絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第百二十一話 併合(前編)


 七二一年一月六日。
 とうとうこの日がやってきた。
 多くの人間が待っていた日だった。
 世界の大多数がこの日をひとつの転換点と考えていた。結果として、遠い未来からこれを見たとき、この日が大きな転換点となっていたことは変わりなかった。
 この日、ヴァリエイブル連合王国がペイパス王国を併合し、ヴァリエイブル連邦王国へと名称を変更する。
 ヴァリエイブルの力がさらに高まることはこれにより明らかであり、さらにこのことにより敵が増えることは間違いなかった。
 そのため、この日の警備はいつも以上に厳重とされた。まさにアリの子一匹も入れないほどのセキュリティがそこには存在していたのだ。

「……ついにこの日がやってきたな」

 新生ヴァリエイブル連邦王国元首ラグストリアル・リグレーは外を見つめて、そう言った。
 この日はラグストリアルにとって大きな転換点だと考えていたからだ。


 ――これにより、ヴァリエイブルはさらに発展する。


 そして、ヴァリエイブルの力をさらに世界に見せつけることが可能となる。
 カーネルをヴァリエイブル直下としたことで、今後はヴァリエイブル連邦王国が新技術を優先的に手に入れることができる。
 一度新技術を開示すれば、どこから製法が漏れるのかはわからないが、いつしかほかの国も使うことになっている。
 だが、新技術を一回だけでも使えることは大きな価値がある。それによって戦闘のとき一瞬だけでも相手を油断させることができる。
 リリーファーどうしの戦闘の際、一瞬でも油断があったらそれが命取りとなってしまう。そのためには新技術を手に入れ、戦闘で使うことが一番なのだ。
 だからヴァリエイブル連邦王国は前々からカーネルの技術を独占したかった。
 しかし、そういうわけにもいかないのが世界だった。ペイパスを中心としてカーネルの立場を永世中立とすることを命じたのだ。
 流石にヴァリエイブル連邦王国でもペイパスとアースガルズの二国を相手取るのはあまりにも難しいことだった。
 だから、その命令を了承せざるを得なかったのだ。
 それからヴァリエイブルとペイパスとアースガルズは三竦みの状態になっているのだ。
 だが、先のカーネルでの戦争でカーネルを制圧かつペイパスの保有するリリーファーがゼロ機になった。
 それによってペイパスは戦争が起こせなくなった状態となった。
 にもかかわらず、ヴァリエイブルはペイパスに侵攻し、併合した。
 その行為は世界から大きな反感を買った。
 だが、ヴァリエイブルとしてはそんなことは関係なかったのだ。
 ただ、カーネルの技術を独占したかったのだ。
 ヴァリエイブルに籍を置く研究施設の研究材料を他国に使われるのは、ヴァリエイブルからしてみれば辛いものだったのは明らかだ。
 だからといって、無防備のペイパスを占領することに意味はあったのか――国内でも批判はあるが、それを凡てラグストリアルは受け止めている。

「関係ない、そんなこと。言わせておけばいい」

 国王らしからぬそんな発言は、傲慢にも思えるが、圧倒的な自信から来ているようだった。

「世界は日夜変わっていく。変わっていくことを解らないまま過ごしていく人間もいる。そういう人間が我々のような最前線に言っても、何も変わらない。それどころか、そんなことで変えられると思っている人間こそおかしな考えなのだ」

 その考えは少し強引にも思えるが、とはいえ、それに対する反応を考えていないわけではない。

「……だからとはいえ、これほどの警備で問題はないのでしょうか?」

 そこに居たのは大臣ラフター・エンデバイロンだった。
 大臣のラフターは、ラグストリアルの目の前にたち、跪く。

「……どうした?」
「いえ、とうとうここまで来たのですね……そう思うと」
「感極まる気持ちも解る。だが、未だだ。まだまだ終わらないのだ」

 ラグストリアルの顔は慎重な面持ちだった。
 ペイパスとの併合は、ヴァリエイブル連合王国にとって大きな一歩を踏み出すものとなっていた。
 だがしかし、反対派が居るとするならば、彼らは必ずこの記念式典へと訪れるはずだ。だから監視を増やして、怪しいなと思ったものは凡て捕まってしまうという半ば強引な策しかないのだ。

「世界は大きく変わっていった。だがしかし、あまりにもそれは変わりすぎてしまい……それを認めることが出来たりする。ペイパスの人間があまりにも静かで、どのような行動を取るか見当もつかない」
「だからこのような警備の強化を?」
「そうなる。あぁ、そうなってしまわないように警備を増やしたのだ。そんなものが起きてしまって、誰かに怪我を負わせてみろ? その隙を狙って襲われかねないぞ」

 ラグストリアルは明晰な人間である。もう齢五十を超えていて、とっくにこの世界では『高齢』の部類に入るのだろうが、未だにこの国を治めている。
 長きに戦争が続くこの時代に治世を持つだけでも手腕の価値が知れるというのに、その治世が長く続いているとなれば、尚更だ。

「……未だ終わらせてはなるまいよ。確かにペイパスを併合した。だが……ここで終わりではないのだ」
「と、申しますと」
「長きに渡る戦争を終わらせ、人々に平和をもたらすにはどうすればよいか。私は国王になる前からずっと考えていた。……そして私はひとつの結論を導いた。手を汚し蔑まれるのは私だけで構わないのだよ、この代で血塗られた歴史に決着をつけ、私は国王の座を息子に譲ろうと考えている」
「イグアス様のことですか」

 ラフターは直ぐにその名前を言った。
 イグアス・リグレーはラグストリアルの息子であり、ヴァリエイブル連合王国の第一王子で唯一の王子であった。
 ラグストリアルに似て頭脳明晰で、さらにその容姿は女性のようにしなやかな身体だった。だからといって柔術全般をマスターしている彼に並みの人間が相手にはならないだろう。
 そしてイグアスには今までの王位継承者、さらには国王とは違うことがあった。
 それこそが彼の一番の優位となる点であるとも言われた。
 それは――彼が起動従士であるということだ。
 リグレー家はリリーファーが発見されてから今まで、起動従士に成りうる素質がある人間は生まれてくることはなかった。
 そのため戦争等があっても王城でそれを指揮するだけに甘んじていた。
 だが、イグアスは違う。彼は起動従士の素質があり、実際にプログラムを履修し、起動従士としてリリーファーを持っているのだ。
 王家専用機『ロイヤルブラスト』。
 王家専用ということでなめらかな黒を基本とした機体である。とはいえ、今回イグアスが起動従士になったということで開発された最新モデルであるため、まだ一度も戦争で使用したことのない代物である。

「……これが終わるまでには幾つかの戦争がある。無論これも出動せねばならないときがやってくるだろう。そのとき、私は怖いのだよ。イグアスが死んでしまったら……この国は終わってしまうのではないかという不安に苛まれてしまうのだ……」
「陛下、何を落ち込んでいるのです。これから協定を結ぶために国民の前に姿を現すのですよ」

 ラフターが言うと、ラグストリアルは顔を上げた。
 そしてゆっくりと立ち上がり、外の方へ歩き出した。

「……そうだったな。私はまだヴァリエイブル連合王国の国王だ。元首だ。これは私がやることで、私が成し遂げることだ。……まだまだ私がこの国を守らねばならないというのに」

 ひとつ、ため息をついた。

「さて、向かうとするか」

 そう言ってラグストリアルとラフターは出口へと歩き出した。
 外では観衆が大きな声を上げている。
 これから始まる、歴史的イベントを皆待っているのだった。

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