絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第四十七話 目的

 その言葉に、ヴィエンスは何かの糸が切れたような気がした。
 そして、その力をかけたままヴィエンスはヴィーエックを壁に叩きつけた。

「ぐっ……!」
「お前に何がわかる!! 一番大事な人を焼かれ挽かれ熱せられ茹でられ融かされ舐らればらされ殺された俺の気持ちが!? 解るというのか!!」
「何やってるんだお前ら!」

 崇人はもう我慢できずに、中に突入した。
 中では二人が啀み合っていた。直ぐに、崇人はヴィエンスをヴィーエックの身体から引き剥がす。

「崇人、何するんだよ!!」
「お前こそ、何をしているんだ。規則にもあっただろ、選手同士のいざこざが発生した場合は、両者ともに欠場とする、って。これが大事になったら、今度こそヴァリエイブルは団体戦棄権ということになるんだぞ」

 崇人のその言葉を聞いて、ヴィエンスは舌打ちして、ソファに腰掛ける。
 ヴィーエックと崇人は立ち尽くしていたが、ヴィエンスがそれに気付き、座るよう促したので、崇人はベッドに腰掛けたが、それでもヴィーエックは座らなかった。

「ヴィーエック、座らないのか?」
「いや、僕はいいや。また明日」

 そう言って手を振って、ヴィーエックは呑気にも笑みを浮かべて部屋を後にした。
 扉の閉まる音を聞いて、ヴィエンスが漸く口を開いた。

「……聞こえていたか」
「そりゃ、あれだけ大きな声を出していれば……。聞くつもりはなかったんだが」
「いい。あいつの話を聞いていれば解るだろうが、俺は戦争孤児だ。八年前のクルガード独立戦争でな」
「リリーファーを、憎んでいるのか」

 崇人の問いに、ヴィエンスは頷きながら応える。

「ああ。今すぐ破壊してやりたい程にな。リリーファーが無ければ戦争なんてものは生み出されなかったんだ。だから、リリーファーを凡て破壊し尽くすことも、選択肢にはあった」
「だが、しなかった――ということか」

 ヴィエンスは頷く。

「それをしても、意味はない。ならば、俺が起動従士になって戦争の根幹を断ち切る。連鎖を断ち切れば、戦争は終わる。そして、二度とはじめることのない世界を作る。それが俺の目的だ」

 これは大きな目的だ――崇人はそう思っていた。
 しかし崇人は「元の世界へともどる」というヴィエンスの願い以上の目的を持っているのだから、彼の願いを突拍子もないとして笑うことは出来ないのだった。

「しかし、それって矛盾を孕んでいないか? 戦争を終わらせるために、謂わば戦争の代役ともなるリリーファーに乗ることを選んだんだろ」
「それしか作戦が……方法がない。それに、起動従士自らが戦争を撤廃するよう呼びかければ、その発言力は大きいはずだ。リリーファーは様々な企業からのお布施によって出来ているのだからな」

 ヴィエンスの言い分は、大方合っていた。
 崇人もマーズから聞いただけなので、若干曖昧な部分もあるのだが、リリーファーは国営リリーファーになるまで充分な時間を有しているらしい。リリーファー応用技術研究機構、通称ラトロが研究した新技術がそのままリリーファーに装備され、一年間は民有リリーファーとして戦争の任務に当たる。国有リリーファーの場合は、国有の研究機関において研究がなされ、それによりリリーファーに技術が装備されるのだが、些か技術の性能は前者の方が上である。
 そのため、各国は技術をラトロから購入し、それぞれ装備する。そのためか、現在国有リリーファーにおいてその性能はほぼ同格であった。
 リリーファーを作るには、当然大量の資金が必要となる。それは国有でも民有でも変わることはない。
 やはり大量の資金が必要となるため、スポンサーが付く。国有の場合は付かないが、民有の場合は背中に少しスポンサーのロゴが入っているのだという。一社だけではなく、数十社規模でそのロゴは入っているらしい。
 そういうこともあるので、リリーファーを一機製造するのに、たくさんの会社が関わっている。
 ヴィエンスはそれを利用し、だから会社が出資したリリーファーに乗る起動従士はそれなりの発言力があるはずだと考えていたのだ。
 だが、崇人はそれでは甘いと思っていた。
 そんな理屈で、通っていけるほど世界は甘くない。
 そんな子供騙しの理屈では、まだ足りない。
 崇人は長年日本社会を渡り歩いてきた企業戦士サラリーマンだ。
 だから、そんなことが甘いことくらい解っていた。

「……それは、すごいことだな」
「ああ。実現してやるよ。これが実現出来れば……戦争もない、平和な世界の誕生だ。もう誰も悲しまなくていい世界、それが生まれるんだ。俺の手によって……!」

 ヴィエンスはそう言って拳を握る。
 それを、その決意を根底から覆すような発言を、崇人が言うことは出来なかった。


 ◇◇◇


 緑の草が生い茂る野原を駆ける。
 それはとても、爽快なことだ。
 法王庁領、ミッドランド。
 かつてここには幾万もの軍勢を従え、幾万もの人々が住む街があった。
 しかし今は、見る影もない。
 草が生い茂る野原があったとしても、そこにはかつて街が栄えていた形跡だけが残っていて、そこに街などはない。
 そんな場所を、ひとりの少女が歩いていた。
 彼女は、肌も髪も服も凡て白だった。そして、目はそれに相反するように真っ赤だった。

「……計画は順調のようだね、帽子屋」

 呟くと、目の前に立つ帽子屋はそれに頷いた。

「『インフィニティ計画』。初めこそ、ただの戯言にしか過ぎなかったけれど、まさかここまで進行するとはね。帽子屋、君の功績と言っても過言じゃないかな?」
「いやあ、嬉しいね。世界が終わるってのは、ここまでもワクワクさせるものなのかな」

 帽子屋の言葉に、少女はため息をつく。

「しかし、君も変わり者だね? わざわざ人間から『シリーズ』に加わったその理由が『世界を破壊したい』だなんて」
「世の中には、その理由が『元の世界に戻りたい』ってヤツもいるぜ」
「新入りの『ハートの女王』か……。そっか。彼も元は人間だったのか。計画に加えるのかいっ?」
「ああ。そのつもりだよ」

 帽子屋はシニカルに微笑む。

「楽しみだねえ……。どうなるのか、私たちにも経験したことがないし」
「このように、荒れ果てた大地が一瞬にしてゼロとなるんだ」

 帽子屋はそう言って両手を広げる。
 それと同じタイミングで、風が吹いた。
 それは強い風だった。
 まるで、何か新しい時代を予見するような、風だった。

「……これから、どうなるのか、僕にだってそれは解らない。だって、計画はいつ変わってもおかしくないからね」
「えー。だったら、君の予想外の方向にいったりしないの?」

 帽子屋は、そんな危険性も勿論考えていた。
 だが、考えていないなどと、幼稚な嘘をついた。
 その嘘は、すぐ考えてしまえばわかる話だった。

「……だが、そんな事は一切考えていない。たとえ、あったとしてもそれを考慮して計画をもう一度練り直すだけさ」

 そう言って、帽子屋はゆっくりと歩き出した。

「そうだねえ。ま、私は傍観するだけかもしれんし。君には頑張ってもらわなくちゃーね」

 少女はポンポンと帽子屋の肩を叩いた。

「そうは言うけど、白うさぎ。君は順調なのかい?」

 帽子屋の問いに、白うさぎはグーサインをした。

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