絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百五十六話 宣言(後編)
イサドラとメイルが王家専用機『ロイヤルウェーバー』に乗ったことを確認して、リザたちは格納庫を後にした。
「これからどうする?」
「どうするもなにもメイルには方法は凡て伝えてある。その通りに実行すればいいだけの話だ。あとは中央監理局まで戻って、そこには既に我々のリリーファーも到着しているはずだからな」
「なるほど。そしてそこで我々は……」
マルーの言葉に、リザはニヤリと笑った。
「――ああ、これから世界を大きく揺るがすであろう、ある『宣言』を世界に向けて発表する」
◇◇◇
王家専用機『ロイヤルウェーバー』に乗り込んだイサドラは、緊張していた。
それに対して、一緒に乗り込んだメイルは堂々と振舞っている。
それを見て、イサドラは鼻で笑った。
「メイルは、ほんとうに強いね。こんな状況でも緊張とかしないのかしら?」
「慣れていますから。こういうのは大丈夫です」
「慣れている、ね……。本当にあなたはすごい人間ね。どうしてあなたみたいな人間がメイドで、私みたいに度胸のない人間が王女なのかしら。まったくわからないよ」
「なるべくしてなったのではないでしょうか」
イサドラが放った質問は、決して答えるのが簡単な質問だとは言えないだろう。
しかしメイルはその質問に即座に答えた。まるでそのような質問が来るだろう――そう予測しているようにもみえた。
「私が起動従士の技術を持ちながらメイドになったことも、姫様が姫様になったことも凡て運命であると思います。偶然は運命であり、運命は偶然である……私はそう僭越ながら意見を述べさせていただきます」
「そうね……運命、確かにそうかもしれない」
イサドラはそう言って、リリーファーコントローラーを握った。
「でもね、メイル。私はなぜか、不思議と楽しいんだよ。今の状況が」
「……?」
「だって、あなたと一緒に、話が出来るから」
イサドラはそう言って、微笑んだ。
そして。
王家専用機『ロイヤルウェーバー』はゆっくりと動き出した。
「違います姫様、そこを右です」
「あーっ、もう! どうしてリリーファーってこんなに動かしづらいのかしら!」
ロイヤルウェーバーの起動に成功したイサドラとメイルであったが、それだけで終わりではない。ある場所にこのリリーファーを持っていかねばならないのだ。
その場所は、リザたちの待つ中央監理局である。
リリーファーの操縦というのはそう簡単に出来るものではない。やはり、シミュレーションを重ねて行く必要がある。例えば、起動従士訓練学校などに至っては廉価版の型落ちしたリリーファーを授業に使用して基本的なリリーファーの操縦方法を身体で学んでいったりしている。
しかしながら、イサドラはシミュレーションを数回重ねた程度で、まだ実際に動かしたことは一度もないのだ。
だからその補佐としてメイルがリリーファーの操縦を見守ることになっているのだ。
「……ねえ、メイル。これどう動かせばいいのよっ!」
「姫様が思った通りに動くはずです。心を落ち着かせて、ひとつになるのです」
「ひとつに……?」
「ええ。ひとつにすることで、リリーファーのココロと同調して、動かすのです」
メイルの言うとおり、イサドラは目を瞑り、静かに心を落ち着かせた。
そして、彼女は考えるのをやめて、集中した。
(リリーファーと……ひとつに!)
するとさっきまでの動きとはうってかわって、淀みない動きへと変化した。
「そうです、そうです! そうするんですよ、お姫様! まさかこんなにも早く身につくなんて……」
「私でも……どうしてこんなにうまくいっているのか解らない……!」
けれど。
現にロイヤルウェーバーは動いている。
彼女の思いを、忠実に再現している。
ロイヤルウェーバーは、着実に中央監理局に向けて歩を進めている。
そして場所は代わり、ペイパス王国にある幾つかの基地では、誰が流したとも知らず、こんな噂が流れていた。
――ペイパスが独立する
その噂がヴァリエイブルの兵士に知られないよう兵士自ら戒厳令を敷いたために、ヴァリエイブルには一切バレることはなかったが、人々はその噂をただ信じていた。
ヴァリエイブルに編入されて生活が苦しくなってしまったのは事実だ。そして、皆ヴァリエイブルに不満を持っていることもまた、事実である。
「ほんとうに、その噂が真実なのか?」
ペイパスのある基地の兵士は、隣に座っていたもうひとりの兵士に訊ねた。
「ああ、そうらしいぜ。なんでもそう遠くないうちに……らしい。噂だともう姫様が決断なされた、とも」
「イサドラ王女陛下がねえ……けっこう優しそうな感じだけれど、やっていけるのだろうか?」
「どうだろうな。でも、今のヴァリエイブルに編入している状況に比べればマシかもしれん」
ヴァリエイブルに『正式に』編入したのはつい先日のことであるが、その儀礼をする前からペイパスはヴァリエイブルの占領下にあった。
そんな中で、ヴァリエイブルは圧政を敷き、ペイパスの力を封じ込めようとしていた。
やり方としては正しいのかもしれないが、すこしやりすぎだ――そういう意見もあった。
でも、ヴァリエイブル連邦王国のラグストリアル・リグレー国王はその反論をあまり気にしなかった。
かくして、ペイパス独立という噂はペイパス王国国民の間に広まっていくこととなったのであった――。
◇◇◇
「無事、たどり着くことが出来ましたね」
イサドラは中央監理局にある放送室にて、リザにそう言った。
リザはそれを聞いて、大きく頷く。
「……緊張しますね、やはり。こういうのはめったに経験しませんから」
「大丈夫です。落ち着いてください。堂々としていればいいのです」
「そう……ですね」
イサドラはゆっくりと、マイクの前に立った。
「もう、大丈夫ですか?」
イサドラの声を聞いて、メイルが指でOKサインを作った。
イサドラはゆっくりと深呼吸を一つした。
そして。
「皆様、こんばんは。私はペイパス王国のイサドラ・ペイパス王女と申します」
話が始まった。
その宣言は、これからの歴史で未来永劫語られることになるであろう、宣言であった。
「私の居るペイパス王国はつい先日正式にヴァリエイブル連邦王国に編入されました。しかし、編入されてからというものの私たちの生活は大きく困窮することになりました。ヴァリエイブル連邦王国はもともと様々な資源に恵まれていましたから、水準も高かったのです。対して、ペイパスにはそれほど資源もありません。天と地の差です。そのままペイパスとヴァリエイブルが併合しても、私たちペイパスにはなんの旨みもありませんでした」
一息。
「そして今、私たちはついに決意しました。このままではペイパス王国だった頃の国民は皆死に絶えてしまう、と。ただでさえ今は戦争が行われていて物資も少なくなっています。そんな時代に私たちは生きていくことが出来るのでしょうか? 私は恐らく不可能である、そう考えています」
イサドラは顔を上げ、さらに話を続ける。
「そしてこのままでは『平和』を取り戻すことなど出来ません。この時代に平和がないことなど重々承知していますが、それでもこのままでは平和が消え去り、永遠に戦争が繰り広げられる世界が続くこととなるのです。果たして、私たち人間はそれを望んでいるのでしょうか? ずっと戦争が続いて、物資が貧窮して、あるひとつの場所に物資も資源も集中する……そんな時代で、果たして我々人間はこの世界にて生き長らえることが出来るというのでしょうか? 私はそうは思いません。そして、それを解決するには、これしかない。私はそう考えました」
一拍おいて、イサドラはその言葉を、その『宣言』を口にした。
「本時刻をもって、ペイパス王国はヴァリエイブル連邦王国からの独立を宣言します。そして私たちは改めてこの戦争に、あるひとつの言葉を投げかけて、参戦したいと思います」
――平和とは、いったい何なのでしょうか?
イサドラの宣言はさらに続く。
「私は苦悩しました。考えました。けれど、これしかない……私はそう思ったのです。この戦争に、私は、ペイパス王国は、法王庁側としての参戦を、今ここに宣言します」
そして、その宣言はペイパス王国中に設置されたスピーカーによって、全国へ広まっていった。
「これからどうする?」
「どうするもなにもメイルには方法は凡て伝えてある。その通りに実行すればいいだけの話だ。あとは中央監理局まで戻って、そこには既に我々のリリーファーも到着しているはずだからな」
「なるほど。そしてそこで我々は……」
マルーの言葉に、リザはニヤリと笑った。
「――ああ、これから世界を大きく揺るがすであろう、ある『宣言』を世界に向けて発表する」
◇◇◇
王家専用機『ロイヤルウェーバー』に乗り込んだイサドラは、緊張していた。
それに対して、一緒に乗り込んだメイルは堂々と振舞っている。
それを見て、イサドラは鼻で笑った。
「メイルは、ほんとうに強いね。こんな状況でも緊張とかしないのかしら?」
「慣れていますから。こういうのは大丈夫です」
「慣れている、ね……。本当にあなたはすごい人間ね。どうしてあなたみたいな人間がメイドで、私みたいに度胸のない人間が王女なのかしら。まったくわからないよ」
「なるべくしてなったのではないでしょうか」
イサドラが放った質問は、決して答えるのが簡単な質問だとは言えないだろう。
しかしメイルはその質問に即座に答えた。まるでそのような質問が来るだろう――そう予測しているようにもみえた。
「私が起動従士の技術を持ちながらメイドになったことも、姫様が姫様になったことも凡て運命であると思います。偶然は運命であり、運命は偶然である……私はそう僭越ながら意見を述べさせていただきます」
「そうね……運命、確かにそうかもしれない」
イサドラはそう言って、リリーファーコントローラーを握った。
「でもね、メイル。私はなぜか、不思議と楽しいんだよ。今の状況が」
「……?」
「だって、あなたと一緒に、話が出来るから」
イサドラはそう言って、微笑んだ。
そして。
王家専用機『ロイヤルウェーバー』はゆっくりと動き出した。
「違います姫様、そこを右です」
「あーっ、もう! どうしてリリーファーってこんなに動かしづらいのかしら!」
ロイヤルウェーバーの起動に成功したイサドラとメイルであったが、それだけで終わりではない。ある場所にこのリリーファーを持っていかねばならないのだ。
その場所は、リザたちの待つ中央監理局である。
リリーファーの操縦というのはそう簡単に出来るものではない。やはり、シミュレーションを重ねて行く必要がある。例えば、起動従士訓練学校などに至っては廉価版の型落ちしたリリーファーを授業に使用して基本的なリリーファーの操縦方法を身体で学んでいったりしている。
しかしながら、イサドラはシミュレーションを数回重ねた程度で、まだ実際に動かしたことは一度もないのだ。
だからその補佐としてメイルがリリーファーの操縦を見守ることになっているのだ。
「……ねえ、メイル。これどう動かせばいいのよっ!」
「姫様が思った通りに動くはずです。心を落ち着かせて、ひとつになるのです」
「ひとつに……?」
「ええ。ひとつにすることで、リリーファーのココロと同調して、動かすのです」
メイルの言うとおり、イサドラは目を瞑り、静かに心を落ち着かせた。
そして、彼女は考えるのをやめて、集中した。
(リリーファーと……ひとつに!)
するとさっきまでの動きとはうってかわって、淀みない動きへと変化した。
「そうです、そうです! そうするんですよ、お姫様! まさかこんなにも早く身につくなんて……」
「私でも……どうしてこんなにうまくいっているのか解らない……!」
けれど。
現にロイヤルウェーバーは動いている。
彼女の思いを、忠実に再現している。
ロイヤルウェーバーは、着実に中央監理局に向けて歩を進めている。
そして場所は代わり、ペイパス王国にある幾つかの基地では、誰が流したとも知らず、こんな噂が流れていた。
――ペイパスが独立する
その噂がヴァリエイブルの兵士に知られないよう兵士自ら戒厳令を敷いたために、ヴァリエイブルには一切バレることはなかったが、人々はその噂をただ信じていた。
ヴァリエイブルに編入されて生活が苦しくなってしまったのは事実だ。そして、皆ヴァリエイブルに不満を持っていることもまた、事実である。
「ほんとうに、その噂が真実なのか?」
ペイパスのある基地の兵士は、隣に座っていたもうひとりの兵士に訊ねた。
「ああ、そうらしいぜ。なんでもそう遠くないうちに……らしい。噂だともう姫様が決断なされた、とも」
「イサドラ王女陛下がねえ……けっこう優しそうな感じだけれど、やっていけるのだろうか?」
「どうだろうな。でも、今のヴァリエイブルに編入している状況に比べればマシかもしれん」
ヴァリエイブルに『正式に』編入したのはつい先日のことであるが、その儀礼をする前からペイパスはヴァリエイブルの占領下にあった。
そんな中で、ヴァリエイブルは圧政を敷き、ペイパスの力を封じ込めようとしていた。
やり方としては正しいのかもしれないが、すこしやりすぎだ――そういう意見もあった。
でも、ヴァリエイブル連邦王国のラグストリアル・リグレー国王はその反論をあまり気にしなかった。
かくして、ペイパス独立という噂はペイパス王国国民の間に広まっていくこととなったのであった――。
◇◇◇
「無事、たどり着くことが出来ましたね」
イサドラは中央監理局にある放送室にて、リザにそう言った。
リザはそれを聞いて、大きく頷く。
「……緊張しますね、やはり。こういうのはめったに経験しませんから」
「大丈夫です。落ち着いてください。堂々としていればいいのです」
「そう……ですね」
イサドラはゆっくりと、マイクの前に立った。
「もう、大丈夫ですか?」
イサドラの声を聞いて、メイルが指でOKサインを作った。
イサドラはゆっくりと深呼吸を一つした。
そして。
「皆様、こんばんは。私はペイパス王国のイサドラ・ペイパス王女と申します」
話が始まった。
その宣言は、これからの歴史で未来永劫語られることになるであろう、宣言であった。
「私の居るペイパス王国はつい先日正式にヴァリエイブル連邦王国に編入されました。しかし、編入されてからというものの私たちの生活は大きく困窮することになりました。ヴァリエイブル連邦王国はもともと様々な資源に恵まれていましたから、水準も高かったのです。対して、ペイパスにはそれほど資源もありません。天と地の差です。そのままペイパスとヴァリエイブルが併合しても、私たちペイパスにはなんの旨みもありませんでした」
一息。
「そして今、私たちはついに決意しました。このままではペイパス王国だった頃の国民は皆死に絶えてしまう、と。ただでさえ今は戦争が行われていて物資も少なくなっています。そんな時代に私たちは生きていくことが出来るのでしょうか? 私は恐らく不可能である、そう考えています」
イサドラは顔を上げ、さらに話を続ける。
「そしてこのままでは『平和』を取り戻すことなど出来ません。この時代に平和がないことなど重々承知していますが、それでもこのままでは平和が消え去り、永遠に戦争が繰り広げられる世界が続くこととなるのです。果たして、私たち人間はそれを望んでいるのでしょうか? ずっと戦争が続いて、物資が貧窮して、あるひとつの場所に物資も資源も集中する……そんな時代で、果たして我々人間はこの世界にて生き長らえることが出来るというのでしょうか? 私はそうは思いません。そして、それを解決するには、これしかない。私はそう考えました」
一拍おいて、イサドラはその言葉を、その『宣言』を口にした。
「本時刻をもって、ペイパス王国はヴァリエイブル連邦王国からの独立を宣言します。そして私たちは改めてこの戦争に、あるひとつの言葉を投げかけて、参戦したいと思います」
――平和とは、いったい何なのでしょうか?
イサドラの宣言はさらに続く。
「私は苦悩しました。考えました。けれど、これしかない……私はそう思ったのです。この戦争に、私は、ペイパス王国は、法王庁側としての参戦を、今ここに宣言します」
そして、その宣言はペイパス王国中に設置されたスピーカーによって、全国へ広まっていった。
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