絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第八十八話 除外
「余裕がないのは、まあ解る。しかし、この状況では余裕がないとどうなるかは解るよな? だから、どうにかしなくちゃいけないんだ。だけれど、どうにかするといってもどうすればいいのかが解らない」
崇人の言葉に、エスティは頷く。
エスティは崇人の言葉に納得していないようであったが、崇人の話は続く。
「余裕がなければ最善の選択をとることも出来ない。それは即ち意味がないことと同義だ。……エスティ、解るだろ? ここでの選択の誤りは、何を引き起こすか解らない。自分を死に追いやることだって考えられるんだ」
崇人は自分の人生で、手に入れたものをエスティに語っていた。何しろ、人間が生きている上で手に入れているものは、どのような価値にも代え難いものだ。
「……じゃあ、どうすればいいのよ」
エスティはそう言って口を尖らせる。
「それは……解らない」
「解らない?」
「そうだ。ともかく、ここから出よう。でなくては、話にならないだろ?」
その言葉に、エスティは小さく頷いた。
◇◇◇
その頃、マーズたちはここから脱獄するため、行動を開始していた。
マグラスの言った『北』を目指して歩く。途中かなりの確率で牢屋の向こう(鉄格子の向こう、と言った方が正しいだろう)から暴言が聴こえる。しかしマーズはそんなことはシャットアウトしていた。他の団員にもそれはするよう伝えてあるが、殆どの人間が軍籍になって数日の、謂わば素人とも言える人間ばかりであることを考えると、恐らく恐れ戦いてしまっているに違いなかった。
とはいえ、その威嚇に乗るのもつまらない。無駄に時間をかけてしまい、逃亡出来なくなってしまうからだ。だからといって囚人たちをそのままにしておくのも不味いだろう。これほどの声だから、看守たちに大まかな位置が知らされているかもしれないからだ。ともなれば先回りされている可能性がある。
先回りされていて仮に戦闘に発展した場合、マーズたちハリー騎士団に勝ち目は無いだろう。
「どうすればいいかしら……!」
そんな時だった。マーズの耳に囚人たちの声に紛れてか細い声が入ってきた。
直ぐにそれが何処か判断し、その場所に向かう。そこは独房だった。独房には茶色いローブを着た人間が立っていた。
「何の用だ」
マーズが短く訊ねると、人間は答える。
「……聞こえたようでよかった。そうでなければあなたたちを助けることは出来なかっただろうから」
「お前が発したのは軍で使われていた救援信号だった。怒号に紛れてもそれだけは聞こえたものだからな」
「……手短に話しましょう」
そう言って人間は鉄格子を開けた。それを見て、マーズは思わず目を見開いた。
「牢を出入り出来るならば何故脱獄しない?」
「しない、のではありません。出来ないのです」
そう言った人間の言葉を聞き、一先ずマーズたちはそれに従うこととした。
独房は思ったよりも広く、マーズたちハリー騎士団が入ってもその広さは充分だった。マーズが入ってすぐ監視について訊ねたが、ローブを着た人間は「ダミー映像を流しているので、問題ありません」と軽く笑うだけだった。
「ところで、いつまでそのローブをかぶっている? 別に外してもいいんじゃあないか」
マーズに訊ねられ、それは小さく頷きローブを外した。
その正体は少女だった。透き通った白い髪は見るものを圧倒させる。目の色は青く、肌も血の色が感じられないほど白かった。今そこにいるのは人形なのではないか――そう錯覚させる程であった。
「私の自己紹介から行きましょうか。私の名前は、クック・ロビンといいます。『シリーズ』の番外個体……というとかっこいいけれど、実際にはシリーズから除外された存在です」
「シリーズから……除外?」
その言葉にロビンは頷く。
「私はあることをしてしまったためにシリーズから除外されてしまいました。それがどういうことなのか、今はお教えすることは出来ませんが……おかげで私はこのような場所で隔離されましたが、こうしてあなたたちと会うことが出来た。特にタカト・オーノ。あなたには……って、あれ?」
そこでロビンは違和感に気がついた。
「タカトなら、ここにはいないけれど?」
「おかしいですね……。確かここに来るはずだったのに」
「来るはずだった?」
マーズはその言葉を聞いて、ロビンの肩を掴む。
「それって、どういうことよ」
「そのままの意味。私は『目』を持っている。その『目』は凡てを見通す目であるし、凡てそれに準えて進んでいく。私が話の流れを作っていた」
「……何を言っているのかよく解らないけれど、つまりはあなたは『預言者』だったということ?」
マーズの問いに、ロビンは頷く。
「預言者、というのは少々大層らしいけれど、まあそれに近い存在だったのは確か。けれど、それでも私はシリーズには必要ない存在だったようだけれどね」
「シリーズには……序列が存在するとでもいうの?」
「あなたが『シリーズ』をどう思っているかは知らないけれど、案外人間味のあるものよ。きちんと序列がされてあるし、人間のように趣味を持って語らったりすることもあるくらいに、ね」
マーズにはそれが理解出来なかった。
彼女が知っている『シリーズ』というのは、人間とは程遠い存在であると思っていた。しかし、そういうわけでもないようだった。
『シリーズ』はもしかしたら、人間を知ろうとしているのではないか?
「……そんなことはありませんよ、少なくとも私だけの解釈でありますが」
しかし、その考えはロビンに直ぐに否定された。
「シリーズが人間を知ろうとしていた……そう思うのはあなたの勝手です。しかし、実際は異なるのにそうも考えてしまうのは、私としても非常に鬱屈です。ですが、私としては、あなたたちに協力せねばなりません」
「どうして? その理由をはっきりしてもらえないと、私は信用出来ないわ」
「……いいでしょう」
そう言って、ロビンはため息をついた。
「タカト・オーノはこのまま行けば『最悪の存在』になることでしょう。それは誇張表現ではなく、まったくそのままの意味です」
「まったくそのままの意味……?」
「それを今、あなたたちにいうことは出来ません。ですが、タカト・オーノ、彼だけには言わなくてはならないのです。真実を、凡てを」
ロビンの言葉を、未だマーズは信じることは出来なかった。
しかし、ロビンの目は濁ってなどおらず、ただまっすぐマーズを見ていた。
それを見て、マーズは立ち上がる。
「……解ったわ」
ロビンを見上げ、マーズは言った。
「あなたのことを、まだ信じたつもりではない。それだけは覚えておいて」
「恩に着る」
そして、マーズはロビンに手を差し出した。
ロビンはそれを微笑んで、手を差し出し、握り返した。
崇人の言葉に、エスティは頷く。
エスティは崇人の言葉に納得していないようであったが、崇人の話は続く。
「余裕がなければ最善の選択をとることも出来ない。それは即ち意味がないことと同義だ。……エスティ、解るだろ? ここでの選択の誤りは、何を引き起こすか解らない。自分を死に追いやることだって考えられるんだ」
崇人は自分の人生で、手に入れたものをエスティに語っていた。何しろ、人間が生きている上で手に入れているものは、どのような価値にも代え難いものだ。
「……じゃあ、どうすればいいのよ」
エスティはそう言って口を尖らせる。
「それは……解らない」
「解らない?」
「そうだ。ともかく、ここから出よう。でなくては、話にならないだろ?」
その言葉に、エスティは小さく頷いた。
◇◇◇
その頃、マーズたちはここから脱獄するため、行動を開始していた。
マグラスの言った『北』を目指して歩く。途中かなりの確率で牢屋の向こう(鉄格子の向こう、と言った方が正しいだろう)から暴言が聴こえる。しかしマーズはそんなことはシャットアウトしていた。他の団員にもそれはするよう伝えてあるが、殆どの人間が軍籍になって数日の、謂わば素人とも言える人間ばかりであることを考えると、恐らく恐れ戦いてしまっているに違いなかった。
とはいえ、その威嚇に乗るのもつまらない。無駄に時間をかけてしまい、逃亡出来なくなってしまうからだ。だからといって囚人たちをそのままにしておくのも不味いだろう。これほどの声だから、看守たちに大まかな位置が知らされているかもしれないからだ。ともなれば先回りされている可能性がある。
先回りされていて仮に戦闘に発展した場合、マーズたちハリー騎士団に勝ち目は無いだろう。
「どうすればいいかしら……!」
そんな時だった。マーズの耳に囚人たちの声に紛れてか細い声が入ってきた。
直ぐにそれが何処か判断し、その場所に向かう。そこは独房だった。独房には茶色いローブを着た人間が立っていた。
「何の用だ」
マーズが短く訊ねると、人間は答える。
「……聞こえたようでよかった。そうでなければあなたたちを助けることは出来なかっただろうから」
「お前が発したのは軍で使われていた救援信号だった。怒号に紛れてもそれだけは聞こえたものだからな」
「……手短に話しましょう」
そう言って人間は鉄格子を開けた。それを見て、マーズは思わず目を見開いた。
「牢を出入り出来るならば何故脱獄しない?」
「しない、のではありません。出来ないのです」
そう言った人間の言葉を聞き、一先ずマーズたちはそれに従うこととした。
独房は思ったよりも広く、マーズたちハリー騎士団が入ってもその広さは充分だった。マーズが入ってすぐ監視について訊ねたが、ローブを着た人間は「ダミー映像を流しているので、問題ありません」と軽く笑うだけだった。
「ところで、いつまでそのローブをかぶっている? 別に外してもいいんじゃあないか」
マーズに訊ねられ、それは小さく頷きローブを外した。
その正体は少女だった。透き通った白い髪は見るものを圧倒させる。目の色は青く、肌も血の色が感じられないほど白かった。今そこにいるのは人形なのではないか――そう錯覚させる程であった。
「私の自己紹介から行きましょうか。私の名前は、クック・ロビンといいます。『シリーズ』の番外個体……というとかっこいいけれど、実際にはシリーズから除外された存在です」
「シリーズから……除外?」
その言葉にロビンは頷く。
「私はあることをしてしまったためにシリーズから除外されてしまいました。それがどういうことなのか、今はお教えすることは出来ませんが……おかげで私はこのような場所で隔離されましたが、こうしてあなたたちと会うことが出来た。特にタカト・オーノ。あなたには……って、あれ?」
そこでロビンは違和感に気がついた。
「タカトなら、ここにはいないけれど?」
「おかしいですね……。確かここに来るはずだったのに」
「来るはずだった?」
マーズはその言葉を聞いて、ロビンの肩を掴む。
「それって、どういうことよ」
「そのままの意味。私は『目』を持っている。その『目』は凡てを見通す目であるし、凡てそれに準えて進んでいく。私が話の流れを作っていた」
「……何を言っているのかよく解らないけれど、つまりはあなたは『預言者』だったということ?」
マーズの問いに、ロビンは頷く。
「預言者、というのは少々大層らしいけれど、まあそれに近い存在だったのは確か。けれど、それでも私はシリーズには必要ない存在だったようだけれどね」
「シリーズには……序列が存在するとでもいうの?」
「あなたが『シリーズ』をどう思っているかは知らないけれど、案外人間味のあるものよ。きちんと序列がされてあるし、人間のように趣味を持って語らったりすることもあるくらいに、ね」
マーズにはそれが理解出来なかった。
彼女が知っている『シリーズ』というのは、人間とは程遠い存在であると思っていた。しかし、そういうわけでもないようだった。
『シリーズ』はもしかしたら、人間を知ろうとしているのではないか?
「……そんなことはありませんよ、少なくとも私だけの解釈でありますが」
しかし、その考えはロビンに直ぐに否定された。
「シリーズが人間を知ろうとしていた……そう思うのはあなたの勝手です。しかし、実際は異なるのにそうも考えてしまうのは、私としても非常に鬱屈です。ですが、私としては、あなたたちに協力せねばなりません」
「どうして? その理由をはっきりしてもらえないと、私は信用出来ないわ」
「……いいでしょう」
そう言って、ロビンはため息をついた。
「タカト・オーノはこのまま行けば『最悪の存在』になることでしょう。それは誇張表現ではなく、まったくそのままの意味です」
「まったくそのままの意味……?」
「それを今、あなたたちにいうことは出来ません。ですが、タカト・オーノ、彼だけには言わなくてはならないのです。真実を、凡てを」
ロビンの言葉を、未だマーズは信じることは出来なかった。
しかし、ロビンの目は濁ってなどおらず、ただまっすぐマーズを見ていた。
それを見て、マーズは立ち上がる。
「……解ったわ」
ロビンを見上げ、マーズは言った。
「あなたのことを、まだ信じたつもりではない。それだけは覚えておいて」
「恩に着る」
そして、マーズはロビンに手を差し出した。
ロビンはそれを微笑んで、手を差し出し、握り返した。
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