絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百四十話 交流会Ⅵ

 結局、ヴィエンスと崇人が運動公園のマーズたちがいる場所に到着するまでに二十分ほどの時間を有した。二十分だけ、ではあるがそれでもその時間は大きい。マーズが持ち込んだであろう食べ物は三分の一程度が消費されており、新規にコンビニエンスストアで買ってきたものも幾らかあった。

「……いくらなんでも消費のスピードが早すぎやしねえか?」

 崇人は言いながらブルーシートの空いている……ちなみにそのスペースはちょうどマーズの隣しか空いていなかったのだが、そのスペースに腰掛ける。
 マーズは笑みを浮かべて、

「だって二十分よ? たかが二十分と思うかもしれないけど、されど二十分ともいえるでしょう? その時間は限られていて、決して許容される範囲ではない。そして早く来ている人間が大半を占める。なのに少数を待つんですか? もし飴でも降ったらどうなさるつもりで?」
「飴でも降られたらとんでもないよ。というか、イントネーションおかしいぜ。雨なら、『あ』めになって、『あ』の方が上がるはず。でもそのイントネーション、あが下がっているタイプだとキャンディのほうの飴がヒットしてしまう」
「いや、わりとどうでもいいわよ!」

 崇人が突然飴と雨の違いについて語り始めたのでなんだか面倒くさくなってしまったが、それでも一応ツッコミはいれる。
 崇人はタッパーの中に入っているミートボールをつまみ食いして、

「おっ、美味い」
「それはあんたがずっと美味しい言ってるお店のミートボールだもん。そりゃ、当たり前でしょ」

 それを聞いて一番驚いたのはシルヴィアだった。

「え……それじゃこれってマーズさんが作ったわけじゃ……」
「こいつ料理は全然からっきしだぞ。ひどいレベルだ。というかまったく出来ない」
「そこまで言わなくてもいいんじゃない!?」

 マーズは行き過ぎた(しかし真実だ)発言について即座にツッコミを入れる。でもやっぱり真実だから否定することなど出来ないのだ。
 もし真実ではないのならすぐに否定すればいいのだから、否定しないということはそれは真実であるのだ――そんな逆説的な考えに至ったシルヴィアはマーズの一面を垣間見たようで嬉しい反面彼女に対するイメージが若干崩れたような気がした。

「ま、まあ……今回の主役はご飯でも運動公園に広がる緑でもない! これよ!」

 じゃじゃーん! とわざとらしく言って両手をそちらに差し出す。
 そこにあったのは木だった。花が咲いていたらしく、その花は桃色――どちらかといえばピンク色のほうが近いかもしれない。
 そしてそれは崇人が昔いた世界で見た『桜』の木と一緒だった。

「桜だ……」
「そう、サクラ!」

 マーズはそう言って笑みを浮かべる。マーズが言った時は冗談か聞き間違いかのいずれかではないかと思っていたがいざ本物を見てみると違う。やっぱりこれは桜だ。桜に違いなかった。
 だとしたら疑問を抱くのは、もちろんこの世界の時系列についてだ。この世界は崇人の元いた世界から見てどういう時系列の上に成り立っているのか? 未来なのか、未来だとしたらどれくらい未来なのか、それともパラレルワールドめいた空間なのか。それはまったく解らない。もしかしたら偶然こういう歴史が作り出された異世界の可能性だって捨てきれない。

「……タカトさん、どうしたんですか? 急に考え事をしちゃって」
「ん……ああ、いや。サクラがきれいだなあと思ってな」
「そうですよ」

 シルヴィアはおにぎりを頬張って話を続ける。

「はっへほほほはふははほへほひへひへふーへひへふははへ(だってここのサクラはとても綺麗で有名ですからね)!」
「シルヴィア。話すときは口の中をカラにしてからにしましょう。は行だけじゃ話がまったく伝わりません」
「はは……ほふへひは(はは……そうでした)」

 シルヴィアはそう言って照れ隠しなのか笑みを零す。
 ふと崇人はファルバートとリュートの方をみた。彼らも食事に興じているようだがどことなく進んでいないように見える。それどころかあまり会話にも参加してこない。

「おい、どうした。少しくらい会話に参加したらどうだい?」

 言ったのはヴィエンスだった。その言葉には皮肉が篭っているようにも思えた。ヴィエンスは初対面だったファルバートにあんな呼ばれようをされたのである。怒らない方がおかしい問題だ。
 ファルバートはヴィエンスの方を向いていたが、顔を背ける。

「別にあなたに言う問題もないでしょう。私は話したくないから話していないだけ。ただそれだけに過ぎないのですから」
「あのなあ……そんなこと言ってチームでやっていけると思っているのかよ? チームでやっていくにはそんな自分勝手な行動は……」
「あーら、かつての大会で自分勝手な行動をとっていたふうに見えたのはどこの誰かしら。というかあれは実際全員そうだったか。でも最初はあなたも私利私欲のために動いていたわよね」
「マーズ、今はそんなちゃちを入れないでくれ。話の腰を折ることになる」
「折りたいから話に割り入ったのだけど?」
「最低だな、アンタ」

 ヴィエンスは薄ら笑いを浮かべると、おにぎりをひとつ手に取る。おにぎりは凡て海苔は巻かれておらず米があらわになっている。

「おっ、梅干か。あたりかな?」
「別にあたりはずれを入れたつもりはないわよ、たぶん。それはあっち側の配慮だし」
「まさかこれも?」

 崇人はおにぎりが入った箱を指差す。
 対して、マーズは小さく溜息を吐く。
「おにぎりを握る時間なんてないんだもん」
「それくらい頑張れよ!」

 崇人はそう言って残った最後の一個のおにぎりを掴んだ。このままだと自分はおにぎりを食べられないままおかずだけの食事になってしまう――それを恐れたためだ。でも実際にはまだおにぎりの入っている箱はひとつふたつ用意されていて、それはまだ魔導空間の中に入っていることを崇人は知らない。知っているのはマーズのみだ。余ったら家に持ち帰ればいいと考えているためか言っていないだけであるのだが。
 崇人は梅干味のおにぎりを頬張りながら、紙パックのストレートティーを啜る。ストレートティーしか紙パックがないと聞いたときはどうしようかと思ったものだが、砂糖が入っていないのだからそれほど違和を抱くものでもなかった。普通におにぎりとストレートティーは合うものだし、よくコンビニエンスストアでも組み合わせとして販売される。

「ストレートティーはおにぎりに合わない! なんてことを頑なに言っている人もいるけど、私はそういう人って大抵試さない人だと思うのよ。こういうのが効率がいいんだとか言ってるけどそれを試しているかも怪しい。だから私はそういう人の意見を頷いて理解して従う前に、本当にそれを実践したの? って聞くの。ちゃんと実践しているならいいんだけど、しどろもどろな返事をした場合は従わないね。なんだか自分が実行していないのにそういうのを言うって、まるで実験台をしてほしいと促しているような感じがして恐ろしいのよ」
「そういうものかなあ……」

 そう言って崇人は順調に食べ進めたおにぎりを口の中に放り込み、卵焼きをひとつ取った。卵焼きの中は半熟めいていて少し甘い。卵焼きの味といえば甘いか塩気があるかのどちらかに制限されてしまい、さらにそれで派閥が分かれてしまっているから味を決めるのは結構難しいことだ。

「甘すぎず、塩っぱすぎず……それでいてこのおにぎりの梅干にマッチする……。なんだこの卵焼き……、もしかしておにぎりを作った店と一緒だったりしないか?」
「え、なんで解るの?」
「マッチングしてるからだよ。味がうまく構成されている。これは同じ店でつくってないと帳尻合わせするのが難しい。だから言ったんだ。たぶん、同じ店かな、って」

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