絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

幕間 Up to you.

 マーズ・リッペンバーがメリア・ヴェンダーからその一報を聞いたのは、それからすこししてのことだった。
 マーズは作戦中、集中を保つためにスマートフォンの電源を切っておく。それが仇となって、彼女が大事にしていることを忘れてしまっていたのだ。
 メリア・ヴェンダーは徹夜にもかかわらず、マーズに電話をかけていたのだ。そして、その膨大な着信履歴に気がつき、改めてマーズはメリアに電話をかけなおし、そこで彼女は重大な事実を知った。

 ――タカト・オーノが意識を取り戻した

 という、ひとつの事実を。

「タカト!」

 マーズが病室に駆け込んだ時には、もう夜も遅かった。作戦を終わらせたのが、もう夕方というよりはとっぷりと日が暮れていたので、当たり前と言えば当たり前である。

「静かにしろ、マーズ。ここは病院だぞ?」

 声をかけたのはカルナだった。
 その言葉を聞いて、マーズは少しばかり気持ちを落ち着かせる。

「……容態は安定している。それに、意識を取り戻したからか、安らかに眠っているよ」
「そうか……そうか……よかった」

 マーズは一瞬笑おうとするが、カルナの顔を見て直ぐに表情を戻した。

「どうしたの。笑えばいいじゃあない。チームメイトが、無事復活したというのに?」

 カルナの言葉にマーズは小さく溜息をついた。

「いや、まあ色々あってな……。騎士団のメンバーが行方不明になっていたのだよ。いや、正確には敵に捕まっていた、といったほうが正しいかな」
「ほう」
「だがね、先程発見し保護した。……本当に良かったよ。一安心だ。これで何とかハリー騎士団は全員揃ったという形になる」
「なるほど。そいつはよかったな」

 カルナは他人事のように、そう言った。 
 マーズはそれを聞いて、思い出したように質問をカルナに投げかけた。

「……こいつがまたリリーファーを乗って動けるようになるには、どれくらいの時間がかかる?」
「ひと月、だね」

 カルナは指を一本立てた。

「ひと月、か」
「それも、この病院の最高級の設備を使い続けて……の話になるけれど。本人の根気とやる気、それに精神力も持つかどうかは微妙なところだ」

 カルナは崇人の方を横目に見る。

「……あんなことがあったのではな」
「……ああ。とりあえず、私はもどるよ。顔は見れた。私はこれから会議があるのでな」
「なんだ、いやにあっさりだな。……彼の意識が戻るのが待ち遠しかったんじゃあないのか?」
「何を突然」

 マーズが立ち去ろうとして踵を返していたが――その言葉を聞いて、直ぐに戻った。

「それが証拠だ。立ち去ればいい話なのに、反論したいからって立ち去らなかった。なぜ? 理由は簡単だ。……彼のことが好きだからだろ?」
「それをあなたに言う必要性は感じられない」
「認める、ということでいいのかしら?」
「認める、というか」

 マーズは頭を掻いた。

「あいつが気が付かないだけだ」

 そう言ってマーズは病室を後にした。
 それを見てカルナは「相変わらず素直じゃないなあ」と一言呟くと、崇人の眠るベッドから後にした。


 ◇◇◇


「これで一先ず終わりかな。計画も半分近くまで来ている。変に横入りが無ければ、そう長い時間もかからないうちに計画は完遂する」

 帽子屋とハンプティ・ダンプティは法王庁領にある自由都市ユースティティアの近くにある『目覚めの丘』にて会合を開いていた。
 帽子屋はそう言うと、向かい合って廃墟の壁だったものに腰かけているハンプティ・ダンプティに問い掛けた。

「……果たしてどうだろうね」
「なんだ、ハンプティ・ダンプティ……否定するのか? 君らしくもない。本当に、珍しいことだぞ」
「なんか気分が乗らなくてね……嫌な予感しかしないんだよ」
「ふうん?」

 帽子屋は恍惚とした表情で言った。

「そうか、そうなのか。まぁ、計画にいつ何があってもおかしくないからね。そういう忠告は受け取っておくよ」

 ハンプティ・ダンプティは真面目な口調でそう言ったが、帽子屋はそれを流した。
 計画が巧く行き過ぎていることが一因にあるのかもしれない。インフィニティ計画はもはや半分まで来た、と帽子屋は告げた。それによって、帽子屋が『失敗』の二文字を消し去っていたとするならば……話は早い。

「まぁ、失敗するんじゃあないか……だなんて言うけれどね、きちんと段階を踏んで、計画は着実に進行している。きっとそう遠くないうちに……小さな爆弾が見え始め、人間に大きな不安をもたらす……。ハンプティ・ダンプティ、君には『リリーファー』の副作用について話したことはあったかな?」
「いいや、無かったな」
「そうか。ならば話させてもらうよ。リリーファーは人間が乗るには負担が強すぎるんだよ。『アメツチ』の話からしてもそういう風に伝えてはいるが、しかし今の大人はそれを信じるか信じないかといえば……後者に入るだろう。そんなことがどうでもいいくらい、リリーファーによる戦争は人々に依存してしまったのだから」
「そのように仕組んだのも、我々だろう」
「……まぁ、そういうことになる」

 帽子屋は微笑むと、さらに話を続けた。

「ともかく、我々の思うところはこうだよ。この世界を新生させる……そのための計画だけれど、やはり油断して大変な事態が起きても困っちまうわけだ。……さて、かつて僕はリリーファーはただのロボットじゃあないって話したきがするけれど、おぼえているかい?」

 その言葉に、ハンプティ・ダンプティは頷く。
 それをみて、帽子屋の口が緩んだ。

「実はほかの『シリーズ』にはあまり話したくないのさ。彼らは完璧に人間を嫌っている……というわけでもないからね。まだまだ人間もやり直せるなどとほざいているが、僕はそうではないと思っている。君もそうだろう?」
「まあ、そうだな。人間がこの状況からやり直し、みんな手を取り合って平和になるなど有り得ない。それはカーネルの併合から決定的に変わった」
「そうだ。その通りだ。カーネルの併合により、人間は平和を拒否した。拒んだのだ。それによって、我々シリーズとしても従来から進めていた計画をさらに邁進していくという結論となったのだが……まあ、仕方がない。彼らはまだ人間のいる世界を監視し続けていたいだけなのかもしれない」
「彼らは暇つぶしの手段を何度も考えていて、それを実際に何度も行った結果、結局は人間の監視をし続けたほうがなんら問題はないことに気がついたわけだ。最初は彼らもひどかったからな。人間を無作為にあの部屋に呼び寄せて、どこが一番痛みを感じるかと人体の凡ての場所に針を刺していたんだぞ? しかも笑いながら、な。それであまり痛みを感じなかったからってエスカレートして首をのこぎりで切っていって、どこまできれば死ぬのか的なこともやっていた。それを考えれば僕の計画がどれだけ人を傷つけなくて済むか」
「規模的には君のほうが巨大であるのには変わりないからね」

 そりゃそうだ。帽子屋はそう言って小さく笑った。




 ――夜は静かに明けていく。
 それぞれの意思を、激動の日々を、すべて、すべて洗い流し――新たな世界へと導くように。

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