絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第三百二十一話 Moon god in mythology

 インフィニティが闊歩する。
 大地が割れて、ビルが破壊され、混沌と化した世界を、闊歩する。
 崇人は泣いていた。悔しかった。悲しかった。嫌だった。
 自分がどうしてこんなことになってしまったのか――考えると悲しくて仕方なかった。

「なあ、僕は……僕はどうすればいい? 僕はどうすればいいんだよ……」

 インフィニティの中で、彼は呟く。

『……解りません』

 フロネシスは彼の言葉に反応して答える。
 しかし、そんなことを言っても彼の感情が変わるわけでも無い。
 感情論に任せて言葉を並べることは、一番論理的ではないのだから。

「僕は解らないんだよ、どうすればいいのか。僕は何をすればいい?」
『……私には人間の行動が考えられません。私は人工知能です。ただの存在でしかありません。ですから、あなたの道を進めばいいと思います。私は、それに従いますから』
「ハハ、まさか人工知能に慰められる日が来るとはね……。思いもしなかったよ」

 崇人は笑う。
 それは諦観も含めているのかもしれない。
 インフィニティは動く。
 壊れてしまった世界を、見つめるために。


 ◇◇◇


 フィアットは笑っていた。
 笑い狂っていた、の方が正しいかもしれない。

「あはははははははは! はははははは! 面白い、面白いよ! ここまで、僕の考えている計画の通りに進んでいるなんて!」
「そうですね。流石だと思います」

 クライムはフィアットに紅茶を渡す。
 紅茶の入ったカップを受け取ったフィアットは、一口啜った。

「……美味い」
「褒めて頂いて、光栄です」

 クライムは頭を下げて、言った。
 フィアットは微笑みながら階下を眺める。
 その光景は、彼にとって一番素晴らしいと思える光景だったのかもしれない。
 彼が望んだ結果、彼が欲しいと思った結果。
 それがこの景色であった……のだろうか?

「何か、違うな。このまま計画の終わりに進行する? いいや、違う。何か段階が残されていたはずだ……」

 フィアットはぶつぶつと呟く。
 クライムは計画の全容まで理解していないので、その言葉には何も賛同できなかった。
 こういう時はただ無言で対応を待つしかない。
 そういうことは、解り切っていた。

「何が、何が違うんだ……。考えろ、考えるんだ、自分……。きっと何か、間違っているのが露見されているはずだ。露呈している、と言ってもいいかもしれないが、どちらにせよ、それを見つけなくてはいけない……!」
「あの、一つよろしいでしょうか」

 もう埒が明かないと思ったのだろう。クライムが悩むフィアットに言った。
 フィアットは首を傾げつつ、クライムの方を向いた。

「どうした、クライム? 何かあったか?」
「いえ、一つ気になることがありまして。思ったのですよ。あなたが考えた計画は完璧であると。完璧であるからこそ、欠陥などあり得ない……と」
「そうだ。その通りだ。それの何がおかしい」
「別に私はおかしいなどとは言っていませんよ」

 微笑み、話を続けるクライム。

「ただ、私は気になっていると言いたいのです。あなたの計画は間違っていない。ならば、仮定が間違っていたのではないでしょうか? 計画で行われる、最終的な結果……そこまでの段階が、何らかのピースが混ざってしまったことで、失敗してしまったのではないでしょうか」
「失敗、だと?」
「ええ」

 クライムの言葉は止まらない。

「失敗、と言うのは言い過ぎだったかもしれません。ですが、それに近い状態が起きたのではないでしょうか。失敗は成功の母、とはよく言ったものですが……そうであっても、この計画に失敗は許されないのでしょう。そしていつしか、『失敗を失敗としなくなった』。私は、そう思うのですよ」

 フィアットは何も言わなかった。
 ただクライムを見つめていただけだった。その表情は悔しさよりも怒りの方が優っているようにも見える。

「気分を害したようであるならば、申し訳ありません。ですが、私は仕方ないと思います。あなたが間違えるのですから、私が一目見ただけで解るはずがありません」
「僕が、無意識に、失敗を改竄した。しかし、その結果と理想のずれが大きくなったから、それが結果として失敗と化した……そう言いたいのか?」
「残念ながら、今はそう言うしかありませんね」

 少しだけ、冷たく言い放った。
 そして、その『失敗』により、彼らは気付けなかった。
 『シリーズ』が考えている――計画の一段階に。


 ◇◇◇


 その頃、ヴィエンスはあるものを見つけていた。
 空から降りてくる、何かを。

「ものすごいスピードで落下してくる物体を確認! 何だ、あれは!?」

 レーダーがとらえたのは、最初、『物体』という括りだけだった。
 それから数秒後。
 その物体が、歪な人型であることを確認した。

「何だ、モノじゃない……! 人、か!?」
『そんなことは有り得ません! あれ程の速さで落ちてくるのならば、とっくに燃え尽きているはずです!!』

 言ったのはハルだった。

「じゃあ、何だって言うんだよ! あれは、人じゃない……としたら!」

 共通認識。
 二人の認識が一致した。


 ――リリーファーである、と。




 その頃それを崇人も目撃していた。
 最初隕石のようにも見えたそれは、徐々に人の形を為しているものだと判明する。

『あれはどうやら、リリーファーのようですね。レーダーにもそう確認されています』
「リリーファーが、空を飛んでいるのか?」
『いいえ、おそらくそのまま落下しているものかと』

 落下。
 フロネシスはそう言った。
 しかし、そのスピードを出せる程の場所、その高さはどれくらいなのだろうか?

「もしかして、月から来たのか?」
『宇宙から自由落下している可能性は充分に有り得ます。なぜなら、炎に包まれているからです。ですが、その機体は溶けていませんし、中に居る起動従士の生命反応も確認されています。相当、熱を伝えにくいのかもしれませんね』

 冷静に分析を進めるフロネシス。
 敵か味方か。
 そのリリーファーを、起動従士を、信じてもいいのだろうか。
 今の彼には、未だ解らなかった。



 帽子屋は白の部屋でモニターを見ていた。

「やっと来たか。これで段階は整ったと言えるだろう。僕も救われるよ」
「ほんとうにそう思っているのか?」

 言ったのはハンプティ・ダンプティだった。
 ハンプティ・ダンプティは話を続ける。

「君の計画がここまで滞りなく進行したことはすごいことだよ。尊敬に値する。だが、さすがにこれからは厳しいだろう。インフィニティだけではない、あのリリーファーも関わってくるのだから」
「そうだとしても、計画の大筋が変わることは無いよ。結果は、もう変わらない。最終段階まで、来たのだからね」

 帽子屋は呟いて、モニターを再度眺めた。
 モニターの視点が変更される。
 炎の塊。その中身はリリーファーだった。
 白い躯体のリリーファー。それはまるで月のようにも見えた。

「ツクヨミ、か」

 帽子屋はそのリリーファーの名前をぽつりと小さく呟いた。

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