絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十四話 逆転の一手
しかし、それが彼の存在意義だとしても――それは、崇人には何の関係もないのだった。かたや、自らが生まれた地を追われ、異なる世界をも侵略しようと考える男。かたや、元々いた世界から唐突にこの世界へと誘われ、今リリーファーの起動従士になっている男(見てくれは少年の姿ではあるのだが)。彼らの思惑は、似ているようで全く異なるものだ。
その大きな特徴が、『犠牲を行う対象』だ。
リーダーが、『他者犠牲』であるのに対し、崇人は『自己犠牲』。全く違うのだ。リーダーは頑なに『自分の犠牲』を払わないが、崇人は逆に頑なに『他者の犠牲』を払おうとはしない。決して、自らを甘やかすことなどしないのだ。
リーダーの方が信仰心を部下に強制させることはしなくてはならないことだ。リーダーは他者犠牲の精神で動いている。だから、他者の犠牲を払っても、その他者が自分自身に憎まれるようなことのないように精神をコントロールしていく。そうでないと、この理念は成立しないだろう。
彼が持っている組織、『赤い翼』もその一角を為している。実際に彼が設立したのかといえば、厳密にはそうではないが、しかし今現在のこの組織の存在意義を確立させたのは、リーダーと呼ばれている彼である。
対して、崇人は自己犠牲を精神においている、リーダーとは真逆の存在だ。日本においても、部下や同僚の仕事は自分が一手に担い、責任は全て崇人自身が請け負う。それだから、彼は気がつけばたくさんの同僚に慕われ、上司に信頼されるようになったのだ。
リーダーと崇人のこれまでの経験で、徹底的に違うことが、たった一つだけある。
それは、自分のみを使う戦いの際、どのように戦っていくかということだ。
かつてはリーダーも、それを考えることが出来たのだろう。しかし、今はそんなことは皆無である。
「さあ……、逆転をこれから行おうではないか。赤い翼? リーダー? ほかの世界を侵略する? ……くだらない、本当にくだらない。そんなもののために、世界をぐちゃぐちゃにするというのなら……」
グオン、と。
インフィニティにつけられたエンジンが、一つ、また一つと駆動を開始する。その音はまるで鬼が叫んでいるようだった。畏怖を、その聞いた人々に植え付けるような、そんな雄叫びが聞こえてくる。
彼が怒っているのは、インフィニティに備え付けられたサーモグラフィー型起動従士管理装置の起動状況からでも理解できるだろう。
「インフィニティ、隠しコマンド起動」
それは、彼が知らない事だった。
ならば、何故彼はそれを口にしたのか?
それは彼にだって解らない。彼だって、無意識に発言したに過ぎないのだから。
そして。
ゆっくりと、崇人は――そのコマンドを呟く。
「モード・リベレーション」
その発言と同時に、インフィニティのエンジン駆動音がさらに激しいものとなっていった。
『モード・リベレーションの起動に伴い、発生した問題は全て自己責任となります。宜しいですか?』
フロネシスからの言葉に、崇人は小さく頷いた。
そのころ。
リーダーは、インフィニティの異変にいち早く気付いていた。
「なんだ……。何をするつもりだ、タカト・オーノ!!」
しかし、リーダーの言葉は、崇人に届くことはない。
そして、インフィニティがゆっくりと方向を転換し――赤い翼の集団へとゆっくりと闊歩し始める。
「タカト・オーノ、血迷ったか!! こっちには人質が居るんだぞ!? それを見捨てるということを、お前は選択した、そういうことに――」
――なるんだぞ、とリーダーが自信満々で言おうとしたのだが。
それよりも前に、リーダーの横を閃光が駆け抜けていった。彼がそれに気付いたのは、それよりコンマ数秒遅れてからだった。
「なん……だ?」
リーダーは振り返る。すると、そこには人質を取り囲むように薄い膜が出来ていた。
「なんだ。結局恐ろしい技でも使ってくるのかと思いきや、こんな薄膜で守ろうだなんて、所詮はガキですよね」
赤い翼のメンバーの一人が、銃を構えながら、ゆっくりとその薄膜へと近づいていく。
「止せ、なるべく近付くな。何があるか解らんぞ」
「リーダーも少々臆病ですよ。大丈夫、こんなもの特にふれたくらいで……」
そう言って、彼はその薄膜に手を添えた。
彼の身体に強力な電流が流れたのは、ちょうどそのタイミングだった。あまりに強力過ぎて、その男は黒こげになってしまった。
「電磁バリアか……。これほど強いものならば、仮に銃弾を撃ち込もうとしても、弾道が変わってしまうだろうな……!」
リーダーは呟き、舌打ちする。それをしている間にも、ゆっくりとインフィニティはそちらへと向かってくる。
はっきりといえば、もう――彼らに勝ち目などなかった。
◇◇◇
その頃、そのバリアの中では、コルネリアとエスティが行動を開始していた。
「皆さん、落ち着いてください! この中に入っていれば安心です!」
エスティとコルネリアは先頭に立ち、そう言った。コルネリアはそういうのを見越していたのかは知らないが、サバイバルナイフで既に腕に縛られたロープを切っていたため、スムーズに全員に括られたロープを切り取ることができた。
「先程の状態を見て、皆さんも解ると思いますが、このバリアは強力な電流が流れています。おそらくは、致死レベルでしょう。……ですから、ここに居れば安心です。少なくとも、外からの攻撃は受けないでしょうし」
エスティの言葉に、前方に座っていた群衆が言う。
「でも……そのあと、我々は本当に出られるのか? 人も入れないならば、助けられることも出来ないんじゃ……」
「そりゃあ、大丈夫ですよ。私たちにはリリーファーが居ます。今あそこで戦っているのだって、リリーファーですもの」
「インフィニティ……あれもリリーファーなのか?」
群衆の問いかけに、エスティは微笑んで小さく頷いた。
ちょうど、その時だった。
大地が揺れ、強引にコロシアムが二分された。
そして、それと同時にリリーファーが飛び出してくる。そのリリーファーは崇人たちに見覚えのあるものだった。
「あれは……、ペスパ!」
それは、ヴァリエイブルの使っていたリリーファーにほかならなかった。
インフィニティ内部にいる崇人ですら、それは予想外のことだった。
「……あれは。一体、誰が乗っているんだ?」
崇人の言葉に、フロネシスは言う。
『……恐らく、あれに乗っているのは、ヴァリエイブルのメンバーの一人でしょう。そして、あの乱暴さからして、性格もそれらしい性格であることが確実です』
「じゃあ、ヴィエンスだな」
崇人は呟くと、再び操縦に専念する。
視点はここでリーダーに変わる。
「……どうするか。正直言って、状況は悪い」
「リーダー、どうなさいますか?」
「そうだな……。このままでは埒が明かない。かといって引けば逃げ場もない」
リーダーはそこで少し考えてみることにした。
誰が見ても、彼らに勝ち目などない。
リリーファー二機が現時点で起動しており、内一機は最高最強のリリーファーである。さらに、遠くにはヴァリエイブル軍が控えている。急いで彼らは行動をしなくてはならないのだが。今はそれをする状況でもなかった。
ならば、何をすればいいか。
彼はそれを考えられる状況にはなかったが、意外と冷静だった。
彼は生きるために、この世界から出ていくために、先ずは『力』を手に入れる。
力を手に入れる――力は、最強のリリーファーの担い手を手に入れれば良いと考えていた。
しかし、そう甘くなかった。
彼は今までの事態を考えて舌打ちする。だが、舌打ちをしてもこの状況が変わることはない。
「ならば――」
リーダーはゆっくりと闊歩するインフィニティを正面に見て、呟く。
「最後まで抗ってやろうじゃないか、タカト・オーノ。……後悔しても、知らないぞ!!」
その大きな特徴が、『犠牲を行う対象』だ。
リーダーが、『他者犠牲』であるのに対し、崇人は『自己犠牲』。全く違うのだ。リーダーは頑なに『自分の犠牲』を払わないが、崇人は逆に頑なに『他者の犠牲』を払おうとはしない。決して、自らを甘やかすことなどしないのだ。
リーダーの方が信仰心を部下に強制させることはしなくてはならないことだ。リーダーは他者犠牲の精神で動いている。だから、他者の犠牲を払っても、その他者が自分自身に憎まれるようなことのないように精神をコントロールしていく。そうでないと、この理念は成立しないだろう。
彼が持っている組織、『赤い翼』もその一角を為している。実際に彼が設立したのかといえば、厳密にはそうではないが、しかし今現在のこの組織の存在意義を確立させたのは、リーダーと呼ばれている彼である。
対して、崇人は自己犠牲を精神においている、リーダーとは真逆の存在だ。日本においても、部下や同僚の仕事は自分が一手に担い、責任は全て崇人自身が請け負う。それだから、彼は気がつけばたくさんの同僚に慕われ、上司に信頼されるようになったのだ。
リーダーと崇人のこれまでの経験で、徹底的に違うことが、たった一つだけある。
それは、自分のみを使う戦いの際、どのように戦っていくかということだ。
かつてはリーダーも、それを考えることが出来たのだろう。しかし、今はそんなことは皆無である。
「さあ……、逆転をこれから行おうではないか。赤い翼? リーダー? ほかの世界を侵略する? ……くだらない、本当にくだらない。そんなもののために、世界をぐちゃぐちゃにするというのなら……」
グオン、と。
インフィニティにつけられたエンジンが、一つ、また一つと駆動を開始する。その音はまるで鬼が叫んでいるようだった。畏怖を、その聞いた人々に植え付けるような、そんな雄叫びが聞こえてくる。
彼が怒っているのは、インフィニティに備え付けられたサーモグラフィー型起動従士管理装置の起動状況からでも理解できるだろう。
「インフィニティ、隠しコマンド起動」
それは、彼が知らない事だった。
ならば、何故彼はそれを口にしたのか?
それは彼にだって解らない。彼だって、無意識に発言したに過ぎないのだから。
そして。
ゆっくりと、崇人は――そのコマンドを呟く。
「モード・リベレーション」
その発言と同時に、インフィニティのエンジン駆動音がさらに激しいものとなっていった。
『モード・リベレーションの起動に伴い、発生した問題は全て自己責任となります。宜しいですか?』
フロネシスからの言葉に、崇人は小さく頷いた。
そのころ。
リーダーは、インフィニティの異変にいち早く気付いていた。
「なんだ……。何をするつもりだ、タカト・オーノ!!」
しかし、リーダーの言葉は、崇人に届くことはない。
そして、インフィニティがゆっくりと方向を転換し――赤い翼の集団へとゆっくりと闊歩し始める。
「タカト・オーノ、血迷ったか!! こっちには人質が居るんだぞ!? それを見捨てるということを、お前は選択した、そういうことに――」
――なるんだぞ、とリーダーが自信満々で言おうとしたのだが。
それよりも前に、リーダーの横を閃光が駆け抜けていった。彼がそれに気付いたのは、それよりコンマ数秒遅れてからだった。
「なん……だ?」
リーダーは振り返る。すると、そこには人質を取り囲むように薄い膜が出来ていた。
「なんだ。結局恐ろしい技でも使ってくるのかと思いきや、こんな薄膜で守ろうだなんて、所詮はガキですよね」
赤い翼のメンバーの一人が、銃を構えながら、ゆっくりとその薄膜へと近づいていく。
「止せ、なるべく近付くな。何があるか解らんぞ」
「リーダーも少々臆病ですよ。大丈夫、こんなもの特にふれたくらいで……」
そう言って、彼はその薄膜に手を添えた。
彼の身体に強力な電流が流れたのは、ちょうどそのタイミングだった。あまりに強力過ぎて、その男は黒こげになってしまった。
「電磁バリアか……。これほど強いものならば、仮に銃弾を撃ち込もうとしても、弾道が変わってしまうだろうな……!」
リーダーは呟き、舌打ちする。それをしている間にも、ゆっくりとインフィニティはそちらへと向かってくる。
はっきりといえば、もう――彼らに勝ち目などなかった。
◇◇◇
その頃、そのバリアの中では、コルネリアとエスティが行動を開始していた。
「皆さん、落ち着いてください! この中に入っていれば安心です!」
エスティとコルネリアは先頭に立ち、そう言った。コルネリアはそういうのを見越していたのかは知らないが、サバイバルナイフで既に腕に縛られたロープを切っていたため、スムーズに全員に括られたロープを切り取ることができた。
「先程の状態を見て、皆さんも解ると思いますが、このバリアは強力な電流が流れています。おそらくは、致死レベルでしょう。……ですから、ここに居れば安心です。少なくとも、外からの攻撃は受けないでしょうし」
エスティの言葉に、前方に座っていた群衆が言う。
「でも……そのあと、我々は本当に出られるのか? 人も入れないならば、助けられることも出来ないんじゃ……」
「そりゃあ、大丈夫ですよ。私たちにはリリーファーが居ます。今あそこで戦っているのだって、リリーファーですもの」
「インフィニティ……あれもリリーファーなのか?」
群衆の問いかけに、エスティは微笑んで小さく頷いた。
ちょうど、その時だった。
大地が揺れ、強引にコロシアムが二分された。
そして、それと同時にリリーファーが飛び出してくる。そのリリーファーは崇人たちに見覚えのあるものだった。
「あれは……、ペスパ!」
それは、ヴァリエイブルの使っていたリリーファーにほかならなかった。
インフィニティ内部にいる崇人ですら、それは予想外のことだった。
「……あれは。一体、誰が乗っているんだ?」
崇人の言葉に、フロネシスは言う。
『……恐らく、あれに乗っているのは、ヴァリエイブルのメンバーの一人でしょう。そして、あの乱暴さからして、性格もそれらしい性格であることが確実です』
「じゃあ、ヴィエンスだな」
崇人は呟くと、再び操縦に専念する。
視点はここでリーダーに変わる。
「……どうするか。正直言って、状況は悪い」
「リーダー、どうなさいますか?」
「そうだな……。このままでは埒が明かない。かといって引けば逃げ場もない」
リーダーはそこで少し考えてみることにした。
誰が見ても、彼らに勝ち目などない。
リリーファー二機が現時点で起動しており、内一機は最高最強のリリーファーである。さらに、遠くにはヴァリエイブル軍が控えている。急いで彼らは行動をしなくてはならないのだが。今はそれをする状況でもなかった。
ならば、何をすればいいか。
彼はそれを考えられる状況にはなかったが、意外と冷静だった。
彼は生きるために、この世界から出ていくために、先ずは『力』を手に入れる。
力を手に入れる――力は、最強のリリーファーの担い手を手に入れれば良いと考えていた。
しかし、そう甘くなかった。
彼は今までの事態を考えて舌打ちする。だが、舌打ちをしてもこの状況が変わることはない。
「ならば――」
リーダーはゆっくりと闊歩するインフィニティを正面に見て、呟く。
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