絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第三百十六話 新次元戦闘(前編)

 インフィニティ。
 かつては最強と謳われた、伝説のリリーファー。その火力も、エネルギーも、計り知れない。
 それが今、目の前に君臨していた。

「……マーズを餌にすれば、必ずや訪れると思っていたよ。人間はこういう感情に甘いからねぇ」

 フィアットは愉悦の笑みを浮かべる。自分が望んだ展開になったこと――それが恐ろしく、そして嬉しかった。
 クライムは背後にただ佇んでいた。

『……マーズ、無事か?』

 崇人の問いにマーズは大きく頷く。
 マーズの隣に居た、首を分断しようとしていた兵士は、インフィニティを警戒している。
 警戒、とは言っても相手はリリーファーだ。勝ち目など、万に一つも存在しないだろう。体格差、兵力差、火力差……様々なことで人間は劣っている。
 それ程までに、人間の戦争はリリーファーに頼りきりになってしまったのだ。

『一先ず、敵を倒す必要があるな……』
『おい、タカト』

 崇人が制御を再開しようとしたタイミングで、声をかけられた。
 その声はグリーングリーンニュンパイに乗り込むヴィエンスからだった。

『やぁ、ヴィエンス。……本当に久し振りだな。特にこうやって二人ともリリーファーに乗っている姿というのは』
『乗るな、と警告されていたんじゃないのか』

 再会を喜ぶよりも。
 彼はそれを気にしていた。

『……今、僕はレーヴの人間だからね。あちらの命令に従っただけだよ。あちらもこちらもインフィニティの力を求めていた。こっちはインフィニティだけを求めていたが……、あっちは僕自身も必要とされていた。だから、レーヴに着いた』
『こちらが仮にお前に乗って欲しいと言ったのならば、こちらについたというのか?』
『あぁ、そうだよ。その通りだよ。実際問題、僕は君たちに否定された。拒絶された、と言ってもいいかもしれないね。その状況下で君たちに協力しよう、なんてそんな虫のいい話があるか?』

 ヴィエンスは何も言えなかった。
 そもそも当時の国の見解として、崇人は危険分子として扱われていたため、あのままの状態ならばリリーファーに乗ることは愚か自由に生活することも出来なかっただろう。

『グリーングリーンニュンパイのような旧式のリリーファーは今や少なくなってしまった、と聞いた。理由は判明している。あの災害によってリリーファーの意義が見直され始めたからだ。リリーファーは平和のために本当に必要なのか、そう思われたとも聞いている』
『どこでそれを……、いや、言わなくても何となくだが理解した。レーヴか。レーヴがそんな法螺を吹いたんだ』
『法螺を吹いた、と言える証拠はどこにあるんだ? 現に旧式は廃れているじゃないか。このまま放置しても崩壊の一途を辿るのみだぞ』
『……確かにお前の言葉が間違っているなんて、声を大にして言うことは出来やしない。俺たちはただ国がこうしろと言われたことについて、イエスと答えているだけだよ』
『ヴィエンス……どうしてだ! 少なくとも十年前の君はそうでは無かったはずだ!』

 ヴィエンスは何も答えない。
 崇人の話は続く。

『なぁ……、答えてくれよ。どうしてお前は変わってしまったんだ?』



 ヴィエンスはグリーングリーンニュンパイのコックピット内部にて、俯いていた。
 崇人に真実を告げて良いものか、悩んでいたからだ。
 もちろん今の目的はそんなことではなく、マーズを断頭台から救出することだ。恐らく崇人もそう考えているに違いない。

(レーヴのリーダーが何を考えているのかは、はっきり言って未知数になるが……。わざわざ何機もリリーファーを出動させたところを見ると、やはりマーズの救出となるだろう)

 しかし、ヴィエンスには疑問があった。
 それは、どうしてレーヴが彼女を救うのか? ということだ。レーヴの目的は(少なくともヴィエンスたちについては)全く情報が入っていない。だから、マーズを狙う意図が全く掴めないのである。
 掴めないからこそ、解らない。何がしたいのか解らないのだ。

「全くもって理解出来ない……。どうしてこんなことになってしまったんだ? 世界が変わってしまって……それだけじゃない、皆も変わってしまった。どうしてこんなことになったんだろうなぁ……」

 ヴィエンスは言うだけだった。具体的にそれをどうにかする案が浮かばなかったからだ。

「タカト……お前はいったいどんな『意志』を持っているんだ……?」

 ヴィエンスの問いは、彼の耳まで届くことは無かった。



 マーズはそれを眺めるだけだった。参加したくても参加出来ないことが苦痛で仕方なかった。
 どうして自分はこのようなことになってしまったのだろうか、マーズは考える。
 元はと言えば、十年以上前マーズとタカトが出会い、彼にインフィニティへ乗るように指示したのが始まりだった。その頃未だ彼女はインフィニティの起動従士が発見されたという案件についての事の重大性を理解していなかった。
 インフィニティによる被害を、未だ彼女は見くびっていた。

「これが……この世界最強のリリーファーの力」
「果たして、それは未だ続いているものだと言えるのか?」

 兵士が嘲笑しながら彼女に訊ねた。

「ええ。最強はインフィニティ。これは揺らがないでしょうね。たとえ、世代が幾つ増えていったとしても……それが変わることは無い!」

 マーズの切った啖呵に思わず笑いが零れる兵士。

「いやあ……面白い話だったからつい笑いが込み上げてきてしまってね。別に君の話がつまらなかった訳ではないということは否定しておくよ」
「つまりあなたは、はじめからまともに話を聞く気なんて無い、と」
「そりゃそうでしょう。一介の兵士がそんな話を聞いている……そして感想を述べる。普通に考えるならばそちらの方がおかしな話だ。そうとは思えませんか? まぁ、あなたはそんな幻想を抱いたままらしいですが……」
「あなた……いったい何者?」
「僕が誰かを言ったら、話がつまらなくなるだろう? ……でも、ヒントだけなら与えてもいいかもね。たった一回だけだから、良く聞くといいよ」
「いいからさっさと話しなさい……!」
「おお、怖い。話すと言っているだろう? それとも君は人の話も聞くことが出来ないのかい。それじゃ、ヒントだ」

 彼は再び剣を構える。

「君が子供を作ることとなった原因……知っているかい?」

 見当違いのことを言い出したので、マーズは目を丸くしてしまった。
 兵士の話は続く。

「確かあれは『誰か』が君に細工をしたからだ。発情させ、興奮させ、タカトと『行動』に至った。だが、君は気付かなかったんだよ。その時に何があったのか、ってことの本当の意味に」
「本当の……意味?」

 マーズは何があったかを思い出そうとする。
 だが、曖昧なその記憶は断片的にしか思い出すことが出来なかった。
 それを予測していたのか、兵士は舌なめずりを一つ。

「誰かから聞いたことは無いかい? 『バンダースナッチ』とは単数ではなく複数個体の総称である、と。そして君にバンダースナッチの魂を埋め込んだことを」

 マーズは思い出せなかった。
 もしかしたらその記憶は、あまり残らないように細工がされていたのかもしれない。

「バンダースナッチの魂には器が必要だ。だがその器には成熟しきった身体よりもこれから成長する身体のほうがいい。長く続ければ受け入れやすくなるのは当然のことだからね」
「あなたは……いったい何が言いたいの!? 十年前……私の身体に何かしたというの!?」
「ああ、そうだよ」

 あっさりと兵士は肯定する。

「十年前、『器』が成就することを祈って、魂を入れ込んだ。すると面白いことに、その魂は二つに分かれた。そんなことは、今まで有り得なかったというのに! 人間の神秘とは、斯くも美しいものだよ。そうだとは思わないかい?」

 マーズは何も答えない。
 兵士はそんなマーズを余所目に、真実を告げる。

「……はっきりと言ってしまおう。君はダイモスとハルを君とタカトの子供だと認識しているのかもしれないが、それは半分間違っている。正確には僕の子供だよ。そもそも、僕たちには『子供』という概念が無いから、人間に合わせてそうカテゴライズするしか無いのだがね」


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