて、知っているのだろう。それに気づいたのは言った後からだった。

 「それで、長谷川さん、僕に一体、どういうご用件なのでしょうか?」
 「そうですな。簡単に言いましょう」と前置き。その直後の長谷川さんの言葉は
 「貴方と我々、黒服が交わした契約なのですが、残念ながら白紙になりました」

 「・・・・・・え?」

 僕の頭も白紙になってしまった。

 

 

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く