絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第九十四話 第二回作戦会議

「一先ず、タカトとエスティ、あなたたちが無事で居るということは、第五世代の情報は入手した……そういうことでいいのよね?」

 マーズの言葉に、崇人は小さく頷く。
 第五世代の情報はマーズたちにとって必要不可欠な情報だ。
 何もこの情報が戦争のみに役立つのではない。新しいリリーファーを開発する時にも、この資料は大いに役立つのである。
 リリーファーを開発する上で、敵の情報を手に入れることについて、然程難しいことでもない。しかし、その難易度というのはやはり手に入れる情報により決まるというのもまた自明である。
 例えば手に入れたものが実際のリリーファーの一部分であったとするなら、それにより解析が進められ、より良いリリーファーを造ることが可能となる。
 対して手に入れた情報が口伝として残っている曖昧なものだったり、書類や書物から得たものだとすれば、もしその情報からリリーファーを造ったとき、その戦力は前者とは比べ物にならない程に低い値を弾き出す。
 だからこそ、研究者や開発側としてはリリーファーの一部分或いは全体を求めている。それにより対策が変わるのは明らかである。そして研究者たるもの研究に生涯を捧げるのは当たり前である――とされ、現にリリーファーの研究開発においては年齢層が幅広いものとなっている。

「……第五世代、それを一言で言うならば……今までのリリーファーとは段違い、ということだろうな……」

 そう崇人は言って、第五世代の説明を始めた。
 説明には約二十分程の時間を要した。崇人自身が未だに第五世代とリリーファーのことを理解できていないということと、マーズたちが理解できるに等しい水準にまで説明が満たしていなかったことにより、何度も説明を繰り返したためである。そのため、説明が終了した頃には崇人はもう第五世代の説明はすらすらと言えるほどにまでなっていた。

「リリーファー兵団……魔法剣士団……か」

 崇人の説明を漸く理解したマーズはその単語をつぶやいた。
 魔法騎士団。
 彼女たちの目の前に現れたあの鏡写しのような少女たち。
 あれは凡て魔法騎士団というリリーファーを操縦するためだけに生まれた人間だった――ともなれば、あの少女たちの説明はつく。
 つまりカーネルのリリーファー起動従士訓練学校では、一般人から起動従士になりたい子供を募っているわけではなく、『魔法騎士団』というつくりあげた組織を完璧なるものにするために造られたものだということだ。
 そこまで考えて、マーズは歯ぎしりした。
 カーネルの連中は、人間の生命をあまりにも軽いものと認識していたからだ。もし失敗すればまた投げ捨てればいい。そうとしか認識していないのだろう。

「人の命を……何だと思っている……!!」

 マーズはそう言って拳を強く握った。
 マーズは強く怒りを覚えていた。しかし、なぜ彼女がそれほどまでに強い怒りを覚えているのか、崇人には解らなかった。

「ともかく、これからどうするかを……今ここで考えなくてはならないだろう? アーデルハイトは、マーズが今言ったとおりここで脱退してもらうとして……それからはどうするんだ?」
「アーデルハイト抜きの作戦を考える必要がある。それは間違いないわね」

 マーズは自分自身の言葉に頷く。

「アーデルハイト抜き……と言っても、実際はハリー騎士団だけの作戦だから、特に問題もないだろうな」
「タカト、そうも言っていられるかしら? 他国とはいえ軍籍に居る人間が抜けた。それは非常に手痛いことよ」
「でもこっちには世界を股にかけるテロ集団が居る」

 そう言って崇人はエルフィーとマグラスの方を指差す。差されたふたりは特に謙遜することもなく、マーズの方を見ていた。
 対してマーズは彼女たちを一瞥しただけだった。

「……まあ、確かに彼女たちはテロ集団としては世界一でしょうね。けれど、これは軍の行動。戦争なのよ。彼女たちに大きな役目を任せるわけにもいかない。別に彼女たちを信じていないわけではないけれどね」
「信用してくれなくても、いい。ボスの意向は解らないが……私たちとしては、ただ任務を遂行するだけ」

 それに対して答えたのはエルフィーだった。
 マグラスはそれを聞いて宥めようとしたが、

「ふうん……随分と挑戦的な口調じゃあない」

 しかしその前にマーズが反応してしまった。

「そんな陳腐な煽りに乗ってくるなんて、『女神』という名にも偽りがあるんじゃあないの?」
「そうですねえ……でもそれがどうかしたというのかしら? あなたは私の『女神』という名前を貶めて、どうかしたいの?」
「女神という名前を貶めても名にも変わらないけれど……私たちのことを傷つけられたのが少し、ねえ」
「まあ、メンバーの貶め合いはここまでにしようじゃあないか」

 マーズとエルフィーの会話――というより口喧嘩が発展するその時だった。
 二人の間に崇人が割り入って、そう言ったのだ。

「……まあ、騎士団長が言うのであれば」
「そうね、タカトが言うのなら……和解しましょう」

 意外にもあっさりふたりは和解したので、崇人はほっと一息ついた。
 崇人はゆっくりと立ち上がり、ほかのメンバーが全員見えるところで立ち止まった。

「それじゃあ、作戦会議と行こう。奴らはもうとっくにこちらの侵入に気がついているはずだ。そうだろう、マーズ?」
「あ、ああ。そうだ。奴らはもうこちらを待ち構えていた。だからこそ、こちらも注意が必要だ」
「だろう? ということは、急いで実行すべきじゃあないのか?」

 何をだ――と、崇人の言葉の真意を聴く者はいなかった。
 もはや時期尚早であると言う人間もいなかった。

「だから、」

 崇人は、告げる。

「そろそろ活動をしてもいいんじゃあないか。俺たちは起動従士だぜ? リリーファーを使わずに戦争をして、どうするというんだ」

 その発言は、今までリリーファーを毛嫌いしていた崇人からしてみれば、あまりにも予想外と言える発言でもあった。素っ頓狂とも言ってもいいだろう。兎角その発言は、特にマーズを、驚かせるものとなっていた。

「……どうした?」

 暫く黙りこくってしまったハリー騎士団の面々を見て、崇人は呟く。
 息を吸って、話を続ける。

「いいか、このままじゃあ、戦局は確実に向こうに流れると思う。となれば、どうする? このまま見す見す戦場をいいように振り回されていいのか? 俺はいいとは思わないね。自らで動き、自らの手で勝ち取る! これこそが、俺たちの、リリーファーを操る起動従士としての使命であると思うのだけれどね」
「……タカトの言うとおりよ」

 それに最初に賛同したのは、マーズだった。
 マーズは崇人の言葉に頷き、そして崇人の隣に立った。

「騎士団長の命令通り! これから我々はリリーファーに乗り込むため、一度このカーネルから脱出する! その後、基地にてリリーファーに乗り込み、再度カーネルへと潜入を試みる、以上!」

 その言葉を聞いて、ほかのハリー騎士団のメンバーは大きく頷いた。


 ◇◇◇


「動き始めているようだね」

 白い部屋、バンダースナッチはハンプティ・ダンプティの言葉を聞いてそちらを向いた。

「裏切り者のクック・ロビンに帽子屋、チェシャ猫……それぞれがそれぞれの思いを持って人間と接触を図っている。そしてそれらは成功し……彼らは人間と接触を果たしている。非常にいいことだ。非常に優良なことだ」
「あなたは――計画を知っているというの?」

 バンダースナッチの言葉にハンプティ・ダンプティ(今もなお少女の姿である)は肩を竦める。

「いったと思うよ。僕は知っていると、ね」

 ハンプティ・ダンプティはそう言って、薄らと笑みを零した。

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