魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

VS空飛ぶ魔法少女

 反応が遅れた。
 コンカの動きがノーモーションだったからだ。
 攻撃が・・・・・・ ではない。彼女の体は宙に浮かび上がっている。
 そして、前進してくる動き、そのものがノーモーションだったのだ。
 一瞬で間合いを詰めた彼女は、側転のように横回転を行う。無論、これもノーモーションだ。

 ハイキックが来る。

 全ての動作がノーモーションという未知の動きながら、攻撃に当りをつけ、頭部をガードする。
 衝撃。
 ガードしたにもかかわらず、僕の体は衝撃に耐え切れず、横回転するが如く地面に叩きつけられた。
 何とか体を捻り、側頭部から叩きつけられるのは防いだ。
 しかし、今の僕は地面にうつ伏せ状態。無防備な背中に追撃を受ければ、それで勝負はついてしまう。
 上から圧を感じ、僕は彼女から離れるよう体を回転させる。
 それを追ってフットスタンプが連続で落ちてくる。

 ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ

 低い音を響かせ、地面が揺さぶられる。 
 その威力はまるで爆撃。爆音と共に道路がひび割れ、砕けていく。
 「ひぃ」と短い悲鳴をあげ、より速く、地面を転がって逃げる。
 何とか、間合いが開いた所で立ち上がろうとした。
 その時、普段の癖で右手をついて立ち上がろうとして、少し滑ってしまった。
 気づかれたか?
 初弾のハイを受けた時、まるで刃物で切り落とされたように鋭い痛みが走り、右手から感覚が失われてしまったのだ。
 恐れく、回復するまで2、3分。
 ボクシングなどの格闘技で1Rを片手で防げと言われたら、どれだけ絶望的なダメージか理解できるだろう。
 一撃でこのダメージ。 早くも全力で来いと言ったことを後悔し始めていた。
 再び、コンカは空中のホバリングした状態で向かってくる。

 「仕方がない。術を使うか」

 僕は高速で突っ込んでくる彼女に対して、大きく踏み込んだ。
 コンマ1秒後。
 吹き飛んでいたのはコンカの方だった。
 不思議そうな顔を浮かべながらも素早く立ち上がった彼女は、やり直すように再び突っ込んでくる。
 そんな彼女を僕は再び、吹き飛ばした。

 「ふえぇ?おにいちゃん、何をやったの?前に向かって来ると思って、急ブレーキかけたら姿が消えてて・・・・・・」

 「教えないよ。割と単純な術だからな」

 そう言いながら、気づかれないように右手の調子を確認する。完全に使えるようになるまで、もう少しか。

 「じゃ、いいよ。自分で確かめるから」

 もう少し、会話を引き伸ばして時間稼ぎをすればよかった。
 既にコンカは距離を取り、三度目の激突を行おうとしている。
 そして、加速。そして、衝突の瞬間。
 コンカの動きが変化した。
 僕を迂回するように移動し、真横につける。

 「なるほど、なるほど。衝突の直前に大きく踏み込んでるように見せて、実は下がってると。目の錯覚を利用してるんだね」

 「もう、バレちゃったか」

 武道武術の達人芸だぞ、これ。
 一度、横から見るだけで理解するとは、恐ろしい才能だ。
 これはタネがバレたら次は通じないか。  
 コンカは僕の真横で回転を始める。宙に浮きながら、摩擦がない状態での横回転。
 そのまま、彼女の前腕が僕の喉元へ襲いかかってくる。

 いわゆるラリアット。

 僕は後方に飛びながら、彼女の腕に体を絡みつかせ、飛びつき腕十字を仕掛ける。
 だが、極らない。
 彼女の回転は、僕がしがみついても減速しない。
 そして、僕には回転による遠心力で、とんでもないGがかかる。
 凄まじい回転で、視点が巡り巡る中、近くの電信柱に近づいているのが分かった。
 まさか叩きつけるのか? このスピードで?
 慌てて、両手を離すと遠心力の勢いで体が投げ飛ばされる。

 何とか着地に成功するが、目が回ってうまく立ち上がれない。
 ヤバイッ そう思っていたが、目が回ってるのはコンカも同じようだった。
 2人ともうまく立ち上がれず、フラフラしている。
 何とか、立ち上がり、両者対峙する。
 次は何を出す?  どう防ぐ?
 いつの間にか僕は笑っていた。
 コンカも自分が笑ってるのは知ってるのだろうか?
 思う存分、遠慮なく技を振るえるなんて何時ぶりだろう。
 楽しくて、楽しくて、たまらない。 

 そして、右腕を確認すると十分に回復したようだ。
 

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