絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百九十八話 見えない攻撃

「そうですね。実際そうだと考えられていました。……しかし、違いました。結果として、新型のリリーファーが駆動しているのがそのいい例です」

 新型リリーファー。
 それについて彼女は理解できなかった。理解するには時間が足りな過ぎる、と言えばいいだろうか。

「新型リリーファーの性能はいまだに判明していない。それはその通りよね?」
「ええ。そのリリーファーが我々の開発しているものより性能がいいとは思えませんが……しかし油断は禁物です。実際に何があるか解ったものではありませんから」
「その通りね……。でも、そうだとしても、私たちは攻撃しなくてはならない。向かわなくてはならない。……そろそろ準備も終わった頃合い?」
「ブルース、リズム、それぞれ準備に入りました!」

 それを聞いたマーズは小さく頷いた。

「了解。エントリーシステム起動。カウントダウン開始して!」

 その言葉にオペレーターは大きく頷いて、キーボードを打鍵していく。



 ブルースのコックピットに入っているダイモス・リッペンバーは目を瞑って精神統一をしていた。彼はいつもこのようなことをするわけではない。
 彼は初めてのことに緊張しているだけに過ぎない。リリーファーとリリーファーの戦いを彼が経験したことはない。要するに初めてのことなのだ。だからこそ、楽しんでいる。楽しみにしている。これからどうなるのかを、楽しみにしているのだ。

『ダイモス、大丈夫? 体調が悪いように見えるけれど』
「僕が? 体調が悪いって? そんな馬鹿な。そんなことは有り得ないよ。況してや、この状況……頑張らないわけにはいかないだろ?」
『それもそうだけれど……。気を付けてね?』

 ハルの言葉に、ダイモスは頷く。
 ハルの顔は、ブルースのコックピットにディスプレイは装備されていないため、見ることが出来ない。だが、それでもダイモスは彼女の表情を見ることが出来る。感じることが出来る。きっとこういう表情なのだろう――そう理解することが出来る。

「僕は大丈夫だ。君はどうなの?」
『わたし?』

 ダイモスの言葉にハルは訊ねる。

『わたしは特に問題ないかな……。きっと、リリーファーを倒せるはず。リリーファーといっても中身は変わらないでしょうし』
「……それもそうか」

 ダイモスはリリーファーコントローラを握る。
 彼女の言葉を聞いて、勇気が出た――とでも言えばいいだろうか。

『始動、最終段階に入ります』

 スピーカーを通してオペレーターの声が聞こえる。ようやくブルースとリズムの準備が整ったと言えよう。
 それを聞いて、二人は大きく頷く。
 そして、それと同時にブルースとリズムは大きくうなりを上げた。

『ブルース、リズム。発進!』

 二機のリリーファーが速度を上げて、射出される。

「目標……距離、五百。四百五十、四百二十……徐々にこちらに近づいてきています」

 ダイモスは冷静に現在の状況を告げる。レーダーにも観測されており、リリーファーの正体が徐々に掴めてきていた。
 それは、鶏冠があるリリーファーだった。黄色いカラーリングのそれは、どこか懐かしくも見える。

「目標、視認! ハルも見えたか!?」
『ハル・リッペンバーも確認しました! 目標、距離三百五十!』

 ブルースとリズム、そして敵リリーファーの距離は近付いていく。ブルースとリズムの存在を物ともせず、減速せずに、真っ直ぐに基地へと向かってくる。
 何か目的があるのは確かだろうが、しかしその目的がどこで達成されるものなのかも解っているようだった。

「さて……やりますか」

 彼の言葉と同時に、ブザー音がコックピットに鳴り響いた。
 レーダーを確認すると、そこには何もなかった。
 いや、正確に言えば。
 あまりにも速すぎて、それを確認することが出来なかった――とでも言えばいいだろうか。
 加速したそれはブルースへと近づいていた。そしてそれをダイモスが目撃した時にはもう遅かった。
 確認されたそれは、飛行する物体だった。円盤状の本体の側面に棘のような槍がぐるりと一周付着している。そしてそれは高速で回転しながら、まっすぐにブルースの元へとやってきていた。
 そしてそれはブルースの肩に突き刺さった。
 痛覚が――リンクしている――彼の肩へと逆流する。
 痛かったが、ハルの前で泣き言なんて言っていられなかった。
 右手でそれを引き抜き、投げ捨てる。
 その時、リリーファーに流れる冷却水が音を立てて流れ出した。少し運転に影響が出るかもしれないが、それは彼にとってまだ予想の範囲内であった。

「そんな簡単に……やられるかよ!」

 痛みを堪えながら、ダイモスは言った。マイクの電源を入れていないから、外にそれが伝わることは無い。そう言ったのはあくまでも彼自身のやる気を鼓舞させるためだけのことだ。
 ブルースは走り出す。それはリズムに乗っていた(無論、リリーファーに、という意味だ)ハルは驚いていた。未だ敵の正体がリリーファーということしか解っていないというのに、敵に近付くという行為は自殺行為と言ってもいい。あれ程の大きさの飛行物体を武器として所有している。そして、それを惜しげも無く使うことが出来るということは、未だ力を残している。彼女はそう考えていた。だから慎重にいかねばならない――と思っていた。

『ダイモス、気を確かに!』
「気を確かに、持っているよ! でも、でもさあ……やられてばかりでやっていられるかよ!」

 それを聞いてハルは溜息を吐いた。ダイモスはこうなるだろうと思っていたからだ。
 ダイモスはハルのことを想っている。それは妹を大事に思うが故の、愛情ともいえる。

「……やられてばかりじゃ、お前を守ることすら出来やしねえんだよ!」

 その言葉はハルに届いたのかどうか、ダイモスには解らない。

「目標、距離二百、百七十、百六十、百四十……! 見えてきた! 見えてきたぞ! 敵リリーファーを視認! 鶏冠を付けている黄色のカラーリングだ! 大きさは当機より一回り大きい!」
『こちらコントロール。ブルース、これ以上の接近は危険だ! 遠距離攻撃で対応せよ!』
「そんなことやっていたら相手から何をされるか解らない! だったらこっちから攻撃したほうがいい! すでに相手は攻撃をしているということもあるしな!」

 そしてダイモスは通信を切った。
 これからはリリーファーとリリーファーの戦い。
 横から茶々を入れて失敗してしまったとしても、それはリリーファーの起動従士が悪いのだ。
 なら、最初からそれを排除してしまえばいい。その茶々を無くしてしまえばいいと思った。
 そして彼は、コントローラを強く握る。

「さあ、始めようぜ」

 そして、ブルースの背中に格納されていたライフルを取り出し、撃ち放った。
 タタタタ! と軽い音が響く。その一発一発はどれも敵リリーファーの装甲に衝突しているはずだが、しかし命中しているようには見えない。命中しているように見えないからこそ、彼の不安はさらに増幅される。

「何故だ! 全弾命中しているというのに!」


 ――邪魔。


 その時、彼の耳にはっきりと声が聞こえた。
 透き通った、静かな声だった。
 しかし真っ直ぐとしたその声は、確かに彼の耳に届いていた。

「ハル、何か言ったか!?」
『何も言っていないわ! それより、敵リリーファーが向かってきている! 一旦後ろに下がって!』
「違う、そういうことじゃない!」


 ――ここまで話して、ダイモスは理解した。


 あの声はハルではない。
 でも、スピーカーを通して話すことが出来るのはオペレーター以外にはハルしか居ない。オペレーターは有り得ないと考えても、ハルの声ではない。
 ならば、誰の声なのだろうか?
 誰の声が聞こえたのだろうか?


 ――邪魔。


 再び聞こえる声。

『ねえ、ダイモス! 何か聞こえなかった?』

 今度はハルも聞こえたらしい。

「ああ、聞こえている。……だが、どこから聞こえる物なんだ?」

 その時だった。
 敵リリーファーを中心として、音が弾けた。音の波が押し寄せてきたのだ。
 空気の振動が直にコックピットにも伝わってくる。
 彼らはこのような武器の存在を知らなかった。だから、焦っていた。

『どうした、ブルース、リズム! 応答せよ!』

 オペレーターから声が聞こえる。

「こちらブルース! 敵リリーファーから音波の攻撃! このような武器なんて搭載されているのか!?」
『こちらコントロール、それはほんとうか!? こちらとしても攻撃の正体が掴めない! ザザ……とにかく今は……ザザッ……』
「おい! まともに聞こえないぞ、通信状態はどうなっている!?」

 唐突にスピーカーから聞こえるオペレーターの言葉が聞こえづらくなってきた。
 それは音波の攻撃が原因なのかもしれない。

「外部からの声を遮断か……。気に入らねえなあ、気に入らねえ。そんな狡っからいことをして、つまらない人間だよ」

 ダイモスは耳を押さえていた手を離し、苦悶の表情を浮かべながら、リリーファーコントローラをゆっくりと、強く握る。
 ゆっくりと、ブルースが動き始める。
 逃げることなどしない。
 敵に背中を見せることなどしない。
 ただ、前を進むだけだ。

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