絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第百二話 三つ巴

 ≪インフィニティ≫に乗り込んだ崇人はひどい絶望に苛まれていた。
 なぜ彼女が死ななくてはならなかったのか。
 なぜ彼女は助けを求めようとしなかったのか。
 崇人はずっとずっとずっとずっと考えていた。

『……いかがいたしますか、マスター』
「このリリーファーが出せる、最強の装備を……使う」

 崇人には、もう相手を倒すことしか考えていなかった。
 どうやって倒すのではなく、ただ、倒す。
 方法は決めない。
 ただ――目の前にいる敵を倒すのみ。
 それが彼の思考を独占していた。
 インフィニティのAI、フロネシスはそれに従うしかない。
 彼女にその命令に抗う権利など存在しないからだ。
 インフィニティは、フロネシスが操作する。
 インフィニティの躯体に装備されていた、銃口がゆっくりと外に出てくる。
 他のリリーファーにとって、エネルギーの消費が莫大過ぎる故に装備されなかった荷電粒子砲、エクサ・チャージ。
 元々規格外の装備であるにもかかわらず、彼のパイロット・オプションである満月の夜フルムーンナイト、それがさらに性能を限界までに引き上げる。
 それを行うことで、インフィニティは、もはや他のリリーファーに負けることは有り得ない。

「エクサ・チャージにエネルギーを注入しろ」

 崇人の声は、意外にも落ち着いていた。
 そして静かだった。
 フロネシスは、それに対し返事をしなかった。
 そしてゆっくりとコックピットが震え始めた。インフィニティに装備されているモーターが駆動し始めたからだ。インフィニティは毎時十エクサボルトエネルギーが生成される。そしてエクサ・チャージはそのうち九エクサボルトを消費する。インフィニティは常に毎時一エクサボルトを消費するだろうと設計されているらしく、エクサ・チャージを撃つ時以外は、最大までエネルギーを生成しない。
 今の振動は、エクサ・チャージのエネルギーを充電しているためである。
 エクサ・チャージはその莫大過ぎるエネルギーの消費故にそれを撃ったあと、一時間は撃つことができない。エネルギーの保存が出来ないために、このような不便なこととなっているのだが、今の崇人はそれを知る由もない。

『「エクサ・チャージ」エネルギー充電まで残り二十秒です』
「解った。充電完了後、遅滞なく撃ち放て。目標は『ペルセポネ』だ」
『了解しました』

 フロネシスは静かにそれに答えた。


 ◇◇◇


 その頃、ヴァリエイブルのリリーファー基地。

「総員、コックピットに乗り込んだわね」

 マーズが『アレス』のコックピット内部でそう告げた。
 今、ハリー騎士団の面々は全員がリリーファーに乗り込んでいる。マーズはアレス、コルネリアはアクアブルーニュンパイ、ヴィエンスがグリーングリーンニュンパイ、そして、エルフィーとマグラスはアシュヴィンに乗り込んでいた。

『了解』
『了解』
『了解』
『了解』

 それぞれが同時にそう言った。
 もう彼らを止める術などない。
 強いて言うならば――同じ条件に揃うことがあれば、出来る話だ。

「以後、私のことは『サブリーダー』と呼べ! そして、これから作戦を発表する。これから、ペルセポネと戦闘を行っているインフィニティを止める! レーダーが、他のリリーファーを捉えているため、もしかしたらカーネルからのリリーファーによる攻撃もあるだろう。なので、私とコルネリアはインフィニティとペルセポネの戦闘に介入し、ヴィエンスとエルフィー、マグラスはカーネルからのリリーファーの攻撃に備えること、以上!」

 それを言った直後、ハリー騎士団はリリーファー基地から出発した。


 ◇◇◇


 そして、また別のところにて。
 出撃した魔法剣士団が乗り込んだムラサメはカーネルの南にある街エル・ポーネへとたどり着いていた。

「ここからも見えるように、インフィニティとペルセポネがいる」

 エレンはそう呟いた。

『エレン、これからどうするつもり?』
「命令通り、インフィニティを倒す。だが……その前にあれが邪魔だな」
『ペルセポネ、か。ペイパス王国の持つ、リリーファー。しかし、ラトロ開発ということもあるが、型遅れのリリーファーだった。エレン、あなたなら一人で倒せるんじゃあないかしら?』
「そうね。だけど、私は出来ることならインフィニティと戦ってしまいたいところね」
『あなたはそう言うと思っていたわ。……それじゃあ、インフィニティはエレン、あなたの方に譲るわ』
「ありがとう、エルナ。それじゃあ、あなたたちはペルセポネを?」
『そういうことになるわね。……恐らくそれ以上の敵が出てくると思うけれど』

 それを聞いて、エレンは考えることもなく答えを出した。

「……ハリー騎士団ね」
『ええ。彼らも「インフィニティ」の勝手に始めた戦闘に対して好ましく思っていないはず。だから、私たちはそのハリー騎士団の攻撃も受ける。まあ、私たちに敵うとは到底思えないけれど』
「その慢心が、油断を引き起こす……よく解る話でしょう?」
『ええ。解っているわ。……あなたも、慢心をしないことね』

 そして、会話は終了した。
 その時だった。
 エレンはあるものを感じた。
 大地そのものが揺れる、その振動を。

「総員、退避!! 避けろ!!」

 彼女の身体は、無意識に震えていた。武者震いだ。彼女は気付かないうちに恐れ戦いていたのかもしれなかった。

『……何だ、エレン。そんなに慌てて……』
「いいから避けろ、来るぞ!!」

 そして。
 そしてそしてそして。
 彼女たち、魔法剣士団のリリーファーに強烈な熱線が命中した。
 その熱線は、あまりにも強烈であまりにも高熱であまりにも衝撃的だった。
 インフィニティが規格外の強さであるということは、魔法剣士団の面々には周知の事実であったが、これほどまでに圧倒的な強さを誇るとは、誰しもが予想出来なかった。

「何……だっ、これは!!」

 エレンはコックピットでキーボードを拳で思い切り叩いた。そのようなもので壊れることはなく、虚しくその音だけがコックピットで響いた。

「エルナ、応答しろ!」

 しかし、返事はない。
 辺りを見渡すが、彼女が乗るムラサメ以外の姿は見られない。
 あまりの高熱で蒸発してしまったというのだろうか。
 有り得ない有り得ない有り得ない。
 そんなことは断じて有り得ない。
 そんなことがあってたまるものか。

「おい……おい! アンドレア! バルバラ! エラ! エリーゼ! バルバラ! ドロテーア! ドーリス! フローラ! エルヴィーラ! イーリス! イザベラ! イルマ! ハンネ! ……誰でもいい、応答しろ!!」

 しかし。
 その通信に答える者など、誰もいなかった。

「どういうことだ……インフィニティは……それほどまでに強いというのか……?!」

 エレンは先程までエルナと通信していたことを思い出す。
 もっと早く、自分が気付けていれば――魔法剣士団へのダメージを減らせたのかもしれない。
 しかし、結果は最悪のものとなった。エレン一人を残して、魔法剣士団は壊滅してしまった。

「なぜだ……なぜなんだよ……!!」

 彼女たちは『最強』の存在だ。
 しかしながら、彼女たちは本物の最強を知らなかった――だから負けた。
 それだけのことだった。

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