絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第百九十話 攻略作戦、中盤Ⅵ

 コイルガンにより射出された弾丸は大量のエネルギーを持っている。エネルギー、或いは運動量は物体の速度に依存するのだから、当然のことだといえるだろう。
 そしてそのエネルギーを持った弾丸はユースティティアのとある住宅地へと落下し、凡てを破壊しつくした。

「続け!」

 グランハルトの声に従って、バックアップが総員コイルガンを起動し、弾丸を射出する。そしてそれはユースティティアの様々な場所へと落下し、そこを破壊していった。
 二次災害かは解らないが火事も発生していた。その炎も相俟ってユースティティアは燦々と輝いていた。
 破壊、炎上していくユースティティアの町並み。
 それをものともせず、中央のクリスタルタワーは聳え立っていた。

「あれが法王庁の中心部か……。次はあれ目掛けて攻撃を行う! 一斉射撃、用意!」

 再び、バックアップの乗るリリーファーがコイルガンにエネルギーを充電し始める。
 そして。

「発射ぁっ!!」

 刹那、バックアップの乗っているリリーファー全九機が一斉に射撃を開始した。その目標は、法王庁の本拠地――クリスタルタワーだ。


 ◇◇◇


 クリスタルタワー内部にある地下牢でも慌ただしい空気は感じ取れていた。
 他国の起動従士には人権が適用されない。裏を返せばどんな拷問をしたとしても国際的に処罰されることはないということだ。
 彼女、フレイヤ・アンダーバードもそれを実行されたらしく、身体のあちらこちらがボロボロだった。拷問の種類はあまりにも多く、彼女の精神が幾らか磨り減ってしまうくらいだった。
 それでも、見回りにやって来る人間たちの会話から入ってきた、その『情報』は直ぐに理解出来た。


 ――ヴァリエイブルがユースティティアに攻め入っているらしい。


 あの時の会話では冗談めいた口調だったが、この慌ただしさからするとそれは真実なのだろう。そう彼女は思っていた。

「だとしたら逃げられる機会は今まで以上に大分増えるはず……。どうにかして外の様子を探らなくちゃ」
「おい」

 フレイヤの呟きを遮るように男の声が聞こえた。
 振り返ると柵の向こうに男が立っていた。服の感じからして、神父だろうか。
 神父は鍵を持っていて、それをこちら側にいるフレイヤに差し出そうとしていた。

「……どういう風の吹き回し?」
「これは私が独自にやっている迄に過ぎない。あくまで個人の行動だ。だがこれに関してはきっと、私以外にも賛同してくれる人間は居るはずだ」
「御託はどうでもいい。つまり……逃がしてくれるという考えでいいのか?」

 男は頷く。
 それを聞いてフレイヤはその鍵を手に取った。

「だが、これがバレたら大変ではないのか」

 手錠の鍵をはずしながらフレイヤは言った。
 神父と思われる男は首を振った。

「まぁ死罪は免れないだろうな。敵国の奴隷を逃がしたことになるのだから」
「ならばなぜ、私を逃がそうとする。お前にとって何の利益もないはずよ」
「起動従士には人権がないと国際法で決まっていること自体がおかしいし、そもそもそれに何の違和も抱かない……そっちの方が私にとってはおかしいはずだと思ったからだ。私たちは神の言葉を代弁し、神の加護を受けている。だが、どうして我々は同じ人間から権利を奪い、貶していくのだろうか? それを理解しろだのそれが世界の決まりだのと言いくるめてしまうほうがおかしい。私はそう思った」
「……要するにカミサマに一番近い立場にいる自分達がそんな低俗な行為なんてしちゃいけない、ってわけね。なにそれ、カミサマの下では人間皆平等であるとでも言いたいわけ?」
「非常に勝手なことであるということは私が充分理解している。だから……償いたいのだ。今からでは、遅いかもしれないが……。だとしても私は償わなくてはならない。償わないといけないのだ……!」

 ガチャリ、と音が鳴った。
 それを聞いて男は顔を上げる。
 フレイヤ・アンダーバードは立っていた。ただ壁を見つめて、何か精神統一しているようにも思えた。
 フレイヤは男の方に顔を向けて言った。

「御託ははっきり言って酷いものだったし曖昧過ぎる。あと私があなたを完全に信じるには唐突過ぎる。……だが、どんな理由であれ真実を追い求めようとすることはいいことよ」

 フレイヤは柵の前に立った。それを見て男は鍵を開けた。
 男の隣に立ったフレイヤは、男の顔を見つめた。

「あなたはどうするつもり? このままだと処罰されるのを待つだけになるけど」
「それも構わない。私はそう思っている」
「あら、そう……。もしあれだったら私に付いてこないかしら、とでも言おうと思ったのだけど。どちらにしろこれをした時点で法王庁にあなたの居場所は無くなってしまった。ならば私と一緒に来て、ヴァリエイブルの一員になるのも一興だとは思わない?」

 男はフレイヤから言われた突然の提案に耳を疑ったが、直ぐに彼は頷いた。

「成立ね。それなら私はあなたを安全にヴァリエイブルに届けると約束するわ」

 そう言ってフレイヤは右手を差し出した。対して、男も右手を出して固い握手を交わした。

「そういえば……あなた名前は何て言うのかしら」
「名前?」
「いつまでも代名詞で呼ぶのも酔狂でいいかもしれないが……自然に考えて名前で呼んだほうがいいでしょう? 別にいやならそれで構わないけど」
「アルジャーノンだ。アルジャーノン・ブラッドレット」

 そう言ったアルジャーノンに、フレイヤは微笑み、頷いた。

「解ったわ、よろしくねアルジャーノン。私の名前は……もしかしたら知っているかもしれないが、一応。フレイヤ・アンダーバードだ」
「あぁ、よろしくフレイヤ」

 そしてアルジャーノンとフレイヤはフレイヤが収容されていた地下牢を後にした。




「私が今安全を確認しておきたいこと、そして取り返しておきたいものがあるわ。それはリリーファーと騎士団のみんなよ」
「騎士団の人たちはフレイヤが入っていた牢屋とは別区画の共同牢に入っていると思う。本当ならば先にそちらを助けておくべきかと考えたが……先ずはリーダーである君を助けるのが先決であると考えた」
「……それってつまりどういうこと?」
「死を待つ人間がやることってのはね、案外想像がつかないものだよ」




 フレイヤとアルジャーノンがその共同牢に着いたのはそれから数分も経たないうちのことだった。フレイヤは今両手に手錠をかけられている。理由は簡単で、こうであれば他の人間に疑われることなく地下牢を動き回ることが出来る――そう考えていたからだ。
 しかしその考えは、あまりに甘かった。
 共同牢のある空間は血の臭いで立ち込めていた。そして壁や床や柵のいたるところに血がべっとりとついていた。

「これは……いったいどういうことだ!!」

 床に転がっていたのは、人間だったもののその成れの果てだった。
 そして共同牢の奥から咀嚼音が聞こえてくる。咀嚼音だけではない。何かを引きちぎったような音、何かを刺す音だ。
 そしてそれらの音が、ある一つの行動を指していることに気付くのに、そう時間はかからなかった。

「しくじった……。やつら、最初から騎士団の人間を生かすつもりなんて無かったんだ! 『食人鬼』ユリウス・グローバックと同じ牢に閉じ込めるなんて、ユリウスに餌を与えたに等しいのに!」
「ちょっと待て。今……『食人鬼』と言ったか? 人を食うのか?」
「時折人間は遺伝子に異常が見つかって、人肉を食べたいと思う人間が出てくる……そんな学説を知ってますか。随分昔に発表されたものですが」

 アルジャーノンの言葉にフレイヤは頷く。

「あぁ……聞いたことがある。だがそれはあくまでも推論だったはずでは……!」
「いいえ」

 フレイヤはアルジャーノンが言ったその事実を認めたくはなかった。騎士団のメンバーがそんな最期を迎えたなんて考えたくなかったからだ。
 だがアルジャーノンは残酷な現実を、彼女に突きつけた。


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