The Aquarium of PotatoFish and memories

ノコギリギリギリ

Ⅲ.Closing of mankind that son of ZIZ

「この様な少年を見なかったか」
 黒い墨で模様の書かれた御札を額に貼ったそいつはトビラを開けるなり、驚く程似ていないピノキオの似顔絵を突き出してそう言い放った。
「あー、ピノキオか。昨日あたり見たがどちらさん?」
「申し訳ない、僕はこういうものだ」
 この世界で珍しく、この御札野郎は簡単な自己紹介の書かれた紙切れ(これをニンゲンはメイシと呼んでいたそうだ)を持ち歩いているようで、それを説明の代わりに渡された。もちろん彼らの言語で書かれているため、読めるわけがない。引きつった笑顔でありがた迷惑なメイシを受け取る。「ど、どうも……」
「それで、少年はどちらに向かいましたか」
「どっちだったかなぁ……。オアシスの魔女が指差してたんだけど。日の昇る方角だったっけ?」
「……」
 昇るか、沈むか。動作そのものはほとんど同じようなものだが、方角となると話は別で、正反対の方向に行ってしまう。
「どっちだっけなぁ……」
 本気で考え込んでいると、後ろから小石が飛んできた。心の底から思うが、ポテトフィッシュのどこに、あれだけの距離、小石を飛ばす力があるのだろう。昨日の技然り、なんて器用な魚なのだろう。
「いてぇな!」
 後ろを向き、水槽に投げ返すと当たり前だが中には入らず、外のガラスに当たって落ちる。しかし、そのおかげで気分が晴れたのか、記憶のもやが引いていくように昨日の風景を思い出した。
 日の沈む方角だ。
「日の沈む方角に――ぬぁ!」
 向き直るとそこには鳥だらけの御札男がおり、私の声に驚いたのか、一部の鳥たちが一斉に飛び立った。
「失礼、鳥を集めやすい体質なもので」
「は、はぁ……?」
 白々しい返事になってしまう。「それより、彼は確か太陽の沈む方向に向かいました。砂の流れでどこに流されてるかは解りませんが」

「ありがとう。」
 そいつは回れ右をすると、腕を羽ばたかせながら(なんとそでから覗くのは大型の鳥の羽そのものだ)砂漠の海を走ったかと思いきやそのまま離陸、飛んでいってしまった。
「オアシスの魔女と事故るな、こりゃ」
 ほとんど姿の見えない速さで飛び去っていくそいつに私はなんと予言してしまったわけである。

 *

 翌日、目を回したそいつと同じく目を回したオアシスの魔女を吊り上げたのは言うまでもない。
 この広い大空で事故が発生する確率はいかほどのものか。それこそ気が遠くなるくらいの低確率だろうにどうしてこいつらは事故を起こすのか。アホなのだろうか。
「お前が来てから変なこと続きだよ……」
 その面倒事を引き付けているであろうポテトフィッシュに言ってやるが奴は呆け面でどこかへ泳いでいってしまう。
「魚を多めに釣っとこう」
 どうせ暇なのだから。

 大きな魚二匹と小さい魚五匹と、ピノキオが一匹釣れた。最後の奴は置いといて、結果としてはいいのではないかと思う。
「お前らは何なんだよ……。本当によぉ……」
 綺麗に厄介者が勢ぞろいしてしまった。
「オアシスの魔女はなんで脱走してるんだよ。オアシスに帰れ!」
「ひどいのう。せっかくるオアシスから会いに来たというのにのう」
 誰が来いなんていった、脱走なんて滅多にするものじゃないはずだ。
「キノコが食われたのだ」もうあのゴミの塔で移動しろよ。
「それよりピノキオ探してたんだろ、釣り上げたぞ」
 と言った時にはもうすでに、御札男は巨大な鳥となってピノキオが連れて歩いたゴミの塔にひも紐をくくりつけ、腕力だけで飛ぼうとしていた。
「出来るのかよ」

 数日、珍しく雨が降り続いた。

 ピノキオ曰く、雨が降るときは鳥人がゴミを捨てている真っ只中なのだという。その間、日が陰りやすく雨が降るのだという。、
「鳥人は大きな鳥だ。ニンゲンはジズって呼んでた。大きくて、優しい鳥。ジズに手を出さなければニンゲンは今だっていられただろうに」

 *

 ニンゲンは興味本位で不祥事を起こしすぎなのだ。
 よく言えば、賢くなりすぎた。悪く言えば、目先のことしか考えられない。
 長くてニンゲンは百前後しか生きられないという。それに対して私の家の寿命は倍近く。目先のことしか考えていないから身を滅ぼす。
 それを身をもって痛感したというのに学習するべきニンゲンがもうとっくの昔に絶滅してしまったとは、なんという皮肉だろうか。
 間の悪いところも、実にニンゲンらしい。



 雨がやんで、次の日、空に視界いっぱいの虹が掛かる中、鳥人は空から降ってきた。
 何故か外に出ていたポテトフィッシュが鳥人を庭の騎士まで運んでおり、しかし数日前とは明らかに養子が違う。
「……!」
 服は焦げてるし、あちこちの羽が抜けている。脚と首の後ろには紐の痕が痛々しく残っており、それどころか色も変わっている。
「しっかりしろ!」
「……」
 目こそ少し開いてるが答えやしない。何をどうすればいいのか全くわかないが、とりあえず、休ませよう。死ぬことはないだろうが、脚と首の色が変色してるのが一番やばい。危険だ。
「……はは、は」
 鳥人の力ない笑い声が耳に届く。
「ニンゲンは死にました……、僕だっていずれ死ぬんです――ニンゲンの血が入ってるんですから……」
 ニンゲンが死んだからって鳥人が死ぬ理由にはならない。
「この世界はお前がいるからこそ成り立ってる部分もあるんだ、代わりなら何人でもいるなんて思うなよ」

「魔術は万能じゃないのじゃ。可能性を広げるだけの通過地点に過ぎぬ」
 こういうときこそ魔女の出番であるはずだ。
「薬も魔術も、全てが可能性なのじゃ。使っても使わなくても結末は一つなのじゃ」
「死ぬのを見てろってことか」
「死にやしない、自然の回復力は偉大なのじゃ」
「……」

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