絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第五十七話 ある一日の出来事1

 『大会』及びティパモール紛争が終わってから三日。
 崇人たちは三日間の完全休暇をもらった。とはいえ、その内訳は『起動従士になるための準備期間』であり、そのうちの二日はその準備に奪われた。
 しかし、唯一一日だけが残り、崇人はマーズの家でのんびりと最後の平穏を過ごしていた。

「……まあ、国付きの起動従士となったとしても、卒業するまでは学生としていることには変わりないからな」

 マーズが寝転がる崇人に苦言を零した。

「いいじゃないか。少しくらい」

 崇人はそんなことを言いながら、これまでのことを振り返ってみた。
 四月、大野崇人はこの世界に飛ばされた。その意味は、未だに解らないが――もし、この世界に飛ばした相手がいるとするならば、何か理由があって飛ばしたに違いなかった。
 そして、リリーファー起動従士訓練学校への入学。
 息つくまもなく、『シリーズ』と呼ばれる獣との戦い。
 パイロット・オプション『満月の夜』の解放。
 そして、『大会』での赤い翼殲滅――自分でも何が何だか解らないほどの毎日だった。
 崇人は今、そんな日々が逃れられたとでも言わんばかりの平穏な日常を、わずか一日でありながらも獲得したのであった。

「あー……やっぱこういうふうにだらだらするのも最高な一日だ……」
「そうか? 私はどうも身体が鈍ってしまうものだからな。……ちょっと顔出してくるわ」
「どこに?」
「シミュレーションセンターだよ。別に言わなくても解るだろう?」

 そんな会話を交わして、マーズは部屋を後にした。


 ◇◇◇


 さて、会話する相手も居なくなった崇人は心底暇になった。
 何をしようにもこれまでの疲れからかやる気が出てこず、結局はソファでテレビを見ながら寝転がるということしかしなかった。
 時計が十二時を知らせるまで、崇人はそんな自堕落を気にも止めず、ずっとテレビを見ていたのだが。
 不意に、来客を報せるチャイムが鳴った。

「誰だよ、ったく……」

 崇人はぶつくさ言いながらも立ち上がり、玄関へと向かう。
 玄関の扉を開けると、そこに居たのはエスティとアーデルハイトだった。彼らは青のナップザックを肩にかけていた。

「……二人とも、どうした?」

 崇人が訊ねると、待ってましたと言わんばかりにエスティは微笑んで、ポケットから写真を取り出す。
 その写真は、青い青い海だった。見渡す限りが海。白い砂浜に、等間隔に並ぶヤシの木はまるで絵画のようにも思わせるほどだった。

「これね、ここから電車で二十分くらいのところにある湖なんだよ」
「へ? 海じゃないの?」

 崇人がさらに訊ねると、ちっちっちと指を振る。

「違うんだなー。確かに日光のバランスとか、砂浜とか見ちゃえば海にしか見えないんだけれど……実際のところは湖なんだよ。しかも泳げる!」
「そりゃ、湖でも泳げるところは泳げるだろ」
「そうだけどさー。そうじゃないんだよねー」

 どういう意味なのだろう。崇人はそう考えながら、一先ずエスティの意見に耳を傾けることとした。

「私たち、起動従士になったということはこれから国の仕事に就くということ。ということはあまり遊ぶこともできないだろうし、それに起動従士のみんなで仲良くなる、というのも大事じゃない? チームワーク的にも」
「まあ、そう言われてみると確かにそうか……」

 納得はしたが、これはあくまでも上辺だけのものだった。実際には未だに頭に疑問符を浮かべている。

「それで? どうやって、そこへ向かうんだ。近いんだろ? 電車で……三十分くらいだっけ」
「二十分だよ。タカトくん、ちゃんと話聞いてる?」
「あ、ああ。すまん……ちょっと眠っていてね」
「惰眠を貪っていたのか」

 今度はアーデルハイトがクククッと笑った。
 正直うざかった――崇人はそんなことを考えて、エスティの方を向き直る。

「とりあえず、俺も水着を持ってくればいいんだな? ……ちょっと待ってろ。今持ってくる」

 そう言って、崇人は再び家の中へ入っていった。


 荷物を整理して、それを持ってくるまでに数分とかからなかった。別に用意をしていたわけではない、と崇人は注記しておいた。

「じゃあ、行きましょうか」
「いいけど……来るのはエスティとアーデルハイトだけなのか?」
「ほかの人たちは全部ダメだーって言われたから。じゃあ、タカトくんだったら一発オッケーもらえそうだし……」
「ちょろい――って思ったから?」
「い、いや、そんなわけはないよ!?」

 そう言ってエスティは顔を真っ赤にさせて、手を振った。

(……まあ、たまにはこういうのもいいか……)

 崇人はそんなことを考えて、彼女たちとともにその湖へと向かうことにした。


 セントラルヴァリス・ステーション。
 文字通りヴァリス王国の中心に位置している駅で、ここから放射状にエイテリオ王国や、エイブル王国まで電車が走っている。
 電車――というからには、電気で走る鉄道ということだ。
 電気が通っていても何分不思議ではない。なぜなら、リリーファーは電気で動いているのだから、だ。
 だからこの世界で電車と訊いても、崇人は驚くこともなかった。

『まもなく一番線に、ターム行きの列車がまいりまーす』

 間延びした駅員の声を聞いて、崇人たちは列に並ぶ。既に幾人か並んではいるが、実際空いていた。崇人は長いあいだ企業戦士として通勤ラッシュを毎日のように経験しているのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれなかったが。
 電車はオレンジで彩色されていた。車内は座席こそ埋まっていたが、立っている人間も殆どおらず、空いているといっても過言ではない。

「ちょっと混んでるねー」

 しかし、エスティとアーデルハイトは口を揃えてこう言ったので、崇人は思わず口にする。

「そうか? こんなの『混雑』の範疇には入らないだろ。寧ろつり革が空いてるだけラッキー、と言った感じじゃないか?」
「またまた冗談をー。これでも混んでる方じゃない」
「……ヴァリエイブル王国の人口は、三百万人。広さは三万六千ヘクテクス。充分と広い大地に、これほどの人間しかいないので、これくらいでも『混雑』の範疇に入るのですよ。異世界転生クン?」

 アーデルハイトはそうわざとぶって、崇人をからかった。

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