絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第六十二話 騎士団、始動。(後編)

 こうして彼らは愛機を選別する作業に入ったが、思いのほか早くその作業が終了してしまったので、ルミナスも目を大きく見開いてそれを見つめていた。

「え……え? 大丈夫? ほんとうに、大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」

 初めに言ったのはエスティ。それについで、コルネリア、ヴィエンスも頷く。

「そ、そう……そうならばいいんだけれど……」

 エスティが選んだのは黄色、コルネリアは水色、ヴィエンスは深い緑であった。

「いいね。このカラーリング。ばっちりだと思うよ」

 コルネリアは自らのカラーリングを決めて、小さくほくそ笑む。
 これからは、彼らは『ハリー騎士団』として活動を開始するのだ。
 多くの危険が待ち受けているのは、百も承知だ。

「とりあえず、これから急いでカーネルに向かってもらうよ」

 ルミナスに言われて、崇人たちはハッと彼女の方を見る。
 対して、その発言者はシニカルっぽく微笑んだままだ。

「あれ? 王様から聞いてないかな? リリーファーを選んだ後、速やかに機械都市カーネルへと向かう……って」
「聞いてないよ! というかもうちょい時間的猶予が欲しい!」

 崇人がそう言ってルミナスに突っかかるが、彼女に突っかかっても意味はない。彼女に言うなら国王に直接いう方がいいだろう。昨日はあれほど「これが騎士道だ」だとか宣っていたマーズの表情も少々堅い。
 騎士道など、聞いて呆れてしまう表情だった。

「……ひ、一先ず。私たちはそれに従わなくてはならないわね……。まだまだ時間もあるし、別にそう急がなくてもいいのでしょう?」
「と、思うでしょう。実はこの奥に専用ステーションがあってだね」

 それを聞いたマーズの顔はみるみるうちに青ざめていった。
 そして、ゆっくりと口を開け、ルミナスへ訊ねる。

「……まじで?」
「大マジよ」

 マーズは未だにそれが信じられなかった様子だったが、ルミナスはおどけた表情で答えた。
 ルミナスはそのあと、床に投げ捨ててあった器具を手にとって、壁に設置されている棚に仕舞うと、再び崇人たちの方へ戻ってくる。

「ほら。さっさとステーションに行った行った。私はこれからリリーファーをカーネル近くにある基地まで送るための準備をしなくてはならないから、正直あんたたち邪魔になるのよ」

 起動従士にその言い草はないだろう、と崇人は思っていたが彼女たちにも彼女たちの仕事があるのだ。そして、崇人たちにも崇人たちの仕事がある。それぞれの仕事がせめぎ合っている。そして、ルミナスたちの仕事は崇人たちの裏方の仕事となる。多少愚痴を零しても仕方ないのかもしれない。
 マーズは一つため息をついて、ステーションがあると言った方向へとあるていく。それを見て、ぽつぽつと崇人たちもステーションへと向かった。


 ◇◇◇


 ステーションは『ステーション』の名を冠しているが、実際には荒屋に近かった。ゴミが散乱していて、床には張り紙の残骸がこびりついている。

「こんなところに電車が来るのか……?」

 思わずマーズは呟いたが、一段下がったところに線路が引かれているし、電線もあることから、ここは電車の駅に間違いなかった。

「しかしここに電車が来るのか否かと聞かれたら愚問だろ。ルミナスが言ったんだ。それを信じるしか選択肢はない」
「それはそうなのだけれど」

 マーズはそう言って、身震いする。崇人はそれを見て、ふと思った。考えてみればこの部屋は非常に寒かった。地下――というより閉鎖された空間――だったからかもしれない。
 閉鎖された空間は、暖かさを感じにくくなる。
 それは崇人が元居た世界でも、この世界でも、どの学者が言っていたかは覚えていないが、有名な事実である。学説として証明もされている。ただし、それは『閉鎖』というものの定義を明確にする必要こそあるのだが。

「そういうことより、本当にここに電車が来るの? まったく解らないのだけれど」
「ルミナスさんも言ってたし、来るんだろ」
「あら、随分と彼女を信じているようね」
「信じている、たって……あそこで居たステーションの存在を知っている人間はルミナスだけだぞ? 信じるも何も判断材料が彼女の話しかないんだから」
「そして、あなたはルミナスの発言を信じた、と」
「…………」

 そういうことだった。
 確かにルミナスひとりの発言を信じるのも不可解にも思えるが、彼女がティパモール紛争(正確には『赤い翼』によるテロ活動)における功績は計り知れない。だから彼女の発言を信じるのも道理だった。

「確かに彼女が行ったことは偉大よ。それで勲章も受けているからね。けれど……あまり信じ込むのもどうかと思うわよ、タカト・オーノ」
「それは、同居人としてのよしみかい?」
「違うわ。騎士団長としての自覚が足りない、と言っているのよ」

 マーズはすぐに崇人の言葉を否定する。
 電車の警笛が聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。光が崇人たちの体に当たる。それはとても眩しかった。

「あれが私たちの乗る……?」

 エスティは訊ねるが、その答えを知る者は今誰もいない。
 そして、電車はホームにゆっくりと停車した。
 一両編成のこじんまりとした列車だった。行き先表示には『特別列車』と記されており、とても軍人が乗るようなものには見えない。
 ――と、そんなことを考えていると運転席にある扉が唐突に開いた。
 そして、そこから出てきたのは――少女だった。大きさは崇人より拳三つ分くらい小さい。しかしその格好は立派な運転士だった。

「えーと……?」

 エスティや、その他ハリー騎士団の面々が困惑していると、その運転士は口を開く。

「何をしているのよ、早く乗ってちょうだいよ!」

 声を聞いても、彼女が運転士とは到底思えない。なんというか――どう見てもどう聞いても幼児のそれにしか見えないし聞こえないのだ。

「えーと、どうしてここにいるのかな?」

 マーズが膝を曲げ、少女の顔を見て話す。
 しかし少女は被っていた帽子を外すと、それでマーズの頭を攻撃した。

「いいから乗れ! 私は専属運転手だ!」

 マーズは苛立ち殴ってしまおうかと思ったが――その容姿をもう一度見て何とか思いとどまった。
 仕方なく、彼らは乗り込むことにした。
 目的地は機械都市カーネルということは知っているが、果たしてこの電車はどこまで行くのだろうか――気になって崇人は訊ねようとしたが、

「この列車は機械都市カーネル行き、直通列車でございまーす」

 どうやらカーネル直通のようだった。

「カーネルに直接向かう……って、何かあったらどうするんですか!?」
「しらん、軍人だろ。それくらい何とかしろ」

 エスティの問に、無機質に答え運転士は運転席へと戻っていった。
 確かに、崇人たちは軍人だ。それは否定できない。
 だが、まだ新米だ。新米の騎士団にこのような命令が下った時点でおかしかった。
 だからマーズと崇人は薄々嫌な予感がしていたが――彼女たちのそれが命中するのは、少し後の話となる。
 電車がゆっくりと動き出し、暫くすると外に出た。工場の敷地内に出たのは恐らくカモフラージュのためだろう。

「まあかくしてこれでカーネルへと向かうわけだが……何か質問でもあるか? 知っていることならなんでも私が話してやろう」

 そうマーズが言ったので、崇人が手を挙げる。

「カーネルってのは、ラトロが権力を握っているのか?」

 その問に、マーズは首を傾げる。

「確かにそういうのが外部……私たちヴァリス王国の考えだ。しかし実際には違う可能性がある。カーネルといえばラトロ、だからラトロが権力を握っているのだ――とかそういう考えに回り込ませるためのダミーと考えている連中も中にはいるよ」
「結局、どっちだか解らない……と?」

 そういうことになるな、と言ってマーズはシニカルっぽく微笑んだ。

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