絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第百四十九話 ロイヤルブラスト、動く(中編)


 そして格納庫に漸く辿りついたマーズ率いるハリー騎士団と、ヴァルベリー率いるメルキオール騎士団は急いで自らのリリーファーに乗り込んだ。

「いいか。急なことになってしまったが、一先ずロイヤルブラストを最優先に保護せよ。見つけ次第、だ。そして敵のリリーファーを殲滅する。これが今回の任務ミッションだ」

 突然決めたことであるにもかかわらず、マーズの思考ははっきりとしていた。もしかしたらこのような可能性も考えていて、別の計画を考えていたのかもしれなかった。
 因みにエレンもマーズが何とか呼び寄せた。あんな生意気なことを言っていたが、結局彼女はマーズに次いで強い。だから彼女がいることで百人力――そういうこともあるのだ。

『マーズ、作戦はそれだけか? それ以外に拘束される条件はないな?』

 エレンから通信が入り、そう言われたので、マーズは「ええ」とだけ答える。

『ならば勝手にやらせてもらう。お前たちは遅すぎるからな。この「ムラサメ」が凡てを終わらせるのを見ていればいい』

 そう言ってエレンは勝手に格納庫から出動した。

「ちょ、ちょっと待ってエレン!!」

 マーズは叫んだが、既にエレンは通信を遮断しており、無駄なことだった。

『おい、マーズ。お前の騎士団のメンバーは何なんだ! 身勝手すぎるぞ!!』

 ヴァルベリーからの通信が入り、マーズは小さくため息をついた。

「……ほんとうにごめんなさい。文句はあとで凡て聞くから、一先ず今は作戦に集中しましょう!!」

 それだけを言って。
 ハリー騎士団とメルキオール騎士団は、格納庫から出動した。


 ◇◇◇


 ロイヤルブラストには通常のリリーファーと同じ性能の武器が備わっている。世代的にはムラサメと同等だが、武器はアレス以下だ。理由は単純明快。王家専用機はお飾りであると、国王も製造側も考えていたためだ。
 国王は上でただ指示をしていればいい。そういう考えの人間は多い。しかし兵士からしてみれば逆で、有事には戦場まで降りて指示をして欲しいと思うものである。そのための『名目』として王家専用機が開発された経緯がある。
 しかしラグストリアルは必要最低限の武器は備えるように命じた。理由は無論、イグアスに起動従士の素質が見つかったためだ。そのため、彼がロイヤルブラストに乗る機会がいつかあるのではないか――そんなことを考えていたためである。
 そして今、彼はロイヤルブラストに乗り込み、敵と対面していた。
 リリーファーコントローラーを握る手が、汗ばんでいるのを感じる。
 相手も動かない。そして、ロイヤルブラストも動かない。お互いに様子を見ているのだ。

「……こちらから、行くぞッ……!!」

 そして。
 彼はリリーファーコントローラーを強く握った。
 数瞬の時をおいて、ロイヤルブラストの胸部装甲が観音開きの形で開き、そこから巨大な砲口が姿を現した。そして隙を与えずに、砲口から弾丸が撃ち放たれた。
 コイルガンである。電磁石やコイルを用いて電磁的な力で弾丸を発射する。投射物には電流が流れていないためにリリーファーへの攻撃時に電流によるダメージを加味することはできないが、しかしその威力は計り知れない。
 そして、その弾丸は確かに敵のリリーファーへと命中した。

「やったか?!」

 明らかにフラグめいた言葉を言って、イグアスは敵のリリーファーの様子を確認する。
 しかし。
 敵のリリーファーはまったく動じなかった。若干装甲が凹みはしたものの、それだけに留まった。
 そこで。
 彼は再び恐れ慄いた。
 彼は戦争というものを、甘く見すぎていたのだ。

「戦争は……こんなに恐ろしいものなのか……!!」

 だが。
 そんな一撃が効かなかっただけで、彼は諦めるわけにはいかなかった。なぜなら彼は、ヴァリエイブル連邦王国の第一王子であるのだから。
 そんな簡単に、諦めるわけにはいかないのだ。

「まだまだぁ!!」

 イグアスは自らに喝を入れ、再びリリーファーコントローラーを強く握った。
 すると今度は背中から巨大な剣が姿を表した。リグレー家に伝わっていた伝説を元に制作されたものだ。
 リグレー家の祖先というものは今も曖昧ではっきりしないところが多々ある。何でも昔剣一本だけでこの辺りを統一しただとかその一本のみで龍を倒しただとか、嘘かほんとか解らない、殆どおとぎ話のような伝説ばかりが残っている。
 そんな伝説にあやかって、ロイヤルブラストには大きな剣がその機体に格納されていて、それを武器として活用することが出来る。尤も、その性能がどれほどのものかというのはここであまり語るべきではないだろう。
 ロイヤルブラストは背中に格納されていた剣を手に取り、両手で構える。
 一瞬、戦場を静寂が支配する。

「でやぁぁぁっ!!」

 彼は再びそのリリーファーに攻撃を仕掛けようとリリーファー目掛けて走り出す。
 その攻撃には一瞬の迷いがない――ように思えたが、第三者からその攻撃を見れば僅かであったが、それはぶれていた。一直線に、ではなく僅かにぶれた攻撃になっていたのだ。
 きっとそれは彼の心の中で迷いと葛藤があったからだろう。この敵を倒すことが出来るのか――そんな気の緩みを、一瞬見せてしまった。
 そして、戦場では。
 そんな気の緩みを、一瞬たりとも見せてはならない。見せた瞬間、その隙を突かれてしまうからだ。
 そして。
 敵のリリーファーは、ロイヤルブラストの構えた剣を『片手で』捕らえた。

「なん……だと?」

 イグアスは無意識に呟いた。そう簡単に捕らえられるはずがないそれが、簡単に捕まってしまったことに、イグアスはまともな反応が出来なかったのであった。
 イグアスの身体はとても熱くなっていたにもかかわらず、それを見た瞬間に血の気が失せた。
 そして、敵のリリーファーは空いているもう片方の腕を使ってロイヤルブラストの機体にそっと触れた。
 ただ、それだけだった。
 にもかかわらず、ロイヤルブラストの機体が呆気なく破壊された。
 ベキベキベキベキ!! と敵のリリーファーが触れたところが、完全に破壊された。装甲が破壊され、中にある様々な機器が丸見えになってしまった。

「これは……『魔法』!?」

 イグアスはそう言ったものの、自らの常識からしてそれは有り得ないと思った。
 魔法は人間にしか使うことが出来ない。その理由は精神力という生き物にしかないパラメータを使うためだ。時折生き物の精神力(それこそ、人間と比べれば雀の涙程度でしかない)を代償にして魔法を行使することもあるが、しかし、魔法が人間にしか使えないという事実は覆されない。
 だが、今目の前に立っているリリーファーが、仮に『魔法』を行使しているとして、いったいどのようなメカニズムで魔法を行使しているのだろうか?
 そのメカニズムは人間とまったく異なるものなのか、或いは一部だけ違うのみであとはまったく一緒なのだろうか。考えは膨らんでいくが、しかし肝心の対抗案はあるか……と言われると微妙なところだ。
 リリーファーが魔法を使えるとして、魔法が使えるリリーファーなんて聞いたことがないからだ。
 聞いたことも見たこともないリリーファーに、僅か一瞬で対抗策を導き出せ……そう言うのがおかしな話である。

「とはいえ先ずはこの状況を脱しなくてはならない。いつまでも敵に捕らわれたままだと、腕から出る……あれは衝撃波か? まぁ、解らんが何らかの原因で発生しているのは確かだ。あの攻撃を食らわない場所にまでどうにかして後退して一瞬でも何かを考える時間を作らねばならないだろう」


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