絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第三百四話 作戦会議

「これから、作戦会議を開始する」

 会議場にて、多くの起動従士と崇人、それにコルネリアとオペレーター数名に、リーダー格と思われる屈強な男性が円卓に並んでいる。
 コルネリアの声を一つの合図として全員は頷く。
 その言葉と同時に、コルネリアの背後にあるホワイトスクリーンに何かが映し出される。それが地図であると理解するまでに、そう時間はかからなかった。

「今回、我々はハリー=ティパモール共和国に攻め入る」

 コルネリアから発せられた、たった一言で、会議場の空気が凍り付いた。当然だ。誰もそんなことをするなんて思いもしなかったからだ。

「作戦は簡単。起動従士……エイミーとエイムスと……あとはタカトね。今回は三人を主軸として戦闘を行う」
「私も、後方支援を行うの?」

 黒いパイロットスーツに身を包んだ少女――シズクは言った。
 その言葉にコルネリアは頷き、話を続ける。

「ええ。その通りよ。だからこれはきっとそう難しいことじゃない。時間もかからずにすぐに終わることでしょう」
「終わることでしょう、って……。いったい、何を目的としているんだ? それくらい教えてくれないと、幾らなんでも出来ないと思うが」

 苦言を呈したのは崇人だった。
 その言葉を聞いて罰の悪そうな表情を浮かべたエイミーだったが、コルネリアがそれを宥めた。

「ええ、それについてもこれから説明するわ。……今回行ってもらうのは、インフィニティの奪還よ。今はハリー=ティパモール共和国のシステム、その根幹を担っているから、解除するのは難しいことかもしれないけれどね」
「インフィニティを……奪う?」

 その言葉を聞いてコルネリアは頷く。
 崇人は考えていた。確かに戦力になる。そうコルネリアは言っていた。そして崇人はインフィニティの起動従士だ。インフィニティを百パーセント使いこなすことが出来る――ということ以前に、現時点でインフィニティに乗り込むことが出来る人間が崇人しかいないのである。
 とどのつまり。
 インフィニティと崇人が一緒に居ることで、インフィニティに崇人が乗り込むことで、その性能が最大限引き出されるということである。

「深夜に出撃して、早朝作戦を開始する。そのためにも、今日は眠れないかもしれない。でも、充分に休息は取ってほしい。これから始まる作戦は、そう簡単な話ではない。いいえ、むしろ難しい話になる。それについても……きっと何人かは察しがついているかもしれないけれど、私たちの目的を達成するには、これが一番の道のりであることは確か。でも、その道のりはとても険しく、達成することも難しい。もしかしたら、死人が出るかもしれない。それは、初めに考えておいてほしい」

 再び、会議場の空気が凍り付く。
 それは先ほどのような状態なのではなく、考え込んでしまったから――だ。

「……それでは会議を終了する。諸君の健闘を祈る」

 そして、会議は静かに幕を下ろした。



「……いい演説だったんじゃないか」

 会議場に残ったのは崇人とコルネリアだった。コルネリアは残った資料の整理、崇人はそのコルネリアを待っていた。

「そりゃ、何年もリーダーを務めていればね。これくらいの話は出来るようになる」
「僕と戦っていた頃は『高嶺の花』って印象が強かった」
「……無駄口を叩きに残っているのならば、時間の無駄になるから休憩することをお勧めするよ」

 コルネリアはそう言って資料を持って立ち上がる。崇人もそれを見て彼女の後を追う。

「違うよ。ただ僕は……まだ十年の間にあったことを聞き足りていない。そう思っているんだ」
「いいや。『破壊の春風』が起きて、文明が衰退した。そこからは小さな諍いがあったが、説明するほどでは無い」

 崇人の好奇心や興味といった感情を、コルネリアは凡て否定した。
 だからこそ、殊更理解出来なかった。そして知りたかった。十年という年月の間に、いったい何があったのかということについて。

「……ほんとうに聞いてもつまらない話よ。強いて言うなら、インフィニティの処分に激昂したマーズがリリーファーを用いて城を攻撃したことから始まった独立騒動とか……」
「マーズが、そんなことを?」

 コルネリアの発言に崇人は首を傾げる。

「あの頃はみんな凄惨さに気持ちが追い付かず……、物事が正常に判断出来なかったのだろう。だからこそ、今のように派閥で別れるようになったのかもしれないがね」
「派閥、と言ったって……。ここにはコルネリア一人しか居ないんじゃ……」
「あら、彼女もそうよ。整備技師のエイル、彼女の腕は最高級よ。伊達に長くやってるものでもないわね」

 コルネリアは資料の束を持ち上げたまま、ゆっくりと歩き始めた。崇人もそれに従って歩いていく。
 並んで歩く二人だったが、その表情は堅い。十年ぶりになるのだが、十年ぶりの再会を喜ぶ暇など今の二人には無かった。

「……まあ、確かに積もる話もある。この作戦が終わったら話でもしようじゃないか。私の主観で良ければ、この十年で何があったか話すことは可能だ。ただ、それは廊下で立ち話をするときに使うような題材ではない。話が長すぎるからだ。一時間、二時間……或いはそれ以上かかってしまうかもしれない。逆にあっさりと終わってしまうかもしれない。けれどもそれは……誰にも解りはしない」
「作戦が終わったら……ほんとうだな?」
「あぁ、二言など無い。それまでには私も話すことを整理しておこう。そうしなければ話の流れが支離滅裂になってしまうだろうからね……」

 コルネリアと崇人はある扉の前で立ち止まった。正確に言えばコルネリアが立ち止まったのを見て彼も止まっただけなのだが。

「ここまでで充分だよ、ありがとう。タカト、君も夜の作戦に向けて英気を養ってくれ」

 コルネリアはそう言うと彼女の部屋の中へと入っていった。
 さて。
 そうなれば崇人も彼の部屋に行かなくてはならない。どうやらこの施設に来たとき最初にコルネリアと会ったあの部屋が崇人の部屋らしいのだが……。

「どうやって行けばいいかな、これは」

 そう言って彼は頭を掻いた。
 彼は知る由も無いが、この施設、増築による増築を重ねた結果、通路の太さが一定にならなかったり、蛇のようにくねくねと曲がっていたりと、少々一見には理解し難い構造となっているのだ。

「解らなかったら人に聞け、とは言っていたものの……」

 とりあえず崇人は通路を進むことにした。最悪人とすれ違えばいい――そんな客観的な考えを持っていたからだ。
 しかし、いつになっても前の方から人がやってくる気配が無かった。これは一体どういうことだ? と首を傾げてしまうくらいだった。

「どうかしたの?」

 そのときだった。崇人の背後から声が聞こえた。
 彼が振り返ると、そこに立っていたのは黒いパイロットスーツに身を包んだ少女――シズクだった。

「うわっ!? ……何だ、シズクさんか」
「……別に私の事はさん付けしなくてもいい。ところで、あなたの部屋はこちらの方角では無いと思うのだけれど」
「ん……。あ、ああ! そうだったな、さて行かなくちゃな!」

 百八十度回転して、崇人は来た道を戻ろうとする。

「……もし、道が解らないのであれば、案内するけれど」

 それを聞いて崇人は直ぐにお願いしますと頭を下げた。



 そして彼がその選択が正しいと判断したのは、それから少ししてのことだった。
 彼女はここに来て長いのか、裏道のような隠し通路のような場所をよく通っていた。途中までは崇人も経路を覚えていたが、隠し通路の量から記憶するのを放置した。
 シズクは無言のままだった。沈黙のまま重い雰囲気が二人の間を包んでいた。
 崇人の部屋ももうすぐのところで、シズクが踵を返し、言った。

「……この作戦は失敗するかもしれない」

 そしてそのまま再び踵を返し、シズクは立ち去っていった。

「おい、それってつまり……!」

 崇人は彼女に訊ねようと手を伸ばした。だが、その手は僅かに届かなかった。
 シズクは振り返ることもなく、その場から去っていった。

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